死神はそこに立っている

阿々 亜

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第25話 手術予定

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 沙耶香と別れてから2時間後、栄一郎は外科病棟のスタッフステーションで、電子カルテに向かい通常業務をこなしていた。
 きりのいいところで、栄一郎はスタッフステーションの壁掛け時計を見た。

 15時……
 あと5時間弱か……

 栄一郎は焦っていた。
 沙耶香と別れてから山本が忙しくて会えていないこともあり、沙耶香の治療方針がどうなったのか全くわからないのだ。

「お疲れ」

 そんな言葉とともに栄一郎の隣に同期の橋本が座った。

「お前の彼女、結局手術することになったみたいだな」

「本当か?」

 意外な人物から求めていた情報がもたらされ、栄一郎は驚いて問い返した。

「手術が決まったものの、急だからな。手が空いている俺が術前回診に回されたんだ」

「そうか……」

 栄一郎は手術が確定したことに安堵した。

「おかげで、こっちはバタバタだよ。お前の指導医と俺の指導医がいつ手術やるかで揉めてさ。結局、明日の午前にやることになったんだけど」

「え……今なんて?」

 栄一郎は耳を疑って、聞き返した。

「いや、だから、明日の午前手術だって」

「明日の午前……」

 栄一郎は愕然とした。
 沙耶香の死神のカウンターが0になるのは、おそらく今日の19:25頃だ。
 明日の午前では間に合わない。

「えーっと、あとは心電図……」

 愕然とする栄一郎をよそに、橋本は術前回診の手順を進めていた。

「すみません、一条沙耶香さんの心電図の原本どこにありますか?」

 橋本は立ち上がり、近くにいた看護師に声をかけ、そのまま去っていった。

 くそ、よく考えれば当たり前だ。
 元々一条は保存的治療で改善傾向だった。
 いくら本人が希望しても、急性腹症じゃないんだから、今日の今日手術なんてありえない。
 どうする?
 どうすればいい?
 何か、手術を今日に早めてもらうなんて方法は……

「間!!」

 ふいに大声とともに栄一郎は後襟を掴まれた。
 山本であった。

「お前、何やった!?」

 山本は怒っているというよりも焦っている様子だった。

「え、何のことですか?」

 栄一郎は突然のことでわけが分からなかった。

「とりあえず来い!!」

 山本は栄一郎の後襟を掴んだまま、栄一郎を引きずるように歩き始めた。

「来いって、どこに?」

 山本に引っぱられ、栄一郎は足がもつれそうになりながらそう聞いた。
 山本は大声で答えた。

「教授室だ!!」


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