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そんな出会いから一ヶ月が経った頃。すっかり桜の花びらは散り、青々と茂った葉がやわらかな日差しをうけて陰をおとしている。その日、彩葉は中間試験の勉強をしようと図書室を訪れていた。不意に窓から図書室の外を見た彩葉が見たのは、無我夢中で踊る晶奈の姿だった。
「あの娘……本気なのね」
胸にこみ上げてくるものを感じて、彩葉はいてもたってもいられずに、図書室を飛び出して校舎裏へ向かった。
「水上さん!」
今日の気温は涼しく、しかも木陰だというのに、晶奈は体操服を汗に湿らせ必死に踊っていた。
「あ、彩葉ちゃん!」
「何をしているの? こんな場所で……」
「ダンスの練習……彩葉ちゃんに見せて、また勧誘しようと思って。頑張って練習してたの」
ただ言葉だけでは足りない。もっと自分が必死であることを、真剣であることを彩葉に知って貰おうと、晶奈が考えたのが自分で振り付けを考えて踊ることだった。曲なんてまだない。それでも構わなかった。
「どうして? 他にも可愛い子はいるじゃない。アイ研の同級生だっているでしょうし……。なんでムキになってまで、わたしを……」
「私、分かるの。彩葉ちゃんは可愛いだけじゃなくて、きっと何事にも一生懸命なんだと思う。そういうひたむきさが、人を惹きつけるの。アイドルってそういうものなんじゃないかなって」
「水上さん……。いいえ、はっきり言うわ。貴女はアイドルに夢を見すぎているわ。……もちろん、アイドルは人に夢を届ける職業よ。でもアイドルは……実際はそんな高尚なものじゃない……」
「な、なに言い出すの! 彩葉ちゃんは確かにアイドルみたいに可愛いけれど、アイドルじゃないでしょう? そんな知ったようなこと言わないでよ!!」
「知ってるわ!! わたし、わたしは……。アイドルだったもの。芽吹くことなかった……アイドルの種なのよ」
歯を食いしばって、その美しい顔を悔恨に歪め彩葉は言葉を紡ぐ。そこで彩葉は悟った。自分が持つ晶奈を避けようとする心は、かつての自分と同じような存在から目を背けたいという感情から来ていることに。
「アイドルなんて……夢見るものじゃない。スクールアイドルだって遊びじゃないのよ」
「遊びじゃないよ! 真剣だよ、だからこそ……逃げちゃだめなんだよ! アイドルを夢見た人間は、どんなに苦しくったって、誰かに夢を繋がなきゃいけないの……。お姉ちゃんがそうだったように……」
「水上さん……何を?」
自分に言い聞かすような物言いと苦しそうな表情を見て、彩葉は戸惑った。これまでに見てきた晶奈は天真爛漫で明るさが飛び抜けたような存在だった。今のような苦しそうな表情なんて一切しないように思えた。だというのに、今、目の前にいる晶奈はともすればどこかへ去って行ってしまいそうな、そんな儚い存在に思えた。
「水上さん……」
俯く晶奈と何て声をかけていいか分からない彩葉。二人の間に重い沈黙がのしかかる。長いような一瞬、一瞬のようでそうではない時間が二人の間を過ぎていく。そんな静寂を打ち破ったのは、晶奈のくしゃみだった。
「み、水上さん。このままでは冷えてしまいます。とにかくすぐ着替えて帰るように。わたしももう帰りますから。あと、中間テストの勉強もするように、いいですわね?」
「う、うん……。あの、彩葉ちゃん。中間テストが終わったら、私の話……聞いてくれる?」
どこかすがるようなものにも似た視線に、彩葉は頷くよりほかなかった。
「あ、あと……その、試験勉強手伝ってくれたら……嬉しいな」
「それはお断りよ」
ぎこちない笑顔での頼み事をばっさりと切り捨てる彩葉だった。
「あの娘……本気なのね」
胸にこみ上げてくるものを感じて、彩葉はいてもたってもいられずに、図書室を飛び出して校舎裏へ向かった。
「水上さん!」
今日の気温は涼しく、しかも木陰だというのに、晶奈は体操服を汗に湿らせ必死に踊っていた。
「あ、彩葉ちゃん!」
「何をしているの? こんな場所で……」
「ダンスの練習……彩葉ちゃんに見せて、また勧誘しようと思って。頑張って練習してたの」
ただ言葉だけでは足りない。もっと自分が必死であることを、真剣であることを彩葉に知って貰おうと、晶奈が考えたのが自分で振り付けを考えて踊ることだった。曲なんてまだない。それでも構わなかった。
「どうして? 他にも可愛い子はいるじゃない。アイ研の同級生だっているでしょうし……。なんでムキになってまで、わたしを……」
「私、分かるの。彩葉ちゃんは可愛いだけじゃなくて、きっと何事にも一生懸命なんだと思う。そういうひたむきさが、人を惹きつけるの。アイドルってそういうものなんじゃないかなって」
「水上さん……。いいえ、はっきり言うわ。貴女はアイドルに夢を見すぎているわ。……もちろん、アイドルは人に夢を届ける職業よ。でもアイドルは……実際はそんな高尚なものじゃない……」
「な、なに言い出すの! 彩葉ちゃんは確かにアイドルみたいに可愛いけれど、アイドルじゃないでしょう? そんな知ったようなこと言わないでよ!!」
「知ってるわ!! わたし、わたしは……。アイドルだったもの。芽吹くことなかった……アイドルの種なのよ」
歯を食いしばって、その美しい顔を悔恨に歪め彩葉は言葉を紡ぐ。そこで彩葉は悟った。自分が持つ晶奈を避けようとする心は、かつての自分と同じような存在から目を背けたいという感情から来ていることに。
「アイドルなんて……夢見るものじゃない。スクールアイドルだって遊びじゃないのよ」
「遊びじゃないよ! 真剣だよ、だからこそ……逃げちゃだめなんだよ! アイドルを夢見た人間は、どんなに苦しくったって、誰かに夢を繋がなきゃいけないの……。お姉ちゃんがそうだったように……」
「水上さん……何を?」
自分に言い聞かすような物言いと苦しそうな表情を見て、彩葉は戸惑った。これまでに見てきた晶奈は天真爛漫で明るさが飛び抜けたような存在だった。今のような苦しそうな表情なんて一切しないように思えた。だというのに、今、目の前にいる晶奈はともすればどこかへ去って行ってしまいそうな、そんな儚い存在に思えた。
「水上さん……」
俯く晶奈と何て声をかけていいか分からない彩葉。二人の間に重い沈黙がのしかかる。長いような一瞬、一瞬のようでそうではない時間が二人の間を過ぎていく。そんな静寂を打ち破ったのは、晶奈のくしゃみだった。
「み、水上さん。このままでは冷えてしまいます。とにかくすぐ着替えて帰るように。わたしももう帰りますから。あと、中間テストの勉強もするように、いいですわね?」
「う、うん……。あの、彩葉ちゃん。中間テストが終わったら、私の話……聞いてくれる?」
どこかすがるようなものにも似た視線に、彩葉は頷くよりほかなかった。
「あ、あと……その、試験勉強手伝ってくれたら……嬉しいな」
「それはお断りよ」
ぎこちない笑顔での頼み事をばっさりと切り捨てる彩葉だった。
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