死神はそこに立っている

阿々 亜

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第27話 急変

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「君の処分についてだが……」

 川崎病棟医長にかわって、清水医局長が口を開いた。

「君が初期研修医である以上、君の本質的な所属は臨床研修センターだ。この場の事実確認のあと、センター長に報告し、処分を協議する」

 臨床研修センターとは、初期臨床研修を行っている大学病院にはほぼ全て設置されている組織であり、研修プログラムの運営と研修医の管理を一括して行っている部門である。
 初期研修医は各診療科をローテートで回っているが、特定の診療科に所属しているわけではないため、清水医局長の言う通り研修医の本質的な所属は臨床研修センターなのだ。

「間君、最終確認だ。君は一条さんにこのままだと死ぬと言った。その事実に間違いはないね?」

 清水医局長は検察官の如く、栄一郎に最後の確認を行った。

「はい……間違いありません……」

 栄一郎はそう言って静かに首を縦にふった。

「間先生……」

 そこで、ずっと黙っていた吉田教授が口を開いた。

「昔の研修医は、医者の中で最も身分の低い存在であり、それゆえ、下働きとして安い賃金で過剰な労働を強いられていました。不幸なことに、過労死や自殺なんてこともありました。時代は変わり、徐々に過ちに気づいた我々は考えを改めました。今日、あなた方研修医という存在は、我々にとって、国から指導を任せられた大事な大事なお客さんなのです」

 吉田教授はにこやかにゆっくりと話を続ける。

「しかし、そのお客さんが家主の預かり知らぬところで、台所に入り込み、あろことかガスコンロで火遊びをしている。となったら、その家の家主はいったいどう思うでしょうねぇ?」

 吉田教授は微笑みを崩していないが、その目には怒りが満ち満ちていた。
 栄一郎は絶望した。
 自分の立場のことではない。
 沙耶香の手術を今日に前倒しする方法を思いつかずすでに手詰まりだったところに、この一件で栄一郎の発言権は皆無になってしまった。
 下手をするとこのまま謹慎処分ということで、病院からつまみ出されてしまうかもしれない。そうなれば、沙耶香の死に何も手を出せなくなってしまう。
 栄一郎が逡巡している間、その場の全員が重い空気で沈黙していた。
 その沈黙を切り裂くように山本の院内PHSが鳴った。

「失礼」

 山本は一言謝って、電話に出た。

「山本です。え……わかりました。すぐ行きます」

 山本は短くそう言って電話を切り、そして全員にこう告げた。

「一条さんが急変しました……」


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