雪と桜のその間

楠富 つかさ

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第2話 Side:咲桜

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 わたし、白雪咲桜が先輩に貰った絵を持って自分に部屋に帰った頃には珍しくルームメイトは帰宅していた。

「リリー、珍しいわね」
「ま、そういう日もあるよ。で、何を持ってるの?」

 わたしが持つスケッチブックの一頁に目を付けた彼女に、絵を見せてあげる。

「あぁ、前に言ってた雪絵部長さんの……。うぅん、わたしには上手に見えるけど、咲桜からすれば微妙なわけ?」

 前に見た先輩の絵より、スケッチは細かいし光の採り方も上手だと思う。でも、わたしは絵の巧拙はどうでもよくて、純粋にキラキラしているかが大事だと思う。この絵には、心が篭っていない。

「ただただ技術だけを追い求めて、描きたいっていう気持ちがまるで感じられない。リリーに伝わるかしら、職人と芸術家の違いってやつが」
「……えっと、前に現代文でそんな文章読んだよね。アルチザンとアーチストってやつでしょう? なるほど、その先輩は職人気質なわけね」

 わたしとリリーが住む桜花寮の角部屋は、わたしの画材でけっこう手狭になってしまっている。リリーは二段ベッドの下段に腰掛け、わたしの話に相づちをうつ。わたしは絵を描くときに使ってる椅子に座って、ぼんやりと先輩が描いた絵を見ていた。証明写真じみた動きの一切ない絵は非常につまらない。少なくとも、お互いにスケッチをしていた状態だったんだから、この絵のように方が一直線で姿勢が整っているということはないだろう。

「わたしだったら……」
「ありゃ、咲桜? じきにご飯だよ? ちょっと?」

 丁度よくイーゼルにセットされたカンバスに向けて鉛筆を動かし始める。そう言えば自画像を描いた経験はなかった。なおこのこと丁度いい、体勢による髪の流れ方や光の当たり方、手首、肘、肩の連動……。楽しい、楽しい!

「スイッチ入っちゃったかぁ」

 リリーが何か言っていたような気がしたけれど、そんなことはもうどうでもいい。描きながら、自分の容姿について少しだけ考える。他の人からはよく可愛いなんて言われるけれど、自分ではさほどそう思っていない。例えば、生徒会長の御津先輩は可愛いと思う。胸もすごく大きいし。同じ学年なら、四組にいる金髪の人とか六組にいる人はわたしにも声をかけてきたっけ。名前は確か……猫倉じゃなくて……、まあいいか。とにかく、わたしより容姿の優れた人なんていっぱいいるわけだ。それぞれ方向性は少し違うかもしれないけれど。

「ここをこうして、うん。これでばっちり。はぅ……お腹空いちゃったや」

 絵を描く時は時間の流れが速すぎて驚かされる。夏の真っ盛りなのに、空はもう真っ暗だ。けっこうな時間を使ってしまったらしい。ルームメイトはとっくに夕食を済ませていたようだ。

「また暖めるから待ってて」
「ありがと、リリー」
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