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4話

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「先輩、デートしませんか?」
「……え?」

 月曜日に聞いた内容を藤堂先輩に伝えた翌日、今日は水曜日。今更ながら、藤堂先輩はどこの部活にも所属していないらしい。道理でいつも暇を持て余しているわけだ。

「擬似ですよ、擬似」
「なんだぁ、驚かせないでよ」
「生嶋先輩に告白するための、雰囲気作りです。その下見に、行きましょう。場所はそうですね……やっぱりスタパかなぁ」
「あぁ、スターパレスショッピングモールね。ベタじゃない?」

 そう聞き返してくる藤堂先輩、やはり認識が甘いな。

「ベタだからこそいいんですよ。あまり気負うと、こちらも向こうも意識しちゃいますからね。きわめて自然に」
「難しいな……」

 まぁ、藤堂先輩からすれば生嶋先輩と一緒にいて意識せずに自然体でいろというのは無理難題かもしれない。いや、無理だね。この協力体制のきっかけになった日の出来事を思い出せば楽々分かる話だ。

「取り敢えず、練習ということで、私とデートしてください」
「それって、デートって言うの?」
「今や女子同士のお出かけをデートっていう時代なんですからね」

 昨日の友人とのお出かけもよく、デートという名目だった。というか、その友人たちのせいでデートに誘うのが妙に緊張したのだが。それはここで言える話ではない。

「えっと……何日に?」
「今週の土曜日に、ですかね。そこそこのお金を用意してくださいね。先輩の服を調達するんですから。あ、でも……取り敢えず、最大限お洒落してきてくださいね」

 ……そうじゃないと、横に並んで恥ずかしい思いをしそうだから、とは口には出さないが。でも、スタパで服を買った場合、デートの本番にも着てしまったら、それはそれでマズいのではなかろうか。取り敢えず、藤堂先輩が実はお洒落という可能性に賭けてみよう。

「あ、土曜日で大丈夫ですよね?」
「う、うん。平気だよ。どこで待ち合わせにする?」
「六礼駅でいいと思いますけど?」
「分かった。時間は? お昼くらい? 午後?」
「そうですね……。開店が午前10時なので、10時集合でいいと思います」
「早くない? まぁ、遅刻はしないと思うけど……」

 やっぱり早かったかな……。先輩と一緒にいる時間が長い方が……って、私は何を!?

「鈴原さん?」
「なんでもないです!」

 ……どうしてだろう。無性に名前で呼んで欲しいと思うのは。
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