百合の花が咲く頃に恋の音は響き渡りて

＃４ お部屋訪問

　突然のお誘いで頭が働いていなかったけど、今日って……。

「土曜日じゃん」

　百合子ちゃんとはメッセージ上でのやり取りもするようになっていて、今日がお誘いの日であることはまず間違いない。場所も地図が送られてきている。……そんなに遠くない。ただ問題は……何を着ていくか、である。あまりに悩んで時間が送れるのもよくないので……。

「いらっしゃい、花音。……どうして制服なのかしら？」

　百合子ちゃんの家はマンションの一室だった。大きな洋館みたいなおうちを想像していたけど、この街にしては大きなマンションの一室というのも、納得感があって思わず感嘆してしまった。ゆったりとした白いワンピース姿の百合子ちゃんはまさしく一輪の百合の花みたいで、楚々とした美しさを湛えていた。そんな彼女からビンタしてもらえるなんて、人によっては普通にお金を払うのでは？？　冷静さを欠いた思考をぐっと黙らせて、百合子ちゃんの家に上がらせてもらう。

「お、お邪魔します……」
「部屋はここよ」

　玄関入ってすぐが百合子ちゃんのお部屋らしい。入るとなんとなくいい香りがした。

「お茶とお菓子を持ってくるわね」

　そう言って出てくるのが紅茶とバウムクーヘンなのがお嬢様って感じだ。逆にコーラとポテトチップスが出てきたとしても百合子ちゃんのことを好きになってしまうだろうけど。もう、何を出されても好きじゃん。

「自分のお部屋にテレビがあるってすごいね」

　私の家にはテレビがリビングに置かれている一台しかない。家族が全員家に揃うことはあまりないから、専用みたいなものかもしれないけど。
　百合子ちゃんは早速テレビを操作してアニメ『転生したら第二王女だったので小姑の悪役令嬢と仲良くしたい』を１話から再生し始めた。どうやら８話まで放送済みらしいが、８話にだけNEWと表示があったから、百合子ちゃんもまだ見ていないのだろう。
　物語としては主人公が生前プレイしていた乙女ゲームの世界に転生してしまう、よくある作品だ。ただ、私は乙女ゲーム自体に馴染みがないのであまり詳しくは知らない。とある王国の第二王女である主人公は同盟国の第二王子と婚約するのだが、その王家の長女が……。

「花音、この子って本当にひどいわよね」

　そう、百合子ちゃんの言う通りに小姑はとにかく性格が悪いのだ。主人公の行動一つ一つに文句をつけてきたりとか、自分の思い通りにならなければヒステリックになったりだとか……。
　どうやらゲームでは悪行の数々から身分を平民に落とされた挙句に修道院へ送られてしまうらしいんだけど、不思議なことに主人公にとっての最推しが彼女らしく、彼女が修道院送りにならないよう尽力していく物語らしい。たしかに、王女様ということもあって、小姑は賢くて美人で魔法使いとしても優秀（その世界は魔法が存在している）なのだ。

「性格が悪いところも含めて親近感がわくのよね」

　百合子ちゃんが何かを呟いていたのを、私は紅茶の美味しさに驚いて聞き逃してしまったのだった。