死神はそこに立っている

阿々 亜

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第38話 約束

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 そこは、どこかの神社の境内だった。
 栄一郎は気がつくとそこに立っていた。
 栄一郎は思った。

 ああ、これは夢だな……
 自分で夢って自覚してるから、明晰夢ってやつだな……

 栄一郎は周りを見回した。
 拝殿の脇に見覚えのある少年と少女がいた。

「エイイチロウ、今日の作文の宿題、何書くか、もう決めた?」

「まだだよ。『将来の夢』なんて言われても、そんなのないよ」

 栄一郎は二人に近付いて行くが、彼らには栄一郎の姿は見えていないようだった。

「私はもう決めてるよ」

「トモエは将来何になるの?」

「私はね、お医者さんになるの」

 え……

 栄一郎は少女のその発言に驚いた。

「お医者さんになって、病気の人をたくさん助けるの」

「そうなんだ……」

 少女の話を聞いて、少年は少し考えこんだ。

「じゃあ……僕もお医者さんになる」

 なっ……

 栄一郎は少年の発言にさらに驚いた。

「トモエがお医者さんになるんだったら、僕も一緒にお医者さんになるよ」

「じゃあ、もし、二人ともお医者さんになれたら、一緒に困ってる人を助けようよ」

「うん、わかった」

「約束だよ……」

 栄一郎は静かに目を開けた。
 白い天井が見える。
 栄一郎はむくりと体を起こした。
 そこは、消化器外科医局のソファだった。
 窓から朝の光が入ってきている。

 手術が終わり、栄一郎は沙耶香をICUに移送したあと、そのまま病院に泊まったのだ。

「そっか……」

 栄一郎は先程みた夢を反芻する。
 栄一郎はずっと自分がなんで医者になったのかよくわからないでいた。
 何かそうしなければならないという思いにかられ、医学部に入り、医学の勉強をして、気が付くと、今の場所にいたのだ。

「俺は、ここにいるべくして、ここにいるんだな……」


『私はね、お医者さんになるの』

『お医者さんになって、病気の人をたくさん助けるの』


 亡き親友の叶わなかった夢を、代わりに叶えるために……


『トモエがお医者さんになるんだったら、僕も一緒にお医者さんになるよ』

『じゃあ、もし、二人ともお医者さんになれたら、一緒に困ってる人を助けようよ』


 亡き親友との約束を果たすために……

 栄一郎立ち上がり、時計を見た。

 7:30……

 周りを見回すと、外科の医局員たちが、すでに出勤してきている。栄一郎は医局を出て、ICUに向かった。


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