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第4章 人類の宇宙への進出
4.3 ラザニアム帝国遠征艦隊の進発
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予定通り、ギャラクシー型宇宙艦に超空間攻撃システムを搭載したスバルとカシオペアが完成した。当然地球頭脳と同レベルの人工知能もシステムの一部である。 合わせて、280艦のラザニアム帝国艦船を復旧した艦がガイアタイプと名付けられ、ガイア1~ガイア280までの番号で呼ばれて、地球防衛軍に加わった。
これらは、無人戦闘機を18機、有人戦闘機を2機ずつ搭載している。無人攻撃機はその後ラザニアム帝国艦船改修の段階の分析の結果、電磁波攻撃を無効化する方法が見つかったので、再度有力な攻撃機として評価されるようになったのだ。
しかし、今のところ新型無人攻撃機アークは、全力で生産にかかってはいるが二千八百機が完成したのみなので、百四十艦のガイアにしか積まれていない。今回の遠征は、スバルとカシオペアの他に百艦のガイア型が随伴することになっている。
ギャラクシー型艦は二百名、ガイア型250名の乗員の乗員が必要なので、司令部要員も入れて2万6千人に達する艦隊の要員が乗り組んでいる。
一方でガイア型17艦が補修艦とし整備されて、6艦が遠征軍に同行している。さらに、他11艦は3分隊に別れて、各分隊には各5艦のガイア戦闘艦が護衛兼回航要員船として随行して「せいうん」が以前に、他星系で撃破したラザニアム帝国艦船120艦のサルベージに向かっている。
この遠征軍の出発に2カ月先立って、早めに修理が出来た30艦が塗装も帝国艦のままに変えず、偵察に向かっており、これらが、撃破した艦から入手したデータを元に帝国に残る2大艦隊の情報を超空間通信によって送ってきつつある。これらのラザニアム帝国艦船は2つの大艦隊に別れているわけであるが、当然一つの惑星に集中して配置されている訳でなく50~100艦ずつ程度でいくつかの星系に別れて配置されている。
これは、まさに各個撃破のチャンスであるが、そう甘い話は無く、さすがに太陽系遠征艦隊が全滅したのは掴んであるのであろう、大艦隊をA、Bと名付けるとAは2グループ、Bは3グループに艦艇を集中してしまっている。
さらに、偵察艦が掴んだ中でも、いくつかの惑星で戦闘艦が続々と作られて新しい艦がこれらの艦隊に加わっている。やはり、時間は彼らの味方であるという見方は正しく、出来るだけ早期の遠征艦隊の派遣は正解であるようだ。しかし、われに超空間攻撃システムがあり、彼らがそれを防ぐ方法を完成しない限り、少々敵艦の数が増えようが大差はない。
しかし、彼らの艦隊を滅ぼした後は、国力で2百倍勝る帝国の建艦能力を破壊しなくてはならず、さらに現状の所では自らも防ぐ方法のない超空間攻撃システムの開発を何としても防止する必要がある。
戦後をどうするかの、こうした問題は、G7+1の会議でも話し合われた。
もっとも解決が容易な方法は、ラザリアム帝国を住民ごとに滅ぼしてしまうことであるが、これは手段の一つとしては提示されたが、さすがにロシアが賛成しただけで他には賛同するものはなかった。
しかし、数十の種族を滅ぼしてその惑星を自分のものにしているという悪辣さの代償は払わせるべきというのは、一致した意見であり、結局移住に必要な相当な時間は見てやるとしても、他の種族を滅ぼして奪った星55は全て取り上げるという方針が決まった。
また、侵攻を跳ね返して独立を保っている惑星アサカラとは友好を結ぶこと、また奴隷化された星35個はとりあえず帝国の駐留軍を追い払い、独立と自立を援助するという方針が決まった。
今回は遠征軍の役割りは、2大艦隊を滅ぼすことと、主要な戦闘艦の工廠を破壊することである。 大艦隊Aには遠征艦隊Aとして防衛軍の副司令官の西野大将が艦隊司令官となり、超空間攻撃システムを積むスバルを旗艦としてガイア12-61の50艦が随伴して攻撃に当たる。
大艦隊Bには遠征艦隊Bとしてアメリカ軍の海軍出身のマイケル・ジョナー中将が司令官となってカシオペアを旗艦として、ガイア62-一一一の50艦が随伴して攻撃に当たることとなった。
両遠征艦隊は、2024年四月八日に出発した。
牧村恵一は、中学校の学校の二年三組の教室のテレビでその出発の光景を見ていた。今の中学校以上の学校は教室に大スクリーンがあって、先生は基本的にそのスクリーンに講義内容を写して授業を進める。先生が何か書く場合は教壇にあるボードに書き込めばそのままスクリーンに映るようになるし、生徒が発表の場合には、教壇の脇のボードに書き込む。
今日の、ラザリアム帝国への遠征艦隊の出発は、間違いなく歴史に残る出来事であるため、こうしてテレビ電波を取り込んで生徒皆に見せている。場面は、月軌道付近の遠征艦隊Aの旗艦の近くにいるガイア型の艦から写した旗艦のスバルを中心にした情景であり、遠景に帯同する艦艇が見える。しかし、非常に遠いため余り見栄えがするものではないが、旗艦スバルははっきり見える。
「すげえな。俺は絶対宇宙艦隊に入るぞ」
「俺だって、どっちにしても宇宙に出て行くんだ」
「私も宇宙に行きたいわ」
その内がやがやと皆がしゃべり始め、何を言っているか判らなくなる。
村上先生が、「もういいかな」と画面を消して皆に向かって話す。
「皆見たように、今日ギャラクシー型の艦と50艦ずつのガイア型の艦がA、Bの2つに分かれて、地球から5億㎞の距離まで加速して超空間ジャンプによってラザニアム帝国領内に遠征します。
目的は、帝国にいるA、B大艦隊を滅ぼすことです。A、B艦隊は君たちも知っているように、地球に侵攻してきた620隻の大型戦闘艦の艦隊と同じ規模のもので、極めて強力な艦隊です。
しかし、幸い地球には超空間攻撃システムというものがあるので、これらの2つの艦隊を滅ぼすことは出来るでしょう。敵とはいえラザニアム帝国の艦には1隻について、大体250人のラザニアム人が乗っているので、全部で30万人位の人になるこれらの人々を殺したくはありません。
しかし、ラザニアム帝国は今まではっきりしているだけで、60以上の種族それぞれ数億から数十億人いたと思われる人々を皆殺しにしています。
私たちも、最初の十隻の戦闘艦による侵攻の時に、重力エンジンを積んだ戦闘艦がなかった滅ぼされていたでしょう。さらに、2回目の時に圧倒的な敵の戦力の前に超空間攻撃システムがなかったら、やはり滅ぼされていたでしょう。だから、私たち地球人が生き延びるには、彼らの攻撃してくる牙をなくしてしまうしかないのです。
今回の遠征艦隊による、敵の大艦隊の殲滅は彼らが突き付けてきた選択を私たち自身が生き延びるために選んだものです。今日の遠征艦隊の出発の光景をよく覚えておいてください。これは間違いなく、歴史にのこる光景ですから」
教師はこうして生徒を前に熱を込めて言った後、口調を変えて皆に知能改善処置について話を始める。
「君たちも新聞やテレビで見て知っているでしょうが、今度全世界で12歳以上、20歳以下の人たちを対象に知能改善処置という一種の治療をやることになりました。
この処置は一人について一ヵ月かかりますが、その間に注射を5回と、音波照射という処置をやはり5回行います。皆も知っての通り、牧村君がすでにこの処置を受けており、その効果は皆も知っての通りです。14日から始めて、大体3カ月で終える予定になっています。この処置法は日本で開発されたので、日本が一番早く、一年以内には対象者全員の措置が終わる予定になっていますが、世界的には、大体3年から5年かかる予定です。
君らも牧村君から大体のことは聞いているでしょうが、牧村君、皆に自分の経験を話してくれないかな」
恵一は「はい、わかりました」と言って立ち上がる。
「僕は3ヵ月前から処置を受けました。1週間に1回、頭にヘルメットを被って音波照射と血管注射です。これを5回繰り返すわけですが、音波照射は十分くらいでその間は痛いとかそんな嫌な感じは無くて浮き立つような気がしますが、血管注射はちょっと痛いです。
2回目の処置の後位からはっきり違いが判ってきます。例えば、本を読んでいても今まで意味が取りにくくて何度も繰り返し読んでようやく理解していたものが、一回ではっきり意味が分かるようになります。
また、テレビを見ていても隅々まで意識が行くというか、今までは全体をぼんやりしか感じていなかったのに、例えば服の形とか色とかまで意識が届くようになります。
しかし、知らないことは知らないので、かえって知らないことを強く意識するようになってきましたね。
その意味では教科書は順を追って書いているので大変理解しやすいです。だから、僕は中学の教科書の1年のものと今年勉強する2年のものは全部読みましたし、3年のものも手に入れてもらって全部読んで理解して大体は覚えたと思います」
「ええ!3年の教科書まで!」
「ええ、すごい!」
がやがやと驚きの声が上がる。
「牧村君、今から処置を受ける皆になにかアドバイスは無いかな?」
村上教師の言葉に恵一は答える。
「実は、僕は処置を受けた5人の中で一番、知能指数の上りが大きかったのです。
これは、僕が一番知能を上げたいと願っていたからではないかという話でした。実際、僕は前も一生懸命勉強はしていたのですが、余りその割に成績は上がらなかったのです。僕の義理の兄さんは皆も知っている誠司さんで、僕はすごく尊敬していて何とか誠司さんと一緒に仕事がしたかったのですが、でも僕の頭では無理だとあきらめていたのです。
でも、たまたま知能を伸ばす方法が出来て、試験をするという話を聞いて、一生懸命お願いして最初の被験者に選ばれたのです。だから、特に音波処方の間は『頭が良くなれ』と一生懸命思っていました。だから、皆もそうすれば効果が高くなるかもしれないよ」
恵一は一旦言葉を切って皆を見回して続ける。
「それから、確かに処置を受ければ知能は高くなります。さっき言ったように、理解は早くなり、覚えは良くなり、いろんなことに気が付くようになります。
それだけでも大変なことですが、それより、折角良くなった頭を使えばずっと効率よく勉強ができるし、早く大量に物事が覚えられさらに深く理解できます。だから、それ以前より以上に頑張って時間をかけて勉強しなければ、この方法を開発した人にもうしわけないと思うのです。
だから、僕は前よりずっと自分で勉強するようになりましたし、何とかもっと高度なことを勉強したいのです。そのことを、処置をしてくれた大学の人にも言って、皆には申し訳ないけれど、西山大学に今度新しく出来るコースに入れてもらえることになりました」
恵一の言葉に再度「ええ!」「そんなのあり?」などと教室はがやがやしゃべる声に包まれた。
教師の村上がそれを止める。
「静かに!皆、さっきの牧村の話で一生懸命『頭が良くなれ』と願うと効果が高いということはよく覚えておいて皆も実行しなさい。
それから、さっきの牧村君の話は事実です。この処置で知能の上がった後に、今の教科書で今のやり方で教えるのは無駄すぎるという話があって、処方を受けた後の授業の仕方をどうするか今国で揉んでいるそうです。
とりあえず、処方を受けた牧村君たちの5人は皆西山市居住ですから、試験的に西山大学でコースを作って教えるそうです」
教師の言葉に「ええ!西山大学、いいなあ」「ずるいぞ」などとの声が出るが、確かに今や西山大学は日本、いや世界最高峰の大学になっているから、そういう声が出るのもまあ当然か。
ともあれ、少年・少女の知能を向上させた際にどう教育するか、社会にどう溶け込ませるかは今後の大きな課題であるが、すでにスタートを切った以上試行錯誤でやっていくしかないのである。
遠征艦隊Aが、2つの艦隊に別れていたラザニアム帝国A大艦隊の艦艇712艦のうち、大部分を撃破し、残り10艦になった段階から降伏勧告を出した始めたのは出発から1ヵ月を過ぎた後である。
殆どの艦が拒否する中で1艦が降伏に応じたが、これにはすでに無人攻撃機が10機レールガンで狙いをつけて張り付いており、すでに、この艦からの攻撃は止んでおり、降伏条件に含まれていた、ビーの自爆も終わっている。
これらは、無人戦闘機を18機、有人戦闘機を2機ずつ搭載している。無人攻撃機はその後ラザニアム帝国艦船改修の段階の分析の結果、電磁波攻撃を無効化する方法が見つかったので、再度有力な攻撃機として評価されるようになったのだ。
しかし、今のところ新型無人攻撃機アークは、全力で生産にかかってはいるが二千八百機が完成したのみなので、百四十艦のガイアにしか積まれていない。今回の遠征は、スバルとカシオペアの他に百艦のガイア型が随伴することになっている。
ギャラクシー型艦は二百名、ガイア型250名の乗員の乗員が必要なので、司令部要員も入れて2万6千人に達する艦隊の要員が乗り組んでいる。
一方でガイア型17艦が補修艦とし整備されて、6艦が遠征軍に同行している。さらに、他11艦は3分隊に別れて、各分隊には各5艦のガイア戦闘艦が護衛兼回航要員船として随行して「せいうん」が以前に、他星系で撃破したラザニアム帝国艦船120艦のサルベージに向かっている。
この遠征軍の出発に2カ月先立って、早めに修理が出来た30艦が塗装も帝国艦のままに変えず、偵察に向かっており、これらが、撃破した艦から入手したデータを元に帝国に残る2大艦隊の情報を超空間通信によって送ってきつつある。これらのラザニアム帝国艦船は2つの大艦隊に別れているわけであるが、当然一つの惑星に集中して配置されている訳でなく50~100艦ずつ程度でいくつかの星系に別れて配置されている。
これは、まさに各個撃破のチャンスであるが、そう甘い話は無く、さすがに太陽系遠征艦隊が全滅したのは掴んであるのであろう、大艦隊をA、Bと名付けるとAは2グループ、Bは3グループに艦艇を集中してしまっている。
さらに、偵察艦が掴んだ中でも、いくつかの惑星で戦闘艦が続々と作られて新しい艦がこれらの艦隊に加わっている。やはり、時間は彼らの味方であるという見方は正しく、出来るだけ早期の遠征艦隊の派遣は正解であるようだ。しかし、われに超空間攻撃システムがあり、彼らがそれを防ぐ方法を完成しない限り、少々敵艦の数が増えようが大差はない。
しかし、彼らの艦隊を滅ぼした後は、国力で2百倍勝る帝国の建艦能力を破壊しなくてはならず、さらに現状の所では自らも防ぐ方法のない超空間攻撃システムの開発を何としても防止する必要がある。
戦後をどうするかの、こうした問題は、G7+1の会議でも話し合われた。
もっとも解決が容易な方法は、ラザリアム帝国を住民ごとに滅ぼしてしまうことであるが、これは手段の一つとしては提示されたが、さすがにロシアが賛成しただけで他には賛同するものはなかった。
しかし、数十の種族を滅ぼしてその惑星を自分のものにしているという悪辣さの代償は払わせるべきというのは、一致した意見であり、結局移住に必要な相当な時間は見てやるとしても、他の種族を滅ぼして奪った星55は全て取り上げるという方針が決まった。
また、侵攻を跳ね返して独立を保っている惑星アサカラとは友好を結ぶこと、また奴隷化された星35個はとりあえず帝国の駐留軍を追い払い、独立と自立を援助するという方針が決まった。
今回は遠征軍の役割りは、2大艦隊を滅ぼすことと、主要な戦闘艦の工廠を破壊することである。 大艦隊Aには遠征艦隊Aとして防衛軍の副司令官の西野大将が艦隊司令官となり、超空間攻撃システムを積むスバルを旗艦としてガイア12-61の50艦が随伴して攻撃に当たる。
大艦隊Bには遠征艦隊Bとしてアメリカ軍の海軍出身のマイケル・ジョナー中将が司令官となってカシオペアを旗艦として、ガイア62-一一一の50艦が随伴して攻撃に当たることとなった。
両遠征艦隊は、2024年四月八日に出発した。
牧村恵一は、中学校の学校の二年三組の教室のテレビでその出発の光景を見ていた。今の中学校以上の学校は教室に大スクリーンがあって、先生は基本的にそのスクリーンに講義内容を写して授業を進める。先生が何か書く場合は教壇にあるボードに書き込めばそのままスクリーンに映るようになるし、生徒が発表の場合には、教壇の脇のボードに書き込む。
今日の、ラザリアム帝国への遠征艦隊の出発は、間違いなく歴史に残る出来事であるため、こうしてテレビ電波を取り込んで生徒皆に見せている。場面は、月軌道付近の遠征艦隊Aの旗艦の近くにいるガイア型の艦から写した旗艦のスバルを中心にした情景であり、遠景に帯同する艦艇が見える。しかし、非常に遠いため余り見栄えがするものではないが、旗艦スバルははっきり見える。
「すげえな。俺は絶対宇宙艦隊に入るぞ」
「俺だって、どっちにしても宇宙に出て行くんだ」
「私も宇宙に行きたいわ」
その内がやがやと皆がしゃべり始め、何を言っているか判らなくなる。
村上先生が、「もういいかな」と画面を消して皆に向かって話す。
「皆見たように、今日ギャラクシー型の艦と50艦ずつのガイア型の艦がA、Bの2つに分かれて、地球から5億㎞の距離まで加速して超空間ジャンプによってラザニアム帝国領内に遠征します。
目的は、帝国にいるA、B大艦隊を滅ぼすことです。A、B艦隊は君たちも知っているように、地球に侵攻してきた620隻の大型戦闘艦の艦隊と同じ規模のもので、極めて強力な艦隊です。
しかし、幸い地球には超空間攻撃システムというものがあるので、これらの2つの艦隊を滅ぼすことは出来るでしょう。敵とはいえラザニアム帝国の艦には1隻について、大体250人のラザニアム人が乗っているので、全部で30万人位の人になるこれらの人々を殺したくはありません。
しかし、ラザニアム帝国は今まではっきりしているだけで、60以上の種族それぞれ数億から数十億人いたと思われる人々を皆殺しにしています。
私たちも、最初の十隻の戦闘艦による侵攻の時に、重力エンジンを積んだ戦闘艦がなかった滅ぼされていたでしょう。さらに、2回目の時に圧倒的な敵の戦力の前に超空間攻撃システムがなかったら、やはり滅ぼされていたでしょう。だから、私たち地球人が生き延びるには、彼らの攻撃してくる牙をなくしてしまうしかないのです。
今回の遠征艦隊による、敵の大艦隊の殲滅は彼らが突き付けてきた選択を私たち自身が生き延びるために選んだものです。今日の遠征艦隊の出発の光景をよく覚えておいてください。これは間違いなく、歴史にのこる光景ですから」
教師はこうして生徒を前に熱を込めて言った後、口調を変えて皆に知能改善処置について話を始める。
「君たちも新聞やテレビで見て知っているでしょうが、今度全世界で12歳以上、20歳以下の人たちを対象に知能改善処置という一種の治療をやることになりました。
この処置は一人について一ヵ月かかりますが、その間に注射を5回と、音波照射という処置をやはり5回行います。皆も知っての通り、牧村君がすでにこの処置を受けており、その効果は皆も知っての通りです。14日から始めて、大体3カ月で終える予定になっています。この処置法は日本で開発されたので、日本が一番早く、一年以内には対象者全員の措置が終わる予定になっていますが、世界的には、大体3年から5年かかる予定です。
君らも牧村君から大体のことは聞いているでしょうが、牧村君、皆に自分の経験を話してくれないかな」
恵一は「はい、わかりました」と言って立ち上がる。
「僕は3ヵ月前から処置を受けました。1週間に1回、頭にヘルメットを被って音波照射と血管注射です。これを5回繰り返すわけですが、音波照射は十分くらいでその間は痛いとかそんな嫌な感じは無くて浮き立つような気がしますが、血管注射はちょっと痛いです。
2回目の処置の後位からはっきり違いが判ってきます。例えば、本を読んでいても今まで意味が取りにくくて何度も繰り返し読んでようやく理解していたものが、一回ではっきり意味が分かるようになります。
また、テレビを見ていても隅々まで意識が行くというか、今までは全体をぼんやりしか感じていなかったのに、例えば服の形とか色とかまで意識が届くようになります。
しかし、知らないことは知らないので、かえって知らないことを強く意識するようになってきましたね。
その意味では教科書は順を追って書いているので大変理解しやすいです。だから、僕は中学の教科書の1年のものと今年勉強する2年のものは全部読みましたし、3年のものも手に入れてもらって全部読んで理解して大体は覚えたと思います」
「ええ!3年の教科書まで!」
「ええ、すごい!」
がやがやと驚きの声が上がる。
「牧村君、今から処置を受ける皆になにかアドバイスは無いかな?」
村上教師の言葉に恵一は答える。
「実は、僕は処置を受けた5人の中で一番、知能指数の上りが大きかったのです。
これは、僕が一番知能を上げたいと願っていたからではないかという話でした。実際、僕は前も一生懸命勉強はしていたのですが、余りその割に成績は上がらなかったのです。僕の義理の兄さんは皆も知っている誠司さんで、僕はすごく尊敬していて何とか誠司さんと一緒に仕事がしたかったのですが、でも僕の頭では無理だとあきらめていたのです。
でも、たまたま知能を伸ばす方法が出来て、試験をするという話を聞いて、一生懸命お願いして最初の被験者に選ばれたのです。だから、特に音波処方の間は『頭が良くなれ』と一生懸命思っていました。だから、皆もそうすれば効果が高くなるかもしれないよ」
恵一は一旦言葉を切って皆を見回して続ける。
「それから、確かに処置を受ければ知能は高くなります。さっき言ったように、理解は早くなり、覚えは良くなり、いろんなことに気が付くようになります。
それだけでも大変なことですが、それより、折角良くなった頭を使えばずっと効率よく勉強ができるし、早く大量に物事が覚えられさらに深く理解できます。だから、それ以前より以上に頑張って時間をかけて勉強しなければ、この方法を開発した人にもうしわけないと思うのです。
だから、僕は前よりずっと自分で勉強するようになりましたし、何とかもっと高度なことを勉強したいのです。そのことを、処置をしてくれた大学の人にも言って、皆には申し訳ないけれど、西山大学に今度新しく出来るコースに入れてもらえることになりました」
恵一の言葉に再度「ええ!」「そんなのあり?」などと教室はがやがやしゃべる声に包まれた。
教師の村上がそれを止める。
「静かに!皆、さっきの牧村の話で一生懸命『頭が良くなれ』と願うと効果が高いということはよく覚えておいて皆も実行しなさい。
それから、さっきの牧村君の話は事実です。この処置で知能の上がった後に、今の教科書で今のやり方で教えるのは無駄すぎるという話があって、処方を受けた後の授業の仕方をどうするか今国で揉んでいるそうです。
とりあえず、処方を受けた牧村君たちの5人は皆西山市居住ですから、試験的に西山大学でコースを作って教えるそうです」
教師の言葉に「ええ!西山大学、いいなあ」「ずるいぞ」などとの声が出るが、確かに今や西山大学は日本、いや世界最高峰の大学になっているから、そういう声が出るのもまあ当然か。
ともあれ、少年・少女の知能を向上させた際にどう教育するか、社会にどう溶け込ませるかは今後の大きな課題であるが、すでにスタートを切った以上試行錯誤でやっていくしかないのである。
遠征艦隊Aが、2つの艦隊に別れていたラザニアム帝国A大艦隊の艦艇712艦のうち、大部分を撃破し、残り10艦になった段階から降伏勧告を出した始めたのは出発から1ヵ月を過ぎた後である。
殆どの艦が拒否する中で1艦が降伏に応じたが、これにはすでに無人攻撃機が10機レールガンで狙いをつけて張り付いており、すでに、この艦からの攻撃は止んでおり、降伏条件に含まれていた、ビーの自爆も終わっている。
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そして自分を舐めてきた相手を、さんざん煽り倒す。
当座の目的は、ハーフエルフ巫女のルミイを実家に帰すこと。
ディストピアから、ポストアポカリプスへと崩壊していくこの世界で、マナビとルミイのどこか呑気な旅が続く。
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