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プロローグ

01 朝起きたら美少女になっていた。

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 うちの妹は錬金術師だ。半年ほど前に朝から行方をくらまし、夕飯の時間になっても帰ってこなかった。夏休みだしと、昼過ぎまでは心配していなかったのだが、朝になったら警察へ行こうと家族で話し合ったまさしくその翌朝、当たり前のように妹はベッドで寝ていた。
 起きた当人が言うには、異世界に転移して体感では一か月ほどを過ごしてきたらしい。そんなひと夏の冒険を経て妹がこっちに持ち帰ってきたのが錬金術、最初は何も信じていなかったけれど、小鍋に虹色の液体を入れて沸かし、そこに素材を入れてことこと煮込むとまったく違うものが完成するのだ。
 僕はそんな妹の兄で、いたって普通の男子中学生……もうじき高校生になる、夏目純だ。目下の悩みは中学三年間であまり伸びなかった身長で、高校デビューじゃないが妹に頼んで身長が伸びる薬を錬金してもらうことにした。その結果が……まさかこんなことになるなんて、思いもしなかった。

「おぉい!! 多希ぃ!! 起きろぉ!!」

 春休みも残り二週間に迫った三月某日。僕は妹をたたき起こすべく部屋に押し入った。錬金術に使っている鍋から漂う甘いようで若干臭い異臭にも多少は慣れて、ベッドで眠る妹をゆする。

「だ、だれぇ……誰?」
「純だよ!! 多希が作った薬を飲んだら女の子になってたんだよ!!」

 寝ぼけまなこの妹に薬の空き瓶を見せる。背を伸ばすための薬に使うからって、しばらく爪を伸ばしそれを素材にようやく錬金してもらった薬だというのに、飲んで寝たら女の子になってしまっていたのだ。なんなら背は縮んだ。

「可愛いねぇ……ふわぁ」
「あくびしてる場合じゃないよ……戻してよぉ……」

 妹の頬をぺちぺちして意識の覚醒を促す。異世界から帰ってきてから妹はしっかり者の雰囲気が出てきたのだが、寝起きは相変わらずからっきしだ。

「あぅ……素材、間違えちゃったみたい。ごめんねお兄ちゃん、戻す薬……作れないかも。性転換のお薬に使った素材……もう手に入らないかもしれなくて」
「ど、どういうことだよ……?」

 その力を使って一か月で異世界の魔王を屈服させたという多希の錬金力をもってしても、もう戻せないなんて……どんな素材を使ったって言うんだ。目を泳がせ言葉を濁す妹に強く迫って、何を使ったのか白状させる。

「あのね……性転換のお薬に使ったのは……お兄ちゃんの精液なの。だから、もう手に入らない……よね?」

 よね? の言葉と同時に僕のズボンを引き下ろす。お尻で引っかかっていただけのそれはあっさりと床に落ち、春といえど冷える朝の空気が股間を撫でる。

「……無いか」

 口にするよりも多希の手が早かったから伝えられなかったけど、そこにもう無いことは確認済みだ。胸は重いし愛棒はそこにもうない。完全に女の子になってしまった。……ん?

「なあ多希、僕の精液って……どういうことだ?」

 ズボンを引き上げながら冷静に考えてしまったが、どうしてそんなものを多希が錬金素材として持っていたのか、まったくもって看過してはいけないことなのではなかろうか。

「そりゃあお兄ちゃんが一人で出して使ったティッシュから、錬金釜を使って抽出したんだよ。いつかお兄ちゃんと私の子供を錬成しようと思って。でもこれじゃ……もう無理だよね」

 あぁ、妹を異世界に連れて行った神様、もしもいるのであれば……僕を元通りに戻してくださぁい……ついでに身長を少し伸ばしてくださぁい!!


 これはある日突然、女の子になってしまった僕の高校生活を綴る物語だ。
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