日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第5章 銀河宇宙との出会い

5.11 銀河防衛機構、地球の参加

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 誠司と恵一が答礼した後に、シーラムム帝国の人々の席から一人が立ち上がって、導師と同じ仕草で頭を下げて口を開く。
「私は、シーラムム帝国防衛機構司令官ピラクスラ・マサーラ・シーラムム元帥である。私もミカサム導師と同様に地球のお二人に心からの感謝を捧げる。さて、私は先ほどの話で、ようやくこの迫りくるイーターの危機に対して、この開発を機に具体的な方策が立てられるようになったと解釈しておる。
 無論まだ問題は山積しておる。一つは一種の生物である相手の範囲を特定する方法が判らない、また彼らを撃退または殺す方法が判らない、また彼らの能力もまだ把握されていないなどがあるが、次の転移攻撃点が判れば、最悪その星域の生物を避難させればよいのだ。

 また、導師が先ほど言われた地球の2人は、わずかに2日でこの超空間に係る大問題に関して違う切り口から解いて見せた。彼らのこの能力は、今後解決しなければならない問題に関して間違いなく大きな助けになるであろう。従って、かれらはこれらからの銀河の生命を守る活動に絶対に必要だ。
 私は宣言する。これは兄の皇帝の承認を必ず取って見せる。今日只今から、銀河防衛機構を立ち上げ、本部はイータル星系の居住フォーミングの終わったデカタル星におき、巨大惑星人及び塩素呼吸生物が居住できる環境のゾーンも作る。
 これには、連絡のつく限りのすべての先進種族に参加を求める。最初の3カ月で酸素呼吸生物のための研究所を完成する。3年後には少なくともこの本部惑星で百万人程度が働いているだろう。
 最初の参加者には是非とも、地球の牧村誠司、恵一君が含まれていなくてはならん。地球の代表の方々には是非とも承知してもらいたい」

 強い目で見られて、まだ事態をきちんと飲み込んでいない地球代表の連邦外務大臣ファアガ・フェルナンドと対シーラムム帝国特使マリア・キャンベルは困惑した顔で誠司と恵一を見る。
 正直に言って、自らが代表する地球が会議ではその対ラザニアム対策としての役割を誉め讃えられたものの、シーラムム帝国に来て余りのシステムおよびテクノロジーの差に圧倒されるばかりであり、地球代表としてこうした場に招かれてとても誇るほどの気持ちにはなれなかった。

 また、彼らはその地球連邦内の立場から、決定的な場面での誠司とマドンナの果たした役割はよく承知しているが、さらにその誠司とその義弟の恵一がこのシーラムム帝国でそのような決定的な役割を果たしたということがまだピンと来ていなかった。
 しかし、彼らはまた外交官として、シーラムム帝国の重鎮からここまでの言葉があった以上断るという選択肢はないということも良くわかっていた。

 従って、誠司が恵一と顔を見合わせた結果、誠司が立ち上がって返事をしたのに、連邦外務大臣と対シーラムム帝国特使はホッとしたのであった。
「わかりました。そう言って頂けると光栄です。喜んで協力させて頂きます。しかし、一旦地球に帰り、遅くとも一ヵ月以内には準備を済ませて落ち着いてこちらで研究が出来るように参ります」
 
 再度、ピラクスラ・マサーラ・シーラムム元帥は立ち上がり満面の笑みで感謝の言葉を述べる。
「おお、これは有難い、1月後には先ほど言った本部惑星としてのデカタル星には我がシーラムム帝国の研究所はすでに稼働状態においておく。
 さらに、申し上げておくがイーターに対する防衛策は結局軍備が必ず必要になる。従ってデカタル星に最大級の戦闘艦の建造の自動ラインほかの軍需物資の製造ラインも設け、惑星全体が対イーター防衛の拠点となる。こうした惑星が必要なほどイーターという存在は手ごわい相手であると私は信じている。無論私もデカタル星に詰める。それでは、次回はデカタル星で会おう」この言葉で会議は終わった。

 地球代表一行は大至急帰ることになったが、220名に及ぶ技術調査団は調査すべきことの宝庫であるシーラムム帝国での調査は終わってなく、全員が残ることを希望した。しかし、その内十五名は誠司の指名・説得もあってデカタル星に行くことに同意したため、何年の期間を要するか判らないデカタル星の業務の準備のため誠司たちと一緒に帰った。
 地球までは全速で飛んで4日間であるが、会議の結果は超空間通信によって出発準備のうちにも地球に通信された。従って、彼らが地球に着いた時は、すでにイーターの脅威は地球全体にアナウンスされており、その防衛のためにシーラムム帝国が一つの惑星を準備すること、及びその絶対必要なピースとして地球人の2人が招かれていることが知らされている。

 さらに、彼らの帰還を受けて地球連邦会議が準備されており、すぐさま帰還した外交官の2人ともちろん牧村誠司と恵一の出席は求められている。この結果、銀河防衛機構の設立が決まった会議の模様は映像こそはないが、やり取りは公開されており結果的に明らかに地球という国の参加が求められている訳でなく、個人2人ということが知れ渡っており、インターネットでは様々な意見が飛び交っている。

「なんなんだよ、今回の話は。要は、シーラムム帝国は牧村誠司と恵一の兄弟は絶対その対イーター防衛に必要と言っているだよな。お前、八十億を超える地球人の内2人が兄弟それも義兄弟だよ。そんなことがあっていいのかな?」

「でも、皆知ってるだろう?牧村誠司は、ラザニアム帝国の侵攻を食い止めるのにあいつがいなきゃ最初の攻撃でなにも出来ずアウトだったんだぞ」

「しかも、2回目の本格侵攻であいつは例の超空間システムを発想して実現したんだよな」
「でも、みなマドンナというパソコンのお陰だろう?」

「無論、それもあるよ。でもさ。あいつは重力エンジン搭載の宇宙船の最初か2番目の飛行に一緒に行って、いきなり巨大惑星人と出会って、シーラムム帝国は危ないぞ、て警告されたんだってさ。そんな偶然あるかよ」
「でも、実際正解だったよな。本当にラザニアム帝国が侵攻してきたもの」

「だからだよ。あり得るか? 牧村誠司がマドンナの助けを借りて、まず核融合発電、SAバッテリー、レールガン、重力エンジンを開発して、宇宙に乗りだしたら、お前の太陽系は狙われているぞと警告されて、備えをしたら本当に侵攻があって、ようやくそれを退けるわけだ。
 でも次の侵攻はやばいとおもって知り合った巨大惑星人に聞いたらヒントを教えてくれて、それをネタに、まさに巨大な星間帝国を退けるばかりか、相手を押さえつけてしまった。

 さらに、今度は超巨大な星間帝国に行ったら、実は銀河全体に迫る危機がありました。しかも、それを何とか退ける切っ掛けの開発を、十万年の宇宙飛行の歴史を持つ人々に先駆けてまたも牧村誠司とその親父の再婚相手の息子の恵一がやったというのだよね。
 そんな、三文小説以下のネタがあっていいはずはないだろうと思うのだけど、これが事実なんだよ。どう考えたらいいだろうね?」

「誰かが、操っているとか?あるんじゃない」
「うん、それしか考えられないけれど、どうせ実証はできなないよね」

「だから、素直に現実は現実なのよ。実際にそのイーターという脅威はあるわけだ。これを野放しにしておけば、二十年から三十年で俺たちはイーターに生命力を食われて死んじゃって、宇宙はあのイーターとその餌になる繁殖力の強い生物のみになっちゃうのだよ。
 牧村誠司、かれは何者かに操られているのかも知れない。でも少なくとも地球人にとっては都合の良いような方向に操られていたのだね。しかも、少なくとも彼は不幸にはなっていない。
 それも、今や全銀河にまたがる話になっており、今までの奇跡的な勝利の場合に比べれば、今度は後援者の桁が違うよ。であれば、やはり彼のやるようにというより、彼がやりたいように協力するというのが結論じゃない?」

「うん、正解だと思う、牧村恵一だけどあいつは知能向上処置の第一号被験者なのよ。また、誰かが言ったけど牧村誠司の親父の再婚相手の息子だから義理の弟だよね。
 本人は誠司に憧れていたんだけど、でも自分の能力が足りないことを自覚していてその処置も自分で志願して受けたらしい。その結果が非常に良かったらしく、基礎的な勉強をある程度やってから誠司について仕事をするようになったんだね。たぶん恵一の今の知能は、処置を受けていない誠司より上だろう。

 しかし、誠司はマドンナを使ってこの世にない知識すら自由に駆使して積み上げたノウハウと、結構大きいのは彼を通過していくマドンナへの質問と答えを通じた全分野にわたる知識をもっている。
 その意味では誠司は科学者としては、世界でも突出した実力の持ち主で、恵一が少々知能が高い程度では覆せないレベルだろう。
 そういうふうに、実力では傑出した誠司と彼に憧れてようやく一緒に仕事が出来るようになった、より知能の高い恵一、たぶん2人は補い合って極めていいコンビになっていると思う。その証拠が、恵一がまとめた物理学概論だ。
 おれも物理学者の端くれだけど、あれを読んだときは震えたよ。牧村誠司と恵一は地球が送り出せる最高のコンビだと思う。彼らだったら、かならず成果を出すと俺は信じるよ」
 ネットのやり取りには珍しく、誠司と恵一の成功を期待するポジティブなコメントが多く出た。

 地球連邦会議が開かれた。これは地球連邦として銀河防衛機構への参加を決議しようとするものであるが、最初に議題とは直接の関係はないが、シーラムム帝国おける、ラザニアム帝国への裁きの様子と結果が報告された。とはいえ、この報告はシーラムム帝国の立ち位置と、銀河評議会というものの存在とそのスタンスを知らしめる効果はあった。
 次に、銀河防衛機構の設立が宣言された会議の様子がプロジェクターで写された。銀河系の表示においてスクリーンへの映写では実際の会議の時に比べて大幅に劣るのはやむを得ない事であった。
 その会議において議題の中心になった誠司と恵一の開発の説明が恵一からなされた。

「これで、状況については理解して頂いたことと思います。では、最初の議題である地球連邦が銀河防衛機構に正式に参加する件ですが、この機構に参加できるのはその防衛に貢献できる先進種族であるということが条件になっております。その意味で、我が地球が参加を打診されているのは牧村誠司と恵一氏が属する種族であるからであります。
 また、これに参加するにはそれなりの費用負担が伴います。しかし、そうした銀河を上げてのプロジェクトに参加できるという名誉もありますが、それ以上に参加によって得られるノウハウが最も大きい利点であろうと思います。

 なお、費用負担については、デカタル星における活動に係る費用は全てシーラムム帝国による負担で、我々はそこに派遣する人々の人件費と派遣費用のみです。派遣の規模については別途決を取りますが、今は銀河防衛機構に参加するか否かの議決をとります」
 地球連邦議会議長サリア・マガンボ、ケニア人の女性が宣言する。

 これについては、反対はなく地球連邦の銀河防衛機構への参加が決定された。
 次に、議論されたのは設立される銀河防衛機構にどれだけの機材と人材を参加させるかである。

 まず地球防衛軍からとしてジャックリン・セイバー大将の発表があった。
「今のところ、対イーターへの作戦の方向がはっきりはしていませんが、いずれにせよ艦船を用いて攻撃または何らかの作業をする必要はあると思っています。従って、ガイア型百艦、ギャラクシー型2艦、さらにガイア型の貨物型十艦をもって行きます。人員は防衛軍研究所からの派遣3千人を加えて3万2千人を予定して、指揮官はジョバリエ・マックラン中将を予定しています。
 これに伴う、防衛軍の増員はあるいは機材の増強は考えていませんし、人件費としては派遣手当と派遣にともなう多少の資材の購入程度で年間1億CD程度の追加予算と考えています。

 この派遣によって軍としては、その能力向上に関して大きな期待をしています。なにより、圧倒的に先進的な軍の機材を知ることが出来ること、またかれらのとの共同作業が出来るということで、軍事活動の改善が出来るものと期待しています」

 次に地球連邦中央研究所から所長のジュセフ・キンセルの計画発表があった。
「中央研究所としては科学部長の牧村博士が派遣されるわけですので、概ね8割の人員1200名が一緒に行くことになります。さらに、牧村博士は西山大学技術開発研究所の宇宙物理学教室の室長を兼務されていますので、宇宙物理学教室の全員及び西山大学関係の希望者八百五十名が一緒に行くことになっています。
 西山大学関係は同技術開発研究所がすべての費用を負担しますし、地球連邦中央研究所についての人件費はすでに予算化されていまして特に派遣に係る手当は予定していませんし、研究費はシーラムム帝国の援助がある予定なので、予算の増は殆ど生じない見込みです。

 なお、中央研究所から世界の企業を含めた研究機関に希望を募ったところ2日で5500名の申し込みがあり、さらに今現在も増えています。従って、研究者としては全体として1万名程度の派遣を考えています。人件費は出身の研究機関が負担しますので、そのための予算としては5千万CDを考えています」

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