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第7話 美術部のふたり

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   北川かおりは美術部に所属している。新彩岩絵具と呼ばれる絵具を使う彼女は日本画の流れを汲みながら、その筆致は精緻と呼ぶには奔放で、抽象と呼ぶには巧妙であった。絵を描く彼女の横顔はただただあどけないだけの少女のそれではない。美術部副部長、佐伯雪絵はそれを知っていた。そんな彼女は、最近とある人物にご執心だ。 

「ゆきえちゃんあのね、かなみちゃんとまたお話したいの。この前のお礼、まだ言ってないし」 

 かおりはこのところ、しきりに雪絵に叶美の話をねだった。かおりは一つのものに興味を持つとまっすぐ、突き進む傾向があることを雪絵は知っているが、よもやその関心が叶美に向くとは思ってもみなかった。確かにかおりには叶美にお礼を言わねばならない理由がある。雪絵にも既にお礼を言っているし、雪絵はかおりの育ちのよさを実感している。
 ただ、どうしても彼女と叶美が惹かれ合うイメージが脳裏に浮かんでしまい、会わせたくないという気持ちが雪絵に芽生えている。それは言わば女の勘でしかないのだが、叶美とかおりは似ていると雪絵には思えてならなかったのだ。 
 美術室に充満する画材の匂いと差し込む西日。雪絵は絵筆を置いてかおりに向き合う。純真無垢な彼女がもし、叶美と惹かれ合うのなら……雪絵は逡巡する。 

「今度、三人でどこかに出掛けましょう。いい?」 
「うん!!」 

 そして雪絵は決めた。どんな結末になろうと、見守るのだと。届かない思いを押し込んで、雪絵は再びキャンバスを見つめる。水彩画のタッチで描かれているのは百合の花とその周りと舞う蝶の姿。それがきっと、叶美と自分の関係なのだと感じながら、雪絵はまた絵筆をとる。一輪しか咲いていなかった百合の隣に、新たに小さな百合の花を描くために。 
 そしてその日の夜、雪絵は叶美にこう切り出した。 

「次の日曜日に、動物公園へ行かない? 私と叶美と、北川さんで」 
「へぇ、いいね。楽しそう」 

 空の宮動物公園は市内中部に位置する市立の動物園で、高校生までは入場料無料という魅力もあり多くの人の憩いの場となっている。大型の動物は全くいないものの、小動物との触れ合いが中心で小中学生にも大人気となっている。 

「行くの久しぶりだね。いいの? 恵玲奈は置いてって?」
「この前助けてもらったお礼が言いたいっていう北川さんのお願いなの。あとは夏のコンクールに向けて絵も描き始めないとだから」 
「そっか。うん、分かった。行こう」 

 寮の談話室で話がまとまると、二人は連れだって大浴場へ向かった。星花の寮にそなえつけられている大浴場には熱めのお風呂と温めのお風呂があり、二人はもっぱら温い方でのんびりとするのを好んだ。 

「シャンプーのテスターまた違うのになったわね」 

 浴槽の壁に身体を預けながら、雪絵がぽつりと呟いた。二人ともシャンプーにこだわりがあり、自前のものをお風呂セットに入れて持ってきているが、大浴場にもともとシャンプーなどは置かれている。それは経営母体の天寿が開発しているもので寮生の意見は学校経由で開発にも届いている。 

「新しくなると一回は使うんだよねぇ」 
「分かる」 

 ちょうど視線の先で寮生の一人が自前のシャンプーを使わず、備え付けのボトルに手を伸ばした。 

「あれ、副会長じゃない?」 
「あ、ほんとだ」 

 湯煙の中、少女達の日々は少しずつ変化をしながら進んでいく。その中心にいる叶美には、まだその自覚はない。 
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