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第3章 宇宙との出会い
3.12 本格侵攻迎撃作戦2
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その午後、新兵器開発開始の知らせを受けた、今や世界で最も有名かつ力のある地球防衛軍の司令官アーサー・シップ中将が、副司令官西野空将、及びそれぞれ随員一人づつを連れて工場にやってきた。
誠司については、開発開始の極めて重要な時期であり、終日予定が詰まって到底工場を離れられず、どちらかと言う時間に余裕があるのはアーサー・シップ中将なのだ。十人ほどの技術者と打ち合わせをしている誠司が、部屋に入ってきた西野空将に気づいた吉田から促されて、入り口に立っている空将を見て打ち合わせていたメンバーに言う。
「ああ、西野さん、シップさんも来たのか、ではちょっと中断します。ここと、ここは話し合って詳細をどう詰めるか決めてください」
そして、吉田とゆかりを促して、彼らが待っている小会議室に行き、部屋に入って腰かけたところでシップ中将が謝る。
「今朝の件は申し訳なかった。あの対応をした秘書には電話の取次ぎから外した」
誠司は少しきょとんとして言う。
「ええ、えーと、ああ、今朝電話した時、秘書の何と言ったかな、忙しいとか言ってシップさんに取り次いでくれなかったことですか?いいですよ、別に実害もなかったので」
それでも、シップ司令官は気にして言う。
「うむ、君からの連絡は何があってもすぐ取り次ぐように言っておいたのだが、私の指示に従わなかった」
誠司は気にしていないというよりそんなことを気にする余裕がない。
「ええ、別段いいですよ。西野さんから連絡が取れましたから。そういう話は置いておいて、すこし、説明しておきます」
しかし、誠司はそれどころではないのでほとんど忘れているが、今朝、誠司が工場での協議を終えて、作戦全体にかかわる問題なのでシップ中将とすり合わせが必要だと思って彼に電話した。
だが、取り次いだ秘書が勘違いをしていて『世界でもっとも重要な人物である自分のボスにちょっと話したいことがある?十年早いわよ』とカチンときて、「シップ中将はお忙しくて手が離せません。広報室を通してお申し入れください」言ったものだ。
「広報室?じゃいいや、西野さんに話をするから」
誠司は電話を切ってすぐに西野に電話して、西野が内容を聞いてすぐにシップの直通電話にかけたことで、その誠司への対応が明らかになった。
「君たち、何を勘違いしているか知らんが、今回の地球を守るための防衛軍の活動で致命的に重要なのは私たち制服組より、その装備を整えてくれる技術陣だ。そして、その中心になっているのは、まだ若いが牧村誠司だ。彼から私に連絡があるというのは、何か重要な変更がある等の極めて重要なことに決まっているのだ。
私が、どういう状態にあろうが、彼からの連絡は即刻取り次ぎなさい。わかったね」
シップ中将はそう言って、すぐに自分の部屋に引っ込んだが、5人の秘書陣は驚いて聞いており、リーダーのリンダが皆に向かって言う。
「私ははっきり言ったわよ。牧村誠司の電話は何があっても、即ボスに取りつげとね。ジェーン聞いたわよね?」
実際に問題になった取り次ぎをしたジェーンに問い詰めるがジェーンはその時、『日本人なんかになんでそんな気を遣うのよ』と思って名前を記憶にとどめていなかったのだ。
「な、名前を忘れていました」その返事に、「では、あなたは今後は電話の取次ぎに出ないで、わかった?」リンダが厳しく言う。
「わかりました」リンダがそう言ったが、内心は不服だった。しかし、午後の予定をキャンセルして、司令官と副司令官が電話をかけてきた相手に会いに行くというごたごたを見ていて、『あの相手は、本当に重要な人物なんだ』ということを自覚せざるを得なかった。
新たに開発を行う趣旨を、誠司が説明する。
「結局そういうことで、マドンナを使っていろいろ調べた結果、太陽系内に入っている機体程度の距離であれば、超空間的タグは付けられることがわかり、そのための必要な機器のコンセプトはつかめました。あとは、そのタグによって、相手の位置はこれも太陽系内程度の距離だったらジャストポイントで特定できます。
あとの問題は、超空間通信時の通信波に変えて核融合炉の中身のエネルギーを電力に変換せずに的の艦に送り込むことですが、これも可能です。ギャラクシー級艦をいろいろいじれば、2カ月で必要な改修は終わります。ギャラクシー級そのものの完成がほぼ同じ時期ですからぎりぎりと言えばぎりぎりですがね」
「ふーむ、用兵側から言うと選択肢が増えるのは大変ありがたいことなんだよ。実質的に、今までの迎撃案は一つの手段以外ないという面で不安は大いにあったのだが、ほかに有効な手段が考えられないということで、目をつぶってきたのだ。その意味では、今回誠司君の考えてくれた手段は大変にありがたい。
しかし、現行の核融合炉は大変安定していて危険性は極めて低いと言われているが、その反応中の炉の中身を相手の艦内ぶちまけるということだよね?」
西野空将が聞くのに、誠司が答える。
「そう、単純に言えばですが。しかし、おっしゃり通りで、今の発電で使っている状態の反応では、弱すぎるのです。大体、先に回収できた艦程度の大きさで、炉内の反応中のエネルギーを吐き出しても中の乗員を全滅させることは無理です。
従って、ギャラクシーの艦内の反応炉の一基を改修していわば電力に変換するために励起装置に組み込んでいるリミッターは外して、電磁気に変換するようにします。それで、まあ出力で言えば300万㎾程度のエネルギーに当たる電磁波の、1秒間の発生分程度を敵艦に送りこむことになります。これだと、艦内の生物と言わず、すべての電子機器も確実に死にます」
「うーん、その装置のイメージと威力は理解できた。しかし、出来れば、今準備中の無人攻撃機による迎撃も使いたいのだがね。少なくとも母艦の要員さえ守れれば、人命の損失はないわけだし、それに西野さんも言ったように出来るだけ選択肢は増やしたい。しかし、まあ仮にそっちが機能しなくても他に攻撃手段があるというのは大変にありがたい。これで、うなされて夜目を覚ますこともないかな」
シップ司令官が笑う。
「人類の運命を担うというのは重いですよね」
誠司が頷いて言い続ける。
「ええ、私も今準備している無人攻撃機の作戦は実行するべきだと思います。そう私が言うのは、相手の艦にタグ付けするのに相当時間を要する可能性が高いのです。従って、まっしぐらに地球を目指されると困るので、仮に相手が防御手段をもっているとすると、少なからず油断してくれると思うのです。相手がそういう手段を持っていないとするとそれはそれで、結構なことですから。それから」
誠司は一旦言葉を切り、防衛軍側の4人を見て続ける。
「ちょっと時期早々かもしれませんし、お考えになっていると思うので、念のために申しますが、出来るだけ有人艦は宇宙に出しておいた方がいいと思います。無人艦による攻撃がうまく行った場合も、この新兵器、転移ジェットとでも言いますか、これによって敵を殲滅させた場合が問題です。
ほとんどの敵が地球目がけて進んでいる慣性を持った状態で、十万トンの大質量の艦が無操縦状態になるわけです。これは、さっき言ったわが方の有人艦によって地球への衝突する場合は進路をずらすなりする必要がありますよ。また、考えているのですが、転移ジェットによる攻撃で無力化された艦はひょっとすると大多数をサルベージ出来るかもしれませんよ。
この戦いをしのいでも、ラザニアム帝国の力はまだ相当残っていると考えた方がいいと思います。ですから、地球防衛軍の戦力はまだ増強する必要があります。敵艦をサルベージ出来ればずいぶん助かりますよ。だから、出来るだけ有人艦は増やしましょう」
誠司の言葉に、防衛軍側は目を見開く。どうもそこまで考えていなかったらしい。
「う、うむ。そうだね。有人艦の数は最小限にするつもりだったが、それはそうだ。出来るだけ増やそう。訓練したスタッフが使えるのでこれはこれで助かる。彼らの突き上げを食わなくて済むからね。よし、改修および新造の艦を最大限増やすように早速措置をとるよ」
西野空将が少し嬉しそうにいう。無人機主体の迎撃作戦にはいろいろ悩みもあったようだ。
Xデーに向けて地球の産業の相当な割合がその準備に向けて動き始めたが、大きな部分はやはり日本が担っている。まず、工業基盤が世界で最も高いレベルで揃っている国であることが大きいが、バッテリー、重力エンジン、レールガンにしてもまた嵩が大きい宇宙船の船体にしても、すべての技術を掌握して大量生産体制を作り上げているのは日本のみであり、他の国に移転するには時間が掛りすぎるのだ。
そう言うわけで、日本の多くの工場でこれらの地球防衛軍あての軍需物資が作られつつある。
かと言って他の生産はそれほど落ちているわけではない。相変わらず、電動車への変換は急速に進んでいるし、それに伴ってすべてのエンジンがモーター駆動に入れ替わってきているし、さらに核融合発電機も十万㎾機、百万㎾機の建設も加速している。
これは日本だけの動きではない。今回の地球防衛軍の設立に伴って、生産の底上げの意味もあって、殆どすべての技術がG7+1の諸国には解放されたこともあって、世界中のメーカーが電動車、エンジンからモーター駆動への切り替えに走っているし、核融合発電機も十万㎾機についてはG7のみならず大量生産体制がどの国にもできつつあり、百万㎾機の建設も始まっている。
軍需技術として、の重力エンジン、レールガン等については、G7+1限定であるがその諸国でも生産が始まっている。地球防衛軍からみの費用は、各国が分担しており、アメリカと日本がほぼ30%づつで、他が残りを分担しているが、日本の場合は、地球防衛軍への分担として20兆円の補正予算を組んでいる。
いずれにせよ、これ新技術のパテントは全て西山大学技術開発研究所が抑えているので、これらのパテント料の収入はすごいことになっているものの、直接的に地球防衛軍の絡むものはその徴集を放棄している。なお、中国・韓国・北朝鮮については、様々なごたごたの結果として、3国とも実質的に日本による技術封鎖にあっていた。
その意味では、自動車・造船さらに通信機器に至るまで、毎日のように技術革新が起きている日本と切り離されているというのは、輸出立国でかつこれらの輸出のシェアが大きい韓国にとっては極めて大きな痛手である。
その意味では、自動車・造船さらに通信機器に至るまで、毎日のように技術革新が起きている日本と切り離されているというのは、輸出立国でかつこれらの輸出のシェアが大きい韓国にとっては極めて大きな痛手である。
半ば、中世のような生活をしている北朝鮮と違って、インターネットを通じて世界とつながっている中国・韓国にとっては世界の動きから全く切り離されている。それも、中国はすでにバブルは弾けて経済はどん底であり、それに連動して韓国も悪くなっているが、今のところ日本が内需にかまけて輸出に回す余裕がないため一息はついているものの今後は悪くなる将来しか見えない。
この技術封鎖については、国内でも左がかったマスゴミからのかなり大きな突き上げがあっている。「特定の国に対して技術を封鎖するというのは完全に差別だ。直ちに解除するべきだ」とある新聞は社説にまでに書いている。
これに対して、それを実行している、西山大学技術開発公社の理事長の山科教授は述べている。
「中国も韓国も、我が国がいわゆるかっての憲法九条を我が国は持っていることに付け込んで、我が国の領土を犯そうと連携して侵略しようとしました。しかも、両国とも我が国の領土に対する領有の主張を引っ込めていない。現在、わが公社が3国に対して、当該諸技術の利用を認めていないのは事実ですよ。どうも、迂回して第3国から技術を入れようとはしているようですがね。
しかし、これらの技術は全て軍事に転用可能ですから、とても未だ我が国に対して軍事的な野望を引っ込めていない国、しかもいずれの国も時代錯誤な反日教育をしている国には出せません。私どもは、開発者としての責任があります」
さらにこの件について問われた阿賀首相は答えている。
「この問題の決定権は西山大学技術開発公社にあります。また、政府としての見解は、いまだ両国からの侵略に対しての政治的な決着を見ていない現在においては、両国は潜在的に敵性国家と言わざるを得ません。
現にかれらは、あの戦闘の結果について、我が国が防衛活動を取ったことを憲法に反していて不当と言っているわけです。よその国が、我が国の行為が我が国の憲法に適合しているかいないか心配をしてくれているというのも面白い話ではありますね。
ですから、もし我々政府が、公社から技術を出して良いかと聞かれたら好ましくないという回答になる申します」
さらには、この措置について、ある新聞がアンケートを取ったところ。82%の日本国民は妥当という回答をしており、この結果から日本のマスゴミもこの件で騒ぐのをやめている。
中国では、若手を中心にこのままではだめだという空気が広がってきており、中堅以下の軍人、官僚の権力のおこぼれに預かっていない層があちこちでひそかに会合を開きに何事かを始めようとしている。
韓国では、毎日のように反政府デモが行われているため、圧倒的多数派の左かかった政治家はすでにビビッて政府を突き上げ始めている。
その中で説得力を持って語られ始めたのは、全ては「日本を敵に回したせいだ」ということである。確かに、日本の財政的な裏付けをなくして、財政的に追い詰められ中国の支配下に入ったのが今の状態である。
何よりの決定打は愚かにも対馬占領を狙って艦隊を送り出したことであると、自分たちがそれに熱狂したことを忘れて政府を突き上げている。
そして、スローガンとして言われ始めたのは「日本を許そう!」であるが、当然これは日本で強い嫌悪感をもって受け取られ、ネットを中心に強く拒否されている。ともあれ、それが現在の東亜3国の状況であった。
誠司については、開発開始の極めて重要な時期であり、終日予定が詰まって到底工場を離れられず、どちらかと言う時間に余裕があるのはアーサー・シップ中将なのだ。十人ほどの技術者と打ち合わせをしている誠司が、部屋に入ってきた西野空将に気づいた吉田から促されて、入り口に立っている空将を見て打ち合わせていたメンバーに言う。
「ああ、西野さん、シップさんも来たのか、ではちょっと中断します。ここと、ここは話し合って詳細をどう詰めるか決めてください」
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「うむ、君からの連絡は何があってもすぐ取り次ぐように言っておいたのだが、私の指示に従わなかった」
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「ええ、別段いいですよ。西野さんから連絡が取れましたから。そういう話は置いておいて、すこし、説明しておきます」
しかし、誠司はそれどころではないのでほとんど忘れているが、今朝、誠司が工場での協議を終えて、作戦全体にかかわる問題なのでシップ中将とすり合わせが必要だと思って彼に電話した。
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「わかりました」リンダがそう言ったが、内心は不服だった。しかし、午後の予定をキャンセルして、司令官と副司令官が電話をかけてきた相手に会いに行くというごたごたを見ていて、『あの相手は、本当に重要な人物なんだ』ということを自覚せざるを得なかった。
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「結局そういうことで、マドンナを使っていろいろ調べた結果、太陽系内に入っている機体程度の距離であれば、超空間的タグは付けられることがわかり、そのための必要な機器のコンセプトはつかめました。あとは、そのタグによって、相手の位置はこれも太陽系内程度の距離だったらジャストポイントで特定できます。
あとの問題は、超空間通信時の通信波に変えて核融合炉の中身のエネルギーを電力に変換せずに的の艦に送り込むことですが、これも可能です。ギャラクシー級艦をいろいろいじれば、2カ月で必要な改修は終わります。ギャラクシー級そのものの完成がほぼ同じ時期ですからぎりぎりと言えばぎりぎりですがね」
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しかし、現行の核融合炉は大変安定していて危険性は極めて低いと言われているが、その反応中の炉の中身を相手の艦内ぶちまけるということだよね?」
西野空将が聞くのに、誠司が答える。
「そう、単純に言えばですが。しかし、おっしゃり通りで、今の発電で使っている状態の反応では、弱すぎるのです。大体、先に回収できた艦程度の大きさで、炉内の反応中のエネルギーを吐き出しても中の乗員を全滅させることは無理です。
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「ちょっと時期早々かもしれませんし、お考えになっていると思うので、念のために申しますが、出来るだけ有人艦は宇宙に出しておいた方がいいと思います。無人艦による攻撃がうまく行った場合も、この新兵器、転移ジェットとでも言いますか、これによって敵を殲滅させた場合が問題です。
ほとんどの敵が地球目がけて進んでいる慣性を持った状態で、十万トンの大質量の艦が無操縦状態になるわけです。これは、さっき言ったわが方の有人艦によって地球への衝突する場合は進路をずらすなりする必要がありますよ。また、考えているのですが、転移ジェットによる攻撃で無力化された艦はひょっとすると大多数をサルベージ出来るかもしれませんよ。
この戦いをしのいでも、ラザニアム帝国の力はまだ相当残っていると考えた方がいいと思います。ですから、地球防衛軍の戦力はまだ増強する必要があります。敵艦をサルベージ出来ればずいぶん助かりますよ。だから、出来るだけ有人艦は増やしましょう」
誠司の言葉に、防衛軍側は目を見開く。どうもそこまで考えていなかったらしい。
「う、うむ。そうだね。有人艦の数は最小限にするつもりだったが、それはそうだ。出来るだけ増やそう。訓練したスタッフが使えるのでこれはこれで助かる。彼らの突き上げを食わなくて済むからね。よし、改修および新造の艦を最大限増やすように早速措置をとるよ」
西野空将が少し嬉しそうにいう。無人機主体の迎撃作戦にはいろいろ悩みもあったようだ。
Xデーに向けて地球の産業の相当な割合がその準備に向けて動き始めたが、大きな部分はやはり日本が担っている。まず、工業基盤が世界で最も高いレベルで揃っている国であることが大きいが、バッテリー、重力エンジン、レールガンにしてもまた嵩が大きい宇宙船の船体にしても、すべての技術を掌握して大量生産体制を作り上げているのは日本のみであり、他の国に移転するには時間が掛りすぎるのだ。
そう言うわけで、日本の多くの工場でこれらの地球防衛軍あての軍需物資が作られつつある。
かと言って他の生産はそれほど落ちているわけではない。相変わらず、電動車への変換は急速に進んでいるし、それに伴ってすべてのエンジンがモーター駆動に入れ替わってきているし、さらに核融合発電機も十万㎾機、百万㎾機の建設も加速している。
これは日本だけの動きではない。今回の地球防衛軍の設立に伴って、生産の底上げの意味もあって、殆どすべての技術がG7+1の諸国には解放されたこともあって、世界中のメーカーが電動車、エンジンからモーター駆動への切り替えに走っているし、核融合発電機も十万㎾機についてはG7のみならず大量生産体制がどの国にもできつつあり、百万㎾機の建設も始まっている。
軍需技術として、の重力エンジン、レールガン等については、G7+1限定であるがその諸国でも生産が始まっている。地球防衛軍からみの費用は、各国が分担しており、アメリカと日本がほぼ30%づつで、他が残りを分担しているが、日本の場合は、地球防衛軍への分担として20兆円の補正予算を組んでいる。
いずれにせよ、これ新技術のパテントは全て西山大学技術開発研究所が抑えているので、これらのパテント料の収入はすごいことになっているものの、直接的に地球防衛軍の絡むものはその徴集を放棄している。なお、中国・韓国・北朝鮮については、様々なごたごたの結果として、3国とも実質的に日本による技術封鎖にあっていた。
その意味では、自動車・造船さらに通信機器に至るまで、毎日のように技術革新が起きている日本と切り離されているというのは、輸出立国でかつこれらの輸出のシェアが大きい韓国にとっては極めて大きな痛手である。
その意味では、自動車・造船さらに通信機器に至るまで、毎日のように技術革新が起きている日本と切り離されているというのは、輸出立国でかつこれらの輸出のシェアが大きい韓国にとっては極めて大きな痛手である。
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この技術封鎖については、国内でも左がかったマスゴミからのかなり大きな突き上げがあっている。「特定の国に対して技術を封鎖するというのは完全に差別だ。直ちに解除するべきだ」とある新聞は社説にまでに書いている。
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しかし、これらの技術は全て軍事に転用可能ですから、とても未だ我が国に対して軍事的な野望を引っ込めていない国、しかもいずれの国も時代錯誤な反日教育をしている国には出せません。私どもは、開発者としての責任があります」
さらにこの件について問われた阿賀首相は答えている。
「この問題の決定権は西山大学技術開発公社にあります。また、政府としての見解は、いまだ両国からの侵略に対しての政治的な決着を見ていない現在においては、両国は潜在的に敵性国家と言わざるを得ません。
現にかれらは、あの戦闘の結果について、我が国が防衛活動を取ったことを憲法に反していて不当と言っているわけです。よその国が、我が国の行為が我が国の憲法に適合しているかいないか心配をしてくれているというのも面白い話ではありますね。
ですから、もし我々政府が、公社から技術を出して良いかと聞かれたら好ましくないという回答になる申します」
さらには、この措置について、ある新聞がアンケートを取ったところ。82%の日本国民は妥当という回答をしており、この結果から日本のマスゴミもこの件で騒ぐのをやめている。
中国では、若手を中心にこのままではだめだという空気が広がってきており、中堅以下の軍人、官僚の権力のおこぼれに預かっていない層があちこちでひそかに会合を開きに何事かを始めようとしている。
韓国では、毎日のように反政府デモが行われているため、圧倒的多数派の左かかった政治家はすでにビビッて政府を突き上げ始めている。
その中で説得力を持って語られ始めたのは、全ては「日本を敵に回したせいだ」ということである。確かに、日本の財政的な裏付けをなくして、財政的に追い詰められ中国の支配下に入ったのが今の状態である。
何よりの決定打は愚かにも対馬占領を狙って艦隊を送り出したことであると、自分たちがそれに熱狂したことを忘れて政府を突き上げている。
そして、スローガンとして言われ始めたのは「日本を許そう!」であるが、当然これは日本で強い嫌悪感をもって受け取られ、ネットを中心に強く拒否されている。ともあれ、それが現在の東亜3国の状況であった。
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彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。
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ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語
Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。
チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。
その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。
さぁ、どん底から這い上がろうか
そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。
少年は英雄への道を歩き始めるのだった。
※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。
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