死神はそこに立っている

阿々 亜

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第24話 患者の決断

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「一条は俺を信じてくれるか?」

 栄一郎は恐る恐るそう問うた。

「私は間が良いやつだって知ってるよ。トモエが生きてたころ間はいつもトモエを守ってた。そして、今、間は私を守ろうとしてくれてるんでしょ。だから、私は間を信じるよ」

 沙耶香の答えに栄一郎は意を決する。

「全ては話せない。話せるところだけ話す。俺にはわかるんだ。一条はこのままだと死んでしまう。明確な説明はできないが、俺にはわかるんだ。だから、手術を受けてほしいんだ」

 沙耶香は死の可能性を告げられたのにも関わらず、驚いた様子はなかった。
 栄一郎の様子からなんとなるそんな気がしていたのだ。

「そっか……それは、間の医者としての勘?」

「そんな立派なものじゃないが、そのようなものだと思ってもらっていい」

 沙耶香は沈黙した。
 そして、数秒考えたのちこう言った。

「うん、わかった、受けるよ。手術」

「いいのか?」

 栄一郎は不安気に問い直す。

「うん、私、間の話を信じるよ」

 沙耶香はそう言って朗らかに微笑んだ。

「ありがとう」

 栄一郎は深々と頭を下げ、震える声で心から感謝を述べた。
 そして、頭を上げ、期待を込めて、沙耶香の傍らに目を向けた。
 しかし、まだそこには、死神がいた。

 まだなのか?
 何が足りないんだ?
 いや、もしかしたら、まだ手術が確定していないからかもしれない。
 手術が確定すれば……

「俺、山本先生に連絡するよ」

 栄一郎は懐から院内PHSを取り出す。

「待って」

 沙耶香が栄一郎の手を止める。

「間から連絡したら、きっと勘繰られるよ。私、今から看護師さんに頼んで山本先生に取り次いでもらうよ」

 沙耶香はそう言ってベッドから足を下ろした。

「理由は、ネットで色々調べてたら、やっぱり手術のほうがいいと思ったとか、テキトーにごまかしとくから」

 沙耶香は喋りながら立ち上がった。

「すまない」

 助けるつもりの沙耶香にそんなふうに気を回してもらって、栄一郎は情けない気持ちでいっぱいだった。

「気にしないで。私だって死にたくないしね」

 沙耶香は朗らかにそう言って病室を出た。
 栄一郎も少し遅れて病室を後にした。


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