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8話
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「私から説明しようか」
そう言って生嶋先輩は語り始めた。今日、藤堂先輩から伝えられたことを。
「高校生になって初めて藤堂君からメールが来て、驚いちゃったよ。私、藤堂君のこと好きだったから……いのりちゃんを好きになったって告げられて……驚いちゃった」
私の初恋がぁと嘆くような口ぶりだけど、生嶋先輩の声音は不思議とすかっとしたようなものだった。
「でもね、よく考えたら当たり前のことなんだよね。私、ずっと前から藤堂君が好きで、でも何もできなかったから。いのりちゃんが藤堂君のことを気にかけて、一緒にいてあげたんだから」
そして、生嶋先輩はにこりと笑う。
「ありがとう、いのりちゃん。おかげで踏ん切りがついたよ。……だから、今度は私が藤堂君の背中を押してあげようと思って」
「先輩……」
まさかの展開。私はただ悠斗先輩に協力していただけなのに。なんでこんなことに……。それにしても……。
悠斗先輩を見ると、先輩はバツが悪いといった表情をしている。
一途だと思っていた先輩がコロッと私のことを好きになって……私、本当にそれでいいのかな。今ここで悠斗先輩の好意を受け入れて、本当に私それで嬉しいのかな。
「鈴原さん。僕は……鈴原さんが好きだよ。きっかけはちょっと変かもしれないけど、一緒に過ごすうちに、鈴原さんの優しさとか、思いやりとか、そういうのが伝わってきて、いつの間にか鈴原さんに惹かれていた」
「先輩……」
生嶋先輩の前で、堂々とそう言ってくる悠斗先輩。初めて会った時とは大違いだ。……でも、本当にいいのかな。せっかく生嶋先輩が悠斗先輩のこと好きだったって言ってくれたのに。本当に先輩の相手は私でいいの……?
「悠斗先輩、本当に私なんですか? だって、生嶋先輩、悠斗先輩のこと好きなんですよ。私より綺麗で大人っぽくて、スタイル良くて……」
「鈴原さんがいい」
……その真っすぐな瞳に耐えられなくて、私は生嶋先輩に問いかけた。
「先輩はそれでいいんですか。好きだったのに、ポッと出の私に盗られたようなもんじゃないですか」
「うん。だって私、大学は東京に行くつもりだから。藤堂君は県内に残るって言ってたし、そしたらもう会わないと思うもの」
「そんな……東京なんて近いじゃないですか。まさか悠斗先輩、遠距離恋愛が嫌で私に乗り換えるんですか!?」
「あはは。もう、いのりちゃんはひどい言い方するなあ。藤堂君はそんなこと思ってないよ。私、いのりちゃんには感謝してるんだ。いのりちゃんがいてくれたから、こうして藤堂君に気持ちを伝えることができた。本当に後悔はないよ」
「……僕が生嶋さんから東京の大学に行くって聞かされたのは、鈴原さんのことを好きになったって相談した後だよ」
「えっ」
「いのりちゃんのおかげで勇気が出たって言ったら、じゃあ自分も頑張らないとねって言ってくれたんだ」
「えぇ……それって」
「……うん。僕も生嶋さんが好きだ。でも、鈴原さんの方がもっと好きだ。生嶋さんは確かに魅力的な女性だけど、僕は生嶋さんよりも、鈴原さんと一緒にいたい。それが僕の答えです」
「……悠斗先輩」
生嶋先輩が私に感謝していると言った理由がようやく分かった気がする。生嶋先輩はきっと、私に嫉妬させるためにあんなことを言ったんだ。自分の恋心を諦めるために……。
「ありがとうございます、生嶋先輩。生嶋先輩の想い、絶対に無駄にはしませんから」
「……ふぅ。これでやっと私の初恋にも決着がついたよ。……じゃあ、あとは二人に任せてもいい?」
「はい。ちゃんと責任をもって悠斗先輩のことは幸せにしてみせます! そして、幸せにしてもらいます!!」
「頑張ってね、いのりちゃん」
生嶋先輩は安心したように微笑むと、その場を後にした。
私は悠斗先輩に向き合う。私からも、ちゃんと伝えたいから。
「……好きです! 私と付き合ってください!」
「はい。よ、よろしくお願いします」
こうして私と悠斗さんはお付き合いを始めたのだった。
そう言って生嶋先輩は語り始めた。今日、藤堂先輩から伝えられたことを。
「高校生になって初めて藤堂君からメールが来て、驚いちゃったよ。私、藤堂君のこと好きだったから……いのりちゃんを好きになったって告げられて……驚いちゃった」
私の初恋がぁと嘆くような口ぶりだけど、生嶋先輩の声音は不思議とすかっとしたようなものだった。
「でもね、よく考えたら当たり前のことなんだよね。私、ずっと前から藤堂君が好きで、でも何もできなかったから。いのりちゃんが藤堂君のことを気にかけて、一緒にいてあげたんだから」
そして、生嶋先輩はにこりと笑う。
「ありがとう、いのりちゃん。おかげで踏ん切りがついたよ。……だから、今度は私が藤堂君の背中を押してあげようと思って」
「先輩……」
まさかの展開。私はただ悠斗先輩に協力していただけなのに。なんでこんなことに……。それにしても……。
悠斗先輩を見ると、先輩はバツが悪いといった表情をしている。
一途だと思っていた先輩がコロッと私のことを好きになって……私、本当にそれでいいのかな。今ここで悠斗先輩の好意を受け入れて、本当に私それで嬉しいのかな。
「鈴原さん。僕は……鈴原さんが好きだよ。きっかけはちょっと変かもしれないけど、一緒に過ごすうちに、鈴原さんの優しさとか、思いやりとか、そういうのが伝わってきて、いつの間にか鈴原さんに惹かれていた」
「先輩……」
生嶋先輩の前で、堂々とそう言ってくる悠斗先輩。初めて会った時とは大違いだ。……でも、本当にいいのかな。せっかく生嶋先輩が悠斗先輩のこと好きだったって言ってくれたのに。本当に先輩の相手は私でいいの……?
「悠斗先輩、本当に私なんですか? だって、生嶋先輩、悠斗先輩のこと好きなんですよ。私より綺麗で大人っぽくて、スタイル良くて……」
「鈴原さんがいい」
……その真っすぐな瞳に耐えられなくて、私は生嶋先輩に問いかけた。
「先輩はそれでいいんですか。好きだったのに、ポッと出の私に盗られたようなもんじゃないですか」
「うん。だって私、大学は東京に行くつもりだから。藤堂君は県内に残るって言ってたし、そしたらもう会わないと思うもの」
「そんな……東京なんて近いじゃないですか。まさか悠斗先輩、遠距離恋愛が嫌で私に乗り換えるんですか!?」
「あはは。もう、いのりちゃんはひどい言い方するなあ。藤堂君はそんなこと思ってないよ。私、いのりちゃんには感謝してるんだ。いのりちゃんがいてくれたから、こうして藤堂君に気持ちを伝えることができた。本当に後悔はないよ」
「……僕が生嶋さんから東京の大学に行くって聞かされたのは、鈴原さんのことを好きになったって相談した後だよ」
「えっ」
「いのりちゃんのおかげで勇気が出たって言ったら、じゃあ自分も頑張らないとねって言ってくれたんだ」
「えぇ……それって」
「……うん。僕も生嶋さんが好きだ。でも、鈴原さんの方がもっと好きだ。生嶋さんは確かに魅力的な女性だけど、僕は生嶋さんよりも、鈴原さんと一緒にいたい。それが僕の答えです」
「……悠斗先輩」
生嶋先輩が私に感謝していると言った理由がようやく分かった気がする。生嶋先輩はきっと、私に嫉妬させるためにあんなことを言ったんだ。自分の恋心を諦めるために……。
「ありがとうございます、生嶋先輩。生嶋先輩の想い、絶対に無駄にはしませんから」
「……ふぅ。これでやっと私の初恋にも決着がついたよ。……じゃあ、あとは二人に任せてもいい?」
「はい。ちゃんと責任をもって悠斗先輩のことは幸せにしてみせます! そして、幸せにしてもらいます!!」
「頑張ってね、いのりちゃん」
生嶋先輩は安心したように微笑むと、その場を後にした。
私は悠斗先輩に向き合う。私からも、ちゃんと伝えたいから。
「……好きです! 私と付き合ってください!」
「はい。よ、よろしくお願いします」
こうして私と悠斗さんはお付き合いを始めたのだった。
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