雪と桜のその間

楠富 つかさ

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第24話 Side:雪絵

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 海だ。目の前に広がる海は急に深くなってしまうことから、目印となるブイが浮いている。
 とはいえ、真夏の太陽を浴びながら砂浜に立っていると否が応でも気分が盛り上がる。

「雪絵……思ったより大胆な水着だね」
「叶美こそ」

 私が着ている水着は白雪さんに選んでもらった黒の水着。想定外だったのは叶美まで黒いビキニを着てきたこと。私とは段違いに大きな胸を、ビキニのトップが重そうに支えている。

「ちなみに、それは私のチョイスよ」

 そう言う恵玲奈の水着はミントグリーンのワンピースタイプ。ちょっと子供っぽい水着が元気溌剌な恵玲奈に思いの外似合っていた。城咲さんと須川さんもビキニタイプだが、城咲さんはボトムに、須川さんはトップにフリルがあしらわれたふんわりとしたデザインのものを着ている。

「早く泳ごうよ~」
「かおり、準備運動をちゃんとするのよ」

 北川さんに関してはスクール水着だ。聞けば去年行ったナイトプールでは普通にワンピースタイプの水着を着たらしいが、今年に入ってサイズが会わなくなったのだという。……成長期とはげに恐ろしい。

「ていうか雪絵、行きのバスはどうして同じとこ来てくれなかったの?」

 叶美に問われ、困っていそうなエヴァさんに声を掛けたらそのままバスへ連れて行かれたと答えた。別に嘘では無いからいいでしょう。
 当のエヴァさんは到着前に無事原稿が完成したこともあり、今はパラソルの下で彼女さんの膝枕で絶賛仮眠中だ。

「あぁ、エヴァちゃんか。星花祭に向けて忙しい時期でもあるからねぇ。懐かしいなぁ。なんで去年はワッフルの研究したんだっけ?」
「覚えてないや」
「そうそう。なんでワッフルになったのかも何を調べたのかも覚えてないや」

 クラスで好き勝手決めて調べられるある意味では自由研究の発表、実は高校三年生はやらない。なにかと忙しいし、そもそも高校三年生までクラスごとの発表を展示してしまうと、部活ごとの発表に使える教室が減ってしまうのだ。文化部の展示がメインになりがちな星花祭だが、地域の飲食店と協力して出店を構える運動部もある。そういったところに向けて解放する教室は主に三年生の教室になっているのだ。

「ねぇ見てあっち。すごーい」

 さっきまで泳ぎに行くつもり満々に思えた北側さんは、叶美の足下で砂遊びを始めていた。猫のような気ままさだ。そんな彼女の指差した先には、立派な砂の城が建築されていた。

「あー佐曽利さんか」

 佐曽利環は美術部の中等部三年生で、岐阜出身ということもあって陶芸をメインでやっている部員だ。最近は彫刻も始めたようだが、土の扱いはお手の物といったところだろうか。

「あーどうも部長! 珍しいですね、こんなところで会うなんて」

 元気よくこちらに駆け寄ってくる佐曽利さん。小学生時代は男子に混じって野球をしていたらしく、少し体育会系っぽい雰囲気が個人的には少しとっつきにくい。タンキニ型の水着を着ていて美術部員とは思えないスポーティさを演出している。

「えぇ。作品作りのヒントになればと思って」
「そうなんですね! お疲れ様です!!」

 見かけたから挨拶をしにきた、本当にそれだけなのだろう。再び元いた場所に戻って砂の城を建造に着手した。

「そういえば、須川さんこういう野外のイベントに参加するの、少し意外ね」

 ペールブルーのラインが入った水着を着ている須川さんに声をかける。お互い様ではあるが、インドア派のイメージが強い彼女がこうして波打ち際にいるのは珍しいように感じた。

「まぁ、最後だから」

 恵玲奈をちらっと見てからそう答える須川さん。おもむろに恵玲奈の手を取り、海まで駆けだしてしまった。大人びて見えるが、やっぱり女子高生だものね。大好きな人と海に来れば誰だってはしゃぐか。

「ほら、三人も行ってきなさいな。記念写真は撮ってあげるからさ」

 羽織った学校指定ジャージのポケットからインスタントカメラを取り出す。一応、りんりん学校は学校行事なので一見すると自由時間なこの海水浴中も携帯電話の使用は許可されていない。そもそも私は未だに二つ下りを使っているので話にならないが。まぁ、携帯電話のような精密機器は海水に弱いだろうから。
 午後の特別授業では西洋美術史の講義でも受けようかななんて考えつつ、叶美たちの写真を撮ったり、時には交代して海で泳いだりとなかなかに楽しい時間を過ごしたのだった。
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