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第7話 失神
しおりを挟む山本が帰ってきたとき、栄一郎は完全にパニック状態だった。
床に倒れた沙耶香を抱え、声を震わせながら、必死に呼びかけている。
山本はすぐに2人に駆け寄り、沙耶香の首に触れる。
頸動脈拍動はしっかりある。
よく見れば呼吸もしている。
「落ち着け、間先生。呼吸と循環は保たれている」
山本の言葉で、栄一郎はようやく我を取り戻した。
「4月のオリエンテーションでICLSは受講しただろう? 素人じゃないんだから、冷静にやるべきことをやれ! 呼吸と循環は保たれている。意識は不明。次にやるべきことはなんだ?」
「えっと、バイタルサインの確認です」
「その通りだ」
山本は診察室内に備えてつけてあるSpO2モニターと血圧計を持ってくる。
SpO2モニターを沙耶香の人差し指につけ、反対側の上腕に血圧計を巻く。
「SpO2 98、心拍60、血圧95/60、脈遅めで、血圧ちょい低めか……」
測定が終わったところで、沙耶香が目をあけた。
「あれ?……えと……あたたた……」
意識が戻った沙耶香は再び上腹部を痛がり始める。
「一条さん、意識を失って倒れてしまったんですよ。おそらく強い痛みによる神経調節性失神です。一過性のものなので基本的には心配ありません」
山本は沙耶香を安心させるようにこやかにそう説明した。栄一郎もようやく落ち着きを取り戻していた。
だが、しかし……
「一条、それ、見えるか?」
栄一郎は左腕で沙耶香の上半身を抱えたまま、右手で沙耶香の左斜め前を指差した。
「えと?いす?」
沙耶香の言うとおり、栄一郎が指差す先には、沙耶香が倒れる前まで座っていた椅子があった。
沙耶香の返答を聞き、栄一郎はちらりと山本の方を見た。
見当識の確認か、視力の確認なのか、変なことを聞くなと、山本も顔に疑問符を浮かべている。
やっぱり見えてない……
見えているのは俺だけか……
そう、栄一郎の目には、そこに「それ」がみえていた。
黒い布を被り、大鎌を携えた骸骨が。
栄一郎は「それ」を見上げながら、頭を整理する。
なんなんだ、こいつは?
死神?
まさか?
俺は夢をみているのか?
幻覚?
幻視?
栄一郎はさまざまな可能性に考えを巡らせるが、当然答えはでない。
だが、しかし、一つ確信を持てることがあった。
トモエが死んだ時にいたやつと同じだ!!
栄一郎はもうこの存在を本物の死神だと仮定することにした。
となると、今、危ないのは……
栄一郎は死神から沙耶香に視線を移す。
「なに? どうしたの?」
尋常ではなく思い詰めた栄一郎の表情に沙耶香はたじろぐ。
だが、そんな沙耶香の反応に気づくこともなく、栄一郎は必死に考えを巡らせる。
もし、一条が死ぬのだとしたら、いつ死ぬ?
数分後か?
数時間後か?
数日後か?
死神の首にぶら下がってる水晶の中の数字は死ぬまでの時間を表しているのか?
どうやって死ぬ?
事故か?
病気か?
腹痛は関係あるのか?
俺はどうすればいい?
一条を助けられるのか?
わらからないことだらけだ.........
でも........
俺にできることをやるしかない!!
「一条」
栄一郎は意を決し、沙耶香の目をみて口を開いた。
「な、なによ?」
「妊娠の可能性はないか?」
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