上 下
172 / 192

外伝45話 利己でも利他でも

しおりを挟む

「ケイン、この手を掴んでください」

「ルーナさん、一体どこに……」

「来れば分かります」

「じゃあ……」

ケインは言われるがままに手を掴んだ。
すると、先程とは違い物凄い勢いで空間が歪み始め、来た時と同じ様な空間に移動していた。

「察してはいると思いますが、これから行くのはシムの所……命の保証は当然ありません」

「もうその件に関しては覚悟したよ。命が惜しくない訳じゃないけど、今は戦わなきゃいけないしね」

「いえ、そうでは無く。シムの『即死』のスキルが貴方に効かないとは限らないという事です。それ以前の問題として、向こうに着いた瞬間に我々の気配を察知したシムが即座に殺しに来て成す術なく死ぬ可能性もゼロではありません」

「………」

「ビビりました?」

「そりゃそうだろ」

「ケイン、貴方は意外と普通ですね」

「そうか?自分で言うのも何だが、まあまあ戦闘マニアだぞ僕は」

「そうですね。ですが、それだけです。あの勇者エルナやクリフの様な特殊な物は何ひとつ持っていない」

「それは……」

「強さ……だけ。貴方には確かに力があります。しかし、そんなものは彼の方の前では有ろうが無かろうが関係無いのです」


「随分なこと言ってくれますね」

「事実です」

「ルーナさん……貴方」

「でもね、ケイン。そんな貴方に私はシンパシーを感じた。私も力しかない普通の人ですからね」

「ルーナさん……」

「私は、このオリジナルスキルで沢山彼の方に迷惑をかけた。彼の方だけでなく、その途中で犠牲になった人も山の様にいた。ケイン、貴方もそのうちの1人です。ですが、そうまでして生き抜いた私は、特別な力を抜いたら、特別な物は何一つなくなる」

否定は出来ない。
ルーナさんのせいで惑星ジムダが作られた訳だが、その事を今は恨んでいない。
エルナの言う通り、彼女のきっかけがなければ僕達は初めから存在しないことになっていた。

だが、それと罪の話は別である。

それに、話していて思ったが、確かにルーナは悪く言うと神鈴木の腰巾着だ。
彼の為に役に立ちたいと思い、行動してそれが空回りもしている。

彼女からオリジナルスキルを奪ったら残るのは鈴木への思いだけだろう。

だが、それがどうした?

僕もルーナと同じで、オリジナルスキルを無くしたら残るのは戦闘マニアな所だけだ。

それすら、惑星ジムダでは生き残る為に必要な物で、僕特有な物ではない。

それでもエルナが一緒にいてくれたのは……

「タイミング……でしょう」

「タイミング?」

「結局、ルーナさん自身は特別でも無ければ鈴木のオリジナルな存在でも無い。そんな彼が貴方の事を他を犠牲にしてでも救いたいと思ったのは、一番初めに貴方が鈴木のと仲良くなったからでしょう。エルナも一緒です。もし僕の方が先に鈴木と会っていたら……もしルーナの方がエルナと先に会っていたら……」

「まあ、人間関係なんて意外とそんな物ではありますが。私達のような関係はそんな単純では……」

「分かってないですね。寧ろ神鈴木は人間らしさが一番欲していたように見えましたよ?」

「そうですか?私にはそんな感じには見えなかったですが」

「僕達はどっちも平凡です。でも、特別な存在は初めに出会えた特別を理解してくれる平凡が案外運命だと勘違いする物ですよ。特別故にね」

しかし、ルーナはまだ少し納得がいかないようである。

「私は……彼の方の大好きな人間らしさすら持ち合わせていません。半端な力を手にしてしまった代償か、あなた方の様な感情も、悩みも、選択も無いのです」

「……ルーナさん、トロッコ問題って知ってますか?1人の善人を助けるか、5人の悪人を助けるかみたいなやつ」

「ええ、勿論」

「もし僕が自分を犠牲に全人類を救える事になったら、僕は自身を犠牲にします。でも、エルナを犠牲に全人類を救える事になっても、僕はエルナを優先しますよ。貴方はどうしますか?」

「私は……彼の方を救います」

「でも、ルーナさんはここで全人類の方を選べる冷静沈着な人が神鈴木のそばにいるべきだと思うんでしょ?」

「はい」

「けどそれって本当に正解ですか?神鈴木さえ大切な人さえ生きていれば良いという利己的な人も、少数より多数という利他的な人も、どっちもどっちも人の命を選べるという意味ではクレイジーじゃないですか。きっと神鈴木はそういう色んな人間のらしさが好きなんですよ。一番ダメなのはきっと選ばない事。そういう意味ではルーナさんは寧ろ一番鈴木に好かれそうじゃないですか」

「……?何故です?」

「だって、利己か、利他か、悩んで選択できるのは一番人間らしいところでしょう?」

その言葉でルーナはようやく少しだけ微笑んだ様に見えた……

気のせいかもしれないが。

「そう……ですね。改めてよろしくお願いしますケイン」

「はい、よろしく」

僕とルーナさんはより一層強く手を握った。

彼女を励ましたのは僕もシンパシーを感じたからだ。
僕も前に少しエルナに対して似た様な事を考えた事がある。
強さは僕が上でもその思想や姿勢は?

でもすぐに考えるのをやめた。

だって僕にとっても彼女にとっても互いが大事な親友である事には変わりないから。

そんな経験もあってルーナを励ました訳だが、理由は別にもう一つある。
それは……

「あーあ……僕も鈴木より先にルーナさんと会っておきたかったですよ」

と、冗談混じりに言う。
しかし、ルーナはきょとんとした顔で聞き返してきた。

「……?何故ですか?」

「……神鈴木も苦労してそうだなこれは」




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

聖女の姉が行方不明になりました

蓮沼ナノ
ファンタジー
8年前、姉が聖女の力に目覚め無理矢理王宮に連れて行かれた。取り残された家族は泣きながらも姉の幸せを願っていたが、8年後、王宮から姉が行方不明になったと聞かされる。妹のバリーは姉を探しに王都へと向かうが、王宮では元平民の姉は虐げられていたようで…聖女になった姉と田舎に残された家族の話し。

処理中です...