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第4章 人類の宇宙への進出

4.16 原住人類シャーナ人の選択1

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 スズリズ・マテルスは、三十日ぶりになる洞窟の入り口に来ていた。そこまでは、大型の貨物車で来ており、それに小型の重力エンジンキャリヤーを積んできたのだ。この大きさのキャリヤーであれば十分洞窟の中でも進めるので、それを選んだ。とは言え、なにしろ彼女のグループが住んでいる洞窟まで5㎞ほどもあるので荷物を持ってはなかなか大変であるのだ。

 彼女の乗っているキャリヤーには、息子のムーズスも回復して後部座席の彼女の横に座っており、運転者としてジュリアスの同僚のマーク・キガンガが前席に座っている。一緒に来る地球人として彼らを選んだのは、かっての征服者であったラザニアム帝国人の肌が白かったのは知られているので、褐色あるいは黒い肌のケニア人が良かろうということになったのだ。洞窟をゆっくり進みながら、スズリスは地球人に助けられてからの十五日間のことを思い出していた。

 まずは、息子は治療を受けてからはどんどん回復して、十日後には歩けるようになってきたし、自分の捻挫も同じころには良くなってきて殆ど痛みを感じずに歩けるようになってきた。
 その間に、リッパード・コナーとは何度か交渉して、大体の合意点に達していた。それは、まず彼らの居住地区は、なにぶん人口が全部で千人足らずあることを考慮して、この大陸の海辺にラザニアム帝国人が残した千戸程度の建物がある集落があるので、そこを住めるように整備することになった。

 またその周辺の大体半径10㎞の山麓に囲まれた範囲をとりあえずのかれらのテリトリーとした。さらには、その地区を含んだ30万㎢は彼らの領土として確保することにして、将来の発展余地を残しておくことになった。なお、最初のテリトリー内の都市インフラ、農場、漁港等の開発については全面的に地球側が行うことになっている。

 さらに、シャーナ人への基金として個人分一人当たり百万クレジット(CD)の合計十億CD、及びシャーナ人自治政府として百億DCが積み立てられることになっている。コナーは地球のある事例を述べてその基金を賢く使うこと、及び今後のシャーナ人が自立して生きていくために、一つの示唆を与えている。

 それは、太平洋に浮かぶナウル共和国という小島の話であり、かってはその島には2千人ほどの人が住んで主として漁業を営んで暮らしていた。しかし、その島全体がリン鉱石すなわち鳥の糞の化石で出来ていることがわかり、世界中からその鉱石を買いに集まってきた結果、ナウル人には莫大な金が流れ込んできた。

 1985年ナウル共和国の一人当たりのGDPは世界一になり、住民の大部分が公務員になり、さまざまな仕事は島外から来た人々がやるようになって、自分たちでは事実上何もしなくても給料が出るようになった。 
 そうなると、かって漁業で暮らしていた時の引き締まった体は肥満でぶよぶよになり、30%以上もの人が糖尿病患者になってしまった。しかも、小さな島の資源は何時までもなく十数年後には無くなってしまうことは明らかであったので、ナウル政府としては様々な手は打った。

 一つは豊富な資金で自前の航空会社を作り、太平洋全域にホテルを多数建設したがノウハウが乏しく結局赤字経営であり、さらにほかにも様々な投資をしたが、多くは怪しげな投資話に騙されてリターンは全くなく、リンが枯渇する頃には政府の金も無くなってしまった。

 無論、島外から働きに来た人々は去っていき、残ったのは、金もなくもはや漁をする体力もスキルも失った病気だらけの人々である。現在では失業率は90%にもなり、海外からの援助に頼ってぎりぎりの食べるだけの生活をしている。今は、所得3倍増計画の中でこの状態を叩きなおすように動いてはいるが、そのまま放置すれば間違いなく滅びるところであった。
 この実話はスズリスにも大きな教訓になって、その後のシャーナ自治政府の政策に生かされるのであった。

 グニャグニャ曲がっている洞窟を、ライトで照らしながら壁や天井にぶつからないようにぎりぎりでゆっくり進んでいくと、やがてキャリヤーは彼女のグループの洞窟への隠し扉に近づいた。辺りはぼんやり明るいが、どうやらヒカリゴケの類が光っているようだ。扉そのものが狭く、そこからはキャリヤーでは抜けるのは無理であり、その後は歩きになるが、距離はもう1㎞もない。

 キャリヤーのライトを消して、スズリスが岩の影に置いてあったハンマーのようなもので岩の一部をある調子で叩くと、少しして岩の一部が開いて光が差し込み目が覗く。
「ああ、スズリス、おおムーズスもか。帰ってきたのか?」
 スズリスは、その除き窓から見えるところに息子のムーズスを立たせていた。

「ええ、マゲダン、開けて頂戴。皆に知らせがあるのよ」
「ああ、今開けるよ」

 まもなく2m四方位の扉がギーと言う音を立てて開く。扉は内側に鋼製のフレームがあって、表面を洞窟の壁に似せて、壁にぴったり合うように作られているので、外の苔の明るさではちょっと見つけられないだろう。中は、電球があって辺りを照らしているがあまり明るいものではないものの、外のヒカリゴケよりはましだ。

 息子の手を引いて中に入ったスズリスが、大きなリュックを背負っているので、ゲートを閉めながら見張りのマゲダンは目を見張る。
「なんだ、その荷物は?」

「食料よ。このことで皆に話をするの。それではね」
 スズリスが答え、ムーズスの手を引いてさっさと歩いて行く。マゲダンは当然見張りで残るのだ。

 キャリヤーはゲートから見えない位置で待ちである。中には、一定の間隔で電球がぶら下がっており、電球周辺を除くと薄暗いが歩くのには支障がない。両側にキノコの栽培の棚がならんでいるが、これは住民の貴重な食料なのだ。やがて、道は天井の高さが30m、直径が150mほどに及ぶ巨大な広場に出るが、そこには天井の無い仕切りが沢山あって通路が縦横に配置されていて、中央には径30mほどの円形の広場がある。

 人々があちこちにいるが、目に入る大体の人はだらりと座り込んでいる。中央の広場には50人ほどが集まり、一人が何かしゃべっている。大洞窟の中にはやはり電球が沢山吊るされているが全体に薄暗い。しかし、壁全体には絵がかかれており、あちこちに岩を彫った彫刻が飾られているのがわかる。シャーナ人はこうした絵画、彫刻や様々な造形を作るのが大好きなのだ。その家族にも先祖や父母が作ったそうした宝物が沢山ある。

 スズリスが近づいていくと、しゃべっていた男が彼女を見て、一旦しゃべるのをやめてそのガラガラ声でニヤニヤしながら言う。
「おお、スズリス、俺のものになる決心がついたか」

 スズリスはフン!と鼻で笑って彼に言う。
「ガゼン、相変わらずつまんない話をしているね。だれが、お前のような強姦やろうと」
 吐き捨てて、大声で皆に呼びかける。

「皆!私は今のこの惑星の支配種族に会ってきた。かれらは前の支配種族ラザニアム人帝国人とは違うわ。かれらは私たちに住居を与えて、住むのを助け、快適に住むところを用意して、さらに多額の彼らのお金を渡すと言っています。その代わり、私たちとこの惑星共存したいと。つまり、私たちの先住民としての権利を認めています。とりあえず、ここに少量ですが食べ物を持ってきました。まず食べてみてください」

 筋骨たくましいガゼンが、怒りで真っ赤になって叫ぶ。
「このすべため!誰の許可でつまらん嘘をしゃべっているんだ。許さん!」
 彼は、そばに置いてあった棍棒を持って走って殴りかかろうとする。

 しかし、スズリスはホルスターに入れていた電磁銃をさっと引き抜いて、棍棒を振り上げて迫って来るガゼンを撃つ。電磁パルスがまぶしく走ってガゼンを包み、かれは一瞬で硬直して遅いかかった勢いのままドンと倒れる。目の前にガゼンが倒れたのを見て、中年の男が、足でつつくが身動きもしない。

「死んだのか?」
 男が聞くが、スズリスが笑って言う。
「殺しても良かったのだけどね。気絶しているだけよ。2時間もすれば目を覚ますわ」

 それから、ガゼンが立ってしゃべっていた台に載って、皆に呼びかける。
「さあとりあえずこれだけだけど、その種族地球人の贈り物よ。特に子どもには美味しいよ。皆おいで!」
 スズリスは大声で呼びかけるとわらわらとボロをまとった人々が集まってくる。持ってきたのは、かさの割にカロリーの高いチョコレート類だ。約十五㎏ほど持ってきたが、約三百人に分けると忽ちなくなるが、各々一人で食べるには十分な量だ。

 子供はとりわけ、大喜びで夢中で食べている。甘いものなど食べたことのない子も多い。夢中で惜しみながらも食べている皆を見ながらスズリスは大声で言う。
「どう、おいしい?」

 皆は頷くかあるいは「美味しい」と声に出して言う。
「ここの生活は、ひどいものです。でも、前はラザニアム人がいたから外に出て見つかると殺されるので、外では暮らせませんでした。でも、ラザニアム人は戦争で負けて、この星から出て行って、ラザニアム人を負かした別の人類である地球人が来ました。
 この4年くらいで沢山の人が来て住んでいます。地球人は、私たちがこの星の持ち主であったことを認めています。でも、残念ながら私たちはこのグループの300人と他の2つのグループを入れても全部で千人足らずです。
 ですから、この星を渡されて地球人が帰っていったら、私たちだけでラザニアム人に破壊される前の生活を取り戻すことは無理です。どうしても、地球人の力を借りる必要があります。

 彼らと共存を選択すれば、私たちは、すぐに、そう明日にでも前の世界のような家に住んで、食べ物も十分あって、いろんな便利なものに囲まれて暮らすことができます。一方で、もし私たちの権利を主張して地球人を追い出したら、今この状態から始める必要があります。
 どうです。地球人の力を借りながら暮らすということでいいですか?」
 スズリスは一気に言う。

 子どもは叫ぶ。
「こんなものが食べられるようになるんだったらいい!」
 しかし、大人は顔を見合わせているものが多い。

 そこで、ラザニアム人攻撃の前の生活を知っている年配の女性が叫ぶ。
「わたしは、もうこんな生活はいやよ。前の生活に戻りたい。みな、そうでしょう?汚いぼろしか着るものもなく、食べるのもようやくだ。私は、前の生活にすぐ帰れる方法に賛成!みんないいわよ。きれいな服を毎日着かえて、毎日湯を浴びて、好きな食べるものを作ってもいいし、食べに行ってもいい。
 またこんなお菓子は好きなだけ買えるわ。でもお金が要るけれど、お金のことはどうなっているの?」

 これにスズリスが答える。
「ええ、個人あて、つまり皆に一人当たり、そうですね一人では30年間くらい暮らしていけるお金、前の世界だと〇〇位が積み立てられます。また家は家族ごとに無料でもらえます。さらに、加えて私たちが作る政府にはその皆がもらえる総額の十倍のお金が基金として積み立てられます。
 もう一つ言うと大体80㎢の土地を農地や漁港など、必要ないろんな設備を含めて整備して与えられ、さらに周辺30万㎢の土地が私たちの領土として残されます」

 それを聞くと、皆が口々に「賛成!」と叫ぶ。
「では、いいわね。洞窟の外まで出てくれれば、ここの皆を乗せる乗り物を用意します。大体ここから2時間くらい私たちが住む場所までかかるそうです。明日の朝出発にしましょう。ちょっと外に載ってきたキャリヤーが待っているので、その段取りをしてきます。それと、すこし食料を持ってきましたので今晩の食料を少し持ってきましょう。結構美味しいですよ。お湯があれば食べれるものですかから、簡単です。ただ嵩張るので5人ほど手伝ってください」

 そう言って、スズリスは待っていたジュリアスとマーク・キガンガにいきさつを話して、明日300人分のバスを用意するように頼む。またキャリヤーに積んでいたインスタント麺や様々な食品の箱を持って洞窟に帰る。
 ほぼ、毎日キノコ漬けの皆には、持って行ったインスタント食品は大好評で、特に調味料を使った料理をほとんど食べていない子どもには極めて新鮮なものであった。

 やがて、ガゼンが目をさまして、わめき始めるが手と足を縛られているので、芋虫のように暴れるだけだ。
「黙って!静かにしなさい」
 電磁銃を突き付けてスズリスが叫ぶ。ようやく静まったところで、スズリスは地球人との取り決め明日移動することを説明する。

「ここに残りたいなら、それでもかまわないわ。一人だったら、食料も十分でしょう」
 冷たく言うスズリスの言葉を聞いて、「レナン、サザク、ルウラズ、サザラ、お前たち、こいつをやっつけろ!」とハーレムに囲っていた4人に声をかけるが、冷たく返される。

「誰が、あんたの言うことなんか聞くか。本当にスズリスの言う通りであんたは強姦魔だ。ここで、一人で暮らせ!スズリス、こんな奴は連れて行くことはないよ。私はこいつが一緒に行くことは反対!拒否する!」
 女の一人、ラナンが吐き捨てるように言う。

「そうね、かれは前の世界だったら犯罪者よね。また、どうも反省しているようでないものね。でも置いて行くとほかのグループが迷惑するかも知れないから、今日のうちに他のグループにも連絡をとっておきましょう」

 その後、スズリスは他2グループの洞窟も訪れ、話をして地球人との共存、移住に合意をとった。他グループも地球人の信じられないほど寛大な条件に、共存に大賛成であった。しかし、一つのグループはガゼンのような暴君が支配していて、スズリスに襲いかかってきたが、同様に電磁銃で打倒され、同様に縛られた。

「良かったわね。ガゼンというお仲間がいるから、2人だと生きやすいでしょう」
 倒れて気を失っている男にスズリスは声をかける。
 しかし、ガゼンとこの男ザジをどうするか話し合った結果、ザジが反対するものを閉じ込めるために作った牢に2人を閉じ込め、地球人に無人島に連れて行ってもらうことにした。

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