死神はそこに立っている

阿々 亜

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第30話 手術室

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 CTではやはり虫垂は穿孔していた。
 栄一郎と山本は全身管理に努め、ひたすら搬入の時刻を待った。
 その間、到着した沙耶香の母親に山本が状況を説明し、改めて手術の同意を得た。
 そして、搬入時刻がきた。
 時刻は18時30分を回っていた。
 前の手術がおしたのだ。
 想定よりもさらに30分の遅れで栄一郎は焦っていた。
 が、もはや流れに身を任せるしかなかった。
 栄一郎と山本は術衣に着替え、手術室に入った。
 少し遅れて沙耶香を乗せたベッドが到着した。

「痛みは大丈夫か?」

 栄一郎が沙耶香にそう話かけた。

「うん、全く痛くないわけじゃないけど、痛み止めの点滴が入ってからだいぶ楽だよ」

 沙耶香は笑顔でそう答えた。
 ベッドは手術台の真横につけられた。

「一条さん、ご自分でこちらの台の上に移れますか?動くのが難しければ、数人で持ち上げて移します」

 手術台の頭側に立っていた女性の麻酔科医が沙耶香にそう声をかけた。
 彼女が電話で山本とやり合っていた山本の同期の麻酔科医、岸野である。

「大丈夫です。自分で移れます」

 沙耶香はそう言って、手術台の上に移った。
 岸野と岸野の下についている橋本が準備しておいたシリンジポンプを点滴に繋いでいく。

「腰麻は?」

 山本が岸野に尋ねる。

「1分でも早くって言ったのはあんたでしょ。スピード重視で、静脈麻酔のみでいくわ」

 岸野はうっとおしそうにそう答えた。

「一条さん、今から麻酔を開始します。まず最初に麻酔用の鎮痛剤から開始します」

 岸野は沙耶香にそう告げたあと、シリンジポンプの傍らに立つ橋本に指示を出した。

「橋本君、レミフェンタニル開始。時間16」

「はい、レミフェンタニル、時間16、開始します」

 橋本は薬剤の流量を設定し、開始ボタンを押した。

「一条さん、次に鎮静剤が始まります。だんだん眠くなってくるので、目を閉じてリラックスしていて下さい」

 岸野はそう言って、麻酔器に繋がった酸素マスクを沙耶香の口元にあて、橋本に指示を出した。

「プロポフォール開始、時間55」

「プロポフォール、時間55、開始しました」

 沙耶香は眠気を感じ、最後に栄一郎の方を見てこう言った。

「間、頼んだわよ」

「ああ、わかってるよ」

 そんなやりとりを交わしたあと、沙耶香は目を閉じ、眠りについた。
 静かに沙耶香の眠りを見守る栄一郎の後で、術者は俺なんだけどな、と山本が不満そうな顔をしていた。


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