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春は出会いの季節

10 コスプレ未遂事件

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 家に帰ると多希が何やら錬金していた。甘いようでどこか焦げ臭いようなこの臭いに慣れてしまっていることに溜息が出てしまう。

「多希ぃ、なに作ってるの?」
「あ、お姉ちゃんおかえり。お姉ちゃんがお兄ちゃんだったころの服を再錬成してこんなの作ってみたよ」

 そう言って多希が取り出したのは……メイド服。

「お姉ちゃんちょっとコスプレしてみようか」
「いやなんで!?」

 手渡されたメイド服はメイドとして働くためのそれではなく、完全にコスプレ衣装として作られたフリフリでひらひらでスカートの短いやつだった。

「ちょっとしたお小遣い稼ぎをしたくてさぁ。ほら、錬金術を使えばそれこそ卑金属から貴金属を生み出せるけど、そういうのを買い取りショップに持っていくには大人でないといけないし、お母さんに行ってもらうのも大変じゃん? なら、他の稼ぎ方を考えようかなって。お姉ちゃんがコスプレしてストリーミングでもしようものなら、それこそガッポガッポだよ!」
「えっとね、やらないけどさ、やらないんだけどさ、なんでそんなにお小遣い必要なのかな?」

 そもそも多希はまだ中学生だ。なににそんなにお金がかかるというのか。そもそも我が家ではそれなりにお小遣いをちゃんともらっているはずなのに。

「いやはや、実は推しているストリーマーがいてね。投げ銭したくって。それに、お姉ちゃんがストリーマーになればコラボだって夢じゃないというかぁ」

 なんというか、真面目に聞く必要なんてなかったなぁ。

「それより、僕を戻す術を考えて欲しいんだけど。天才錬金術師の夏目多希さん」
「あのね、私はお兄ちゃんのこと大大大大大好きだけど、それはお兄ちゃんの外見じゃなくて中身とか人間性とか人格面においてのことであって、外見についてはひいき目で得点2倍ボーナスつけて100点なわけですよ」

 それはつまり社会的にというか一般的には50点というわけね。

「でも今のお姉ちゃんは見た目で言えばもはや1000点だよね。ボーナスとか関係なしに。性転換のお薬にどうして可愛くなったりおっぱいが大きくなったりする効果があるのか分からないけど、取り敢えずそのままでいいんじゃないかな? 私にとってお兄ちゃんはお兄ちゃんのままだよ。お姉ちゃんって呼んでるけどさ」

 そりゃ……客観的に見て今の僕は可愛い。服選びとか楽しいし、髪型は洗脳の鈴を二つつける必要上ツインテールにしているけど、十代半ばでツインテールが似合うという時点で顔面の良さがわかるというもの。

「可愛い女の子として今の生活を満喫してるんじゃないの? 戻りたい理由はもとは男だったから以外に何かある?」
「そりゃ、具体的に何かあるかと問われれば無いが……」
「もし、えっちなことをしたいって言うなら、女の子の気持ちよくなり方を教えてあげるからね」
「それはいらない」
「ほんと? 玩具とか触手とかなんでも錬成してあげるよ?」
「本当にいらないから!」

 そう言って多希の部屋を出る。うーん、なんかけむに巻かれたような気分。僕としては自分のしでかしたことの責任を取ってもらいたいっていう意味もあって、戻してくれと言っているんだが……まぁ、素材がない以上は仕方ないのだろう。錬金術だって万能じゃないとは多希がずっと言っていることだし。

「でもなぁ、本当にこのままでいいのかなぁ」

 ひとまず迷いを追い出して、夕食の支度にとりかかるとしよう。明日は糸田さんをお昼に誘うし、お弁当の仕込みも少し手をかけたいんだよね。

「よし、やるぞー!!」
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