日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人

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第1章 日本の変革

1.5 核融合発電、開発のスタート

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 翌日、誠司は重田准教授と羽田空港に降り立ち、浜松町を経由して経産省のビルに入るが、入口で警備の人に呼び止められて身分証をチェックされる。重田は大学の証明書があり、誠司は学生証を見せて入る。中に入ると、吉村が待っていて手を挙げ近寄って来て話しかける。

「やあ、重田先生ご苦労様です。順調に来られたようですね」

「ああ、吉村君、すまんな、わざわざ」
 そのように言いながら、重田はまだ、なんで吉村が来たかピンと来ていないようだ。

 しかし、アポの時間が迫っているので、受付で柴山課長との11時のアポを告げると、受付けの女性が席を示す。
「重田先生と牧村様、吉村様ですね。承っております。案内のものが参りますので少しお待ちください」

 5分ほど待つと、エレベータを降りて女性が一人受付けに来たところで、先ほどの女性が声をかける。
「重田先生、案内のものが参りました」

 その声にすぐに受付に行くと、来客と書かれたバッジを渡される。
「では、この建物の中ではこれを胸に付けてください」

 それを見ていた、先ほど来た女性が重田達に頭を下げ声をかけてエレベータへ案内し五階に上がる。
「ではご案内いたします。どうぞこちらへ」

 降りて少し歩き2回角を曲がったところの第三応接室と書いたドアをノックする。
 なかから男の声で「どうぞ」と聞こえたので、秘書の女性がそれを空けて中に向かって声をかける。
「重田先生他二名の方をご案内しました」

 その声に応じて、中から「入って頂いてください」と声がかかる。
 重田は、最初の声も今の声も同級生の柴山であることがすぐわかる。
 女性に案内されてはいった部屋の中は、少し豪華な応接セットが置かれた応接室であり、一人の中年の男性、重田と同じ程度の歳の男性それに、30歳過ぎ程度の女性が立って待っている。

「遠路有難うございます。どうぞこちらへお座りください」
 案内された方のソファの前で立った時、その男性が紹介する。

「私が、重田準教授の高校の時の同級生の柴山修一です。こちらは、私の上司の産業局長の麻木良治です。そして、こちらはうちの省の専門官の深山涼子で、物理学の博士号を持っています」

 それに対して、重田が自己紹介と吉村と牧村を紹介したところで、柴山の「どうぞお座りください」と言う言葉でお互いに座る。そこで再度柴山から話がある。

「実は、今日の話については、私も何の話であるかは、重田準教授から大体のことを聞いていまして、こういうと大変失礼ながら、正直に言って眉に唾をつけていたところです。
 しかし、いずれにせよ私には判断できかねると思っていましたので、深山には立ち会ってもらおうとは思っていました。ところが、昨日の時点で当省の大臣から話がありまして、話の真贋が極めて重要なことになったわけです。そういうことで、出来ればお話があるという核融合発電機について、出来るだけ具体的な説明をお願いします」

 最初の話は重田がすることに決めていたので、2部用意した論文について、1部は深山女史に渡し、どういうことを書いていてどういう意味合いを持つかを説明した。
 その間、深山女史は半分話を聞きながら大部分の関心は論文を読むことに向けられている。次に、誠司が造ろうとしている装置の概要を説明した。そして、わかっている限りのコストを足し合わせた結果は10億円弱であり、実際の資金としては20億円は用意すべきであることを述べた。

 また建設期間としては、民間企業の優秀なエンジニアの力を借りて設計、製作、発注、組み立てで1年間は要するという説明を行った。誠司の説明が終わったあと、吉村がつけ加えた。

「実は、この核融合関係の論文と同じ出どころのこういう論文があります。これについては1部はこちらにもお渡しするように、昨日あった官房副長官の村田先生からのご指示ですのでお渡ししておきます」

 吉村は仰々しく論文を出して、局長の前に置く。
「昨日、村田先生とお会いになられた?」

「ええ、私の父が先生の古い支持者で、日ごろから親しくさせて頂いています。
 まあ、その話は置いておいて。読んでいただけるとわかりますが、この論文には日本経済にとって極めて難しい将来が描かれていまして、しかも殆ど避ける方法がないのです。

 しかし、唯一理想的な処方箋として示されているのがこの核融合発電の我が国への導入です。合わせて、この核融合の技術のおまけみたいなものですが、超高性能バッテリーの技術があります。
 牧村に言わせるとその実現は難しくはないそうです。すなわち、この私どもの申し入れている企画が成功しますと、我が国は燃料については単なる水素のみ、これは水を電気分解しても出来ますが、燃料としての石油は必要なくなるのです」

 しばらく、沈黙が続き、特に経産省の柴山課長、麻木局長はその影響を考えているのであろう、心がここにあらずという雰囲気である。しばしして、麻木局長が深山女史に聞く。
「深山さん、あなたが読んでその論文はいかがですか?」

 十秒以上間があって、やがて女子は頭を整理していたのであろう、あきらめたように答える。
「私はこの論文は正しいと思います。少なくとも私には穴は見つかりません。これは、大変なものですよ。おそらく物理学の歴史が始まって、これだけ重要な論文はないと思います」

「それで、これがあれば、核融合発電設備は作れるかな?」と麻木局長。

「出来るでしょう。いや、出来ますよ。必要な装置構成はすべて示されていて、操作条件も示されていますから、工学のものと協力すれば、わたしでもできます。もっとも私がやれば五年以上かかるでしょうが」

 彼女は冷静に言って付け加える。
「でも、大学が、企業と共同でやればそう長くはかからないでしょう。そう西山大学などですね」

 少し間があって、麻木局長が重田一行に改めて向き直り、しゃべり始める。
「わかりました。得心がいったとまではいきませんが、先ほど吉村さんが言われたように我が国は追い詰められています。極めて危ない淵に立っていることは我々官僚も承知しています。
 その置かれている状況の中から言えば、あまりにも現実離れはしていますが、同時にあまりにも魅力的な問題の解決メニューです。さらには、専門の方がこぞってそこまで実現できると言うのですから、我々もあなた方が持ち込んだこの話に賭けたい。20億円は用意します。

 そうなれば、吉村さんが言われるように一日でも早く本当に運転できたという証が欲しいのです。それがあれば、我が国がどれだけ優位に立てるか。お願いします、出来るだけ実証運転を早めて下さい。我々もその手助けは出来るだけのことはします」
 麻木は重田一行に深々と頭をさげ、柴山も深山もそれ続く。

「ええ、お顔を挙げてください、お礼を言わなければならないのは我々です。無論我々も頑張ります。しかし、さしあたって超特急で設計にかかるわけですが、私どもの理学部長からも言われているのですが、すぐ動かせる予算の枠があれば有難いのですが、それほど大きな額ではありませんが、どうでしょう?」

「ええ、それは出来ます。無論証票は必要ですが、エンジニアを雇用する場合、院生を動員する場合、数千万でしたらそんなに難しいことではありません。幸い、うちの支所が西山市にありますから、そっちかその辺の処理をさせますよ」
 今度は柴山課長が答える。

「そうですか。それは有難いです。帰りましたら、早速設計に着手します。場所としては、学内では秘密保持の面で難しいので四菱重工の西山工場の構内で考えています」

「四菱さんですね。私どもからもお願いしておきましょう。それから、先ほど吉村さんからお話のあった、その超バッテリーですか。それも出来るのであればその発電機に劣らず重要なのですがね。そっちの方はどうでしょうか」

 麻木が尋ねるのに誠司が答える。
「ええ、私の頭の中にはもう構想はありますから、並行して学内の材料と電気の関係の人を集めてやっておきます。こっちの方が実装置化は早いかもしれませんね」

「ええ!それは有難い。いずれにせよ、本省から人を何人か西山大学に出向させて協力させるようにします」
 麻木は誠司の答えに喜んで協力を申し入れるが、吉川から切り返される。

「うーん、まあ、一種の監視でしょうが、役所の人に来ていろいろ報告だけ求められても困るのですよね。そうじゃなくても、死ぬようなスケジュールですので」

 麻木は苦笑いして、「まあ、お役所仕事と言えば有名ですからね。しかし、ご負担になるような者は出しませんよ。気にいらなければ返して頂いて結構ですから。それから」改めて、皆を向いて切り出す。

「この論文は我が国のトップシークレットにしたいと思います。先ほど、うちの深山が申しましたが、これがあれば、ほかの国でも核融合発電機が造れるということですから、万が一にも流出したら困ります。そうではありませんか?」

「うーん、まあそうですよね」
 それに対して吉村が応じる。

「それで、これは牧村さんのパソコンに入っているほかにデータとしてはほかにありますか?」

「データは外に出していませんね」誠司が答える。

「ハードコピーは何部あるのでしょうか?」

「いま、ここにあるのが二部、重田先生に一部、吉村さんに一部、それと山科教授に一部ですね」

「わかりました。それはよかった。データとして他に渡っていると管理しきれないところでした。この二部は我が省が管理しますが、吉村さんの一部もお預かりしておきましょうか。あとは、西山大学のものは絶対に外に出さないようにまた盗難防止をお願いします。
 そして、牧村さんそのデータは絶対にコピーをしないようにお願いしますね。出来れば、そのパソコンをお預かりしたいところですが」

 麻木の言葉に誠司は即座に断る。
「いや、それは困ります」

「まあ、そうですよね。これは、あなたを信じるしかないので、信用します」
 麻木はその点はあきらめるが、さらに付け加える。

「ところで、この論文と先ほど吉村さんが出された論文は同じところからできたと言われましたよね。また、牧村さんは論文の発見者だと。これはどこから出てきたのですか?」
 これについては重田がぴしゃりと断る。

「それについては、西山大学としての秘密でして、開示できません。これは理学部長の山科教授からも厳しく言われています。ただし、絶対に不正行為等によるものではありませんし、後に権利関係でもめることはありません」

「うーん、そういわれると引っ込むしかありませんが、これから、核融合発電機が完成するまで、深山は西山大学に出向させます。秘密保持と言う意味では彼女も内容を知ったわけですので、今後秘密の中で作業される皆さんと一緒に行動するのが一番なわけです。どうかな、深山君?」

「ええ!西山大学へ!いきなりでそれはあんまりでしょう」
 深山女史は突然のことで当然抗議をする。

「しかし、深山君、このプロジェクトは人類史に残る偉業を達成するものだよ。しかも君の専門の物理学が深くかかわっている。正直に言って、今のポジションでは君の能力を生かしているとは言えない。まあ、これは我々の責任でもあるがね。どうかね?」
 麻木局長が、深山の顔を見ながら言う。

「うーん。人類史に残るプロジェクトか。それに加われるというのはいいかも。まあ、どうせ独身の腐女子ですから誰も困らないし。いいですよ。行きますよ」
 深山は開き直って麻木を見る。

「うん、有難い。とりわけ設計期間は大変だと思うが、周りの皆さんにいろいろ聞きながら頑張ってほしい。完成の暁には君は官庁街きっての核融合発電の権威だ」
 彼女にそういった麻田は皆に向き直る。

「こうは言いましたが、彼女は大変優秀です。ただ、今のところ私どもの省では、彼女の能力を生かしているとは言えませんけれど。しかし、かならず、お役に立てると思いますよ」

「はい、それは感じました。あの論文を理解できる人は、正直言ってなかなか居ませんが、深山さんはあの短時間で内容を的確につかんでいましたからね。そういう意味では期待しています」
 重田が真面目な顔で言う。

「よろしくお願いします。しばらくお仲間に加えてください」
 立って頭を下げる深山の挨拶に吉村が嬉しそうな顔で言う。

「美人は大歓迎です。これで、すこしは牧村君の苦労も軽減できるかな」

「僕も、大歓迎です。しばらくは大変だと思いますが、申し訳ありませんがよろしくお願いします」
 誠司も頭を下げる。
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