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episode4
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その帰路で、話題は瑠璃子の住処になった。
「るりちゃんっていつから空の宮に戻ってきたの? あと、前の家に一人暮らしする感じなの?」
「そうね……先週くらいだったかしら。桜咲いててびっくりしたわ。あと、あの家は賃貸に出しているから、あたしは寮暮らしよ。桜花の方。なんでもルームメートはぎりぎりまで実家に帰省しているから、顔合わせは今日だそうよ」
「そうだったんだ!! でも意外だな~。るりちゃん頭いいんだし、菊花にだって行けると思ってた」
星花女子学園には一般的な二人部屋の桜花寮と、学業または部活で成績優秀な生徒が入れる一人部屋の菊花寮がある。入試で優秀だった寮希望の生徒にも、菊花寮入寮の許可が出るのだが。
「試験の時に緊張して全力が出せなかったのよ。ま、ちゃんと勉強して定期考査を頑張ればきっと来年には一人部屋よ。それまではルームメートとも、ちゃんと仲良くするけど。あんまり変じゃない人だったらいいのだけれど」
「あはは~。星花女子はけっこう変わった人が多いからね~。せっちゃんとかあれで案外まともな方だよぉ?」
「は? あんな、おっぱいのことしか考えてないようなのがまともって……まともじゃないわぁ……。ていうか、かえではどこに住んでるの?」
「えへへへ。わたしも桜花寮だよ~。ママがね~、ちょっとは自立しなさいよって言うから。でも寮生活ってすっごい楽しいし、るりちゃんもいてくれたらもっと楽しくなっちゃうね」
ご機嫌な様子でそう語るかえで。とうとうスキップまでしだしたかえでを駆け足で追いかける瑠璃子だったが、
「ちょ、かえで! もう! 相変わらずマイペースなんだから!!」
春の空が少しずつ夕焼けに染まる頃、二人は桜花寮まで戻ってきた。
「あんたはどの部屋なの?」
「それより先に、るりちゃんのお部屋に行こうよ。るりちゃんのルームメートさんに挨拶しなきゃ。うちの子がお世話になりますってね」
「誰が、誰の子よ。ま、あたしもルームメート気になってたし、さっさと顔合わせしちゃいましょうか」
そう言って二人は瑠璃子が先週から入居した一室にやってきた。部屋に入ると、そこにあったのは瑠璃子の私物と、瑠璃子の見知らぬ大きなスーツケースがあった。
「あ、これがルームメートの荷物ね。にしても、まだ戻ってないのかしら。どこをほっつき歩いているのかしらね。……かえで?」
「るりちゃん……」
振り向いた瑠璃子を、かえでがそっと……朝の自己紹介の時よりだいぶ優しく、それでもぎゅっと包むように抱きしめる。
「わたしだよ。るりちゃんのルームメート。嬉しすぎてちょっと忘れたけど、るりちゃんと話してて思い出したよ。えへへ」
「もう……どんだけ緩い頭してんのよ」
「だって。三年も離れ離れだったるりちゃんと、これから三年間毎日同じ部屋で、おはようからおやすみまでずーーーっと一緒なんだよ。嬉しくて嬉しくておかしくなっちゃう」
「これ以上おかしくなられちゃ困るわよ……」
そんな憎まれ口をたたきながらも、瑠璃子はそっと両手をかえでの背中に回し、あやすように撫でてあげた。
「だって、るりちゃんのこと大好きなんだもん。けどね、会わない間に別人みたいに……オトナなお姉さんみたいになってたらどうしようかと思ってたけど、全然変わってなくて、それがすっごく嬉しくて、もっともっとるりちゃんのこと大好きになっちゃった」
「何よそれ。あたしがちっちゃいから好きなの? まぁ、あたしだってかえでが心配で空の宮まで戻ってきたわけだし、別にいいけどさ。にしたって、あんたは大きくなりすぎ。でも……すぐにかえでだって分かったわよ」
言葉こそ少し不満げなものだったが、その声色はとても優しく慈愛がこもっていた。
「えへへ~。るりちゃんがね、勉強頑張って菊花に行っちゃいそうになったら、めいっぱい甘やかして阻止しちゃうもんね~。こうやってね」
再び瑠璃子を抱きしめるかえで。そんなかえでの頭を撫でながら、瑠璃子は諭すような声で言った。
「ばかね。甘やかすのはいっつも、あたしの方じゃない。それに……あんたと二人部屋なら、無理に菊花になんて行かないわよ。勉強はちゃんとするし、させるけど」
「うぇひ、もう、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ。……ねぇ、ちゅーしていい? 小学生の頃と違う、オトナのちゅー」
「ば! ばか! そんなの……聞いてからするもんじゃないでしょ。ほら、膝ついて」
夕日で二つの影が伸びている。それが一つに重なった時、再会の花は満開となり、恋という実を結ぶ。
男子三日会わざれば何とやらとは言うが、ならば乙女は? そんな問いに二人はこう答えるだろう。乙女三年会わざれば恋すべし、と。
おしまい。
「るりちゃんっていつから空の宮に戻ってきたの? あと、前の家に一人暮らしする感じなの?」
「そうね……先週くらいだったかしら。桜咲いててびっくりしたわ。あと、あの家は賃貸に出しているから、あたしは寮暮らしよ。桜花の方。なんでもルームメートはぎりぎりまで実家に帰省しているから、顔合わせは今日だそうよ」
「そうだったんだ!! でも意外だな~。るりちゃん頭いいんだし、菊花にだって行けると思ってた」
星花女子学園には一般的な二人部屋の桜花寮と、学業または部活で成績優秀な生徒が入れる一人部屋の菊花寮がある。入試で優秀だった寮希望の生徒にも、菊花寮入寮の許可が出るのだが。
「試験の時に緊張して全力が出せなかったのよ。ま、ちゃんと勉強して定期考査を頑張ればきっと来年には一人部屋よ。それまではルームメートとも、ちゃんと仲良くするけど。あんまり変じゃない人だったらいいのだけれど」
「あはは~。星花女子はけっこう変わった人が多いからね~。せっちゃんとかあれで案外まともな方だよぉ?」
「は? あんな、おっぱいのことしか考えてないようなのがまともって……まともじゃないわぁ……。ていうか、かえではどこに住んでるの?」
「えへへへ。わたしも桜花寮だよ~。ママがね~、ちょっとは自立しなさいよって言うから。でも寮生活ってすっごい楽しいし、るりちゃんもいてくれたらもっと楽しくなっちゃうね」
ご機嫌な様子でそう語るかえで。とうとうスキップまでしだしたかえでを駆け足で追いかける瑠璃子だったが、
「ちょ、かえで! もう! 相変わらずマイペースなんだから!!」
春の空が少しずつ夕焼けに染まる頃、二人は桜花寮まで戻ってきた。
「あんたはどの部屋なの?」
「それより先に、るりちゃんのお部屋に行こうよ。るりちゃんのルームメートさんに挨拶しなきゃ。うちの子がお世話になりますってね」
「誰が、誰の子よ。ま、あたしもルームメート気になってたし、さっさと顔合わせしちゃいましょうか」
そう言って二人は瑠璃子が先週から入居した一室にやってきた。部屋に入ると、そこにあったのは瑠璃子の私物と、瑠璃子の見知らぬ大きなスーツケースがあった。
「あ、これがルームメートの荷物ね。にしても、まだ戻ってないのかしら。どこをほっつき歩いているのかしらね。……かえで?」
「るりちゃん……」
振り向いた瑠璃子を、かえでがそっと……朝の自己紹介の時よりだいぶ優しく、それでもぎゅっと包むように抱きしめる。
「わたしだよ。るりちゃんのルームメート。嬉しすぎてちょっと忘れたけど、るりちゃんと話してて思い出したよ。えへへ」
「もう……どんだけ緩い頭してんのよ」
「だって。三年も離れ離れだったるりちゃんと、これから三年間毎日同じ部屋で、おはようからおやすみまでずーーーっと一緒なんだよ。嬉しくて嬉しくておかしくなっちゃう」
「これ以上おかしくなられちゃ困るわよ……」
そんな憎まれ口をたたきながらも、瑠璃子はそっと両手をかえでの背中に回し、あやすように撫でてあげた。
「だって、るりちゃんのこと大好きなんだもん。けどね、会わない間に別人みたいに……オトナなお姉さんみたいになってたらどうしようかと思ってたけど、全然変わってなくて、それがすっごく嬉しくて、もっともっとるりちゃんのこと大好きになっちゃった」
「何よそれ。あたしがちっちゃいから好きなの? まぁ、あたしだってかえでが心配で空の宮まで戻ってきたわけだし、別にいいけどさ。にしたって、あんたは大きくなりすぎ。でも……すぐにかえでだって分かったわよ」
言葉こそ少し不満げなものだったが、その声色はとても優しく慈愛がこもっていた。
「えへへ~。るりちゃんがね、勉強頑張って菊花に行っちゃいそうになったら、めいっぱい甘やかして阻止しちゃうもんね~。こうやってね」
再び瑠璃子を抱きしめるかえで。そんなかえでの頭を撫でながら、瑠璃子は諭すような声で言った。
「ばかね。甘やかすのはいっつも、あたしの方じゃない。それに……あんたと二人部屋なら、無理に菊花になんて行かないわよ。勉強はちゃんとするし、させるけど」
「うぇひ、もう、嬉しいこと言ってくれちゃってぇ。……ねぇ、ちゅーしていい? 小学生の頃と違う、オトナのちゅー」
「ば! ばか! そんなの……聞いてからするもんじゃないでしょ。ほら、膝ついて」
夕日で二つの影が伸びている。それが一つに重なった時、再会の花は満開となり、恋という実を結ぶ。
男子三日会わざれば何とやらとは言うが、ならば乙女は? そんな問いに二人はこう答えるだろう。乙女三年会わざれば恋すべし、と。
おしまい。
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