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第百十七話 魔王の過去1

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~遡ること5年前~

適性の儀を明日に控えた男爵家の三男ガルドは心躍らせていた。
自分のスキル適性値は幾つだろうか?
オリジナルスキルはどんなだろうか?
なんにせよ、自分の将来が決まる適性の儀を今か今かと待ち続けていたのだ。
スキル適性値はB、これなら騎士としても冒険者としても成功できるだろう。
オリジナルスキルが戦闘系だったら、将来は明るいぞ……
そう思っていたのに、俺に告げられたオリジナルスキルは予想外のものだった。
『魔王』
勇者と対をなすスキルだ。
今まで魔王というのは魔物の中から突然出てくる者だと思っていたが、スキルを手に入れて初めて理解した。

「今までの魔王も、今の魔王も、これからの魔王も……全て人間のオリジナルスキルから生まれたんだ……」

鑑定結果に驚いている神父を本能的に殺した。
今自分の正体が世に知られるのは不味いと思ったからだ。
殺した神父の肉体を魔王になって使えるようになった死体操作で操り、ガルドのスキルについて口裏を合わさせる。
その夜、ガルドは父に報告した。自分のスキルについて……

「父上、俺のスキルは『豪運』でした。運のステータスが上がるようです」

「ふん…そんな事はどうでも良い。適性値はどうだったのだ!Aならばお前は伝説の騎士になれるぞ!」

ガルドの父は昔騎士になりたかった。
しかし、彼にその才能はなく、息子にその夢を託そうとしたのだ。
Bならば数いる才能のある者の1人でしか無い。
しかし、Aは別格だ。
今まで適性値Aをもって成功しなかった者などいないのだから……
この時代の覇者となる事をガルドの父は夢見ていたのだ。

「俺はBでした」

「……チッ、ならお前はもういい。あと3年したら弟のオトカリトが適性の儀をする。それでもしオトカリトが適性値Aだったらお前は出て行け」

「……はい」

ガルドは12歳にして世の中の理不尽を知る。
と同時に全てがどうでも良くなった。
隙を見せた父を神父と同じように殺して操る。
後に明らかになるのだが、ガルドは『魔王』のスキルを手に入れた瞬間、強力な炎、精神干渉、魔法と剣の融合、が使えるようになった。
彼はこの力に支配される。

「人類を殺せ……世界の支配者となれ」

ガルドは呪われたスキルによって人類の滅亡を強制されるのだった……

その後、世界を支配する為にはどうすべきか考える。
御伽噺の魔王はいつも勇者によって殺されている。
ならば自分もそうならないようにするには勇者を殺すべきだ。
だが、『魔王』のスキルの効果は複数あり、そのうちの一つが成長補正。
初めから圧倒的な力を持たされるが、成長力もまた人並み外れる。
これを考えると、このスキルは成長してはじめて勇者と張り合えるというわけだ。
勇者エルナは既に王都の騎士団に保護されて最高レベルの教育を受けながら鍛えている筈だ。なにより、王都には雷帝オルトメキナと炎帝エルファトクレスがいるから、下手に乗り込んでも捕まって終わりだ。
それなら物語のようにオーソドックスに人類を倒してやろう……
ガルドは旅に出た。
魔王として魔物の部下を作る為に……
そして、自分自身の強化のために……
暫くして、新たに部下を作ることができる『魔物創造』を獲得する。
このスキルは込めた魔力によって魔物を生み出すことが出来るスキルだ。これで手始めに4体の強力な魔物を作った。そして、彼等に強力な能力を付与していく……
魔王の力の一つに『能力付与』があり、自分のスキルや技、性質を他者に貸し出すことが出来るのだ。
それが後の四天王となる炎孤のクーデル、マニピュレイターのテクスト、魔剣王のヴィクター、先程戦ったサキュバスのラントルであった。
余談だが、ネドリアだけは野生で生きていたダークゴブリンの進化であるのでガルドから生み出されたわけでは無かったのだ。
ネドリアはラントルを倒して成り上がったのである。
その為、正確にはネドリアの技は使えず糸操作は見様見真似で、糸に魔力を込めて無理やり動かしている。ネドリアの様に糸ならなんでも動かせるわけでもないし、スムーズにも動かない。
それでもケインの前では使っていたのは単なるハッタリだった……
少しでもケインに無意味な警戒をさせる為にである。
こうして彼等は創造主であるガルドに従い、各地の魔物を従えていく……
出来上がったのが魔王軍。
ガルドはものの1年でここまできたのだ。

しかし、この程度の事は今までの魔王もやってきた。これではダメだ、このままでは殺される。
魔王軍を作った後にガルドが先ずしたのは情報収集であった。
いずれ自分の宿敵になるであろう勇者は早めに倒しておかねばなるまい。
そこで、来年15歳になるガルドは勇者が入学予定のエルディナ学園に入ることにした。
来年は学園で情報収集するつもりだったのだが、その時衝撃の報告がされる。

「四天王のテクスト様がやられました」

これは意外なことだった。
正直四天王は勇者が倒すだろうと思っていたのだが、もう倒せる者がいるとは……
しかも報告によると討伐した人間は俺より一つ下でエルディナ学園に入学希望だというのだ。
俄然学園に入学したくなった。





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