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第12話 星花祭デート
しおりを挟む 美海と付き合うようになって数日。星花女子学園は一年に一度の文化祭、星花祭を迎えていた。美海と付き合うことはまだ恵に伝えていない。彼女の恋路が成就してからでいい、私はそう思っている。妹や後輩にもまだ伝えていない。知ってるのは、叶美と紅葉ちゃんとかおりちゃんくらい。……赤石さんも知ってるだろうなぁ。
「恵玲奈、行くわよ」
でもきっと、今日の姿を見ればほとんどの人が私と美海が付き合ってるって分かるだろう。恋人つなぎにした手に少しだけ力を込めて、美海の温もりを味わう。
「人が多いと大変ね。恵玲奈、手を離しちゃダメだからね」
「分かってるって。私の方がお姉さんだもん。大丈夫」
星花祭では隣の市にある星花系列の大学、その付属小からも人がやってくる。だから校内発表と言えど人は多い。一般開放される明日はもっと人で賑わうことだろう。
「そうだ、美海はどこ行きたい? お姉さんが案内しちゃうよ」
「……そうね、人が多いところよりも静かな場所の方がいいわ」
そう言われるだろうと思って予めどこへ行こうか考えてあったのだよ。校舎2階は文化部の展示が多いからわりと静かなのだ。中等部も高等部も一年生は大がかりな展示をしないから人もそこまで多くない。美海のクラスも空の宮市の歴史について簡単にまとめたものを展示しているくらいだし。というわけで、各部の成果物を見て回る。美術部、書道部、写真部、華道部、手芸部といった部活が選択教室や会議室を使って展示を行っている。まぁ、すぐそばに生徒会室……今は星花祭実行委員本部があるから少し忙しいような印象はあるけれど。
「美術部は毎年大会議室を借りてるの。これ、かおりちゃんの絵だね。相変わらず独創的っていうか……人によって評価が大きく割れそうだよね」
かおりちゃんの絵は上手だと思うけどクセが強い。その辺がコンクールにも影響していて上位に入選はしないみたい。だから桜花寮にいるとも言えるんだけれど。
「あ、この猫……美海に少し似てるかも」
「……ん? どれ?」
かおりちゃんが描いた動物の絵や、他の部員が描いた様々な絵を見ながら大会議室を一周し廊下に出る。出口正面の小会議室は手芸部がアイドル研究会と合同で展示を行っている。服飾科の生徒が多い部活とはいえ、授業とは別にこれだけの作品を作っていると思うと凄い。そして彼女らが作ったアイドル衣装をばっちり着こなすアイ研の面々も凄い。おそらく彼女らも衣装作りには深く関わっているんだろうなぁ。まさしく一点物の似合いっぷりだ。
「美海はああいうの着ないの? 似合いそうだけど」
「あ、あぁいうのは恵玲奈の方が似合うわよ。可愛いし」
端から見ればイチャイチャしてるだけにしか聞こえないであろう会話をしながら、ぬいぐるみやフェルト細工といった展示品も見て小会議室を出る。その隣の選択教室Aには文芸部、イラスト部、漫研といった創作系の部活が一緒くたにされている。ニュースくらいでしか見たことないけど、コミケの一角のような空間だ。
「か、叶美。どう、イラスト集の売れ行きは」
叶美とはちょっと気まずくもなったけど、同じクラスで顔も会わせるし全部話してその後に祝って貰った。……百合えっちについてあれこれ聞いたら怒られたのはここだけの話。美海のことリードしてあげたいし……やっぱり私も年頃だし。
「イラスト集の売れ行きは順調そのもの。最近はやっぱり小学生も買ってくれるからね。他もそんな感じだと思うよ。そうでしょう赤石さん?」
「そうね、部誌の売り上げ良好ね。そちらはどうかしら、金髪のお嬢さん」
「? 売り上げは好調ね。Oh Elena そちらはGirlfriendですか?」
星花祭を抜きにしても創作系の部活は部室と活動内容の距離が近いため交流があるようで、話がするすると進んでいく。
「貴女……確か一組のノースフィールドさんよね? 私は三組の須川美海。恵玲奈の恋人よ。貴女が、あの本を書いたのよね。その……感謝しておかないと。ありがとう」
あの本、そっか。エヴァちゃんに貰って美海に渡したあのアンソロが、美海が気持ちを確信する理由の一つになったんだよね。あと、エヴァちゃんと美海って同い年なんだよね。新聞部として色んな生徒の色んな情報を見聞きしているうちに基本的なものを忘れちゃうこと、あるよね。そんなことを思っていると、
「美海、羽目を外しすぎないようにね」
「Elena もう寂しくないですか?」
「かなみちゃーん、くれはちゃんとこ行こ?」
「エヴァちゃんここにいたと? あ、須川さんだ」
「燐、一緒に回る約束をすっぽかして何してんのよ」
「騒がしくなってきたわね。恵玲奈、出るわよ」
繋いだままの手を引かれ、選択教室Aを出る。エヴァちゃんが少し、気になるようなことを言っていた気がするんだけど……。
「Bは写真部の展示よね。こっちは静かでありがたいわ」
去年の星花祭から今年の星花祭までの一年間で撮られた写真の展示が行われていた。そこで静かに盛り上がっていたのは……。
「恵玲奈、これは……?」
「今年からやる企画みたいだね……。や、やる?」
「……恥ずかしいけど、いいかもしれないわね」
「え、ほんと?」
教室の壁にでかでかと描かれたハート。周りを彩るは白百合の花。これ、写真部の中にいるガチの方の発案なんだろうなぁ。
「カップル撮影、されますか?」
眼鏡をかけた三年生の人にぐいぐいと勧められ、ハートの前に立つ私と美海。
「はい、じゃあ撮りますね。後輩ちゃん先輩にちゅーしちゃって、はい撮ったぁ!」
勢いに流されるように私のほっぺにキスをした美海に、思わず私も顔が赤くなる。
「撮った写真は後日お渡ししますのでこちらの番号札に名前をお願いします。……はい、確かに。こちらの半券を来週中に写真部部室までお持ちください」
……どうにもこの先輩、カメラを持つと性格が変わるらしい。そんな先輩に一礼して選択教室Bを出る。まだまだ一緒に行きたい場所はあるし、時間もゆっくりある。手を繋いで、焦らず回ろうと思うんだ。
「美海、楽しい?」
「もちろん。貴女と一緒だもの、恵玲奈」
そう言ってもらえれば私もガイド冥利に……ううん、彼女冥利に尽きるかな。
「えへへ、ありがと。まだまだ回ろうね!」
「恵玲奈、行くわよ」
でもきっと、今日の姿を見ればほとんどの人が私と美海が付き合ってるって分かるだろう。恋人つなぎにした手に少しだけ力を込めて、美海の温もりを味わう。
「人が多いと大変ね。恵玲奈、手を離しちゃダメだからね」
「分かってるって。私の方がお姉さんだもん。大丈夫」
星花祭では隣の市にある星花系列の大学、その付属小からも人がやってくる。だから校内発表と言えど人は多い。一般開放される明日はもっと人で賑わうことだろう。
「そうだ、美海はどこ行きたい? お姉さんが案内しちゃうよ」
「……そうね、人が多いところよりも静かな場所の方がいいわ」
そう言われるだろうと思って予めどこへ行こうか考えてあったのだよ。校舎2階は文化部の展示が多いからわりと静かなのだ。中等部も高等部も一年生は大がかりな展示をしないから人もそこまで多くない。美海のクラスも空の宮市の歴史について簡単にまとめたものを展示しているくらいだし。というわけで、各部の成果物を見て回る。美術部、書道部、写真部、華道部、手芸部といった部活が選択教室や会議室を使って展示を行っている。まぁ、すぐそばに生徒会室……今は星花祭実行委員本部があるから少し忙しいような印象はあるけれど。
「美術部は毎年大会議室を借りてるの。これ、かおりちゃんの絵だね。相変わらず独創的っていうか……人によって評価が大きく割れそうだよね」
かおりちゃんの絵は上手だと思うけどクセが強い。その辺がコンクールにも影響していて上位に入選はしないみたい。だから桜花寮にいるとも言えるんだけれど。
「あ、この猫……美海に少し似てるかも」
「……ん? どれ?」
かおりちゃんが描いた動物の絵や、他の部員が描いた様々な絵を見ながら大会議室を一周し廊下に出る。出口正面の小会議室は手芸部がアイドル研究会と合同で展示を行っている。服飾科の生徒が多い部活とはいえ、授業とは別にこれだけの作品を作っていると思うと凄い。そして彼女らが作ったアイドル衣装をばっちり着こなすアイ研の面々も凄い。おそらく彼女らも衣装作りには深く関わっているんだろうなぁ。まさしく一点物の似合いっぷりだ。
「美海はああいうの着ないの? 似合いそうだけど」
「あ、あぁいうのは恵玲奈の方が似合うわよ。可愛いし」
端から見ればイチャイチャしてるだけにしか聞こえないであろう会話をしながら、ぬいぐるみやフェルト細工といった展示品も見て小会議室を出る。その隣の選択教室Aには文芸部、イラスト部、漫研といった創作系の部活が一緒くたにされている。ニュースくらいでしか見たことないけど、コミケの一角のような空間だ。
「か、叶美。どう、イラスト集の売れ行きは」
叶美とはちょっと気まずくもなったけど、同じクラスで顔も会わせるし全部話してその後に祝って貰った。……百合えっちについてあれこれ聞いたら怒られたのはここだけの話。美海のことリードしてあげたいし……やっぱり私も年頃だし。
「イラスト集の売れ行きは順調そのもの。最近はやっぱり小学生も買ってくれるからね。他もそんな感じだと思うよ。そうでしょう赤石さん?」
「そうね、部誌の売り上げ良好ね。そちらはどうかしら、金髪のお嬢さん」
「? 売り上げは好調ね。Oh Elena そちらはGirlfriendですか?」
星花祭を抜きにしても創作系の部活は部室と活動内容の距離が近いため交流があるようで、話がするすると進んでいく。
「貴女……確か一組のノースフィールドさんよね? 私は三組の須川美海。恵玲奈の恋人よ。貴女が、あの本を書いたのよね。その……感謝しておかないと。ありがとう」
あの本、そっか。エヴァちゃんに貰って美海に渡したあのアンソロが、美海が気持ちを確信する理由の一つになったんだよね。あと、エヴァちゃんと美海って同い年なんだよね。新聞部として色んな生徒の色んな情報を見聞きしているうちに基本的なものを忘れちゃうこと、あるよね。そんなことを思っていると、
「美海、羽目を外しすぎないようにね」
「Elena もう寂しくないですか?」
「かなみちゃーん、くれはちゃんとこ行こ?」
「エヴァちゃんここにいたと? あ、須川さんだ」
「燐、一緒に回る約束をすっぽかして何してんのよ」
「騒がしくなってきたわね。恵玲奈、出るわよ」
繋いだままの手を引かれ、選択教室Aを出る。エヴァちゃんが少し、気になるようなことを言っていた気がするんだけど……。
「Bは写真部の展示よね。こっちは静かでありがたいわ」
去年の星花祭から今年の星花祭までの一年間で撮られた写真の展示が行われていた。そこで静かに盛り上がっていたのは……。
「恵玲奈、これは……?」
「今年からやる企画みたいだね……。や、やる?」
「……恥ずかしいけど、いいかもしれないわね」
「え、ほんと?」
教室の壁にでかでかと描かれたハート。周りを彩るは白百合の花。これ、写真部の中にいるガチの方の発案なんだろうなぁ。
「カップル撮影、されますか?」
眼鏡をかけた三年生の人にぐいぐいと勧められ、ハートの前に立つ私と美海。
「はい、じゃあ撮りますね。後輩ちゃん先輩にちゅーしちゃって、はい撮ったぁ!」
勢いに流されるように私のほっぺにキスをした美海に、思わず私も顔が赤くなる。
「撮った写真は後日お渡ししますのでこちらの番号札に名前をお願いします。……はい、確かに。こちらの半券を来週中に写真部部室までお持ちください」
……どうにもこの先輩、カメラを持つと性格が変わるらしい。そんな先輩に一礼して選択教室Bを出る。まだまだ一緒に行きたい場所はあるし、時間もゆっくりある。手を繋いで、焦らず回ろうと思うんだ。
「美海、楽しい?」
「もちろん。貴女と一緒だもの、恵玲奈」
そう言ってもらえれば私もガイド冥利に……ううん、彼女冥利に尽きるかな。
「えへへ、ありがと。まだまだ回ろうね!」
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