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王国編
第5話 ファリアの家族
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さらに三日の時間をかけて、私たちはファリアの実家があるバクルムスの村までやってきた。穀倉地帯ということもあり、食糧は豊富そうだ。あちこちからパンを焼くような香ばしい匂いが漂ってくる。
「私の家はあれです。アポルスの樹が植わっているところ」
アポルスは秋口に真っ赤な果実をつける果樹だ。今の時期は白い小さな花を咲かせる。花から既に甘い香りがほのかに香っていた。バクルムスの村ではいくつかの家で果樹が育てられているようだ。
家の作りは基本的に木材と麦わら、それと土壁が多い。実家ということもあり、ノックもなしに扉を開ける。入って直ぐがリビングだろうか、やや広い空間になっている。そこから扉が三つ見える。階段はなく平屋だが、その分天井が高めで広々とした空間に見える。
「おぉ、帰ってきたか。で、そちらがルーンさんかい? 初めまして。ファリアの父でルームスといいます」
「遠いところよくぞ来てくださった。私はファリアの母でリセラといいます。自分の家だと思ってゆっくりしていってください」
ファリアの両親は思ったより若かった。ファリアが確か十五になるから、三十半ばくらいになると思っていたが、三十になったかならないかといったように見える。それに、ファリア以外に子供が三人いる。
長男で元気のいいマーカスと次女で人見知り気味なラフィと次男でまだ幼いブランクだ。三人は久しぶりの再会となったファリアにべったりで、ファリアも私と二人きりの時に見せない慈愛に満ちた表情を浮かべている。
「ルーンさんはファリアの同僚で、行く当てがなくってうちに来たんだろう?」
「あ、ルーンでいいです。仕事で失態を……それで、えぇ」
「あら、聖女さまも厳しいところがあるのね。よくファリアは今までお勤めを全うできたわね」
私はご両親に巧い具合に話を合わせつつ、一応は自分の印象を悪くしないように仕事のミスで怒ったのは主人である聖女ではなく、執事のトップということにしつつ、ファリアは私を庇ったせいで一緒に暇を出されたという感じに話を進めた。
「なるほどね。メイドさんだったわけだし、ある程度の家事はまかせても大丈夫なのよね?」
……しまった。普通はそうなるよね。聖女の私には炊事も洗濯も一切できない。とはいえ、今の私はセレーナではなくルーン。ちょっと口ごもるが誤魔化すにも限界がある。
「ルーンは仕事が出来なくて暇を出されたんだから、期待しちゃだめだよ母さん」
実際に出来ないのだから、ここでファリアに言い返すのはおかしい。だからといって言われっぱなしというのもモヤモヤする。
「あぁ、じゃああの子たちの面倒を見てはくれないかい? そうしてくれるだけで、あたしが動ける時間が増えるからさ」
そう言ったリセラさんの視線の先には三人の子供達。なるほど、十歳、六歳、三歳くらいに見えるあの三人を構っていたら、家事は遅々として進まないだろう。子供の面倒を見た経験もないが、とにかくあの三人と打ち解けるところから始めればいいのだろう。
「えっと、よろしくね」
「ルーンだよな。よろしく。姉ちゃんより年下なのか? 平べったいけど」
……早速、マーカスが私に言ってはならないことを言い放ってしまった。
「私!! 十八だから!! 大人なの!!」
聖女だったし、平民よりよっぽどきちんとした食事を摂っていたはずなのに、こればかりは血筋なのだろうか。胸が小さい。ずっと気にしていた……。正直、ファリアだって抜群に大きいわけじゃないけど、確かに膨らんでいる。私よりよっぽど……ある。
「あー悪かったな。元気出せよ」
……マーカスは悪いやつじゃない。取り敢えずそれは分かった。が、私の田舎暮らしの幸先はあまり良いとは言い難かった。
「私の家はあれです。アポルスの樹が植わっているところ」
アポルスは秋口に真っ赤な果実をつける果樹だ。今の時期は白い小さな花を咲かせる。花から既に甘い香りがほのかに香っていた。バクルムスの村ではいくつかの家で果樹が育てられているようだ。
家の作りは基本的に木材と麦わら、それと土壁が多い。実家ということもあり、ノックもなしに扉を開ける。入って直ぐがリビングだろうか、やや広い空間になっている。そこから扉が三つ見える。階段はなく平屋だが、その分天井が高めで広々とした空間に見える。
「おぉ、帰ってきたか。で、そちらがルーンさんかい? 初めまして。ファリアの父でルームスといいます」
「遠いところよくぞ来てくださった。私はファリアの母でリセラといいます。自分の家だと思ってゆっくりしていってください」
ファリアの両親は思ったより若かった。ファリアが確か十五になるから、三十半ばくらいになると思っていたが、三十になったかならないかといったように見える。それに、ファリア以外に子供が三人いる。
長男で元気のいいマーカスと次女で人見知り気味なラフィと次男でまだ幼いブランクだ。三人は久しぶりの再会となったファリアにべったりで、ファリアも私と二人きりの時に見せない慈愛に満ちた表情を浮かべている。
「ルーンさんはファリアの同僚で、行く当てがなくってうちに来たんだろう?」
「あ、ルーンでいいです。仕事で失態を……それで、えぇ」
「あら、聖女さまも厳しいところがあるのね。よくファリアは今までお勤めを全うできたわね」
私はご両親に巧い具合に話を合わせつつ、一応は自分の印象を悪くしないように仕事のミスで怒ったのは主人である聖女ではなく、執事のトップということにしつつ、ファリアは私を庇ったせいで一緒に暇を出されたという感じに話を進めた。
「なるほどね。メイドさんだったわけだし、ある程度の家事はまかせても大丈夫なのよね?」
……しまった。普通はそうなるよね。聖女の私には炊事も洗濯も一切できない。とはいえ、今の私はセレーナではなくルーン。ちょっと口ごもるが誤魔化すにも限界がある。
「ルーンは仕事が出来なくて暇を出されたんだから、期待しちゃだめだよ母さん」
実際に出来ないのだから、ここでファリアに言い返すのはおかしい。だからといって言われっぱなしというのもモヤモヤする。
「あぁ、じゃああの子たちの面倒を見てはくれないかい? そうしてくれるだけで、あたしが動ける時間が増えるからさ」
そう言ったリセラさんの視線の先には三人の子供達。なるほど、十歳、六歳、三歳くらいに見えるあの三人を構っていたら、家事は遅々として進まないだろう。子供の面倒を見た経験もないが、とにかくあの三人と打ち解けるところから始めればいいのだろう。
「えっと、よろしくね」
「ルーンだよな。よろしく。姉ちゃんより年下なのか? 平べったいけど」
……早速、マーカスが私に言ってはならないことを言い放ってしまった。
「私!! 十八だから!! 大人なの!!」
聖女だったし、平民よりよっぽどきちんとした食事を摂っていたはずなのに、こればかりは血筋なのだろうか。胸が小さい。ずっと気にしていた……。正直、ファリアだって抜群に大きいわけじゃないけど、確かに膨らんでいる。私よりよっぽど……ある。
「あー悪かったな。元気出せよ」
……マーカスは悪いやつじゃない。取り敢えずそれは分かった。が、私の田舎暮らしの幸先はあまり良いとは言い難かった。
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