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第14話 人違い
しおりを挟む翌朝、栄一郎は沙耶香の病室に向かっていた。
昨晩は他に何人かの救急外来患者の対応をしたが、概ね平和で睡眠時間は確保できた。
もっとも熟睡はできなかった。
死神の夢はみなかったが、沙耶香のことが心配で何度も目が覚めた。
病室に向かう栄一郎の足取りは重い。
沙耶香のことが心配で一刻も早く無事な姿をみたいが、沙耶香の顔を見るより先にあの死神の姿と顔が目に飛び込んでくるのであろう。
いや、待て。
昨日のアレは何かの間違いで、今日になったら消えているかもしれない。
うん、きっとそうだ。
そうであってくれ。
栄一郎はそんな願いをいだきながら、病室の前に立った。
入り口のネームプレートでベッドの位置を確認し病室内に入る。
四人部屋の左の窓際。
「一条、間だ。入るよ」
そう言って栄一郎は仕切りのカーテンを開けて中に入る。
いない!?
栄一郎は驚愕する。そこにいるはずの死神の姿がなかったからだ。
やった、何でかわからないけど消えた!!
「一条!!」
栄一郎は喜びながら、沙耶香の名を呼んだ。
「はい、なんでしょう?」
ベッドの主がもぞもぞとベッドから起き上がった。
30代の女性。
栄一郎の知る一条沙耶香ではなかった。
「あ、えと、間違えました!すみません!!」
栄一郎は逃げるように病室の外に飛び出て、入り口のネームプレートを再確認した。
一条沙耶香、そのベッドの位置には確かにそう書いてあった。
「あ、間先生」
戸惑っている栄一郎に通りがかりの看護師が声をかけてきた。
「もしかして、昨日入院になった虫垂炎の一条沙耶香さんを探してます?」
「え、ああ、そうです」
栄一郎はおずおずと答える。
「その部屋の一条沙耶香さんは、昨日憩室炎で入院になった人で、先生がお探しの人じゃないですよ」
看護師はなぜか嬉しそうに、そう言った。
「え、それって」
「そう、困ったことに同姓同名なんですよ。しかも字も一緒。今部屋も近いんですけど、取り違えになったらいけないので、ベッドコントロールがついたら、部屋を離す予定です」
時すでに遅しで、もうすでに栄一郎が取り違えてしまったところだった。
栄一郎はため息をついた。
「間先生の一条さんは422号室ですよ」
「ありがとうございます」
栄一郎はお礼を行って、言われた番号の病室に向かった。
改めて、ネームプレートでベッド位置を確認し、部屋に入る。
「一条沙耶香さん、失礼します」
先程のことがあったので、なんとなく、他の患者さんと同じように呼びかけてカーテンを開ける。
そして、今回も死神の姿はそこになかった。
しかし、その代わり、ベッドの主も不在だった。
「留守か」
トイレか、売店に何か買いにいったのか。
栄一郎は病室を出る。
「あ、間先生、一条さんだったら、さっき売店に行かれるって言ってましたよ」
病室を出たところで、また別の看護師にそう声をかけられた。
「あ、ありがとうございます」
栄一郎はお礼を言って、いったん病室を後にして、スタッフステーションに向かう。
沙耶香本人の状態を確認できなかったが、それはそれとして、電子カルテ記録で、バイタルサインなどにおかしいところがないか確認しておかなければならない。
ん、あれ、さっきからみんな、なんで俺が一条を探してるってわかったんだ?
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