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第3章 アジャーラのいる日常
3.10 医療用WPC騒動再び
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5年ほど前、世界は新型C型ウイルスによる疫病の影響で大きな影響を受けた。感染者は最終的には2億人に迫り、死者は350万人を超えた。最終的にはワクチンによって終息に向かっていったが、現在においても世界で年間1千万人以上の感染者が出ている。
この疫病は、歴史に残るさまざまな疫病に比べ、それほど死亡率は高くないが、すでに世界が一体化して人々の動きが全世界的になっていることから、非常に早く広く世界に広がった。そして、その広がりは中国の人々の移動または中国にいた人々の移動に伴ってであることには強い状況証拠がある。
中国政府は、そのウイルスが外から持ち込まれたものであることを印象つけようとしたが、長く調査チームを入国させなかったことからも、そのようなことを信じる国はなかった。そして、いち早くそれによって引き起こされたリセッションを抜け出したことをアピールした。だが、これは逆効果であり、世界の国々と人々の反感を買っただけであった。
実際に、この疫病によって引き起こされた経済の負の効果は莫大なもので、職を失った人々も5億人に越えたことが後に明らかになった。そして、苦境に立たされたその人々は多かれ少なかれ発生源と信じている中国を恨む。そして、その発生源の国は自国ではすでにその疫病を克服し、経済も復活したしたと誇る。
ちなみに、この新型ウイルスによる肺疾患の質の悪さは、検知が難しいことと無症状者が多いことである。PCR検査によっても、70%程度の感度しかない検査では潜り抜ける可能性が高く、感染しても症状が出ずに他に感染させてようやく感染していることがわかる例が多い。
だから、経済への多大な悪影響を覚悟で人々の移動制限のよって接触を止めるか、ワクチンで体内に抗体を作って感染しないようにするしか取れる手段がないのだ。そして、ワクチンにしても感染防止効果は100%ではない。2022年初頭には日本人のC型ワクチン接種者は60%を超えており、日本では概ね恐れられる病気じゃなくなっている。
また、CR-WPCとIC-WPCが世に出されたのは2022年の春であり、僕が頑張って量産を始めたのは夏だ。CR-WPCは体にとっての有害な物質を除去するというその性質から、病原菌も除去できるのではないかということは早くから考えられ、様々な臨床試験が行われた。
その結果、重篤化した患者であっても問題なく治療できることが実証されたが、これは末期の癌患者を治癒できるのだから、ある意味当然の結果であると言われたものだ。また、一方でIC-WPCは外傷に関してはほぼ万能の治療具であることが実証データによって積み上げられている。
さらにはCR-WPCによっては癌等の腫瘍などを取り除くことは可能であるが、その癌等で痛めつけられた体の回復にIC-WPCは必須である。このことから、この2つのWPCの必要性はますます高まっているのだが、今のところ活性化が可能なのは日本に居住する3人のみであり、その生産数は4千台足らずである。
医療関係者の調査に基づく、最新の世界での必要数は20万台を超えており、全く供給量が足りないことは明らかである。C型ウィルス禍と医療用WPCの関係は、CR-WPCはC型ウイルス除去に使えることは早くから立証された。だからその供給が比較的進んでいた日本においては、一部で検査の陽性患者に使われた。
しかしこれは、すぐに重症患者のみの使用となった。顕著な症状が出ていない人に使う余裕は日本ですらなかったのだ。そして、生きてさえいれば、CR-WPCで治癒可能であるのだから、他の原因による重篤な患者と同じ扱いになっている。
一方で、日本から海外に医療用WPCの輸出を始めた2023年の始めには、C型ウィルスワクチンの接種率は日本も含め先進国では希望者に対して100%になっている。ちなみに、ワクチン接種の忌避者は一定の割合でいたが、日本では初期の段階では多かったこうした人々は、未接種であることによる社会からの視線に耐えられず接種率は92%を超えている。
このワクチン接種については南北問題ということが露骨に出た。2023年初頭においても、接種率50%以下の国が100ヵ国を超えていて、これは全て開発途上国であった。このワクチンの供給において、中国が無償提供を謳って援助を始めたが、実は無償は最初の精々100万回程度で後は資源とバーターなどの有償であった。
その上に、副反応などの情報公開がほとんどなく、実際には多くの深刻な問題を起こしていたことが後に判った。これはワクチンそのものの問題というより、基本的には交通インフラ、医療体制が劣っている国々での、温度管理、衛生管理による生じた場合が殆どである。
日本政府はこうした危機に当たって、CR-WPCとIC-WPCを各1台持った医師を中心とした50チームを形成して、途上国に送り出した。こうした国々はC型ウイルスが未だに蔓延しており、医療体制は遅れている。各チームは主として重傷患者の治療を行って、大部分の重症患者を回復させた。
こうして、C型ウィルスによる疫病が死病ではないことを理解した国々はパニックになることはなく、経済活動も過度なマイナスになることはなかった。また、自分たちへの需要が一巡した先進国が対応ワクチンを競って援助を始めた結果、2023年半ばにはC型ウィルス禍は世界的に概ねの落ち着きを見せた。
ただ、医療用WPCを使ってC型ウィルス患者のみならず多くの人命を救った日本は、多くの第3世界の国々の感謝を受けた。だから、比較的少ない予算と人員で大きな効果を上げたと言える。これは少ない医療用のWPCを活用する苦肉の策ではあったが、このことはまた、世界に医療用WPCの必要性を認識させることになった。
現在、医療用のWPCを活性化できるのは僕とアジャーラに姉のさつきである。その応用方法はどんどん広がっていて、医療関係の学術誌はその応用方法一色である。生産量は僕のノルマが月に200台、アジャーラが120台、姉が30台であるから、月間350台であるので、年間生産量は約4000台になる。
一方で、WPCには寿命がある。これは24時間駆動のものの寿命が短く、運転時間使用頻度が低いものほど寿命が短い。その意味では、常時運転している発電用のWPCが最も短く、概ね1年であることが解っている。そして、寿命が尽きようとするWPCはWP能力者には明確に解るノイズのようなWPを発する。
そして、寿命の尽きたWPCは再活性化が必要である。CR-WPCとIC-WPCも国内のものは、再活性化の必要なものが出始めているが、新規の場合の半分程度の時間で活性化が可能である。発電用のWPCも同様であり、その場合には新規の活性化ができないWP能力者にも活性化が可能であることが解っている。
医療用WPCの活性化については、極めて複雑な回路の理解が必要であるが医療関係者のWP能力者はその点は問題ない者が多いので、寿命のきたWPCの再活性化は僕やアジャーラである必要はないので助かっている。
ちなみに、アジャーラが医療用のWPCを活性化できることを知ったウズベキスタン政府は、彼女を手放したことを大いに後悔した。そして、彼女を国に戻すことを画策し始めた。その知らせは、ウズベキスタンにいる村田医師から僕に電話が入った。
「オサム君久しぶりだね。元気でやっていると思うけど、とりあえず知らせておこうと思ってね。
あのね、こっちの政府がアジャーラを取り返そうとしているのよ。この前のベジータの誘拐騒ぎで、ようやく彼女が医療用WPCの活性化をしていることに気付いたらしいのね。
多分こっちの政府から正式文書が出て、帰すようにという要請というか、彼女等個人には命令が行くことになると思うけど、オサム君としては困るでしょう?」
「うーん、そうか。ウズベキ政府は彼女のことをフォローしていなかったのですね。それで、この前の騒ぎで名前は出なかったけど、気が付いてしまったと。ああいう国ですから、国民に命令すればよいという考えなんでしょうね。その割に、彼女の教育費はちゃんと取り上げましたよね。
でもまあ、ウズベキの知り合いには連絡を絶たせて良かったですね。彼女もそっちには特に連絡を取りたいとか。また会いたいと言う人はいなかったようですしね。彼女もその容貌と、それでいて優秀だったせいで、いじめられるほどではないにせよ結構孤立状態だったようですからね。
僕自身は彼女が居なくなるのは困るというか、是非ずっと傍にいてほしいと思っています。勿論彼女の意向は確認しますが、万が一帰るというなら残るように説得しますよ」
「“I love you”だね。少し年齢的には早いけど、それが一番だね。生活能力はお互いに十分あるし、もう彼女には告白したの?」
からかうように村田医師が言うのに、思わず顔がほてるのを感じて僕も応じる。
「今は育んでいるところなのです。実のところ、彼女がウズベキスタン国民である限りは、国の干渉を完全に防ぐことは困難です。だから、WPC製造㈱と彼女の帰化問題は話しあっていたのですよ」
「だけど、帰化には5年の居住が条件でしょう?だから随分時間がかかるよね」
「いや、帰化の要件の中に“特別な事情がある場合”という条項があり、これは5年の条件をカットできます。僕の姉を含めて世界に3人しかいない医療用WPCを活性化できる人材というのは要件に含まれませんか?」
「へえ、ああそういう条項もあったわね。ということはいけそうなの?」
「はい、経産大臣が閣議で要望して外務大臣が手続きを進めていますから、大丈夫でしょう」
「本人は了解しているの?」
「ええ、意向は聞いています。本人も日本に残りたいと言っています」
「その場合に、ベジータさんはどうするの?」
「お母さんはちょっと無理なのです。でも、彼女はすでに日本人男性と婚約していますから、万が一帰国命令があってもそれを盾に拒否できます」
「へえ!婚約?そういえば、病気が癒えた彼女は結構美人だったわね。まだ若いし、それに引き換え私は……」
「へえ!村田さんは独身でした?」
「そうじゃないと、ウズベキスタンの単身勤務なんてできないよ。もっとも任期ももう半年、帰ったら頑張って探すかな」
「ええ、そうですね。頑張ってください。いずれにせよ貴重な情報ありがとうございます」
「うん、安心したよ。ちゃんと対策はしているようなので。じゃあ帰ったらよろしく」
僕はまずその情報をアジャーラに伝えた。
「そうですか。やっぱり考えていた通りですね。私は生まれ育った国なので、ウズベキスタンには感謝はしています。でも、正直に言ってこれから帰国すれば、まず国の外に出してはもらえないと思っています。また私は、今後の一生を国に仕える気はありません。
私にとって日本での生活はとっても楽しいし、なによりWP能力をお陰で自活できる自信ができました。お母さんも国ではいつも疲れていて、楽しそうなことは少なかったですが、今では良く笑うようになりました。そして、お母さんは高菜さんと婚約して、毎日が楽しそうです。
私は、WPCのことを知って本当に興味を惹かれています。今は医療用のWPCの活性化も慣れてきて、すこし時間が出来ましたので、回路の勉強をしていて、オサムにもいろいろ聞いているでしょう?私は活性化だけでなく、新しい回路設計もどんどんやって、色んなWPCを作り出したいと思っています。そのためには、この国のオサムの傍にしないとだめです。
オサムも私が傍にいた方がいいでしょう?いなくてもいい?」
彼女は日本語としては完璧だが、場違いな丁寧語が多い口調でそう言うが、僕のことをよく解っていてにっこり笑う彼女に、僕の返す言葉は一つだ。
「もちろん、傍にいてもらわないと困るよ。WPCの仕事のことだけではない。そうだなあ。ちょっとお互いに若すぎると思っていたけど、もうはっきりした方がいいね」
作業小屋の向かいに座る彼女の後に行って、そのまま抱きしめる。彼女は立ち上がって、優しく僕の腕をほどくと体の向きを変えて正面から僕に抱き着く。
まだ体は細いけれど、180㎝に近い僕より20㎝ほど身長が低い彼女はそのまま顔をあげ、僕が顔を近づけると目を閉じる。それまで、何度もそうしたいと思っていたけど、その夕刻僕は初めて彼女とキスをした。
僕は16歳になったばかり、彼女は同じく16歳だけどもうすぐ17歳だから1学年上だ。僕のその年齢は最も性欲が強い時期というから、よく出会って1年間我慢をしてきただろう?
僕は少しの間、彼女の唇をむさぼるように吸っていた。でも、このままでは行くところまで行ってしまうと理性を取り戻した。ここは、そういう場所でもないしね。
とは言え、彼女との関係も大きく前進したかな。彼女も僕のキスに積極的に応えたものね。
この疫病は、歴史に残るさまざまな疫病に比べ、それほど死亡率は高くないが、すでに世界が一体化して人々の動きが全世界的になっていることから、非常に早く広く世界に広がった。そして、その広がりは中国の人々の移動または中国にいた人々の移動に伴ってであることには強い状況証拠がある。
中国政府は、そのウイルスが外から持ち込まれたものであることを印象つけようとしたが、長く調査チームを入国させなかったことからも、そのようなことを信じる国はなかった。そして、いち早くそれによって引き起こされたリセッションを抜け出したことをアピールした。だが、これは逆効果であり、世界の国々と人々の反感を買っただけであった。
実際に、この疫病によって引き起こされた経済の負の効果は莫大なもので、職を失った人々も5億人に越えたことが後に明らかになった。そして、苦境に立たされたその人々は多かれ少なかれ発生源と信じている中国を恨む。そして、その発生源の国は自国ではすでにその疫病を克服し、経済も復活したしたと誇る。
ちなみに、この新型ウイルスによる肺疾患の質の悪さは、検知が難しいことと無症状者が多いことである。PCR検査によっても、70%程度の感度しかない検査では潜り抜ける可能性が高く、感染しても症状が出ずに他に感染させてようやく感染していることがわかる例が多い。
だから、経済への多大な悪影響を覚悟で人々の移動制限のよって接触を止めるか、ワクチンで体内に抗体を作って感染しないようにするしか取れる手段がないのだ。そして、ワクチンにしても感染防止効果は100%ではない。2022年初頭には日本人のC型ワクチン接種者は60%を超えており、日本では概ね恐れられる病気じゃなくなっている。
また、CR-WPCとIC-WPCが世に出されたのは2022年の春であり、僕が頑張って量産を始めたのは夏だ。CR-WPCは体にとっての有害な物質を除去するというその性質から、病原菌も除去できるのではないかということは早くから考えられ、様々な臨床試験が行われた。
その結果、重篤化した患者であっても問題なく治療できることが実証されたが、これは末期の癌患者を治癒できるのだから、ある意味当然の結果であると言われたものだ。また、一方でIC-WPCは外傷に関してはほぼ万能の治療具であることが実証データによって積み上げられている。
さらにはCR-WPCによっては癌等の腫瘍などを取り除くことは可能であるが、その癌等で痛めつけられた体の回復にIC-WPCは必須である。このことから、この2つのWPCの必要性はますます高まっているのだが、今のところ活性化が可能なのは日本に居住する3人のみであり、その生産数は4千台足らずである。
医療関係者の調査に基づく、最新の世界での必要数は20万台を超えており、全く供給量が足りないことは明らかである。C型ウィルス禍と医療用WPCの関係は、CR-WPCはC型ウイルス除去に使えることは早くから立証された。だからその供給が比較的進んでいた日本においては、一部で検査の陽性患者に使われた。
しかしこれは、すぐに重症患者のみの使用となった。顕著な症状が出ていない人に使う余裕は日本ですらなかったのだ。そして、生きてさえいれば、CR-WPCで治癒可能であるのだから、他の原因による重篤な患者と同じ扱いになっている。
一方で、日本から海外に医療用WPCの輸出を始めた2023年の始めには、C型ウィルスワクチンの接種率は日本も含め先進国では希望者に対して100%になっている。ちなみに、ワクチン接種の忌避者は一定の割合でいたが、日本では初期の段階では多かったこうした人々は、未接種であることによる社会からの視線に耐えられず接種率は92%を超えている。
このワクチン接種については南北問題ということが露骨に出た。2023年初頭においても、接種率50%以下の国が100ヵ国を超えていて、これは全て開発途上国であった。このワクチンの供給において、中国が無償提供を謳って援助を始めたが、実は無償は最初の精々100万回程度で後は資源とバーターなどの有償であった。
その上に、副反応などの情報公開がほとんどなく、実際には多くの深刻な問題を起こしていたことが後に判った。これはワクチンそのものの問題というより、基本的には交通インフラ、医療体制が劣っている国々での、温度管理、衛生管理による生じた場合が殆どである。
日本政府はこうした危機に当たって、CR-WPCとIC-WPCを各1台持った医師を中心とした50チームを形成して、途上国に送り出した。こうした国々はC型ウイルスが未だに蔓延しており、医療体制は遅れている。各チームは主として重傷患者の治療を行って、大部分の重症患者を回復させた。
こうして、C型ウィルスによる疫病が死病ではないことを理解した国々はパニックになることはなく、経済活動も過度なマイナスになることはなかった。また、自分たちへの需要が一巡した先進国が対応ワクチンを競って援助を始めた結果、2023年半ばにはC型ウィルス禍は世界的に概ねの落ち着きを見せた。
ただ、医療用WPCを使ってC型ウィルス患者のみならず多くの人命を救った日本は、多くの第3世界の国々の感謝を受けた。だから、比較的少ない予算と人員で大きな効果を上げたと言える。これは少ない医療用のWPCを活用する苦肉の策ではあったが、このことはまた、世界に医療用WPCの必要性を認識させることになった。
現在、医療用のWPCを活性化できるのは僕とアジャーラに姉のさつきである。その応用方法はどんどん広がっていて、医療関係の学術誌はその応用方法一色である。生産量は僕のノルマが月に200台、アジャーラが120台、姉が30台であるから、月間350台であるので、年間生産量は約4000台になる。
一方で、WPCには寿命がある。これは24時間駆動のものの寿命が短く、運転時間使用頻度が低いものほど寿命が短い。その意味では、常時運転している発電用のWPCが最も短く、概ね1年であることが解っている。そして、寿命が尽きようとするWPCはWP能力者には明確に解るノイズのようなWPを発する。
そして、寿命の尽きたWPCは再活性化が必要である。CR-WPCとIC-WPCも国内のものは、再活性化の必要なものが出始めているが、新規の場合の半分程度の時間で活性化が可能である。発電用のWPCも同様であり、その場合には新規の活性化ができないWP能力者にも活性化が可能であることが解っている。
医療用WPCの活性化については、極めて複雑な回路の理解が必要であるが医療関係者のWP能力者はその点は問題ない者が多いので、寿命のきたWPCの再活性化は僕やアジャーラである必要はないので助かっている。
ちなみに、アジャーラが医療用のWPCを活性化できることを知ったウズベキスタン政府は、彼女を手放したことを大いに後悔した。そして、彼女を国に戻すことを画策し始めた。その知らせは、ウズベキスタンにいる村田医師から僕に電話が入った。
「オサム君久しぶりだね。元気でやっていると思うけど、とりあえず知らせておこうと思ってね。
あのね、こっちの政府がアジャーラを取り返そうとしているのよ。この前のベジータの誘拐騒ぎで、ようやく彼女が医療用WPCの活性化をしていることに気付いたらしいのね。
多分こっちの政府から正式文書が出て、帰すようにという要請というか、彼女等個人には命令が行くことになると思うけど、オサム君としては困るでしょう?」
「うーん、そうか。ウズベキ政府は彼女のことをフォローしていなかったのですね。それで、この前の騒ぎで名前は出なかったけど、気が付いてしまったと。ああいう国ですから、国民に命令すればよいという考えなんでしょうね。その割に、彼女の教育費はちゃんと取り上げましたよね。
でもまあ、ウズベキの知り合いには連絡を絶たせて良かったですね。彼女もそっちには特に連絡を取りたいとか。また会いたいと言う人はいなかったようですしね。彼女もその容貌と、それでいて優秀だったせいで、いじめられるほどではないにせよ結構孤立状態だったようですからね。
僕自身は彼女が居なくなるのは困るというか、是非ずっと傍にいてほしいと思っています。勿論彼女の意向は確認しますが、万が一帰るというなら残るように説得しますよ」
「“I love you”だね。少し年齢的には早いけど、それが一番だね。生活能力はお互いに十分あるし、もう彼女には告白したの?」
からかうように村田医師が言うのに、思わず顔がほてるのを感じて僕も応じる。
「今は育んでいるところなのです。実のところ、彼女がウズベキスタン国民である限りは、国の干渉を完全に防ぐことは困難です。だから、WPC製造㈱と彼女の帰化問題は話しあっていたのですよ」
「だけど、帰化には5年の居住が条件でしょう?だから随分時間がかかるよね」
「いや、帰化の要件の中に“特別な事情がある場合”という条項があり、これは5年の条件をカットできます。僕の姉を含めて世界に3人しかいない医療用WPCを活性化できる人材というのは要件に含まれませんか?」
「へえ、ああそういう条項もあったわね。ということはいけそうなの?」
「はい、経産大臣が閣議で要望して外務大臣が手続きを進めていますから、大丈夫でしょう」
「本人は了解しているの?」
「ええ、意向は聞いています。本人も日本に残りたいと言っています」
「その場合に、ベジータさんはどうするの?」
「お母さんはちょっと無理なのです。でも、彼女はすでに日本人男性と婚約していますから、万が一帰国命令があってもそれを盾に拒否できます」
「へえ!婚約?そういえば、病気が癒えた彼女は結構美人だったわね。まだ若いし、それに引き換え私は……」
「へえ!村田さんは独身でした?」
「そうじゃないと、ウズベキスタンの単身勤務なんてできないよ。もっとも任期ももう半年、帰ったら頑張って探すかな」
「ええ、そうですね。頑張ってください。いずれにせよ貴重な情報ありがとうございます」
「うん、安心したよ。ちゃんと対策はしているようなので。じゃあ帰ったらよろしく」
僕はまずその情報をアジャーラに伝えた。
「そうですか。やっぱり考えていた通りですね。私は生まれ育った国なので、ウズベキスタンには感謝はしています。でも、正直に言ってこれから帰国すれば、まず国の外に出してはもらえないと思っています。また私は、今後の一生を国に仕える気はありません。
私にとって日本での生活はとっても楽しいし、なによりWP能力をお陰で自活できる自信ができました。お母さんも国ではいつも疲れていて、楽しそうなことは少なかったですが、今では良く笑うようになりました。そして、お母さんは高菜さんと婚約して、毎日が楽しそうです。
私は、WPCのことを知って本当に興味を惹かれています。今は医療用のWPCの活性化も慣れてきて、すこし時間が出来ましたので、回路の勉強をしていて、オサムにもいろいろ聞いているでしょう?私は活性化だけでなく、新しい回路設計もどんどんやって、色んなWPCを作り出したいと思っています。そのためには、この国のオサムの傍にしないとだめです。
オサムも私が傍にいた方がいいでしょう?いなくてもいい?」
彼女は日本語としては完璧だが、場違いな丁寧語が多い口調でそう言うが、僕のことをよく解っていてにっこり笑う彼女に、僕の返す言葉は一つだ。
「もちろん、傍にいてもらわないと困るよ。WPCの仕事のことだけではない。そうだなあ。ちょっとお互いに若すぎると思っていたけど、もうはっきりした方がいいね」
作業小屋の向かいに座る彼女の後に行って、そのまま抱きしめる。彼女は立ち上がって、優しく僕の腕をほどくと体の向きを変えて正面から僕に抱き着く。
まだ体は細いけれど、180㎝に近い僕より20㎝ほど身長が低い彼女はそのまま顔をあげ、僕が顔を近づけると目を閉じる。それまで、何度もそうしたいと思っていたけど、その夕刻僕は初めて彼女とキスをした。
僕は16歳になったばかり、彼女は同じく16歳だけどもうすぐ17歳だから1学年上だ。僕のその年齢は最も性欲が強い時期というから、よく出会って1年間我慢をしてきただろう?
僕は少しの間、彼女の唇をむさぼるように吸っていた。でも、このままでは行くところまで行ってしまうと理性を取り戻した。ここは、そういう場所でもないしね。
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