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第3章 宇宙との出会い

3.8 迎撃

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 先に射撃点とされた距離百万㎞の位置についたのは、追いついてきた偵察部隊の3艦を加えた戦闘艦合計8艦である。しかし、その戦隊指揮官である、『せいりゅう』座乗の和田二佐は百万㎞では、あまりに遠すぎることに気が付いた。遠いほど相手は避けるかまたは迎撃の準備が容易であるうえに、艦隊にまとわりつくビーはまだはるかなたである。

「もっと肉薄しろ、また相対速度をもっと上げて射撃する。スカイラーク1へ、こちら『せいりゅう』の和田、現地点は敵に遠すぎ絶対に命中しない、敵の護衛と思われるビーは大体十万㎞の距離で護衛しているので、二十万㎞まで近づく」

 この通信を聞いた、村井中尉が目で聞いてくるのをスカイラークのサベル中佐が頷く。
「こちら、スカイラーク了解!」

 8艦に合流した艦隊はさらに敵艦隊に肉薄した。すでに相対速度は百㎞/秒になっているので、撃ち出したレールガンの弾速はそれに本来の速度十㎞/秒が加わるのだ。

 距離二十万㎞より手前で、レーザー士官が叫ぶ。
「重力変化を感知!敵艦が撃ってきたものと思われます!」

「艦内コンピュータにデータリンク、自動退避システムオン!総員着座、シートベルト着用!僚艦にも命令!」
 和田二佐が叫ぶ。
 相対速度が百㎞/秒では、当然相手の砲撃もその速度が乗ってくるから、斥力装置をうまく当ててもまず速度を殺しきれないので、これは躱すしかないのである。

 さらに、和田が叫ぶ。
「こちらも機動前に撃て!全力射撃!」

 ただちにレールガン4基が相手艦隊を目がけて一発目を撃ち、十五秒後に装填後2発目を撃つが、その直後ぐんと体が横に引っ張られる。自動退避のための斥力が働いたのだ。これは、重力検知及びレーダーで敵弾を見つけた人工知能が、適切なタイミングで敵弾を躱すように自動で運動するのだ。

 僚艦も各艦の艦長の判断で、射撃を開始している各艦とも2発から4発射撃して、敵弾を躱すための運動後再度射撃を開始している。敵弾の数も大量であり、探知出来ているだけで数百発が撃たれて、こちら目がけた秒速百㎞以上の速度で突っ込んで来る。

 和田二佐は撃った弾の着弾時間を測っていた。相手にこちらのような運動の機能がないとすると………、いやあちこちに火球が現れた。
「なんだ、あれは?」

「たぶん、ビーが爆発しているのだろうと思います。たぶん核分裂爆弾でしょう。砲弾を感知したら爆発して、爆発の破片で砲弾の軌道をそらそうというものでしょう」
 戦術士官のアミル・フーゴ中尉が冷静に言う。かれはイタリア人だ。

 しかし、数秒後、レーダー士官が叫ぶ。
「敵艦、1艦に弾が命中したものと思われます!命中と思われる振動を感知しました」

 その声に和田はすぐに次の命令を出す。
「よし、やった。わが方の攻撃に効力があることは判った。しかし、ビーが敵を感知して爆発するとすればまずい。直ちに攻撃に向かっている戦闘機に連絡しろ、ビーから十分距離を置くようにとな」

 山田二尉はコックピットの中で、どんどん近づいてくる敵艦隊の重力探知機とレーダー上の反応を見つめていた。まだどっちにしろ肉眼では見えないが、大きな十個の光点の他に沢山の小さな光点がわかる。画面上では目に入るほどの動きは見えないが、実際は近くに行けば見えないくらいの速さで動いているのだ。

「各機!出来るだけ近づいて撃て、なおビーには十㎞以内に近づかないように留意せよ。またビーは近づいて来る物体に対して爆発すると考えられるので、極力正面から近づかないこと」
 攻撃機編隊司令トマーソンより無線が入るが、これは僚機だけに届くように発した無線で、たぶん敵艦には探知されていないはずだ。

 すでに距離は5万㎞で相対速度は百十五㎞/秒だが、いま撃っても着弾まで400秒以上かかったら大型艦でも躱せるので、まだまだ。せめて1万㎞の距離でと思うが、すでにビーが浮遊している空域に深く入り込んでいる。
 ビーがあちこちで爆発して、どぎつい火球を作り味方の戦闘艦からの砲弾を逸らしている。あれに巻き込まれたらアウトだ。ビーの正面に行かないようにコースを変えながら敵艦隊に近づいていくと、敵の一艦が突然ふらつき物体が飛び散る。

 これは命中だが、自分の位置をさらすことになるので、無論母艦に知らせることはできない。しかし、たぶん重力探知で接近は気がつかれているだろうとは思う。なおも、戦闘機隊は接近する。

 その頃、8艦の戦闘艦隊は互いに約十万km程度の距離を置いて、敵の弾を躱しつつ、また射撃を続けつつ敵艦隊からの最短方向からの軌道を逸らし始めていた。あまり接近してビーの群れに突っ込まないためだ。レーダー士官から報告がある。

「ミサイル探知、距離5万km、三十二発、どんどん加速して突っ込んできます」
「ミサイルか。軌道を変えているわけだな。うーん、よしアンチミサイルを撃とう」

 相対速度百二十㎞/秒以上の速度で、突っ込んでくるミサイルを撃ち落とすのは極めて難しい。戦闘機で接近してすれ違いざま撃ち落とすことは可能だろうが、おそらくその時点で爆発するので、戦闘機も致命傷を負うだろう。
 また、そのミサイルが戦闘艦に命中すれば、ミサイルの核爆弾が爆発するまでもなく間違いなくレールガン以上のその速度により艦体は完全に破壊されるだろうし、接近されただけで爆発するだろうから、ばらばらに飛び散った破片を浴びた大きな被害を受けるだろう。

 和田二佐はすぐさまアンチミサイル発射の指示をする。
「よし、各艦、各ミサイルに2発ずつだ。データリンクをして重複しないようにアンチミサイルを撃て。爆発は距離十㎞に調整しろ。なお斥力装置の準備をなせ」

 アンチミサイルは目標に向けてまっしぐらに突っ込み、その際に距離を電波で測っており一定の距離で迎撃爆発する。これは、相手のミサイルが爆発で広がった破片群のなかに突っ込むことで破壊しようとするものであるが、その爆発後の適切な破片の広がりの中につっこんでもらわなくてはならない。

 従って、当然相対速度によって当然、爆発の距離が異なり、ミサイルにそこまで判断する高度なAIは付けていないので、発射前にリモコンで調整する必要があるのだ。
 アンチミサイルが発射されるが、撃ったあとはミサイル任せだ。斥力装置もレールガンの弾は減速できても桁違いにエネルギーの大きいミサイルにどこまで効果があるかは判らない。和田は祈る思いで、管制室の窓から発射されるアンチミサイルを見つめた。

 また、報告がある。「もう一発、敵艦に命中です」
 歓声が上がるが自らに迫る脅威の前に控えめだ。

 やがて、かなたに火球がきらめき、すぐにはるかに大きな火球が現れるが、全部で十発位もあろうか。
「あれは、敵ミサイルが核爆発しているのでしょう」
 戦術士官が言うが、あの爆発がこの艦に当たって起きたら跡形も残らないだろう。だいたい、相対速度百㎞/秒超で当たっただけで致命傷だ。

「まだ、7発残っています。突っ込んできます!」レーダー士官の叫びに、『うーん結構残ったな』と思いながら和田は命じる。
「各艦、散弾レールガンを準備、自動射撃!」

 そう、各艦には個艦防御用に発射速度を落として、径十五㎜のいわばパチンコ玉を1万個発射する散弾レールガンを4基ずつ設置しているのだ。この迎撃は人間の判断で撃てるものではないので、基本は艦載人工知能による自動射撃である。

 このように、戦闘艦がレールガンで敵艦隊を攻撃しながらも慌ただしく防御態勢を固めているうちに、戦闘機の山田二尉はすでにレーダーに大きく映っている敵艦隊を見つめていた。すでに距離は1万㎞を切っている。辺りにはビーがひしめいているが、山田は何度もビーから避けるように運動しながらここまでたどり着いたのだ。

 と、山田の正面でビーがきらめき爆発でした。さらに、少し離れた所でも爆発する。山田はこれらの爆発を目隠しに近づくことを考え、爆発を艦隊との間に持ってくるように機動した。

 さらに近づいて5千㎞程度になったとき、「チャンス!」山田は独り言を言って、一つの爆発の影を躱してその陰かから出る形で、艦体を正面に見るように機体をもって行き、レールガンを敵2番艦に狙いをつけて撃った。ずず!という感じで機体が振動し、暗い光が四十秒でぶち当たる敵艦をめがけて飛んでいく。

 すでに、山田達は僚機と敵艦に番号を付けて担当を割り振っているのだ。さらに山田は機体を敵艦隊との衝突コースから逸らしながら、十秒後機体の姿勢を無理に敵艦隊に向けてさらにもう一発撃つ。さらに十秒後最後の弾も撃つ。その時点で、かれはその的の敵艦から、わずか30㎞の距離を通過したが、突然正面至近で爆発が起きる。

「ビーの爆発だ!やばい」
 叫んで精一杯躱すように機動したが、『ドゴン』、という音と強烈な振動と共に、操縦装置が死んだ。振り返ると後部がえぐり取られている。

「やべえ、もうちょっとずれていたらアウトだった。俺が撃った艦はどうなったかな?」
 しかし、すでに百㎞以上離れた敵艦の状況を、計器が死んでいる今知るすべはない。かれはため息をついて、操縦席を機体から切り離した。操縦席はカプセル状になっていて、切り離せるようになっていて、信号を出しつつ5時間の生命維持が可能だ。

「あとは、運だな。すでに敵艦隊とはどんどん離れていくが、味方とは殆ど同じ相対速度だからな。銀河の閃光52号、あばよ。ありがとう。良く働いてくれた」
「おい、山田、なにをしんみりしているんだ。河合だ。おまえ、大活躍だな。お前だけで2艦撃破だぞ!」

 突然、同僚の河合二尉の日本語の声が聞こえる。
「おお、河合か。ええ!俺の撃った弾が当たったのか?」
「ああ、戦果は俺が確認した。おれが射点につく前に片付いちゃった。敵は全滅したよ。でも味方も相当やられた。半分も残っていないのじゃないかな」

 そう、敵艦は少なくともレールガンの弾が命中してすべて機能を失っており、その点では確かに全滅したが、ビーはまだ数百機残って敵艦隊の周りを飛び回っており、物騒なことこの上ない。また、味方の戦闘艦隊は結局1艦がミサイルを迎撃しきれず、大爆発を起こして消えてしまった。また、戦闘機は出撃した30機のうち、無事だったのは十二機のみで8機はビーの爆発でやられ、十機は熱線砲でやられた。

 しかし、そのうちの6名は山田のように機体は壊れたが、脱出してパイロットは助かった。従って、人的被害は爆発した『ハクリュウ』の乗員三十名、戦闘機パイロットが十二名死亡または行方不明、戦闘機パイロットで助け出された6名中3名が重傷、2名が軽傷、山田二尉のみが無傷だった。

 戦果としては、敵艦は全て撃破し、戦闘艦により敵2艦を撃破、残り8艦は戦闘機によるが、戦闘機による撃破でも単機で2艦を葬ったのは山田のみであった。しかし、宇宙における超高速の戦いは相手を撃破しても肉眼で見ることはまずできず、計器でそれとわかるだけで、味気ないことおびただしい。

「全敵艦隊撃破!」
 その知らせは、すぐに重力波の通信によって地球の岩木基地の管制室に知らせられて、歓声と拍手に包まれた。

 しかし、続けての通信、ハクリュウの消滅、パイロット十二名の死亡に室内は静まった。そこで、総司令官のアーサー・シップ中将が声を張り上げて言う。

「戦いには相手がある。我々は強大な星間帝国の先遣隊を、わずか3カ月の準備での不十分な装備で相手を全滅させたのだ。残念ながら被害が出ることは予想されていたし、場合によっては我が方の全滅すらありえた。
 それであらばこそ、3段構えの迎撃態勢を取ったのだ。第一迎撃隊は、不十分な装備でよくぞ戦ってくれた。我々は亡くなった将兵を地球を守ることに命をささげた勇者としてたたえよう。我々は今ここで、自らの命を犠牲にして地球人類を守ってくれた勇者達四十二名に一分間の黙とうをささげる。黙とう!」

 シップ中将は『ありがとう、皆、よくぞ戦ってくれた。安らかに眠ってくれ』との感謝の念と共に、「直れ!」号令する。続いて、副司令官の西野空将が指示する。
「それでは、現地に、当初からの指示通り、出来るだけの敵装備を回収するように伝えてくれ。それから、どの程度の敵の装備を持ち帰れるか早めに回答が欲しいとな」

 当然、敵の装備が回収できれば、その分析によって何より貴重な情報が手に入るが、どの程度手に入るか。
 重力通信による指示の約2時間後、重力通信による回答が来た。まだ、5億km離れた戦場までは電波では4時間半程度要するので無線通信は無理である。

「敵大型艦の2艦が比較的原型を保っているので、この2艦に速度を同調して回収して斥力装置で引っ張って帰る。しかし、たぶん地球軌道に行くまで十日位要するだろう。また、ビーは艦隊の周りを飛び回っているので、熱線銃で片つけるがこの処分に1日はかかるだろう」

 この回答に、誠司はシップ中将に言う。
「わずか、1ケ月後に敵の本隊が来るかもしれないのに十日は待てません。また、ビーも何とか数機は確保したいですね。私が基地にある『きぼう』で行き、移動しながらの敵艦を調査します」

「うむ、時間が何より貴重だ。それがいいかもしれんな」
 シップ司令官が答える。

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