新設騎士団の人事さん

＃０３ 異動準備

　その日の夕方には私が第九騎士団の団長補佐になる話が上司に伝わっていた。

「随分な栄転だな。給金が倍近くなるぞ」

　第一騎士団総務部長からの言葉に重みがある。なにせ団長補佐というのは、目の前の総務部長よりさらに格上なのだから。……本当に私、そんな役職としてお仕事できるのかなぁ。

「騎士団の採用担当って……何するんですか？」

　もともと人事畑から部長になったという壮年の男性は豊かなあごひげに触れながら、答えた。
「そうだな、まずは団員の面接だな。他の騎士団から引き抜くこともあるし、在野の傭兵を招き入れることもある。それに、新入団員の査定もやってもらうことになるだろう。他にも各部署との折衝もあるだろうな」
「うへぇ……」
「部隊の編制も重要になってくるな。団長……この場合はエルフィオーレ殿下に上申する形になるな」
「それは……責任重大ですね」

　思わず頭を抱えてしまう。新設される第九騎士団がどれほどの規模になるか分からないけど、その全貌を把握しつつ、部隊編成を考えなければいけないのか……。
　しかも、その騎士たちが訓練や実戦でどういった活躍をして、それをどう給金に反映するのか……私たちみたいな騎士団の文官を統括する立場になる。……私、今の騎士団だと平文官なのに。どうしてこんなことになっちゃったのさ。

「騎士の採用においては当然、剣技の腕前も重要になってくるな。その試験官をお前がするなら……まぁ、上等な騎士団になるだろうな」

　私の剣の腕前は部長も知っている。どうして文官をやっているか、についても。木剣を振るうならいくらでもやるし、騎士見習い相手なら負けるつもりもない。
　騎士見習い、かぁ。

「騎士養成学校には既に卒業可能な見習いは優先的に第九騎士団へ配属するように通達がいっているはずだ。まぁ、騎士見習いに希望の配属先があればそっちに行くことも多いだろうが。……いやぁ。新しくできる騎士団に入りたいっていう見習いがどれくらいいるか分からんが」

　そう言って笑う部長だが、私は笑えなかった。
　この国の王都にある騎士養成学校、戦争をつねに意識しているこの国では騎士は慢性的に不足している。……うーん。

「リューゼッラ帝国の兵士をうちに鞍替えさせるのも一つの手だろうな。お前にそれだけの話術があれば、だが」

　戦争に負けた国の兵士を自軍に組み込むことは多分にあることだ。敵について知ることもできるし、敵兵の戦意を鈍らせることもできる。まぁ、裏切りの危険は常にあるのだが。敵国に雇われた傭兵をうちで再契約する手もあるが、それは新設の騎士団にとって金銭面から悩ましい。……騎士団の金銭管理も私の仕事になるってことか。

「新設の騎士団って、当然文官も何人か用意してもらえるんですよね」

　恐る恐る確認すると、当たり前だろという顔をされた。

「今は上司でも第九騎士団に配属されたら部下になるかもな」
「うわぁ……それはやりづらそうですね……」
「まぁ、頑張ってみるといい」
「……はい」
「おう、今日は上がっていいぞ」

　そう言われ私は職場を後にした。