君の瞳のその奥に

楠富 つかさ

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幕間 美海の気持ち

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「やっぱりあの時の人……だったな。どうして、こんなに……」

西先輩が去ったあと、不意にそんな言葉が口をついた。なんだか胸の内がぽかぽかするような気がする。そもそも、なかなか人と話すことのない私は、このインタビューを最初は断ろうと思っていた。けれど、最初に取材申請に来た西先輩に見覚えてがあってついに引き受けてしまったのだ。恥ずかしいことに五年前の私は、部室棟となっている旧校舎で迷子になってしまった。それを助けてくれたのが西先輩だったのだ。

「やっぱりもっと……話したかった」

思い出したら恥ずかしくなってしまって、取材をせかすようなことを言ってしまったのは少し反省すべきかもしれない。でも、取材に入ってからの西先輩はとても話しやすく感じた。話したいことを巧く引き出してくれるような感覚で、あんなに話したというのに本当は全くと言っていいほど疲れはない。
恋愛について聞かれて、つい恥ずかしくなって疲れたなんて言ってしまったけれど、やっぱりもっと話したい。それに、この本……。女の子同士のキスばかりが描かれていて、表紙に書かれたタイトルには西先輩が取材で話していた、花の名前としての意味とは異なる意味での百合の文字が。
裏には漫研の判が押してあって、一番上に高等部一年、エヴァンジェリン・ノースフィールドと印字されている。同級生で、イギリスからの留学生、金髪で美しい彼女の噂を何度か耳にしているし、廊下ですれ違ったことも何度かある。日本の文化を非常に愛しているとも聞いたが、これが日本の文化なはずはない。
ただ、この少女同士のキスにえもいわれぬ昂揚を覚えたのも事実だ。身体が熱くなって、少しだけクラクラするような……。西先輩がいたから努めて冷静な態度をとってはいたけれど、変なことを口走ってはいなかっただろうか。少し不安になる。もし、もしもあの本に描かれている二人が、私と西先輩だったら……。

「えっ?」

どうして、そんなことを考えるんだろう。この気持ちは……いや、そんなはずない。だって、まだほんの数回しか会ったことないのに。でも……この感情は、私が小説や詩に籠めていた感情……。不意に西先輩の顔が脳裏をちらつき、取材の時に発した自分の声がリフレインする。

――一度相手を好きになってしまえば相手の年齢、性別、国籍、宗教……その他諸々、どうでもいいと感じるのではないかしら――

同性の先輩に一目惚れ、したのかしら。私が……?

「もしかしてこれが……恋、なのかしら」
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