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第20話 恋は芽吹いて百合が咲く
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「ほら、開けるよ」
桜花寮の紅葉とかおりの部屋の玄関前。かおりは既にそのノブに手を掛けている。
「かなみちゃん」
ドアを開ける直前、
「「ちゅっ」」
かおりは再び、叶美に口づけをした。
「大丈夫のおまじない。ほら、行こうよ」
かおりを子供っぽいとか、護ってあげたくなるような……そんな女の子だと、叶美は考えていた。けれどその芯の強さに、改めて惹かれる叶美だった。
「うん、もう迷わない」
部屋に上がった叶美は、真っ直ぐ紅葉のもとへ向かった。紅葉はベッドで布団にくるまっていた。近付く人影に気付いた紅葉が視線を上げると、そこに叶美がいることに驚き瞠目した。
「お姉さま……」
「紅葉ちゃん! わたし、紅葉ちゃんのことが好き! でも、かおりちゃんのことも好きで ……どうしていいか分からなくって、だけど、その……二人とも好きなわたしを許してほしいの……」
自分勝手な主張だと、叶美は後悔の念にかられた。けれど、言わない方がずっと後悔する。
その一心で、自分の想いを必死に伝える。
「わたしの気持ちは伝えたよ。だめ、かな?」
「そんなこと……ないです。私だって、かおりのことは大切ですし、かおりがお姉さまのことを好きなのも分かってました。……その、かおりは何て言ってたんですか?」
「かおりちゃんはね、わたしの気持ちに素直になればいいって言ってた」
「私は……お姉さまの気持ちを尊重します。私のことも、かおりのことも、どっちも愛してください」
「いいの? それで……あ、えと。その……わたしが言うべきことじゃないんだろうけど……本当に、こんな……わたしにとって幸せすぎて、現実味がないよ……」
「それが、いいんです」
ベッドから降りて、叶美に抱きついてくる紅葉。カーテンも引かれ、電気も付いていない薄暗い部屋だというのに互いの顔だけははっきりと見える。二人のシルエットが重なる。
「この口づけに誓います。私も、お姉さまのこと大好きですから」
「えへへ、良かったね。ふたりとも」
「かおりちゃん! いつから?」
「ふふん、かなみちゃんとくれはちゃんのちゅー、ばっちり見ちゃった」
「か、かおり!」
にこにこと笑うかおりと、恥ずかしそうに頬を染める紅葉。その二人だからこそ、好きになったんだと、叶美はいっそ誇らしい気持ちだった。
「紅葉ちゃん、かおりちゃん、わたしに……好きを教えてくれてありがとう! わたし今すっごく幸せだよ!!」
仄暗い寝室に重なる三人の影。梅雨空の雨音の中、明らかに雨とは違う音が室内でこだまする。悩ましげな少女の吐息が漏れ、くちゅくちゅと水音が響く。
「んちゅ……うぅん、もっとぉ」
艶めかしい声でキスをねだる部屋の主、水藤叶美。その豊満な肢体を二人に委ね、快感の波に身を任せる。
「お姉さま、愛してますわ」
「かなみちゃん、かわいい」
叶美の右側で大人びた笑みを浮かべる城咲紅葉と、反対側で可愛らしく笑みを浮かべる北川かおり。三人の少女の初恋が芽吹き、大輪の百合が咲き誇る。
桜花寮の紅葉とかおりの部屋の玄関前。かおりは既にそのノブに手を掛けている。
「かなみちゃん」
ドアを開ける直前、
「「ちゅっ」」
かおりは再び、叶美に口づけをした。
「大丈夫のおまじない。ほら、行こうよ」
かおりを子供っぽいとか、護ってあげたくなるような……そんな女の子だと、叶美は考えていた。けれどその芯の強さに、改めて惹かれる叶美だった。
「うん、もう迷わない」
部屋に上がった叶美は、真っ直ぐ紅葉のもとへ向かった。紅葉はベッドで布団にくるまっていた。近付く人影に気付いた紅葉が視線を上げると、そこに叶美がいることに驚き瞠目した。
「お姉さま……」
「紅葉ちゃん! わたし、紅葉ちゃんのことが好き! でも、かおりちゃんのことも好きで ……どうしていいか分からなくって、だけど、その……二人とも好きなわたしを許してほしいの……」
自分勝手な主張だと、叶美は後悔の念にかられた。けれど、言わない方がずっと後悔する。
その一心で、自分の想いを必死に伝える。
「わたしの気持ちは伝えたよ。だめ、かな?」
「そんなこと……ないです。私だって、かおりのことは大切ですし、かおりがお姉さまのことを好きなのも分かってました。……その、かおりは何て言ってたんですか?」
「かおりちゃんはね、わたしの気持ちに素直になればいいって言ってた」
「私は……お姉さまの気持ちを尊重します。私のことも、かおりのことも、どっちも愛してください」
「いいの? それで……あ、えと。その……わたしが言うべきことじゃないんだろうけど……本当に、こんな……わたしにとって幸せすぎて、現実味がないよ……」
「それが、いいんです」
ベッドから降りて、叶美に抱きついてくる紅葉。カーテンも引かれ、電気も付いていない薄暗い部屋だというのに互いの顔だけははっきりと見える。二人のシルエットが重なる。
「この口づけに誓います。私も、お姉さまのこと大好きですから」
「えへへ、良かったね。ふたりとも」
「かおりちゃん! いつから?」
「ふふん、かなみちゃんとくれはちゃんのちゅー、ばっちり見ちゃった」
「か、かおり!」
にこにこと笑うかおりと、恥ずかしそうに頬を染める紅葉。その二人だからこそ、好きになったんだと、叶美はいっそ誇らしい気持ちだった。
「紅葉ちゃん、かおりちゃん、わたしに……好きを教えてくれてありがとう! わたし今すっごく幸せだよ!!」
仄暗い寝室に重なる三人の影。梅雨空の雨音の中、明らかに雨とは違う音が室内でこだまする。悩ましげな少女の吐息が漏れ、くちゅくちゅと水音が響く。
「んちゅ……うぅん、もっとぉ」
艶めかしい声でキスをねだる部屋の主、水藤叶美。その豊満な肢体を二人に委ね、快感の波に身を任せる。
「お姉さま、愛してますわ」
「かなみちゃん、かわいい」
叶美の右側で大人びた笑みを浮かべる城咲紅葉と、反対側で可愛らしく笑みを浮かべる北川かおり。三人の少女の初恋が芽吹き、大輪の百合が咲き誇る。
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