君の瞳のその奥に

楠富 つかさ

文字の大きさ
上 下
3 / 15

第3話 インタビューと約束

しおりを挟む
「須川さんは今回入選した詩をどのように思い付いたのですか?」

頭を取材モードに切り換えて口調も丁寧にする。

「私は普段から詩を書いているのですが……今回の詩は先日読んだ小説に影響された部分もあるかしら。
……人の道、曖昧だけど必要不可欠なものを表現に込めるのが好きね」
最後、ほんの少しだけ笑みを浮かべて話してくれた彼女。写真を撮るスキルが私にあったら、今の瞬間は確実にシャッターチャンスだった。脳裏によぎった後悔を頭から追い出して取材を続ける。

「なるほど、奥深いテーマですね。今回の詩に影響した小説の作家さんとはどなたなのですか?」

文芸部と言えばこれまでにも何人か取材してきたけれど、本格的に小説を書いているという人は少なめで、どちらかと言えば彼女のように賞も多い詩や俳句・短歌といった韻文をメインにしている人ばかりだった。

「今回は少し暗いお話を読んだの。作家さんはたしか黒渕素実ね。普段は……若い男女の群像劇を読むことが多いかしら。恋愛には発展せず感情を深く掘り下げていくような感じで。影響された作家さんだと……そうね、横戸美智彦や松本洋太郎かしら。詩人であれば……大畑章雄や四倉三代も好きね」

……知らない名前だ。取材する上で幅広い知識が必要になるのね。小説も読もう、うん。作家さんの話しをする彼女は最初に感じた取っつきづらさは薄らいで、年相応の可愛らしい女の子に思えた。

「詩よりも世界が膨らんだ時は小説にするわ。普段読んでいる作品は恋愛未満な関係を描くことが多いから私は恋愛小説を書くようにしているわ」

須川さんの書く恋愛小説……どんな作風なのかしら。恋愛小説は書き手との距離感って人によるって以前聞いたことがあるからなぁ。

「では小説についても質問させてもらいますね。恋愛小説とのことですが、舞台はどちらですか?」
「……学校ですね。あの、私は詩をメインに書いているので小説の話は必要ないんじゃ……?」

あはは……言われてみればそうかも。でもまぁ、個人的にも気になるし。なんて理由は言わないけれど。

「取材するにあたって須川さんの詩は全て拝読しました。その中に少ないですがとても女の子らしい恋愛をテーマにした詩もありましたので、そちらに関しても気になるのですよ」
「上っ面っぽい理由ですね……。まぁいいですけど」

うぅん……鋭いなぁ。まぁ、聞かせてくれるみたいだからいいか。女の子だもんね、恋愛について知りたい語りたいってあるだろうし。

「須川さんは百合ってどう思います?」
「……はぁ? いきなり花の話ですか?」

なるほど。知らないんだ。まぁ……そういう人もいるよね。周りへの関心も高くなさそうだし……。美人さんだからなぁ。ファンクラブとかありそうなのに。ちなみに、叶美にもファンクラブがある。立ち上げたのは私だが。他にも生徒会元会長、元副会長、現会長、あと剣道部の太刀花さんや私のルームメイトの恵にもファンクラブが存在する。っと、ファンクラブのことはどうでもよくて。

「あぁえっと、花の話ではなくてですね、星花にいると女の子同士のカップルを目にすることが時折あるかと思いますが、そういう恋愛のあり方をどう思いますか? ということです」

私が説明を終えると須川さんは少しだけ考えてから口を開いた。

「私自身、恋愛経験はありませんので一般論のように聞こえそうですが、一度相手を好きになってしまえば相手の年齢、性別、国籍、宗教……その他諸々、どうでもいいと感じるのではないかしら」
「なかなか情熱的な考えですね」
「……そうかしら? もっとも私は、誰かに好かれるようなタイプには思えませんけどね。……ふぅ、もういいかしら? 人と話すのは不慣れなので疲れました」

どこかで言葉をしくじったかも……なんだか表情が暗くなってきちゃった。潮時だろうね。ここで引き下がっても相手にしてもらえなさそうだし。

「はい、取材協力ありがとうございました。夏休み明けに配布される増刊号にて記事が載りますので楽しみにしていてくださいね。では、お疲れ様でした」

そう言って私が部屋を立ち去ろうとすると……

「……西先輩」
「ん?」

須川さんに後ろから声をかけられた。

「……また、お話ししてくれますか?」
「もちろん。貴女が望むなら、ね。Adios」

須川美海、彼女をより深く知りたいと思ったのは新聞部あるいは放送部に所属しているからか……はたまた私自身が理由なのか。不思議な充足感を抱きながら私は菊花寮を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

実る果実に百合を添えて

楠富 つかさ
恋愛
私、佐野いちごが入学した女子校には生徒が思い思いのメンバーを集めてお茶会をする文化があって、私が誘われた”果実会”はフルーツに縁のある名前の人が集まっている。 そんな果実会にはあるジンクスがあって……それは”いちご”の名前を持つ生徒と付き合えば幸せになれる!? 待って、私、女の子と付き合うの!?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合色雪月花は星空の下に

楠富 つかさ
青春
 友達少ない系女子の星野ゆきは高校二年生に進級したものの、クラスに仲のいい子がほとんどいない状況に陥っていた。そんなゆきが人気の少ない場所でお昼を食べようとすると、そこには先客が。ひょんなことから出会った地味っ子と家庭的なギャルが送る青春百合恋愛ストーリー、開幕!

AV研は今日もハレンチ

楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo? AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて―― 薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

夜空に咲くは百合の花

楠富 つかさ
恋愛
地方都市、空の宮市に位置する中高一貫の女子校『星花女子学園』で繰り広げられる恋模様。 親友と恋人になって一年、高校二年生になった私たちは先輩達を見送り後輩達を指導する激動の一年を迎えた。 忙しいけど彼女と一緒なら大丈夫、あまあまでラブラブな生徒会での日常系百合色ストーリー

火花散る剣戟の少女達

楠富 つかさ
ファンタジー
異世界から侵略してくる魔獣たちと戦う少女たち、彼女らは今日も剣と異能で戦いに挑む。 魔獣を討伐する軍人を養成する学校に通う少女の恋と戦いのお話です。 この作品はノベルアップ+さんにも掲載しています。

星空の花壇 ~星花女子アンソロジー~

楠富 つかさ
恋愛
なろう、ハーメルン、アルファポリス等、投稿サイトの垣根を越えて展開している世界観共有百合作品企画『星花女子プロジェクト』の番外編短編集となります。 単体で読める作品を意識しておりますが、他作品を読むことによりますます楽しめるかと思います。

ゆりいろリレーション

楠富 つかさ
青春
 中学の女子剣道部で部長を務める三崎七瀬は男子よりも強く勇ましい少女。ある日、同じクラスの美少女、早乙女卯月から呼び出しを受ける。  てっきり彼女にしつこく迫る男子を懲らしめて欲しいと思っていた七瀬だったが、卯月から恋人のフリをしてほしいと頼まれる。悩んだ末にその頼みを受け入れる七瀬だが、次第に卯月への思い入れが強まり……。  二人の少女のフリだけどフリじゃない恋人生活が始まります!

処理中です...