上 下
17 / 50
第一章:自罰的な臆病者

第十六話 迷宮攻略②

しおりを挟む
 続く第三階層。
 階段を駆け下りてきた先にあったのは古びた闘技場だった。
 明らかに先ほどまでの階層とは異なる雰囲気に空気が張り詰める。

「トラップがあるようには見えませんが一応警戒を。おそらくこの階が最後。迷宮の主がいるはずです」

「了解」

 恵ちゃんの忠告を受けて俺たちはより慎重に奥へと進んでいく。
 ――と。

「よくぞ参った人の子よ」

「っ!?」

 こちらが驚く暇もないままに声の主は姿を現す。

「儂はこの迷宮の主、ジャストラーデ。この迷宮の管理を任された者だ。いくつもの罠を乗り越えここまで来た勇気、褒めてやろう」

 そいつ、ジャストラーデはなんというか……でかいカブトムシだった。
 3メートルはありそうな巨体とそれを覆いつくす漆黒の外骨格。
 頭部からは特徴的なツノが真っすぐと伸びており、六本もある足を使って上手く直立している。
 感じる魔力も今までの魔物の比ではない。
 ……ってちょっと待って。

「ま、魔物がしゃべってる?」

「こら小僧! 誰が魔物だ!」 

「え?」

「儂は精霊。ちんけな魔物なんぞと一緒にするでない!」

「す、すみません」

 やべっ。
 いきなり地雷を踏み抜いた。
 怒らせるのは本意ではなかったので俺は深々と頭を下げる。
 すると頭上から落ち着いた声が降ってきた。

「まぁいい。数百年ぶりの客人だ。多少の粗相は見逃そう。次はないぞ?」

「気を付けます」

 ふぅ……良かった。
 堅物そうな雰囲気を漂わせてはいるが、本人は温厚みたいだ。
 にしてもまさか迷宮の主と意思疎通が出来るとは思いもしなかった。
 今までに発見された迷宮では迷宮の主は誰もが魔物で、攻略者を見るなり襲ってきたと伝え聞く。
 そういったことからもこの迷宮は他の迷宮とは違っていることがわかる。
 ……俺くんも気を引き締めないと。

「ところでおぬしたち、この迷宮の宝物庫に眠る時空石を求めてきたのだろう?」

「……なぜそれがわかった?」

 質問に質問で返す正幸くんにジャストラーデはあっさりと答える。

「この迷宮に挑む目的を考えればそれしかなかろう。しかしておぬしたちは何のために時空石を望む?」

「そんなの決まってるわ。元の世界に帰るためよ」

「元の世界? するとおぬしらはこの世界の住人ではないかのか?」

「はい。私たちは他の世界から転移して来たんです。少し長くなりますが聞いてください」

 丁寧な前置きをしてから恵ちゃんは語り出した。
 2年前に国中を巻き込む内乱が起きたこと。
 その際に悪用を防ぐため、国中の時空石を破壊してしまったこと。
 時空石がないせいで元の世界に帰れないこと。
 ここに至るまでの事情を聞き終えると、ジャストラーデは顎に手を当てた。

「ふむ……まさか外がそんなことになっていたとはな」

「信じて貰えるんですか?」

「ああ、儂の眼は虚偽を許さぬ正義の眼。おぬしらが嘘をついていたのならすぐにわかるのじゃ。しかし話を聞く限りおぬしらはこの迷宮については時空石があるかもしれないということ以外は知らないのじゃな」

「そうですね。アキトくん、今の王様からは時空石がある可能性が高い迷宮としか……」

「やはりそうか。おぬしらは知らなかったと思うが、この迷宮は攻略する必要などないのじゃぞ?」

「え?」

「この迷宮は国に何かが起った時のための保険として建てられた、言うなれば国の第二の宝物庫なんじゃ。儂の役目はあくまでも賊からこの迷宮の宝を守り、そして王家の血筋の者が訪れた際には彼らは宝物庫に案内すること。おぬしらではなく王家の血筋の者が来ていればすぐにでも案内しておろう。とはいえおぬしらが知らなかったということはおそらく当代の王も知らないんじゃろうな」

 何か思い当たる節があるのか考え込むジャストラーデ。
 やがて結論が出たのか、ジャストラーデはようやく重い口を開いた。

「……よし決めた。おぬしらを宝物庫に案内しよう」

「良いんですか!?」

「ああ、本来なら王家の血筋の者だけを案内する決まりになっておるが、事態が事態だけに特例として認めよう。ただし一つ条件がある」

「………条件ですか」

「そう身構えるでない。儂も外の情勢が気になるのでな。時空石を持ち帰るおぬしらに同行させてもらう。儂からの要求はそれだけよ。本来ならば許されぬ迷宮の宝を儂の監視がつくことで持ち出せるのじゃ。おぬしらにとっても悪くない提案じゃろ?」

「そうっすね。俺くんは賛成ですよ」

「私も異論はないわ」

「私も先輩方に同じです!」

「……………」

「決まりじゃな。ついてこい!」

 言われるがまま俺たちは、闘技場の奥にある祭壇まで移動した。
 ジャストラーデが祭壇にあるレバーを押すと、階段が現れる。
 その階段を下っていくと、開けた空間に出た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

無尽蔵の魔力で世界を救います~現実世界からやって来た俺は神より魔力が多いらしい~

甲賀流
ファンタジー
なんの特徴もない高校生の高橋 春陽はある時、異世界への繋がるダンジョンに迷い込んだ。なんだ……空気中に星屑みたいなのがキラキラしてるけど?これが全て魔力だって? そしてダンジョンを突破した先には広大な異世界があり、この世界全ての魔力を行使して神や魔族に挑んでいく。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

処理中です...