あの星をもう一度

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
2 / 6

ステップ2

しおりを挟む
そんな出会いから一ヶ月が経った頃。すっかり桜の花びらは散り、青々と茂った葉がやわらかな日差しをうけて陰をおとしている。その日、彩葉は中間試験の勉強をしようと図書室を訪れていた。不意に窓から図書室の外を見た彩葉が見たのは、無我夢中で踊る晶奈の姿だった。
「あの娘……本気なのね」
胸にこみ上げてくるものを感じて、彩葉はいてもたってもいられずに、図書室を飛び出して校舎裏へ向かった。
「水上さん!」

今日の気温は涼しく、しかも木陰だというのに、晶奈は体操服を汗に湿らせ必死に踊っていた。

「あ、彩葉ちゃん!」
「何をしているの? こんな場所で……」
「ダンスの練習……彩葉ちゃんに見せて、また勧誘しようと思って。頑張って練習してたの」

ただ言葉だけでは足りない。もっと自分が必死であることを、真剣であることを彩葉に知って貰おうと、晶奈が考えたのが自分で振り付けを考えて踊ることだった。曲なんてまだない。それでも構わなかった。

「どうして? 他にも可愛い子はいるじゃない。アイ研の同級生だっているでしょうし……。なんでムキになってまで、わたしを……」
「私、分かるの。彩葉ちゃんは可愛いだけじゃなくて、きっと何事にも一生懸命なんだと思う。そういうひたむきさが、人を惹きつけるの。アイドルってそういうものなんじゃないかなって」
「水上さん……。いいえ、はっきり言うわ。貴女はアイドルに夢を見すぎているわ。……もちろん、アイドルは人に夢を届ける職業よ。でもアイドルは……実際はそんな高尚なものじゃない……」
「な、なに言い出すの! 彩葉ちゃんは確かにアイドルみたいに可愛いけれど、アイドルじゃないでしょう? そんな知ったようなこと言わないでよ!!」
「知ってるわ!! わたし、わたしは……。アイドルだったもの。芽吹くことなかった……アイドルの種なのよ」

歯を食いしばって、その美しい顔を悔恨に歪め彩葉は言葉を紡ぐ。そこで彩葉は悟った。自分が持つ晶奈を避けようとする心は、かつての自分と同じような存在から目を背けたいという感情から来ていることに。

「アイドルなんて……夢見るものじゃない。スクールアイドルだって遊びじゃないのよ」
「遊びじゃないよ! 真剣だよ、だからこそ……逃げちゃだめなんだよ! アイドルを夢見た人間は、どんなに苦しくったって、誰かに夢を繋がなきゃいけないの……。お姉ちゃんがそうだったように……」
「水上さん……何を?」

自分に言い聞かすような物言いと苦しそうな表情を見て、彩葉は戸惑った。これまでに見てきた晶奈は天真爛漫で明るさが飛び抜けたような存在だった。今のような苦しそうな表情なんて一切しないように思えた。だというのに、今、目の前にいる晶奈はともすればどこかへ去って行ってしまいそうな、そんな儚い存在に思えた。

「水上さん……」

俯く晶奈と何て声をかけていいか分からない彩葉。二人の間に重い沈黙がのしかかる。長いような一瞬、一瞬のようでそうではない時間が二人の間を過ぎていく。そんな静寂を打ち破ったのは、晶奈のくしゃみだった。

「み、水上さん。このままでは冷えてしまいます。とにかくすぐ着替えて帰るように。わたしももう帰りますから。あと、中間テストの勉強もするように、いいですわね?」
「う、うん……。あの、彩葉ちゃん。中間テストが終わったら、私の話……聞いてくれる?」

どこかすがるようなものにも似た視線に、彩葉は頷くよりほかなかった。

「あ、あと……その、試験勉強手伝ってくれたら……嬉しいな」
「それはお断りよ」

ぎこちない笑顔での頼み事をばっさりと切り捨てる彩葉だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

君の瞳のその奥に

楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。それは時に甘く……時に苦い。 失恋を引き摺ったまま誰かに好意を寄せられたとき、その瞳に映るのは誰ですか? 片想いの相手に彼女が出来た。その事実にうちひしがれながらも日常を送る主人公、西恵玲奈。彼女は新聞部の活動で高等部一年の須川美海と出会う。人の温もりを欲する二人が出会い……新たな恋が芽吹く。

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

恋の泉の温もりよ

楠富 つかさ
青春
 主人公、花菱心は地元を離れてとある温泉街の高校を受験することに。受験の下見がてら温泉旅館に泊まった心はそこで同い年であり同じ高校を受験するという鶴城ゆもりに出会う。  新たな出会いに恵まれた時、熱く湧き上がるのは温泉だけではなくて――  温泉街ガールズラブストーリー、開幕です!

光の花と影の星

楠富 つかさ
青春
乙女達の通う花園、星花女子学園……だがそこは、ゆかしくも清らかな少女のみが過ごす華やかな学園ではない。のっぴきならない事情を抱え、時には道を違う少女もいる。 星花女子プロジェクト番外、少しアングラで少し寂しいお話です。

百合色雪月花は星空の下に

楠富 つかさ
青春
 友達少ない系女子の星野ゆきは高校二年生に進級したものの、クラスに仲のいい子がほとんどいない状況に陥っていた。そんなゆきが人気の少ない場所でお昼を食べようとすると、そこには先客が。ひょんなことから出会った地味っ子と家庭的なギャルが送る青春百合恋愛ストーリー、開幕!

雪と桜のその間

楠富 つかさ
青春
 地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。 主人公、佐伯雪絵は美術部の部長を務める高校3年生。恋をするにはもう遅い、そんなことを考えつつ来る文化祭や受験に向けて日々を過ごしていた。そんな彼女に、思いを寄せる後輩の姿が……?  真面目な先輩と無邪気な後輩が織りなす美術部ガールズラブストーリー、開幕です! 第12回恋愛小説大賞にエントリーしました。

実る果実に百合を添えて

楠富 つかさ
恋愛
私、佐野いちごが入学した女子校には生徒が思い思いのメンバーを集めてお茶会をする文化があって、私が誘われた”果実会”はフルーツに縁のある名前の人が集まっている。 そんな果実会にはあるジンクスがあって……それは”いちご”の名前を持つ生徒と付き合えば幸せになれる!? 待って、私、女の子と付き合うの!?

夜空に咲くは百合の花

楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。 親友と恋人になって一年、高校二年生になった私たちは先輩達を見送り後輩達を指導する激動の一年を迎えた。 忙しいけど彼女と一緒なら大丈夫、あまあまでラブラブな生徒会での日常系百合色ストーリー

処理中です...