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第5章 銀河宇宙との出会い

5.1 巨大戦闘艦出現

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 ラザニアム帝国の皇帝が、技術開発研究所所長及び、軍務大臣から報告を受けている。
 技術開発研究所所長がまず述べる。
「皇帝陛下、お喜び下さい。地球人の攻撃方法の防御方法を開発しました」

「うむ、やはりあれは超空間通信の応用になるのか?」
 皇帝の言葉に所長は答える。
「はい、ようやく超空間通信を開発しまして、これは空間を操作して電波を送るものですから、その位置をある程度厳密に確定しないと信号を送れません。これについては、惑星などについては重力波にて容易にその位置を計算できるために、超空間的に目標を設定することは容易です。
 ですので、すでにわが領域の惑星とは超空間通信網の構築を進めております」

「うむ、それはでかした。連続的なデータ通信が出来るというのは大いなる進歩だ。しかし、それと地球人の不可思議な攻撃方法との関係はなんだ?」
 皇帝が尋ねる。

「はい、敵の攻撃方法は、彼らの敵の宇宙船内に原子炉内のエネルギーを超空間を通して送り込むもので間違いないと考えられます。そして、その送り込みは、極めて厳密に相手の座標を把握する必要があります。 その必要な精度は、通信とは桁が全く異なりますし、しかも自由な運動をする宇宙船相手です。
 これは、わが宇宙船にどうやって通信を送るかを研究する過程で発見したのですが、要は重力波探査で一旦ある艦にマークつけをすれば、その後その艦が空間的にどのように動いても超空間の中では追うことができるのです。この開発で、わが超空間ジャンプ船との通信も可能になりました」

「うむ、それも大きな進歩だ。賞賛に値する」
 皇帝は所長をさらにほめる。

「しかし、これは1光秒程度のずれは実際的に障害にならないのですが、彼らの攻撃は先ほど申し上げたようにさらに厳密に相手の位置を確定する必要がありますから、これは一旦通信としての機能である程度の位置を定めて、さらに通信した先でさらに計測して位置を絞り込んでいます。
 つまり、位置の絞り込みを妨害してやればいいのです。これは重力波、電磁波の双方で妨害すれば超空間を通して攻撃する精度は得られません」
 所長はその方法を説明する。

「うむ、なるほど。その妨害装置を備えたわが戦闘艦は、先の戦いのように船内にエネルギーを送り込まれて乗員が全滅することはないのだな?」
 皇帝のこの言葉に所長は応じる。

「はいそうです。しかし、残念ながら位置確定まではわかりましたが、通信に比べ桁違いのエネルギーをどう送るかは今しばらくの研究が必要です」
 所長のこの言葉に今度は軍務大臣が話始める。

「皇帝陛下、この手法を使えば、わが帝国に残された攻撃能力を持つ22隻の艦で、先の敗戦のような一方的な撃破をされることなく彼らの地球を攻撃することはできます。しかし、超空間ジャンプで彼らの恒星内に出現した段階で探知されますので、圧倒的な数の防御戦闘艦と戦うことになるわけです。
 また、運よくかれらの母星を破壊した場合、千隻を超えるかれらの艦は我が帝国の24の惑星すべてを完全に滅ぼすでしょうな。戦闘艦による数的優勢が無い限り、彼らを攻撃することは自殺行為です」

 皇帝が今度は軍務大臣に聞く。
「それで、最近のわが帝国の戦闘艦建造に関する地球とその同盟諸惑星の監視体制はどうなっている」

「はい、ご存知のように、わが帝国は敗戦の結果として惑星の防御はできるもののジャンプの出来る戦闘艦の建造は禁止され、我らもこれを受け入れました。
 その監視体制としては、かれらの同盟諸国がそれぞれ担当を決めて我が帝国内の二十四の居住惑星とその恒星系のパトロールを行っています。その中で常時重力波によるチェックを行っていますから、大規模な宇宙艦の造船所などの建設はすぐに把握されますし、もし無事に艦が完成しても核融合炉を始動すれば、すぐキャッチされてしまい、査察の対象になります。
 現状では大規模な戦闘艦の建設は事実上不可能ですね」

 軍務大臣の答えである。
「うむ、かの敗戦以来、臣民の植民惑星からの移動は終了したが、賠償金の支払いはなお半ばである。
 この間に居住惑星の人口密度は倍以上になっており、首都惑星などは人口が六十億人を越えた。
 移住者に対する住居の建設は今だ半分であるが、これらの大規模な建設により意外にわが帝国の経済指標は落ちていない。全体として、経済規模は戦役前の半分にはなったが、住居に関しては問題があるものの、食料を始めとした物資の供給など特段の問題は起きていない。

 しかしながら、平民に相当な不満はたまっているが、これは娯楽を含めた放送プログラムの中で潜在意識に働きかけてきた結果、顕在化することはない。貴族階級については、結局自分たちのかじ取りを誤ったわけであるので、反省はしておるが今の状態を受け入れざるを得ないという点は受け入れている。
 まず、五十五個もの植民惑星を失った反動を吸収して、その後どうするかだな。現在、銀河の中心に向かって調査を行っているので、その結果によっては別の拠点を作ることもありうる。ただ、他の民族の恨みを買うことはあまり得策ではないというのが今回の戦役の教訓である。

 地球人のような、こちらが対処できない武器体系を作りだす者達が出現することがあり得える中で、仮に我々が彼らの大部分を殺戮していた場合、我々は今頃は滅ぼされていた可能性もあった。
 産業大臣に伝えておくので、研究所としては早急に超空間通信の実用化を図るように。各惑星と通信が可能になるのは非常にメリットが大きい」この皇帝の言葉で会議は終了した。

 2031年3月、地球の同盟惑星のひとつ、ヤタガラ星の探知網にジャンプ船の反応が現れた。
 地球防衛軍、ヤタガラ星駐在事務所所長である秋谷康彦少佐33歳は、突然鳴り響いた緊急警報に飛び上がって、二階の宿舎から地階の事務所まで慌てて降りた。現在恒星ヤマタラスの惑星軌道に展開している2艦の戦闘艦の一つ、ジャラス一号からの警報であり、すぐ信号が入る。

 重力波通信であるため、音声は出ないが、英語の文字の羅列として出力される。当然ヤタガラ星防衛軍の主要部署にも並行して出力されているが、そちらの出力は当然ヤタガラ語である。秋谷には出力された画面を読んでいく。

「座標〇〇、××、▽▽付近でジャンプ信号キャッチ、〇〇時に3艦のジャンプ船が出現した。
 各艦の重量は約百メガトンであり極めて巨大であるが、艦の大きさについての光学測定は2時間後になる見込み。ヤマタラス(ヤタガラ星の星系の恒星の名称)に対して相対速度千㎞/秒の相対速度で近づいており、ヤタガラ星に向けて8Gで加速中。重力波通信で所属を問い合わせると共に、加速の中断を要求している」
 そこで、一旦出力は止まった。

 ヤタガラ星は自転時間が28時間であり、それを50等分して時間の単位としているが、秋谷は基本的に地球の時間で生活して、現地時間と地球時間を示している端末機で時間を把握している。
 ここ、ヤタガラ星から地球まで約340光年であり、このヤマタラス星系は以前のラザニアム帝国の版図の中でも銀河中心に寄った端にあたる。
 地球とは交易は当然あり、ヤマタラス星の特産の果物や香料等の農産物、珍しい海産物や、極めて発達している通信系の機器の輸出を行い、地球からは核融合発電機や重力エンジンを輸入していてる。

 地球年での1年間の貿易高は百億DCになる。ヤタガラ星へ居住している地球人は秋谷と妻で部下の純子2尉27歳の2名、それに地球連邦大使館の大使以下5名を含めても30人しかいない。あとの23人は民間の貿易会社の社員と、地球に通信会社からの調査のためのエンジニア6名である。

 今の時間は勤務時間外であるが、宿舎兼事務所ではそういうことは言っていられない。風呂上がりの妻が降りてきたのですぐ頼む。
「おーい、純子、今から大使館に連絡を入れて、すぐ地球にも連絡するからこの画面を見ていくれ」

 普段だったら、風呂上がりの妻に鼻の下が長くなるところだが、今日はさすがに緊張していてそれどころではない。
「わかった。見ていて、なにか連絡があると知らせるわ」

 順子の返事に秋谷は端末で大使のジョージ・トンプソンを緊急に呼び出して連絡する。
 大使はものの1分以内に返事をする。
「おお、ヤスヒコ何があった?」

「超巨大船、各百メガトンの艦が3隻、距離8億㎞の軌道への出現。現在このヤタガラ星に向かって秒速千㎞で接近中、なお8Gの加速中です」

「わかった。地球防衛軍本部に連絡して、大使館の意向として緊急出動艦隊を派遣するように要請してくれ」
 トンプソンは沈着に応じる。

「連絡が入り始めたわよ」
 順子の声に康彦は大使に伝達する。

「あ、今次の連絡が入っています」
 大使に連絡するが彼ははこちらに向かうようだ。

「わかった、この端末はもっているので、順次知らせてくれ。私は今からそちらに行く」
 事務所兼宿舎の大使館からコミューターで5分足らずだ。

「純子、端末でトンプソン大使に通信内容を順次連絡してくれ。おれはいまから地球に超空間通信で連絡する、トンプソンは緊急出動艦隊を要請してくれとのことだ」
 康彦の言葉に「わかった、連絡するわ。艦隊を呼ぶのは正解のようね」
 順子はそう言って大使を呼び出して話し始める。

 康彦は厳重にロックされた部屋に入って、超空間通信機を起動して、地球本部の駐在事務所受信部を緊急重要報告として呼び出す。

 これに対してすぐに返事があった。
 「こちら、駐在連絡事務所受信部ジョウ・キガリ中佐だ。緊急重要報告とはなんだ」

「今最初の一報をデータで送ったが、その後もデータを順次軌道上の艦からの連絡をリアルタイムで送るようにする。百メガトンの超巨大艦がこのヤタガラ星からの距離8億㎞に出現して接近中だ。当ヤタガラ星駐在大使、ジョージ・トンプソン氏は緊急出動艦隊を要請してもらいたいとのことです。
 この点は、大使がすぐ来るので確認できるでしょう」

 順子が見ているスクリーンに連絡が送られてきているので、康彦はそれをフォローする。
「うん、そっちにも受信端末からの情報を送っているが、ラザニアム帝国語で重力波通信をしてきているようだな。相手は、シーラムム帝国の第15宇宙艦隊の第二分隊の戦艦スムズラス二号以下3隻と名乗っています。 これは、昔の砲艦外交ですな。圧倒的な戦力を見せつけて、威圧して外交を始めようというもので、たぶん属国化あるいは植民地化まで視野にあるでしょうな。

 ほう『本分隊は、2百個もの星々を統べるシーラムム帝国皇帝陛下の命により、貴ヤタガラ星との友好修好条約を結ぶべく飛来した。本艦には全権大使として、アムガ・マズラ・サシカーマル閣下が乗船されている。直ちに、訪問カウンターパートを選定して交渉に入れるように準備をするように』とのご命令ですな。

 また『わが艦体は、ヤタガラ星から3億㎞の距離で3日間待つが、何のリアクションもない場合にはヤタガラ星に上陸艇を送る』とのことです。この状況では、防衛軍ヤタガラ星駐在所長の、私、秋谷康彦少佐もトンプソン大使と同意見です。これは、わが同盟の十分な戦力を見せないと略奪等の行為もありうる、と思われますし、あれだけの艦をもってきているということは威嚇しようという意図がありありと見えます」

「秋谷少佐、了解した。即時本部にこの情報及びトンプソン大使と貴官の意見を添えて報告する。いずれにせよ。この通信器で連絡を取れるところに居てくれ」

 ジョウ・キガリ中佐が答え、即時に内部通信を始める。これほど重要な連絡は、まず館内放送による。
「緊急連絡、全職員は直ちに、緊急連絡事項をチェックのこと」

 この放送によって、館内に居る職員はただちに自分の端末をチェックして連絡事項、巨大異星船の出現を知ることになるのである。続いてかれは、総司令官室ジャックリン・セイバー大将に連絡すると、秘書官から直ちに大将に繋がり応答がある。

「セイバーだ。内容は了解した。直ちに即応部隊を編成する」
 さらに彼は即応部隊の当直士官に連絡する。

「ヤタガラ星系の異星船の出現に応じて、まず即応部隊百艦を最短時間でヤタガラ星系に発艦させよ。次いで、後200の艦隊を編成して続かせろ」

「了解しました」
 当直士官が答える。
 さらに、セイバー大将は地球連邦の阿賀大統領に連絡し、各友好諸国の在地球大使館、さらに各惑星の地球防衛軍の駐在所に連絡する。

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