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第3章 宇宙との出会い
3.14 本格侵攻の迎撃、その後
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シップ司令官が言葉を続ける。
「このように、今回の迎撃においても多数の将兵が亡くなり、傷ついたことは事実です。
今日、地球は守られました。しかし、第一次侵攻の時にも尊い犠牲が出ましたが、今回も残念ながら同様に犠牲が生じました。皆さん、地球を守るために戦場で戦った将兵に感謝を、そして亡くなった将兵の冥福を祈ってください」
司令官は目をつむり、しばし沈黙して俯く。目を開いた司令官は再度話始める。
「さて、今回の迎撃戦の現状における状況をお知らせしておきます。今回の迎撃戦において、主要な戦力と考えていた無人攻撃機によるレールガンの攻撃は、敵の電磁波による攻撃機の人工知能の無力化によって100艦程度の敵を撃破できたのみでした。
残りは、新たに開発された超空間攻撃システムによって破壊しました。
このシステムの概要については後程に技術士官から説明させますが、要するにまず、太陽系にジャンプしてきた敵艦にいわば超空間内で位置決定のできるマーカーを付けます。
さらに、そのマーカーを目がけ超空間を通して、電磁波を発生するように条件つけした核融合炉内の反応物を相手の艦内に送り込むものです。
この電磁エネルギーを限られた空間に送り込めば、中の生物は到底生きてはおられませんし、仮に敵艦が人工知能に操られていたとしても、人工知能もその機能を失います。このシステムは現状のところ、ギャラクシー級の『せいうん』にのみ装備されています」
シップ司令官は、近寄って耳打ちする脇の副官から話を聞いてさらに続ける。
「いま、再度の報告がありました。結局、敵艦は120艦が超空間ジャンプで逃亡しました。
しかし、これらの敵艦は、すでに超空間で位置特定のできるタグが付けられていますので、追跡することが可能です。我々は、敵になったラザニアム帝国の国力は地球の全部を合わせたよりはるかに高いと考えており、そのため、彼らの持つ戦闘艦は今回太陽系に侵攻したもののみでないないと思っています。
従って、敵艦は極力全滅させたいと思っていますので、すでに、超空間攻撃システムを装備した『せいうん』が追っています。現時点で報告できるのは以上です」
その後、若干の質疑にシップ司令官が応じ、司令官としての当日のマスコミへの登場は終えた。
ゆかりは星太を抱いてその番組を見ている。午後の5時にシップ司令官の話は終わって、ゆかりは我が子の手を握って拍手の形しながら話しかける。
「良かったね、星太ちゃん。地球防衛軍は勝ったのよ。お父さんが、ほとんどの敵の船をやっつけたのよ。今お父さんは残った敵を追って行っているけど、早く帰ってくるといいね」
日本政府の閣僚は、そのシーンを集まって見ているが、やはり世界中の皆と同様にシップ司令官の敵艦隊を退けた宣言に歓声があがり、一斉に拍手をした。
司令官が話を終えた後に、臨時の閣議を開いて1時間後に首相の談話を発表しているが、この時点では殆どすべての国の政府が何らかの声明を出している。
「今日、皆さんもすでにご覧になったように、地球防衛軍がラザニアム帝国の艦隊の迎撃に成功しました。
今回の、ラザニアム帝国の侵攻に関しては、地球人類の存続がかかっているものでありまして、迎撃に失敗すれば、おそらく地球は核爆弾の爆撃にさらされて人類のみならず、地球上の生命が失われたことでありましょう。
その意味で、今回の迎撃成功によって地球は守られたのです。このことについては、短い間に死力を尽くして迎撃を準備し、かつ実際の迎撃にあたり勇敢かつ理性的に戦って勝利をもたらしてくれたシップ司令官を始めとする地球防衛軍の将兵の方々に心からの感謝したいと思います。
さらに、この迎撃戦によって命を落とされた、数十名の方々の冥福を祈りたいと思います。
一方で、残念ですが現在判っているだけでも、死者の中に我が国の自衛隊員出身者が35名含まれていることをご報告しておきます。
さて、今回太陽系に侵攻した侵攻艦隊は620もの大型艦艇によるものでありましたが、防衛軍は最終的に400艦を撃破し、120の艦艇がかろうじて逃げ出したものの、大部分の敵艦を撃破したギャラクシー型一番艦『せいうん』が追っているとのことです。
これらについても、そう時間がたたないうちに、すべての敵艦を撃破したとの知らせが届くものと思っています。
なお、ここでこの点を強調しておきたいと思っています。つまり、われわれ地球人は、星間帝国である、ラザニアム帝国が我々を滅ぼすために侵攻してきたものをすでに退け、なおかつその追跡の過程で初めて恒星間ジャンプを果たしたのです。
つまり、『せいうん』の乗り組み員は恒星間の移動をおこなった最初の人々ということになります。さらに、ギャラクシー型の『せいうん』及びギャラクシーはこの日本で造られた艦であり、今回決定的な働きをした「超空間攻撃システム」も同様で、この日本で開発され建設されました。
現時点では、ラザニアム帝国が再度の攻撃を実施しても『せいうん』がある限り地球は安全です。さらに、ギャラクシー型の商船タイプが今日本政府の予算で建設されています。従って、今後この船が完成し次第、我が国も恒星間ジャンプを行って他星系の住民との交易のための交渉を始めようと思っています。
そうです。すでに宇宙時代が始まったのです。今後は、我々日本人は地球の人々の先頭を切って、かって大航海時代にヨーロッパの人々が世界に乗り出して行ったように恒星間宇宙に乗り出して行きます。
しかし、ある意味でこの大航海時代というのは、実行した人々以外にとっては不幸な時代でした。この点では、我が国は地球上でのこの不幸な経験を活かし、住んでいる人々の了解を得ながら、基本的には交易、場合によって、条件が満たされれば、開発を行っていこうと考えています。
その際に、現在は明白に敵であるラザニアム帝国とどう付き合っていくかは避けて通れませんが、これは地球防衛軍の設立を通して、今回防衛戦を戦った諸国との協議のうえでどうするかは決めていきます。
しかし、皆さん、繰り返しになりますが、我々は危機を乗りこえて、いまや宇宙時代に入ったのです。すでに、我が国は近年の画期的な発明の実用化によって急速に社会が変わっています。その上に、いままで単なる夜空の星であった世界にその気になれば行けるのです。
そのためには、いろんな技術を覚えることが必要ですし、何より大事なのは未知のことに飛び込んでいく勇気です。私は、皆さん日本人すべての、未知に飛び込んでいく勇気を持つ積極性を信じています」
首相のこの談話は、とりわけ若者の間に大きな感動を呼んだ。ラザニアム帝国迎撃戦の殆どすべての映像、データは殆ど公開されているので、中学生以上の20代までの多くの若者がそのデータを自分のパソコンに取り込んで、じっくり読み込んだ。
その記録の隅々まで自分で調べた者達がインターネットで意見のやり取りをする、巨大なラザニアム帝国迎撃戦サイトが立ち上がった。このヘビーなユーザーは公開されている限りのすべての戦闘について細部までを記憶しており、その問題点・改善点までを語れるようになっていた。
こうしたいわばオタク的な人材は、猛勉強して宇宙軍に入隊するかまたは後述する宇宙関連の技術学校に入って早々に宇宙に飛び出している。
迎撃戦から8日後、『せいうん』が帰ってきた。太陽から5億㎞の軌道に出現し、無人監視網に味方であるという信号をすぐに送っている。いまだ、太陽系内では撃破したラザニアム帝国艦サルベージの最中であり、まだ、中には入ってはいないが、これは誠司がハッチを開ける方法は自分が帰ってから、マドンナと一緒に見つけるから待てと言っておいたためである。
その方法自体は、3つ目の星系にジャンプして最後の22隻の敵艦を撃破した後に、現地で調査して解明している。そのとき誠司はマドンナをもって『せいうん』に積んでいる5人乗りの連絡艇に乗り、その中の1隻の艦に近づく。マドンナから、斥力装置の操作方法の指示が出るのでその通りに操作して、中から手動のゲートのロックを外して、斥力装置でゲートを引き開ける。
中から、空気に交じってラザニアム人の人体や様々なものが吹き出すが、それが収まったのち宇宙服を着た乗員が2名敵船に入り込む。中の動力は当然完全に死んでいるので、2人はライトで周辺を照らして映像を送ってくる。中には、さまざまなものに引っかかって吹き出されなかった、見たところ特に損傷もないきれいな数十の死体と、一見ではは特に問題なさそうな内部が見える。
中に入りこんだ乗員は、マドンナの表示を読みながら出す誠司の口頭の指示にそって、コントロールパネルらしきもののドアを開け、中の部品を取り外して持ち帰った。この調査の結果、マドンナからラザニアム船のロックの外し方、必要な部品や機材についての情報さらに修理の仕方の完全なマニュアルを出力された。
この情報から、サルベージされた艦船は、結局集められて地球の周りの軌道に乗せられて、その後修理されることになったが、物理的に破壊されていない艦292が所定の軌道に乗るまでは4ヵ月程度かかると予想された。
他星系で『せいうん』が撃破した艦の回収も行われることになったが、これは太陽系内の艦のサルベージと復元が終わってからの予定になっている。
『せいうん』は、岩木基地に降りるが、艦内のスクリーンにからは数千人の人々が待ち構えているのが見える。半分以上は防衛軍の将兵であるが、マスコミ・政府関係者を始め一般人も千人ほどが混じっている。最低限に絞ったのであるがそれでもこの人数になってしまった。
その後、地上に艦が降り立って、大歓声のなかでハッチが開き、西野空将を先頭に出てきた一行に対する記者会見等についてはすでに歴史の1ページになっている。誠司は出来るだけ目立たないように人の影に隠れて降り、こっそり抜け出して、そそくさと軍での実用化が始まった重力エンジン艇によって西山市の自宅に帰ってゆかりと我が子に会いに行ってしまった。
『せんうん』の帰還から間もなく、2025年7月、西山大学技術研究所が西山市から20km離れた山麓に開発していた宇宙港「銀河」が盛大な式典とともに開港した。
T自動車㈱等が出資した銀河工業株式会社等の宇宙船工場も稼働し始めるともに、銀河宇宙技術高等学校・銀河宇宙技術大学が開校し2026年4月からの新入生を募集すると発表した。
すべて全寮制であり高等学校は募集人員は5百人、対象年齢15歳から20歳に、大学は航法科、機関科、開発科、科学技術科、理論科で各学科はそれぞれ200、200、200、100、50名であったが、対象年齢は20歳から35歳までの間であった。
さらに、宇宙軍も銀河宇宙港に宇宙軍士官学校を設立して、航法科、機関科、宇宙建設科、戦術科、環境科としてそれぞれ200、200、200、50名を募集している。この2つの学校は隣り合っており、練習艦は共有し、教官は両校の授業を掛け持ちしている人が多いなど深い交流関係にあること明らかでああった。
ちなみに、宇宙軍士官学校については、授業料は必要なかったが、5年間の宇宙軍勤務が義務つけられ、その後5年は民間に移ることも可能ではあるが4年の学業期間の半分である、200万円×2年の支払いが必要である。
銀河宇宙技術高等学校は授業料年間百万円、大学は2百万円であるが、成績の上位十%は免除、その他についても必要に応じて奨学金が貸与される。全寮制という条件、宇宙への練習航海があるという条件からすれば格安の方である。
現状のところ、宇宙に出ていく最も確実な方法はこれらの学校に入ることなので、当然のことながら、世界中から応募が殺到した。しかし、宇宙軍士官学校は現役将校や士官学校からの転籍生を優遇しており、他の枠は4分の1程度と狭かった。
一方、銀河宇宙技術高等学校・銀河宇宙技術大学については、要綱に書かれている一節が話題を呼び、一部からは極めて強い非難を呼んだ。それは、「他国の国民について偏見を持つような教育を受けたものの受験は認めない」という表現で、記者から問われた高校と大学の事務局は次のように答えている。
「本校では、宇宙に出ていく要員の育成を目的としており、長期間閉ざされた空間で多数の人が暮らすことになります。その時に特定の国の人に偏見を持つような人物がいることは大きなリスクになります。従ってそうした意識を助長するような教育を受けた人々は受験資格がないとしました」
それに対して、対象は具体的にどこの国民か尋ねられた職員は答えた。
「明らかに内容が偏っており、また他国の人に対して偏見を持つような教科書を使っているのは中国と、韓国それから〇〇、××です。まあ、人口の多い国では中国と韓国ですね。
国の方針として、そのような教科書を使い、子供をそのように教育することは自由ですが、本校に受け入れるには弊害が大きいと判断しました。なにより、本高校・大学とも半数以上は日本人とすることは決めていますので、日本人を憎ませるような反日教育をしている国民を受け入れるのは問題があるでしょう?」
「それは差別だ!取り消せ!」
顔を真っ赤にした、中・韓の記者及び日本の若干の新聞社の記者が担当者に詰め寄る。
「これは、差別ではなくて、区別です。中国・韓国の教科書による教育は明らかに日本人に対する差別だと思いますが。困るのであれば、内容が間違っていることを認めて教科書を改めればいいのです。その場合は、見直す余地はあります」
担当者がそういうが、欧米の記者からも非難がでる。
「日本人が半分以上というのは不公平だ」
「いえ、この学校は日本人で構成する組織が作り運営していきます。基本的には日本人向けの学校なのです。しかし、世界で初めての学校でもあるし、日本人だけに限定するのも問題があるだろうということで妥協して、日本人以外も半分までは可であるとしたのです。
そういう誰でも公平に入れる学校は、本来、国際的な機関で造ればよろしいと思いますよ」
この方針に対しては、特に中韓からはその後もしつこく抗議があった。それはそうだ。彼らは重力エンジン等の技術の入手も出来ず、そうした学校にも入れないとすると宇宙開発から永遠に排除されるのだから。
しかし、これらの抗議に対し、西山大学技術開発研究所は無視を貫き、その関係の質問をする記者は記者会見等への出入り禁止にした。
このように世界的な話題になった結果、中韓の教科書の内容が世界に広報され、
「嘘だらけ、偏見だらけのこの内容だと、この教育を受けた者を排除するのはしょうがないよね」
というのが世界の見方になってしまった。
まあ、強いものに巻かれるのが多数になるのは世の常ではある。
「このように、今回の迎撃においても多数の将兵が亡くなり、傷ついたことは事実です。
今日、地球は守られました。しかし、第一次侵攻の時にも尊い犠牲が出ましたが、今回も残念ながら同様に犠牲が生じました。皆さん、地球を守るために戦場で戦った将兵に感謝を、そして亡くなった将兵の冥福を祈ってください」
司令官は目をつむり、しばし沈黙して俯く。目を開いた司令官は再度話始める。
「さて、今回の迎撃戦の現状における状況をお知らせしておきます。今回の迎撃戦において、主要な戦力と考えていた無人攻撃機によるレールガンの攻撃は、敵の電磁波による攻撃機の人工知能の無力化によって100艦程度の敵を撃破できたのみでした。
残りは、新たに開発された超空間攻撃システムによって破壊しました。
このシステムの概要については後程に技術士官から説明させますが、要するにまず、太陽系にジャンプしてきた敵艦にいわば超空間内で位置決定のできるマーカーを付けます。
さらに、そのマーカーを目がけ超空間を通して、電磁波を発生するように条件つけした核融合炉内の反応物を相手の艦内に送り込むものです。
この電磁エネルギーを限られた空間に送り込めば、中の生物は到底生きてはおられませんし、仮に敵艦が人工知能に操られていたとしても、人工知能もその機能を失います。このシステムは現状のところ、ギャラクシー級の『せいうん』にのみ装備されています」
シップ司令官は、近寄って耳打ちする脇の副官から話を聞いてさらに続ける。
「いま、再度の報告がありました。結局、敵艦は120艦が超空間ジャンプで逃亡しました。
しかし、これらの敵艦は、すでに超空間で位置特定のできるタグが付けられていますので、追跡することが可能です。我々は、敵になったラザニアム帝国の国力は地球の全部を合わせたよりはるかに高いと考えており、そのため、彼らの持つ戦闘艦は今回太陽系に侵攻したもののみでないないと思っています。
従って、敵艦は極力全滅させたいと思っていますので、すでに、超空間攻撃システムを装備した『せいうん』が追っています。現時点で報告できるのは以上です」
その後、若干の質疑にシップ司令官が応じ、司令官としての当日のマスコミへの登場は終えた。
ゆかりは星太を抱いてその番組を見ている。午後の5時にシップ司令官の話は終わって、ゆかりは我が子の手を握って拍手の形しながら話しかける。
「良かったね、星太ちゃん。地球防衛軍は勝ったのよ。お父さんが、ほとんどの敵の船をやっつけたのよ。今お父さんは残った敵を追って行っているけど、早く帰ってくるといいね」
日本政府の閣僚は、そのシーンを集まって見ているが、やはり世界中の皆と同様にシップ司令官の敵艦隊を退けた宣言に歓声があがり、一斉に拍手をした。
司令官が話を終えた後に、臨時の閣議を開いて1時間後に首相の談話を発表しているが、この時点では殆どすべての国の政府が何らかの声明を出している。
「今日、皆さんもすでにご覧になったように、地球防衛軍がラザニアム帝国の艦隊の迎撃に成功しました。
今回の、ラザニアム帝国の侵攻に関しては、地球人類の存続がかかっているものでありまして、迎撃に失敗すれば、おそらく地球は核爆弾の爆撃にさらされて人類のみならず、地球上の生命が失われたことでありましょう。
その意味で、今回の迎撃成功によって地球は守られたのです。このことについては、短い間に死力を尽くして迎撃を準備し、かつ実際の迎撃にあたり勇敢かつ理性的に戦って勝利をもたらしてくれたシップ司令官を始めとする地球防衛軍の将兵の方々に心からの感謝したいと思います。
さらに、この迎撃戦によって命を落とされた、数十名の方々の冥福を祈りたいと思います。
一方で、残念ですが現在判っているだけでも、死者の中に我が国の自衛隊員出身者が35名含まれていることをご報告しておきます。
さて、今回太陽系に侵攻した侵攻艦隊は620もの大型艦艇によるものでありましたが、防衛軍は最終的に400艦を撃破し、120の艦艇がかろうじて逃げ出したものの、大部分の敵艦を撃破したギャラクシー型一番艦『せいうん』が追っているとのことです。
これらについても、そう時間がたたないうちに、すべての敵艦を撃破したとの知らせが届くものと思っています。
なお、ここでこの点を強調しておきたいと思っています。つまり、われわれ地球人は、星間帝国である、ラザニアム帝国が我々を滅ぼすために侵攻してきたものをすでに退け、なおかつその追跡の過程で初めて恒星間ジャンプを果たしたのです。
つまり、『せいうん』の乗り組み員は恒星間の移動をおこなった最初の人々ということになります。さらに、ギャラクシー型の『せいうん』及びギャラクシーはこの日本で造られた艦であり、今回決定的な働きをした「超空間攻撃システム」も同様で、この日本で開発され建設されました。
現時点では、ラザニアム帝国が再度の攻撃を実施しても『せいうん』がある限り地球は安全です。さらに、ギャラクシー型の商船タイプが今日本政府の予算で建設されています。従って、今後この船が完成し次第、我が国も恒星間ジャンプを行って他星系の住民との交易のための交渉を始めようと思っています。
そうです。すでに宇宙時代が始まったのです。今後は、我々日本人は地球の人々の先頭を切って、かって大航海時代にヨーロッパの人々が世界に乗り出して行ったように恒星間宇宙に乗り出して行きます。
しかし、ある意味でこの大航海時代というのは、実行した人々以外にとっては不幸な時代でした。この点では、我が国は地球上でのこの不幸な経験を活かし、住んでいる人々の了解を得ながら、基本的には交易、場合によって、条件が満たされれば、開発を行っていこうと考えています。
その際に、現在は明白に敵であるラザニアム帝国とどう付き合っていくかは避けて通れませんが、これは地球防衛軍の設立を通して、今回防衛戦を戦った諸国との協議のうえでどうするかは決めていきます。
しかし、皆さん、繰り返しになりますが、我々は危機を乗りこえて、いまや宇宙時代に入ったのです。すでに、我が国は近年の画期的な発明の実用化によって急速に社会が変わっています。その上に、いままで単なる夜空の星であった世界にその気になれば行けるのです。
そのためには、いろんな技術を覚えることが必要ですし、何より大事なのは未知のことに飛び込んでいく勇気です。私は、皆さん日本人すべての、未知に飛び込んでいく勇気を持つ積極性を信じています」
首相のこの談話は、とりわけ若者の間に大きな感動を呼んだ。ラザニアム帝国迎撃戦の殆どすべての映像、データは殆ど公開されているので、中学生以上の20代までの多くの若者がそのデータを自分のパソコンに取り込んで、じっくり読み込んだ。
その記録の隅々まで自分で調べた者達がインターネットで意見のやり取りをする、巨大なラザニアム帝国迎撃戦サイトが立ち上がった。このヘビーなユーザーは公開されている限りのすべての戦闘について細部までを記憶しており、その問題点・改善点までを語れるようになっていた。
こうしたいわばオタク的な人材は、猛勉強して宇宙軍に入隊するかまたは後述する宇宙関連の技術学校に入って早々に宇宙に飛び出している。
迎撃戦から8日後、『せいうん』が帰ってきた。太陽から5億㎞の軌道に出現し、無人監視網に味方であるという信号をすぐに送っている。いまだ、太陽系内では撃破したラザニアム帝国艦サルベージの最中であり、まだ、中には入ってはいないが、これは誠司がハッチを開ける方法は自分が帰ってから、マドンナと一緒に見つけるから待てと言っておいたためである。
その方法自体は、3つ目の星系にジャンプして最後の22隻の敵艦を撃破した後に、現地で調査して解明している。そのとき誠司はマドンナをもって『せいうん』に積んでいる5人乗りの連絡艇に乗り、その中の1隻の艦に近づく。マドンナから、斥力装置の操作方法の指示が出るのでその通りに操作して、中から手動のゲートのロックを外して、斥力装置でゲートを引き開ける。
中から、空気に交じってラザニアム人の人体や様々なものが吹き出すが、それが収まったのち宇宙服を着た乗員が2名敵船に入り込む。中の動力は当然完全に死んでいるので、2人はライトで周辺を照らして映像を送ってくる。中には、さまざまなものに引っかかって吹き出されなかった、見たところ特に損傷もないきれいな数十の死体と、一見ではは特に問題なさそうな内部が見える。
中に入りこんだ乗員は、マドンナの表示を読みながら出す誠司の口頭の指示にそって、コントロールパネルらしきもののドアを開け、中の部品を取り外して持ち帰った。この調査の結果、マドンナからラザニアム船のロックの外し方、必要な部品や機材についての情報さらに修理の仕方の完全なマニュアルを出力された。
この情報から、サルベージされた艦船は、結局集められて地球の周りの軌道に乗せられて、その後修理されることになったが、物理的に破壊されていない艦292が所定の軌道に乗るまでは4ヵ月程度かかると予想された。
他星系で『せいうん』が撃破した艦の回収も行われることになったが、これは太陽系内の艦のサルベージと復元が終わってからの予定になっている。
『せいうん』は、岩木基地に降りるが、艦内のスクリーンにからは数千人の人々が待ち構えているのが見える。半分以上は防衛軍の将兵であるが、マスコミ・政府関係者を始め一般人も千人ほどが混じっている。最低限に絞ったのであるがそれでもこの人数になってしまった。
その後、地上に艦が降り立って、大歓声のなかでハッチが開き、西野空将を先頭に出てきた一行に対する記者会見等についてはすでに歴史の1ページになっている。誠司は出来るだけ目立たないように人の影に隠れて降り、こっそり抜け出して、そそくさと軍での実用化が始まった重力エンジン艇によって西山市の自宅に帰ってゆかりと我が子に会いに行ってしまった。
『せんうん』の帰還から間もなく、2025年7月、西山大学技術研究所が西山市から20km離れた山麓に開発していた宇宙港「銀河」が盛大な式典とともに開港した。
T自動車㈱等が出資した銀河工業株式会社等の宇宙船工場も稼働し始めるともに、銀河宇宙技術高等学校・銀河宇宙技術大学が開校し2026年4月からの新入生を募集すると発表した。
すべて全寮制であり高等学校は募集人員は5百人、対象年齢15歳から20歳に、大学は航法科、機関科、開発科、科学技術科、理論科で各学科はそれぞれ200、200、200、100、50名であったが、対象年齢は20歳から35歳までの間であった。
さらに、宇宙軍も銀河宇宙港に宇宙軍士官学校を設立して、航法科、機関科、宇宙建設科、戦術科、環境科としてそれぞれ200、200、200、50名を募集している。この2つの学校は隣り合っており、練習艦は共有し、教官は両校の授業を掛け持ちしている人が多いなど深い交流関係にあること明らかでああった。
ちなみに、宇宙軍士官学校については、授業料は必要なかったが、5年間の宇宙軍勤務が義務つけられ、その後5年は民間に移ることも可能ではあるが4年の学業期間の半分である、200万円×2年の支払いが必要である。
銀河宇宙技術高等学校は授業料年間百万円、大学は2百万円であるが、成績の上位十%は免除、その他についても必要に応じて奨学金が貸与される。全寮制という条件、宇宙への練習航海があるという条件からすれば格安の方である。
現状のところ、宇宙に出ていく最も確実な方法はこれらの学校に入ることなので、当然のことながら、世界中から応募が殺到した。しかし、宇宙軍士官学校は現役将校や士官学校からの転籍生を優遇しており、他の枠は4分の1程度と狭かった。
一方、銀河宇宙技術高等学校・銀河宇宙技術大学については、要綱に書かれている一節が話題を呼び、一部からは極めて強い非難を呼んだ。それは、「他国の国民について偏見を持つような教育を受けたものの受験は認めない」という表現で、記者から問われた高校と大学の事務局は次のように答えている。
「本校では、宇宙に出ていく要員の育成を目的としており、長期間閉ざされた空間で多数の人が暮らすことになります。その時に特定の国の人に偏見を持つような人物がいることは大きなリスクになります。従ってそうした意識を助長するような教育を受けた人々は受験資格がないとしました」
それに対して、対象は具体的にどこの国民か尋ねられた職員は答えた。
「明らかに内容が偏っており、また他国の人に対して偏見を持つような教科書を使っているのは中国と、韓国それから〇〇、××です。まあ、人口の多い国では中国と韓国ですね。
国の方針として、そのような教科書を使い、子供をそのように教育することは自由ですが、本校に受け入れるには弊害が大きいと判断しました。なにより、本高校・大学とも半数以上は日本人とすることは決めていますので、日本人を憎ませるような反日教育をしている国民を受け入れるのは問題があるでしょう?」
「それは差別だ!取り消せ!」
顔を真っ赤にした、中・韓の記者及び日本の若干の新聞社の記者が担当者に詰め寄る。
「これは、差別ではなくて、区別です。中国・韓国の教科書による教育は明らかに日本人に対する差別だと思いますが。困るのであれば、内容が間違っていることを認めて教科書を改めればいいのです。その場合は、見直す余地はあります」
担当者がそういうが、欧米の記者からも非難がでる。
「日本人が半分以上というのは不公平だ」
「いえ、この学校は日本人で構成する組織が作り運営していきます。基本的には日本人向けの学校なのです。しかし、世界で初めての学校でもあるし、日本人だけに限定するのも問題があるだろうということで妥協して、日本人以外も半分までは可であるとしたのです。
そういう誰でも公平に入れる学校は、本来、国際的な機関で造ればよろしいと思いますよ」
この方針に対しては、特に中韓からはその後もしつこく抗議があった。それはそうだ。彼らは重力エンジン等の技術の入手も出来ず、そうした学校にも入れないとすると宇宙開発から永遠に排除されるのだから。
しかし、これらの抗議に対し、西山大学技術開発研究所は無視を貫き、その関係の質問をする記者は記者会見等への出入り禁止にした。
このように世界的な話題になった結果、中韓の教科書の内容が世界に広報され、
「嘘だらけ、偏見だらけのこの内容だと、この教育を受けた者を排除するのはしょうがないよね」
というのが世界の見方になってしまった。
まあ、強いものに巻かれるのが多数になるのは世の常ではある。
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ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
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大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
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2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
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~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
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沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
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それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
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俺が異世界帰りだと会社の後輩にバレた後の話
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会社員(25歳・男)は異世界帰り。現代に帰って来ても魔法が使えるままだった。
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『異世界帰り』という共通点があることが分かった二人は後輩からの誘いで仕事終わりに食事をすることに。職場以外で会うのは初めてだった。果たしてどうなるのか?
※ダンジョンやバトルは無く、現代ラブコメに少しだけファンタジー要素が入った作品です
※カクヨム・小説家になろうでも公開しています
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