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第1章 日本の変革

1.10 日本の試練

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 ある日の首相を含めた国を動かす人々の会議である。
 首相の阿賀清太郎を囲んで、官房長官 佐治良兼、経産大臣 中山昭二、防衛大臣 佐川良治に副官房長官 村田健吾をメンバーとして非公式の会議が持たれている。

「首相、今日は経産省から、新しい技術開発についてお耳に入れておきたいという話がありましたのと、防衛大臣からこれも技術開発の話と言うことでお時間を取って頂きました。まず経産大臣お願いします」
 官房長官が切り出して、経産大臣の中山を促す。

「今日は、以前御報告しました核融合発電の件と、それの派生技術だという高効率バッテリーとさらに新しいタイプのモーターについてご報告させていただきます」
 中山が始める。

「核融合発電機の開発ですが、先般よりご報告したように、技術的確立は済んでおりまして、何人か学会の権威にも確認しましたが間違いないようです。皆さん、あまりに画期的な成果に驚いておられました。さらに、いま取り掛かっていますのが10万㎾のプロトタイプの建設による実証ですが、当省から二十億円の新技術開発援助金を適用しまして現在すでに詳細設計は終わりました。

 さらに、機材の発注もほぼ終わり製作にかかっておりまして、あと2カ月位で組み立てにかかる予定です。試運転の予定は当初1年後と言っていましたが、だいぶ早まりまして八月初め頃の予定です」

 中山大臣の説明に防衛大臣の佐川がコメントする。
「実は、その核融合発電機の完成をわが防衛省も持ち望んでいる次第でして、いいですか私の方から話をしても?」

「ちょっと待ってください。その件は私にも耳に入っていますので、まずこっちの重要な話を概略済ましておきます」中山が言う。

「そうですね。まあ、順番です」
 官房長官が中山に合意して話の続きを促す。

「では説明します。実は現在のものを圧倒的に超える超バッテリーの話が当初からありまして、これは核融合発電の派生的な技術だということなのですよ。
 これはSuper AtomicバッテリーということでSAバッテリーと呼んでいます。要は化学的に充電するのではなくて原子の配列を変えて電子の形で電力を取り出すもので、従来に比べ大容量電池が段違いに小さく安くできます。

 いま標準化しているのは100、500、1000㎾時ですが、普通車に使う100㎾時のもので5万円位で売れるようですね。
 しかも、少なくとも1000回は充放電できるそうですので、1回の充放電のコストは五十円です。その上、これの本体はアルミでできていますので、電力が下がってアルミの値段がさがるとコストはさらに安くなります。ちなみに、現在の100㎾時のバッテリーは車に積めないほどの大きさですよ。

 このSAバッテリーも西山大学発ですが、西山大学はさらにですね、モーターまで改良してくれたようです。今までコイルを巻いていたのが、その必要がなく一体成型で出来るのです。このために、今までは国内産では競争力がなかったのが、国内でも十分コスト的に成り立つようです。

 コストは半分以下で、やはりアルミを多用しているようです。まあ、そういうものがすでに完成しておりまして、いま実用試験をしています。従って、核融発電機により電力の発生を水素を燃料に出来るようになる。
 さらに、その充電と言うか処理のためには、ある程度は電力は使いますが、SAバッテリーと新型モーターによって車のみならず走行するものはすべてこのバッテリーから取り出した電力で動きます。従って、我が国は燃料として化石燃料は要らなくなるのですよ」

 余りに重大な中山の話にしばらく皆は黙る。
 しかし、官房長官が気を取り直して口を開く。
「大変いい話で、気持ちが明るくなりますね。では次いで防衛大臣のお話を聞きましょうか。どうぞ、防衛大臣」

 防衛大臣はコホンと咳をしておもむろに話始める。
「実は、わが防衛研究所において、電磁砲、レールガンの開発にかかったのはご存知だと思います」

「ええ、予算に認められていましたよね」官房長官が言う。

「実はあの開発は大体実装置化を3年後と見込んでいたのです。それも、性能としては米軍が開発をしたもの程度のものを目指したもので、弾は百五十㎜、射出速度が2㎞/秒程度のスペックを見込んでいました。
 しかし、外部からの助けがあった結果、設計がすでに終了しており、予算さえあれば2カ月で完成するという所まで来ています。さらに、そのスペックが砲弾は口径100㎜ですが秒速10㎞の射出速度というのです。
 これですと、大気圏外に撃ち出でますので、我が国のレーダー連動した射撃制御システムと組み合わせると弾道ミサイルでも撃ち落とせます」

「なに!そんな技術的ジャンプはあり得ないだろう。ちょっと信じられん。なんですか、その外部からの助けとは?」
 官房副長官の村田が言う。かれは防衛技術には詳しいのだ。

「ええ、なんでも核融合発電の技術的な中心になっている大学院生の牧村という若者が、基本コンセプトを示したらしいのです」

「なに、牧村!うーん、それだったら信じられる」
 佐川の言葉に村田は声を出して笑って、「いやこれは失礼、これは説明が必要ですな」そう言って彼は、そもそも彼が核融合発電の件のつなぎをしたそのいきさつを説明し、そのあとにさらに佐川が続ける。

「まあ、そういうことで、防衛省もその能力のレールガンが出来るということで、いろいろ作戦を考えている訳です。それで、みなさんもご存知の朝鮮半島と中国を取り巻く問題において、この弾道ミサイルを撃ち落とせるレールガンがあると無いでは話が全く変わってきます。とりわけ、すでに核を積んだ弾道ミサイルを北朝鮮が開発済とみられること、及び中国情勢を見るとですね」

  現在、世界の関心を引いているのはロシアのウクライナ侵攻であるが、軍事大国と言われたロシアの化けの皮が剥がれた格好で落ち着いた。それは、通常戦では遥かに弱者であるウクライナすら圧倒できず、各所で押し返されてしまった。

 結局、大統領のプチャーキンは、押さえていた東部と南部の4州を一方的に併合して、最後は無人のシベリアの凍土に極超音速核ミサイルを撃ち込んで見せて戦争を凍結に持ち込んだ。
 しかし、ロシアの経済封鎖は続くわけであり、ロシア国民からの悲鳴が聞こえてくる状態であり、いつプチャーキンが暗殺されるかというのが今の状況である。

 北朝鮮については、韓国の白前大統領の口先仲介で一時は雪解けムードもあったアメリカとの関係は、白の仲介の言が全くの嘘であることが判った結果元に戻ってしまった。
 北は再度、弾道ミサイル・核爆弾の開発に狂奔し、核による弾道ミサイルシステムを完成したと宣言した。しかし、巧妙なことに、これはアメリカには届かないと合わせて発表し、この技術的根拠も示したため、アメリカは日本・韓国の手前、さらに最大の敵となった中国を見据えてコミットはしているが大きな関心を持っていない。

 そして、この国は国民が飢えている状態で高価であるはずの弾道ミサイルを、どんどん撃って世界の関心を引こうとしている。さらに、国際社会から強く警告された核実験に踏み込んで、再度世界の問題児となった。日本列島を超えてミサイルを撃つような国を放置できないというのが、日本のコンセンサスになっている。

 中国は今や、世界の不安定要因になっている。C感染病の発生源になって世界に混乱をもたらしたことは記憶に新しく、それに対して全く責任の感じた態度を見せず、西欧から大きな嫌悪感を持たれるに至り、疑惑の目を向けられるようになった。
 さらには、核ミサイルのみならず通常戦力も継続的に拡充して、ベトナム、フィリピン、そして我が国などの海で接する国々に軍事的に威嚇を繰り返している。

 そうような状況から、当然安全保障上の問題は日本にとって頭の痛いところではあって、現在日本は特に北朝鮮からの非常に高いリスクを抱えているということは確かである。

「そう、そのようなレールガンが作れるのならそれは欲しいよ。それで何とかなりそうなのかね?」
 阿賀首相が真剣な顔で言うが、こういう背景があれば当然のことだ。

「ええ、それが、発電機にかかっているのです。今のところ今言った初速を出すのに8万㎾の電力が必要です。むろんこれは電力グリットからでもいいのですが、まことに脆弱な電力網に頼るような兵器では話になりません。
 それが、さっき話の出た10万㎾の発電機でしかも、まことにコンパクトらしいじゃないですか。それでしたら、護衛艦に載せられますからね。出来たら全国に3基、欲を言えば5基これがあれば、中国のミサイルにも対抗できます。さらに一編成の護衛艦4隻に載せたいですね。

 それと、それだけではなのですよ。電磁カタパルト、これもできます。
 これの設計も済んでいるのですよ。これを載せれば、現在の『いずも』は正に空母として使えます。しかし、これも10万㎾の電力を食うのですよ」

 皆が中山を見つめるので、彼は笑う。
「私を見たって、どうにもなりませんよ。いまでも予定を前倒しにしているでしょう?これ以上という無理は言えませんよ。しかし、こういうことは言えるのじゃないですか。今のプロトタイプが出来て、その成功を見てその後発電機を作り始めると、プロトタイプのものが実用に耐えるとしても当面使えるのは一台のみです。
 ですから、例えば十台分の構成機器を一斉に発注しておけば安くもなるだろうし、プロトタイプの完成後そう時間がかからず、一斉に完成するでしょう。それと考えるべきは、完成後時をおかずに日本の発電システムをこの方式に変える必要があるでしょう?」

 そう、それはそうだ。ロシアのウクライナ侵攻それが無くても、例の近く石油の生産量は需要に追い付かなくなるというレポートの発表以来、石油の値上がりは顕著なものになっている。原発があまり動いていない今、我が国のとっては泣きっ面に蜂という所だ。

「まあ、そうだよね。当然そうでないとその移行期が問題になるからな。場合によって余計に原油の値段を吊り上がられたりしてね」
 村田が賛同する。

「実は、電力会社向けの実用機として百万㎾の装置の標準設計を続いてやっているのですよ。だから、今から人を集めて訓練しておいて、プロトタイプの成功が確認されたら一斉に建設にかかるのですよ。当然こうなると、秘密は保てませんけれどあれの本当の秘密は励起装置と電磁銃そのものとそれらの制御に仕方のソフトに本当のノウハウがあるのです。ですから、それらの秘密を厳重に守ればしばらくは外国では作れないでしょう」

 中山の言葉に首相が大きく頷く。
「そうですね、中山さんの言うことに賛成です。まず、小型と言っても十万㎾級ですか、防衛省で求める数の必要な発注をかけてください。これは、防衛費から出しておいてください。必要に応じて補正予算を組みますからそのレールガンそのもの、またカタパルトについても進めてください。よろしいですか。防衛大臣?」

 佐川防衛大臣はにこにこして答える。
 「わかりました。無論、発電機については経産省さんの協力が必要ですが」

 首相はさらに言う。
「その大型発電機に関して、中山さんはその方向で動いてください。必要に応じて私の意向ということで他の省も協力も仰いてください。官房長官及び副官房長官、そのあたりの調整はお二人で入ってやってください。
 この件に関して、まだプロトタイプの試運転をやっていませんので、100%うまく行くとは限りませんが、我が国はこれに賭ける以外の道はいずれも狭く険しいものです。
 私はうまく行くことに賭けると腹をくくります。皆さんも腹をくくってください」

 首相の強い眼光を見返して皆は力強く頷く。
「加えて、その牧村君ですか。かれが、一連の動きのキーマンのようですが、本人並びに近親者のセキュリティは大丈夫ですか?万が一誘拐などされると大変なことになりますが」

 さらに続けた首相の言葉に官房長官が答える。
「はい、実は妹さんが一度誘拐されたこともあって、本人と妹さんはすでにカードしやすい四菱の社宅に入ってもらっていますし、すでに内閣調査室から現地に警備チームを送り込んでいます。
 また、母親はすでに病気で亡くなっており、父親がアメリカに長期出張をしていたので、現地大使館を通じてガードをつけています。ただ、現地での仕事も大体けりがついたようですから、会社を通じて早急に帰ってもらいます」

「わかりました。よろしくお願い致します。期待していますからね」
 首相の言葉を最後に協議は終わった。


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