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第5章 銀河宇宙との出会い
5.3 シーラムム帝国との交渉
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「シーラムム帝国第十五宇宙艦隊の第2分隊長マラムク・スラ・カザル准将である。見事な貴艦体隊の戦いであった。休戦を申し込む。 貴ヤタガラ星並びに地球間に友好修好条約を結ぶべく交渉したい。本艦スムズラス1号には全権大使として、アムガ・マズラ・サシカーマル閣下が乗船されておられる」
「地球防衛軍緊急展開艦隊司令官ジョバリエ・マックラン中将だ。休戦を受け入れる。
只今到着した艦隊に地球連邦政府異星間交渉官が乗船しておられるので、友好修好条約の交渉は可能である。具体的にどのように実施するか連絡を願いたい」
シーラムム帝国と地球防衛軍の責任者が互いに映像を見せつつの数分遅れの通信である。
地球防衛軍の損害は、結局無人攻撃母艦1艦全損で乗員七十五名が死亡、ガイア型7隻機能停止で内の1艦は損害がひどく百二十名死亡を含め全部で百三十二名死亡、有人戦闘機が十二機全損で十二名死亡で合計して二百十九人の死亡が確認された。
さらに、ガイア型戦闘艦1艦廃棄、6艦中破要修理、マザーガーディアン型攻撃機母艦1艦全損、無人攻撃機百機全損、有人戦闘機十二機全損の損害であった。
それが多いのか少ないのか評価は難しいが、シーラムム帝国側はスムズラス2号が大破、艦載戦闘艦百艦中の80艦が全損、二十艦が中破という物質的な損害に、さらに乗艦していたアバター十五万3千の損害であった。
しかし、シーラムム帝国側が乗員がアバターであって、本人は保存されて生き延びていると聞いて、マッカラン中将は二度と帰らぬ死亡した自分の側の兵士に呉べて『ずるい』と思ってしまう。
交渉は結局、こうしたことに手慣れているシーラムム帝国側が用意した、非武装である交渉用の長さ百二十mの中型船を使うことになった。これを、両艦体の間に遊弋させて、シーラムム、ヤタガラ、地球の3者の使者が集まるのだ。こうした異なる国家の交渉については、地球における明治維新前の日本と欧米諸国の交渉を思い出させる。
そして、やはり似たところがあるらしく、片方が弱いと属国扱いになって、不公平貿易や、また国内に租界を作られて警察権や関税においても不利な扱いになるらしい。
シーラムム帝国側はあらかじめ予告があった通りアムガ・マズラ・サシカーマル閣下と随員に加えカザル准将、ヤタガラ星からは外務大臣のミズマシ・サン・ミゲル氏自らが随員2人と出席し、地球はマリア・キャンベル女史と随員2人に加え2番目に現れた艦隊の副司令官水巻清太郎少将である。
シームラル帝国の外交特使のサシカーマル氏は、身長百五十㎝足らずのずんぐりした体つきというより、まん丸の体で、目は垂れてやはり細く鼻はつぶれたような点はカザル准将と一緒でである。また、同様に頭が分厚い皮のようなものに覆われてはいる点は一緒だが、額の辺りに飾りは無いところを見ると、あれは軍人のみなのだろう。
また、服は制服のようには見えないが、飾りが多いところをみるとフォーマルなのだろう。
ヤタガラ星側の大臣は、百八十㎝程度の身長で白い髪に青みがった肌色で、目が大きく吊り上がって口が大きい民族的特徴のままで、どっちかと言うとややユーモラスな感じのシームラル帝国のサシカーマル氏よりはるかに悪人顔である。
地球側の使節。四十五歳のキャンベル女史は「こんな話になるとは聞いてないわ」とブツブツ言っていたが、小柄でシームラル帝国の外交特使と同じ程度の身長だが、ほっそりしてはるかに細い。
彼らは、まず互いの情報を交わすところから始めたが、シーラムム帝国はラザニアム帝国より規模が大きく直接の植民星が百五、支配しているまたは保護惑星が二百四十五であり、シーラムム帝国人のみで3千億人を越え、属国または保護国にあたる種族は5千億人を上回るらしい。
また、いわゆる対等な交友関係にある連合体が5つほどあるという。アムガ・マズラ・サシカーマル閣下は述べる。
「わしなんかは、わが帝国では下っ端なのです。大体大物はこんな辺境に出てはきませんわな。しかし、こうした交渉か必ずしも価値が低いわけではありませんぞ。まして今回のように、対等な条約を結ぶことになるというのはめったにあることではありませんわ。
はっきり言って、私ども外交部局はともかく財務部局としては属国や保護国が増えると言うのは余り有難い話ではないのです。我々のような文明国になると、他民族を搾取するということは出来ませんので、レベルの低い文明の惑星を属国にするのは援助額が嵩むためにコストがかかって困るのです。だから、一定以下の発展度の惑星は見つけてもほおっておきます。
しかし、直前までこの星域を支配していたというラザニアム帝国ですが、彼らの探検船が我々帝国の領域に入り込んでいきなり保護国の交易船を捕らえたのです。本当に乱暴な奴らで、当然彼らは我がパトロールに捕らえられた結果、このヤタガラ星のことも知れたというわけです。
まあ正直に言うと、このヤタガラ星は文明の発達度もそれなりなので、保護国にしようということで参りました」
言い分を聞いていた、キャンベル女史は『喧嘩を吹っかけてきたあんたたちも、文明人というには十分乱暴だわ』と思いながら言う。
「それで、地球から艦隊がやってきたので、いわば模擬戦をやって実力を確かめたということですね。それで、いかがでしたでしょうか、地球防衛軍の実力は?」
「おお、素晴らしい。正直に言って、我が超戦闘艦スムズラス2号が機能を失うまでに打ちのめされるとは思いませんでした。たしか、この艦が建造され始めて以来二千五百年の歴史で始めてではないかな。カザル准将?」
「はい、その通りです。しかも地球艦と同数の艦載艦を発艦させて、艦載艦に至っては全てが被害を受け8割が廃棄する必要があります。スムズラス2号の回復には1年以上を要するでしょう。
明らかに、地球艦隊にわが超戦闘艦が特別な新兵器も無しに殴り合いで破れました。恐るべき闘志と練度です。我がシーラムム帝国軍人は尊敬すべき敵は尊敬します。正直に言って地球艦隊を相手に本気の戦争をするのはあまり気が進みませんな」
カザル准将の言葉にサシカマール特使は苦笑いして言う。
「なかなか、わが帝国軍からこういう言葉は聞けませんので、いささか驚きました。
しかし、それだけ我が軍人から評価される地球軍を敵に回すわけにはいきませんな。私も外交官としてそうしないように交渉しますよ。それで、こちらで掴んでいる情報では、貴地球連邦は過去ラザニアム帝国に隷属させられていた諸惑星と、貿易に関しては基本的に対等の条約を結ばれているとか」
「はい、その通りです。我々は地球内での経験から、不均衡な貿易の条件を、力を背景に他に押し付けることは、結局得にはならないということを学びました。
なによりそれは、長い目で見て恥ずべきこととであるということです。私たちは、子供たちに私たちが公正な種族であることを見せたいのです」
こう言うキャンベル女史の言葉に、サシカマール特使もはっきり言う。
「それは素晴らしいことです。しかしながら、我々の考えではそれは対等と認めた者が相手である場合に限っており、実際に我々の方針はそのようにしています」
「それは、まあそれぞれの国の方針がおありなので結構です」
キャンベルは頷く。
「では、防衛面では、我々は地球が過去ラザニアム帝国に隷属されていた諸惑星に1つの星を加えた三十六惑星と相互防衛条約を結ばれているとか。しかし、それは実質的に地球が全体に対して責任を持つ体制であって、そのため構成メンバーから分担金を徴集しているということですね」
サシカマール特使の言葉に再度キャンベルは頷く。
「ええ、その通りです。たまたま、私どもはラザニアム帝国の戦闘艦を多数捕獲して、その運用も出来るようになりましたから。ラザニアム帝国が敵性の存在である以上はそうせざるを得ないと判断しました」
「うむ、私も貴地球がラザニアム帝国と言う圧倒的な勢力を、実質的に超空間エネルギー転送の技術のみで破り、かつその戦闘艦を奪い取って勢力を完全に逆転したというストーリーには感心している。これは恐らく前例のないことであろうし、今後もないであろうな。まあ、一つには超空間エネルギー転送の技術を地球が開発して、相手が持っていないという条件があってのことだが。
しかも、ラザニアム帝国としては、仮にその技術を防ぐ方法を開発または手に入れても、戦闘艦の数において完全に劣っており、その建造を監視されて妨げられている状態では逆転の目はないわけだ。国力に置いて圧倒的に勝る相手を現に押さえつけているという、一つの戦略として非常に興味深い状況だ」
カザル准将が考え深げに言う。
「うん、なかなか地球の例は興味深い。とりわけ非常に若い種族ということで、まだ惑星内に原始的な状況が残っている状態、それも経済力も極めて低い状態で、このように宇宙に覇を唱えられるまでの存在になるというのはなかなかあり得ない。
しかし、これだけ短時間にこれだけの存在になるというのは、今後についても同じことが起きる可能性があるということになる。そういう点では、地球はその存在としては警戒すべきであるのだよ。
しかし、一方で判っている限りにおいて、通常論理的には滅ぼすべき存在である、ラザニアム帝国と共存している。さらには、ラザニアム帝国に代わって隷属させても誰からも文句の出ない今の同盟関係の三十六惑星となんと対等の関係を結ぶ。こういうことは、我々を安心させる材料であるな。
従って我が帝国の提案は、地球と対等の関係の交流を始めて、出来るだけその関係を深めたい。まずは、貿易を中心として交易を結び、ゆくゆくは相互安全保障の関係まで進めたいと考えている。これは、ここにおられるヤタガラ星及び他の三十五の星系とも同じ関係を結びたい」
このようなサシカマール特使の話があって、属国まで入れると惑星が三百五十、人口が8千億にもなる巨大なシーラムム帝国との対等な通商条約が結ばれることが決まり、そのドラフトが作られ、互いに使者を交わして正式な条約化することになった。
「それで、貴帝国のテリトリー内でラザニアム帝国の船が不当な行為を働いたということですが、貴帝国としては、ラザニアム帝国とはどういう関係を結ばれるつもりですか?」
これは、出席者の一人である水巻清太郎少将の質問であり、軍人としては聞いておきたい点であるが、サシカマール特使はすこし深刻な顔をして答える。
「ラザニアム帝国は、人口・経済力は大きいが、現時点においては軍事戦力を地球にはぎ取られたおかげで無いに等しい。しかも、あと十数年は賠償金支払いも残っており、あまり経済的な余裕もない。
この状態では、我が帝国からどのような無理な条件を吹きかけられても断るすべはないわけだ。
それに極めて大きな問題がある。それは、彼らは我が帝国における刑法上の重大な犯罪を犯しているのだ。これは、貴君らも知ってのとおり、知られている限りで、五十五の酸素呼吸知的生物を抹殺して、その惑星を奪い、かつ他に6つの民族を滅ぼしている。これは極めて重大な犯罪であり、わが帝国の法では死刑以外の処罰はない。
しかし、その犯罪を実行した種族六百二十億人の知的生物を罰として我々が滅ぼしていいのか、これについては我が帝国議会において討議する議題になる。その場合、地球と同盟諸国に証言を求めるかもしれない」
地球人とヤタガラ人はその話に驚き、キャンベル女史が驚いて言う。
「なんと、そこまでの話ですか」
それに、サシカマール特使が答える。
「そう、知的生物としての民族を滅ぼすというのは非常に罪深いことだ。わが帝国は、銀河中心部に近い銀河連合を称する連合体とも接触があるが、その銀河連合でも知的生物の意図的な抹殺は、罰として少なくとも責任者と実行者の死刑だ。
ラザニアム帝国の場合はその悪質さにおいて例がないし、それを止めたのも、抹殺しようとした相手に反撃を食らってやむを得ずのことだ。さらに、彼らが探検船を送り出したのも、現状の所で地球を始めとした彼らを軍事的に押し込めた者達から逃れて同じことを違う宙域を見つけようとしたものだ。つまり、機会が与えられれば、また同じことを繰り返す可能性が高い」
特使は少し憂鬱そうに言う。
「そうですね。確かに滅ぼされた者に断罪させれば、民族の抹殺に至るかも知りませんね。そういえば、実はわが地球はラザニアム帝国に放棄させた惑星に植民しています。その一つで、危うく抹殺されそうになった民族を見つけたのですよ」
キャンベル女史が言う。
「なに!それは重要だな。まあ、地球がラザニアム帝国から民族を抹殺して占領した惑星を取り上げたのは倫理的に問題ないしそれに植民するのも勝者として当然の行為だろう。それで見つけた者達をどうしているのかね?」
特使は驚き言う。
「ええ、洞窟に住んでいて生き残ったのですが、残った数が千人足らずでしたので、地球からの植民者と共存を選んだので、それなりのテリトリーを分配して一つの集落に住んでもらっています。
実は、その民族シャーナ人というのですが、絵や造形の芸術的なセンスに大変長けていまして、その作品は地球関係だけでなく、同盟諸国でも大人気です」
キャンベル女史の言葉に、ヤタガラ星の大使も同調する。
「ああ、シャーナ人の芸術の殿堂、あの映像は見ました。素晴らしいものですね。わたしも是非彼らの作品を見にミルシャーナを訪れたいと思っています」
その言葉を聞いて特使は感心して言う。
「なるほど、本来なら邪魔な原住の人類をそこまで、優遇していますか。しかし、そのシャーナ人は証人として呼びたいですな」
「地球防衛軍緊急展開艦隊司令官ジョバリエ・マックラン中将だ。休戦を受け入れる。
只今到着した艦隊に地球連邦政府異星間交渉官が乗船しておられるので、友好修好条約の交渉は可能である。具体的にどのように実施するか連絡を願いたい」
シーラムム帝国と地球防衛軍の責任者が互いに映像を見せつつの数分遅れの通信である。
地球防衛軍の損害は、結局無人攻撃母艦1艦全損で乗員七十五名が死亡、ガイア型7隻機能停止で内の1艦は損害がひどく百二十名死亡を含め全部で百三十二名死亡、有人戦闘機が十二機全損で十二名死亡で合計して二百十九人の死亡が確認された。
さらに、ガイア型戦闘艦1艦廃棄、6艦中破要修理、マザーガーディアン型攻撃機母艦1艦全損、無人攻撃機百機全損、有人戦闘機十二機全損の損害であった。
それが多いのか少ないのか評価は難しいが、シーラムム帝国側はスムズラス2号が大破、艦載戦闘艦百艦中の80艦が全損、二十艦が中破という物質的な損害に、さらに乗艦していたアバター十五万3千の損害であった。
しかし、シーラムム帝国側が乗員がアバターであって、本人は保存されて生き延びていると聞いて、マッカラン中将は二度と帰らぬ死亡した自分の側の兵士に呉べて『ずるい』と思ってしまう。
交渉は結局、こうしたことに手慣れているシーラムム帝国側が用意した、非武装である交渉用の長さ百二十mの中型船を使うことになった。これを、両艦体の間に遊弋させて、シーラムム、ヤタガラ、地球の3者の使者が集まるのだ。こうした異なる国家の交渉については、地球における明治維新前の日本と欧米諸国の交渉を思い出させる。
そして、やはり似たところがあるらしく、片方が弱いと属国扱いになって、不公平貿易や、また国内に租界を作られて警察権や関税においても不利な扱いになるらしい。
シーラムム帝国側はあらかじめ予告があった通りアムガ・マズラ・サシカーマル閣下と随員に加えカザル准将、ヤタガラ星からは外務大臣のミズマシ・サン・ミゲル氏自らが随員2人と出席し、地球はマリア・キャンベル女史と随員2人に加え2番目に現れた艦隊の副司令官水巻清太郎少将である。
シームラル帝国の外交特使のサシカーマル氏は、身長百五十㎝足らずのずんぐりした体つきというより、まん丸の体で、目は垂れてやはり細く鼻はつぶれたような点はカザル准将と一緒でである。また、同様に頭が分厚い皮のようなものに覆われてはいる点は一緒だが、額の辺りに飾りは無いところを見ると、あれは軍人のみなのだろう。
また、服は制服のようには見えないが、飾りが多いところをみるとフォーマルなのだろう。
ヤタガラ星側の大臣は、百八十㎝程度の身長で白い髪に青みがった肌色で、目が大きく吊り上がって口が大きい民族的特徴のままで、どっちかと言うとややユーモラスな感じのシームラル帝国のサシカーマル氏よりはるかに悪人顔である。
地球側の使節。四十五歳のキャンベル女史は「こんな話になるとは聞いてないわ」とブツブツ言っていたが、小柄でシームラル帝国の外交特使と同じ程度の身長だが、ほっそりしてはるかに細い。
彼らは、まず互いの情報を交わすところから始めたが、シーラムム帝国はラザニアム帝国より規模が大きく直接の植民星が百五、支配しているまたは保護惑星が二百四十五であり、シーラムム帝国人のみで3千億人を越え、属国または保護国にあたる種族は5千億人を上回るらしい。
また、いわゆる対等な交友関係にある連合体が5つほどあるという。アムガ・マズラ・サシカーマル閣下は述べる。
「わしなんかは、わが帝国では下っ端なのです。大体大物はこんな辺境に出てはきませんわな。しかし、こうした交渉か必ずしも価値が低いわけではありませんぞ。まして今回のように、対等な条約を結ぶことになるというのはめったにあることではありませんわ。
はっきり言って、私ども外交部局はともかく財務部局としては属国や保護国が増えると言うのは余り有難い話ではないのです。我々のような文明国になると、他民族を搾取するということは出来ませんので、レベルの低い文明の惑星を属国にするのは援助額が嵩むためにコストがかかって困るのです。だから、一定以下の発展度の惑星は見つけてもほおっておきます。
しかし、直前までこの星域を支配していたというラザニアム帝国ですが、彼らの探検船が我々帝国の領域に入り込んでいきなり保護国の交易船を捕らえたのです。本当に乱暴な奴らで、当然彼らは我がパトロールに捕らえられた結果、このヤタガラ星のことも知れたというわけです。
まあ正直に言うと、このヤタガラ星は文明の発達度もそれなりなので、保護国にしようということで参りました」
言い分を聞いていた、キャンベル女史は『喧嘩を吹っかけてきたあんたたちも、文明人というには十分乱暴だわ』と思いながら言う。
「それで、地球から艦隊がやってきたので、いわば模擬戦をやって実力を確かめたということですね。それで、いかがでしたでしょうか、地球防衛軍の実力は?」
「おお、素晴らしい。正直に言って、我が超戦闘艦スムズラス2号が機能を失うまでに打ちのめされるとは思いませんでした。たしか、この艦が建造され始めて以来二千五百年の歴史で始めてではないかな。カザル准将?」
「はい、その通りです。しかも地球艦と同数の艦載艦を発艦させて、艦載艦に至っては全てが被害を受け8割が廃棄する必要があります。スムズラス2号の回復には1年以上を要するでしょう。
明らかに、地球艦隊にわが超戦闘艦が特別な新兵器も無しに殴り合いで破れました。恐るべき闘志と練度です。我がシーラムム帝国軍人は尊敬すべき敵は尊敬します。正直に言って地球艦隊を相手に本気の戦争をするのはあまり気が進みませんな」
カザル准将の言葉にサシカマール特使は苦笑いして言う。
「なかなか、わが帝国軍からこういう言葉は聞けませんので、いささか驚きました。
しかし、それだけ我が軍人から評価される地球軍を敵に回すわけにはいきませんな。私も外交官としてそうしないように交渉しますよ。それで、こちらで掴んでいる情報では、貴地球連邦は過去ラザニアム帝国に隷属させられていた諸惑星と、貿易に関しては基本的に対等の条約を結ばれているとか」
「はい、その通りです。我々は地球内での経験から、不均衡な貿易の条件を、力を背景に他に押し付けることは、結局得にはならないということを学びました。
なによりそれは、長い目で見て恥ずべきこととであるということです。私たちは、子供たちに私たちが公正な種族であることを見せたいのです」
こう言うキャンベル女史の言葉に、サシカマール特使もはっきり言う。
「それは素晴らしいことです。しかしながら、我々の考えではそれは対等と認めた者が相手である場合に限っており、実際に我々の方針はそのようにしています」
「それは、まあそれぞれの国の方針がおありなので結構です」
キャンベルは頷く。
「では、防衛面では、我々は地球が過去ラザニアム帝国に隷属されていた諸惑星に1つの星を加えた三十六惑星と相互防衛条約を結ばれているとか。しかし、それは実質的に地球が全体に対して責任を持つ体制であって、そのため構成メンバーから分担金を徴集しているということですね」
サシカマール特使の言葉に再度キャンベルは頷く。
「ええ、その通りです。たまたま、私どもはラザニアム帝国の戦闘艦を多数捕獲して、その運用も出来るようになりましたから。ラザニアム帝国が敵性の存在である以上はそうせざるを得ないと判断しました」
「うむ、私も貴地球がラザニアム帝国と言う圧倒的な勢力を、実質的に超空間エネルギー転送の技術のみで破り、かつその戦闘艦を奪い取って勢力を完全に逆転したというストーリーには感心している。これは恐らく前例のないことであろうし、今後もないであろうな。まあ、一つには超空間エネルギー転送の技術を地球が開発して、相手が持っていないという条件があってのことだが。
しかも、ラザニアム帝国としては、仮にその技術を防ぐ方法を開発または手に入れても、戦闘艦の数において完全に劣っており、その建造を監視されて妨げられている状態では逆転の目はないわけだ。国力に置いて圧倒的に勝る相手を現に押さえつけているという、一つの戦略として非常に興味深い状況だ」
カザル准将が考え深げに言う。
「うん、なかなか地球の例は興味深い。とりわけ非常に若い種族ということで、まだ惑星内に原始的な状況が残っている状態、それも経済力も極めて低い状態で、このように宇宙に覇を唱えられるまでの存在になるというのはなかなかあり得ない。
しかし、これだけ短時間にこれだけの存在になるというのは、今後についても同じことが起きる可能性があるということになる。そういう点では、地球はその存在としては警戒すべきであるのだよ。
しかし、一方で判っている限りにおいて、通常論理的には滅ぼすべき存在である、ラザニアム帝国と共存している。さらには、ラザニアム帝国に代わって隷属させても誰からも文句の出ない今の同盟関係の三十六惑星となんと対等の関係を結ぶ。こういうことは、我々を安心させる材料であるな。
従って我が帝国の提案は、地球と対等の関係の交流を始めて、出来るだけその関係を深めたい。まずは、貿易を中心として交易を結び、ゆくゆくは相互安全保障の関係まで進めたいと考えている。これは、ここにおられるヤタガラ星及び他の三十五の星系とも同じ関係を結びたい」
このようなサシカマール特使の話があって、属国まで入れると惑星が三百五十、人口が8千億にもなる巨大なシーラムム帝国との対等な通商条約が結ばれることが決まり、そのドラフトが作られ、互いに使者を交わして正式な条約化することになった。
「それで、貴帝国のテリトリー内でラザニアム帝国の船が不当な行為を働いたということですが、貴帝国としては、ラザニアム帝国とはどういう関係を結ばれるつもりですか?」
これは、出席者の一人である水巻清太郎少将の質問であり、軍人としては聞いておきたい点であるが、サシカマール特使はすこし深刻な顔をして答える。
「ラザニアム帝国は、人口・経済力は大きいが、現時点においては軍事戦力を地球にはぎ取られたおかげで無いに等しい。しかも、あと十数年は賠償金支払いも残っており、あまり経済的な余裕もない。
この状態では、我が帝国からどのような無理な条件を吹きかけられても断るすべはないわけだ。
それに極めて大きな問題がある。それは、彼らは我が帝国における刑法上の重大な犯罪を犯しているのだ。これは、貴君らも知ってのとおり、知られている限りで、五十五の酸素呼吸知的生物を抹殺して、その惑星を奪い、かつ他に6つの民族を滅ぼしている。これは極めて重大な犯罪であり、わが帝国の法では死刑以外の処罰はない。
しかし、その犯罪を実行した種族六百二十億人の知的生物を罰として我々が滅ぼしていいのか、これについては我が帝国議会において討議する議題になる。その場合、地球と同盟諸国に証言を求めるかもしれない」
地球人とヤタガラ人はその話に驚き、キャンベル女史が驚いて言う。
「なんと、そこまでの話ですか」
それに、サシカマール特使が答える。
「そう、知的生物としての民族を滅ぼすというのは非常に罪深いことだ。わが帝国は、銀河中心部に近い銀河連合を称する連合体とも接触があるが、その銀河連合でも知的生物の意図的な抹殺は、罰として少なくとも責任者と実行者の死刑だ。
ラザニアム帝国の場合はその悪質さにおいて例がないし、それを止めたのも、抹殺しようとした相手に反撃を食らってやむを得ずのことだ。さらに、彼らが探検船を送り出したのも、現状の所で地球を始めとした彼らを軍事的に押し込めた者達から逃れて同じことを違う宙域を見つけようとしたものだ。つまり、機会が与えられれば、また同じことを繰り返す可能性が高い」
特使は少し憂鬱そうに言う。
「そうですね。確かに滅ぼされた者に断罪させれば、民族の抹殺に至るかも知りませんね。そういえば、実はわが地球はラザニアム帝国に放棄させた惑星に植民しています。その一つで、危うく抹殺されそうになった民族を見つけたのですよ」
キャンベル女史が言う。
「なに!それは重要だな。まあ、地球がラザニアム帝国から民族を抹殺して占領した惑星を取り上げたのは倫理的に問題ないしそれに植民するのも勝者として当然の行為だろう。それで見つけた者達をどうしているのかね?」
特使は驚き言う。
「ええ、洞窟に住んでいて生き残ったのですが、残った数が千人足らずでしたので、地球からの植民者と共存を選んだので、それなりのテリトリーを分配して一つの集落に住んでもらっています。
実は、その民族シャーナ人というのですが、絵や造形の芸術的なセンスに大変長けていまして、その作品は地球関係だけでなく、同盟諸国でも大人気です」
キャンベル女史の言葉に、ヤタガラ星の大使も同調する。
「ああ、シャーナ人の芸術の殿堂、あの映像は見ました。素晴らしいものですね。わたしも是非彼らの作品を見にミルシャーナを訪れたいと思っています」
その言葉を聞いて特使は感心して言う。
「なるほど、本来なら邪魔な原住の人類をそこまで、優遇していますか。しかし、そのシャーナ人は証人として呼びたいですな」
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