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第3章 時震後1年が経過した
54. 2025年4月、塩竃町
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千代は澄井という姓をつけたが、実際にそのように呼ぶ人はほとんどおらず、皆千代と呼ぶ。彼女は、毎日塩竃ベースから、職場の山名村管理事務所までマイクロバス通勤をしている。山名村にも宿舎はあるが、塩竃ベースの宿舎から距離25㎞、40分の距離なのでバスで通勤している。
なにしろ、宿舎のある山名村は登録人口が28,250人、北海道及び海外から帰国した今人が12人いるが、マーケットも小さく、なにより親しくなったルームメイトがいない。しかし、今までは農地と酪農のための開発に注力していた村内では、既存の家の改善と新規入植者のための家や宿舎が増設されており、普通であれば千代も通勤という訳にいかない。
とは言え、12歳の彼女の立場は主として学生であり、現状の成績のまま行けば、大学教育まで受けることができるのは間違いない。彼女が山名村に配置されているのは、元人では教育を受けてきた今人のようなパフォーマンスを出せるものがごく少数であるため、一種の良い見本にするためである。
だから、彼女の山名村の勤務は午前の半日であり、主たる仕事はいろんなことで困った元人への助言と、今人と元人のコミュニケーションの仲立ちである。彼女の学業の場は、レベルの高い教師のいる塩竃ベースであるため、生活の場は当分ここを離れることはないだろう。
ちなみに、今人の12人は、北海道から来た役人が3人に若い夫婦の4人と、海外から帰って来た妻帯者と独身の6人である。彼らは宿舎が不十分だった最初の段階では塩竃ベースから通っていたが、半年ほど前からすでに山名町に移っている。
塩竃ベースは、21世紀では東北地方の中心である仙台の周辺で、良港がある塩竃に建設されたものである。また、21世紀の国道4号線にそって建設されている国土縦貫道建設のための大崎建設基地も、同じく開発の中心になって現地の元人との交流の拠点になっている。だから、両基地の間には港からの荷揚げの関係もあって、早くから2車線の道路が建設された。
道ができれば、地元との交流も進む訳であり、隣村の連中がマーケットに行き、鉄の農具を使っていれば、欲しくなるし、隣が開発されて田畑が区画整理されて、耕運機が導入されれば、自分たちも開発を受け入れる。だから、塩竃から大崎を中心として仙台も含めて周辺30㎞程度は全て、すでに日本政府の治政下に入っている。
21世紀の都道府県の行政範囲の境界は、基本的にそのまま踏襲されている。しかし、実際には具体的な行政としての活動は殆ど行われていないので、実態は伴っていないのだが、境界線を引き直すほどの手間をかけるのが惜しいのである。宮城県のエリアは当面塩竃ベースで管理しており、これは東北6県と共に東北州の管理下に入ることになる。
東北州は、仙台の青葉城の城内広場に州庁舎が建設中であり、当面は城の一部を借りて業務を行っている。城の主であった伊達尚宗は、昨年秋の自衛隊との対峙で戦車と戦闘ヘリの突撃に戦にもならず、指揮をとった2万の軍勢が逃げ散ったことから、その影響力を失ってしまい、日本政府の傘下に入った。
つまり、彼の直接支配・間接支配を合わせて支配下にある約50万石、人口45万人については、すでに日本国の住民台帳に登録しており、その支配地の開発が進んでいる。この大崎建設基地を、伊達尚宗が大将として攻めようとした戦の様子は、10日ほどで映像付きで東北のみならず全国まで広がった。
これに、京において自衛隊が行った実弾演習の映像と相まって、すべての大名、国領主は自衛隊と正面から戦っても必敗であることを認識させた。加えて、日本国の傘下になった者達が、結局は遥かに豊かで快適な生活を送れることが広まってきた。このため、仮に大名や領主が独立を保ちたいと思っても、妻子や配下がそれを聞かないという状況になっている。
従って、2023年4月の時点において日本列島3島で、日本政府の住民登録したものは約半数である。しかし、これは過渡期の数字であり、ごく少数の時代の見えない国人領主を除き、大部分の大名・領主は日本政府の治政下にはいることをすでに了承している。従って、2年後には95%程度の住民登録が完了するとみられている。
山名村については、領主であった山名作之進は、5年の時限であるが山名村顧問としての地位を与えられ、給料も支払われる。さらに、彼は支配地の人口に応じた一時金を受け取っており、その額は当面生活を整えるに十分のものだ。
山名は42歳、40歳の正妻に側妾2人がいて、20歳の長男を頭に3歳まで子供7人を持つので、使用人が住み込んでいたこともあって、大きな家に住んでいた。その家は城に付属する150坪ほどの屋敷であり、家自体は老朽化しておらず立派なものである。しかし、21世紀の文明を知るとまず電気、給水、便所、風呂のなどの利便性の面で我慢できなくなる。
だから、塩竃ベースに隣接して設置された5万kWの火力発電所から、村まで引かれた電線から電力を引き込み、電線を屋内に張り巡らした。出来るだけ天井に這わせているが、残念ながら多くの電線は剥き出しであるが、電灯や種々の電気製品を使う利便性には代えがたい。
さらに、上水は元々あった井戸から井戸ポンプで給水しているので、給水パイプを台所、風呂、便所、洗濯所まで引いたが、当然これも剥き出しの配管が多い。さらに、水洗便所を2ヶ所に設置して合併処理の浄化槽に汚水を排出しており、風呂についても男女に分けて設置した。
こうした工事に加え、台所の電気・ガス器具、照明・テレビなどの家庭電化機器で、山名家は2000万円を費やしており、一時金の1/3を使っている。こうして、住むための準備はできたが、作之進の給料のみでは少なくとも使用人は雇えない事は明らかであるので、家事は妻妾と子供が分担して行うことになった。
また電気ガス代、食事、衣類等の毎月の費用は馬鹿にならないものの、慎ましく暮らせば作之進の給料でなんとか暮らしていけるレベルではあった。
山名家で、妻のアヤ、側妾の幸奈と萌、長男の進太郎、19歳の長女の紗香、17歳の次男の洋祐、以下15歳の麗奈、13歳の弥太郎、10歳の八重に母萌に抱かれた3歳の瑞枝が集まって家族会議が開かれている。まず、作之進が口火を切る。
彼も職場とテレビ、インターネット、新聞、書物等を視聴するうち、21世紀の日本の風習になじんできている。以前であれば、こうした場に正妻はともかく側妾や女の子を呼ぼうとは思わなかっただろう。
「今日は、『日本政府』の治政下に入って約1年、夢中でやって来たが、大体様子も判ってきたので、今後の方針について話をしようと思って集まってもらった。お前たちも今人の生活については、テレビ、インターネット、新聞等を通じて知っていると思う。
まず、我が家は今の状態になる前は大体3万石の収入があって、領民が2万7千人のほどで年貢を6割取っておった。しかし、家臣が80名おり、2年に1回位は戦があったためにその備えなどで、とても豊かとは言えなかった。まあ、だから日本政府の誘いに乗ったのである。
結果として、家来たちも村の役人として雇われ、それ以外の家に住み込んでいた使用人の8人もそれぞれに村の何かのお役について食うに困っていないので、儂は我が家の家族の面倒を見れば良いことになる。その為に、アヤと幸奈、それに萌と子供たちは使用人のしていた仕事をしなくてはならず忙しいと思う。
儂は後4年の保証であるが、村の顧問というお役について『給料』を貰っているので、今のところ贅沢は出来んが食うには困らん。また、13歳以上の進太郎、紗香、洋祐、麗奈、弥太郎は塩竃ベースの学校に通っているが、進太郎と紗香、洋祐は学びつつ仕事をしており、給料ももらっておる。
進太郎は間もなく北海道の大学に行って2年学ぶことになっているが、紗香と洋祐もできればそうしてもらいたいと思っているので、お前たちの給料は全てそのための貯金に回している。子供たちについては、いずれ仕事を見つけて自分で暮らしていくことになるだろう。それがこの山名村で無い可能性も高いとは思うが。
儂も、幸いそれほど老いてはおらぬ故、懸命に励んだ結果、日本政府の制度のもとで村の取りまとめは出来るようになってきたと思っておる。今村長でおられる今人の広田殿も、半年ほどで別の村に移動されることになっており、その後は儂に引き継ぐと言っていただいておる。
2年程先には村として村長の選挙が行われるが、まあ普通に行けば村長に当選することも難しくはないと思っておる。だから、半年すればまず間違いなく村長になるので、4年で職を失うことはない。全体としては、そういう所だが、アヤ、幸奈と萌、お前たちは使用人がいなくなって大変だと思うが、どうしゃ?」
それに対しては正妻のアヤが幸奈と萌の顔を見たうえで応じる。
「はい、私は今の生活には満足しております。なにより、旦那様、それと息子達が戦に出て、ご無事あろうかと気をもむ必要がないのが何よりです。私が嫁いできてから、旦那様が戦に出たのが9回、進太郎が2回、洋祐が1回でしたね。その都度私も、幸奈と萌も無事を祈ることしかできなかったことが悔しゅうございました。
確かに、今は使用人がいなくなって忙しゅうはあります。でも、毎日忙しく立ち働くことは『健康』に良いとテレビで言っていましたよ。それに、私達は冷蔵庫、電気釜、ガスコンロ、洗濯機、掃除機は使えるし、3人もの女手があれば、この家と家族の面倒を見るくらいは何ということはありません。
それにテレビがあり、本も読み放題、インターネットも使えるなど、気を紛らわすものが山ほどありますし、なにより食材の豊富なこと、1年以前に比べると本当にありがたい暮らしです。旦那様の『顧問』というお役も5年という縛りがあって、不安はありました。でも、旦那様がちゃんと働いてくれたお陰で、その不安も無くなったので本当にありがたいことです」
「ええ、アヤ様の言われる通りです。はっきり言って、前は毎日やることが無く退屈でしたが、今は掃除、洗濯、炊事とちゃんとやることがありますし、それらも機械のお陰でそれほど重い仕事でもなく楽に終わらせることができます。また、テレビがいいですね。本当に毎日楽しくやっています」
35歳の幸奈が言うと、29歳の若い萌が続ける。
「本当に、私も殿のお世話になれば、もう少しいい事があるかと思えば………。確かに最初は実質何もしなくてもいいのに感激しましたが、子供の乳母に取り上げられるし、毎日が退屈で、退屈で。でも、今は瑞枝を自分で育てていますし、ちゃんとやることがあって。
でも、以前のような洗濯やら掃除だったら嫌だったでしょうね。その点は、冷蔵庫、電気釜、ガスコンロ、洗濯機、掃除機が使えるお陰で楽です。ところで、私は“学校”で結構成績がいいのですよ。だから、パソコンも貸してもらっていますし、それに大分慣れましたから、仕事に行こうと思っています」
「「「ええ!仕事に?」」」
アヤと幸奈そして大きい子供たちが驚き、作之進がにが笑いして言う。
「うむ、萌が熱心でな。役場の事務仕事の試験にも合格したからな。儂も主婦へ働くことを薦める立場だからの。まあ、毎日だが半日の仕事だし、家にはアヤと幸奈もいるので、瑞枝の面倒も見てもらえるからな」
「ええ、瑞枝については申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」
萌が正妻と先輩の側妾に頭を下げる。
「ええ、それは任せてもらえば良いけど、そう、萌はそんなことを考えていたの?」
「ええ、テレビをみていて、働く女にあこがれたものですから……」
「そうですよ。萌母さんは立派だわ。私も大学を卒業して働きますからね。前だったら、私はどこかの領主の息子に嫁がされたでしょう。相手が脳筋の戦狂いだったら最悪だったわ」
アヤの娘である紗香が言うが、それに対して幸奈の子供である次男の洋祐が反抗的に言う。
「俺は、戦もないこんな国は嫌だ!前の方が良かったぞ」
「ほお、お前は戦が良いか?」
作之進が感情を押し殺して無表情に問う。
「ああ、折角必死で鍛えてきたのに、こんな世の中ではそれを生かす術がない。戦を嫌う父上は卑怯者だ」
顔を赤くして立ち上がって叫ぶ洋祐の頬を、進次郎が立ち上がって張り飛ばす。
「馬鹿もん!お前は自分の事しか考えていない。お前位の武勇の者はいくらでもいる。俺は歴史を調べたぞ。俺達の今は、今人の歴史で過ぎた過去というのは知っているだろう?」
洋祐は、普段冷静な兄の突然の暴力に驚いて、殴られた頬を押さえて兄を見て頷く。
「わが山名家は12年後に滅ぶ。そして、お前は、それまでも生きておらず、来年には死ぬ。はっきり記録には残っておらんが多分戦死だ。そして、父上ももちろん母上も私も妹たちも皆みじめに死ぬのだ。お前は、そうした世の中がいいと言うのか?」
兄の剣幕に弟は目を見張って頭を振る。
「それを父上の決断が変えてくれたのだ。父上はその歴史を知りませんよね?」
「ああ、知らんかった。本当か?」
作之進が驚いた顔で言う。
「そうです。インターネットで調べていて見つけました。父上の選択は正しかったのですよ。洋祐!」
洋祐はびく!として兄の顔をみる。
「近いうちに日本の国は戦国という世の中になるはずだった。そこでは、武勇より賢いものが勝つ世界だ。洋祐。剣と槍、弓を鍛錬するのも良いが、学問を磨け。今の日本は、戦こそないが、賢くない者は世に出ることは適わず、貧しいままに終わるのだ。解ったか!」
しかし、反抗期の弟が3歳しか違わぬ兄の言葉を素直には聞けない。黙ってふくれっ面する息子を、母の幸奈が抱いて言い聞かす。
「洋祐、私達女は、戦のない世の中になったことを本当に喜んでいます。進次郎さんの言う通りよ、母はお前に戦のための鍛錬より勉強をして立派に身を立てて欲しいと思っているわ」
洋祐は、歴史を確かめて流石に自分が若いうちに死んだことを知って考えを変えて勉学に励むようになった。結果的に兄程の成績を収められなかったが、それなりに頑張って地元にできた東北大学に進んだ。
なにしろ、宿舎のある山名村は登録人口が28,250人、北海道及び海外から帰国した今人が12人いるが、マーケットも小さく、なにより親しくなったルームメイトがいない。しかし、今までは農地と酪農のための開発に注力していた村内では、既存の家の改善と新規入植者のための家や宿舎が増設されており、普通であれば千代も通勤という訳にいかない。
とは言え、12歳の彼女の立場は主として学生であり、現状の成績のまま行けば、大学教育まで受けることができるのは間違いない。彼女が山名村に配置されているのは、元人では教育を受けてきた今人のようなパフォーマンスを出せるものがごく少数であるため、一種の良い見本にするためである。
だから、彼女の山名村の勤務は午前の半日であり、主たる仕事はいろんなことで困った元人への助言と、今人と元人のコミュニケーションの仲立ちである。彼女の学業の場は、レベルの高い教師のいる塩竃ベースであるため、生活の場は当分ここを離れることはないだろう。
ちなみに、今人の12人は、北海道から来た役人が3人に若い夫婦の4人と、海外から帰って来た妻帯者と独身の6人である。彼らは宿舎が不十分だった最初の段階では塩竃ベースから通っていたが、半年ほど前からすでに山名町に移っている。
塩竃ベースは、21世紀では東北地方の中心である仙台の周辺で、良港がある塩竃に建設されたものである。また、21世紀の国道4号線にそって建設されている国土縦貫道建設のための大崎建設基地も、同じく開発の中心になって現地の元人との交流の拠点になっている。だから、両基地の間には港からの荷揚げの関係もあって、早くから2車線の道路が建設された。
道ができれば、地元との交流も進む訳であり、隣村の連中がマーケットに行き、鉄の農具を使っていれば、欲しくなるし、隣が開発されて田畑が区画整理されて、耕運機が導入されれば、自分たちも開発を受け入れる。だから、塩竃から大崎を中心として仙台も含めて周辺30㎞程度は全て、すでに日本政府の治政下に入っている。
21世紀の都道府県の行政範囲の境界は、基本的にそのまま踏襲されている。しかし、実際には具体的な行政としての活動は殆ど行われていないので、実態は伴っていないのだが、境界線を引き直すほどの手間をかけるのが惜しいのである。宮城県のエリアは当面塩竃ベースで管理しており、これは東北6県と共に東北州の管理下に入ることになる。
東北州は、仙台の青葉城の城内広場に州庁舎が建設中であり、当面は城の一部を借りて業務を行っている。城の主であった伊達尚宗は、昨年秋の自衛隊との対峙で戦車と戦闘ヘリの突撃に戦にもならず、指揮をとった2万の軍勢が逃げ散ったことから、その影響力を失ってしまい、日本政府の傘下に入った。
つまり、彼の直接支配・間接支配を合わせて支配下にある約50万石、人口45万人については、すでに日本国の住民台帳に登録しており、その支配地の開発が進んでいる。この大崎建設基地を、伊達尚宗が大将として攻めようとした戦の様子は、10日ほどで映像付きで東北のみならず全国まで広がった。
これに、京において自衛隊が行った実弾演習の映像と相まって、すべての大名、国領主は自衛隊と正面から戦っても必敗であることを認識させた。加えて、日本国の傘下になった者達が、結局は遥かに豊かで快適な生活を送れることが広まってきた。このため、仮に大名や領主が独立を保ちたいと思っても、妻子や配下がそれを聞かないという状況になっている。
従って、2023年4月の時点において日本列島3島で、日本政府の住民登録したものは約半数である。しかし、これは過渡期の数字であり、ごく少数の時代の見えない国人領主を除き、大部分の大名・領主は日本政府の治政下にはいることをすでに了承している。従って、2年後には95%程度の住民登録が完了するとみられている。
山名村については、領主であった山名作之進は、5年の時限であるが山名村顧問としての地位を与えられ、給料も支払われる。さらに、彼は支配地の人口に応じた一時金を受け取っており、その額は当面生活を整えるに十分のものだ。
山名は42歳、40歳の正妻に側妾2人がいて、20歳の長男を頭に3歳まで子供7人を持つので、使用人が住み込んでいたこともあって、大きな家に住んでいた。その家は城に付属する150坪ほどの屋敷であり、家自体は老朽化しておらず立派なものである。しかし、21世紀の文明を知るとまず電気、給水、便所、風呂のなどの利便性の面で我慢できなくなる。
だから、塩竃ベースに隣接して設置された5万kWの火力発電所から、村まで引かれた電線から電力を引き込み、電線を屋内に張り巡らした。出来るだけ天井に這わせているが、残念ながら多くの電線は剥き出しであるが、電灯や種々の電気製品を使う利便性には代えがたい。
さらに、上水は元々あった井戸から井戸ポンプで給水しているので、給水パイプを台所、風呂、便所、洗濯所まで引いたが、当然これも剥き出しの配管が多い。さらに、水洗便所を2ヶ所に設置して合併処理の浄化槽に汚水を排出しており、風呂についても男女に分けて設置した。
こうした工事に加え、台所の電気・ガス器具、照明・テレビなどの家庭電化機器で、山名家は2000万円を費やしており、一時金の1/3を使っている。こうして、住むための準備はできたが、作之進の給料のみでは少なくとも使用人は雇えない事は明らかであるので、家事は妻妾と子供が分担して行うことになった。
また電気ガス代、食事、衣類等の毎月の費用は馬鹿にならないものの、慎ましく暮らせば作之進の給料でなんとか暮らしていけるレベルではあった。
山名家で、妻のアヤ、側妾の幸奈と萌、長男の進太郎、19歳の長女の紗香、17歳の次男の洋祐、以下15歳の麗奈、13歳の弥太郎、10歳の八重に母萌に抱かれた3歳の瑞枝が集まって家族会議が開かれている。まず、作之進が口火を切る。
彼も職場とテレビ、インターネット、新聞、書物等を視聴するうち、21世紀の日本の風習になじんできている。以前であれば、こうした場に正妻はともかく側妾や女の子を呼ぼうとは思わなかっただろう。
「今日は、『日本政府』の治政下に入って約1年、夢中でやって来たが、大体様子も判ってきたので、今後の方針について話をしようと思って集まってもらった。お前たちも今人の生活については、テレビ、インターネット、新聞等を通じて知っていると思う。
まず、我が家は今の状態になる前は大体3万石の収入があって、領民が2万7千人のほどで年貢を6割取っておった。しかし、家臣が80名おり、2年に1回位は戦があったためにその備えなどで、とても豊かとは言えなかった。まあ、だから日本政府の誘いに乗ったのである。
結果として、家来たちも村の役人として雇われ、それ以外の家に住み込んでいた使用人の8人もそれぞれに村の何かのお役について食うに困っていないので、儂は我が家の家族の面倒を見れば良いことになる。その為に、アヤと幸奈、それに萌と子供たちは使用人のしていた仕事をしなくてはならず忙しいと思う。
儂は後4年の保証であるが、村の顧問というお役について『給料』を貰っているので、今のところ贅沢は出来んが食うには困らん。また、13歳以上の進太郎、紗香、洋祐、麗奈、弥太郎は塩竃ベースの学校に通っているが、進太郎と紗香、洋祐は学びつつ仕事をしており、給料ももらっておる。
進太郎は間もなく北海道の大学に行って2年学ぶことになっているが、紗香と洋祐もできればそうしてもらいたいと思っているので、お前たちの給料は全てそのための貯金に回している。子供たちについては、いずれ仕事を見つけて自分で暮らしていくことになるだろう。それがこの山名村で無い可能性も高いとは思うが。
儂も、幸いそれほど老いてはおらぬ故、懸命に励んだ結果、日本政府の制度のもとで村の取りまとめは出来るようになってきたと思っておる。今村長でおられる今人の広田殿も、半年ほどで別の村に移動されることになっており、その後は儂に引き継ぐと言っていただいておる。
2年程先には村として村長の選挙が行われるが、まあ普通に行けば村長に当選することも難しくはないと思っておる。だから、半年すればまず間違いなく村長になるので、4年で職を失うことはない。全体としては、そういう所だが、アヤ、幸奈と萌、お前たちは使用人がいなくなって大変だと思うが、どうしゃ?」
それに対しては正妻のアヤが幸奈と萌の顔を見たうえで応じる。
「はい、私は今の生活には満足しております。なにより、旦那様、それと息子達が戦に出て、ご無事あろうかと気をもむ必要がないのが何よりです。私が嫁いできてから、旦那様が戦に出たのが9回、進太郎が2回、洋祐が1回でしたね。その都度私も、幸奈と萌も無事を祈ることしかできなかったことが悔しゅうございました。
確かに、今は使用人がいなくなって忙しゅうはあります。でも、毎日忙しく立ち働くことは『健康』に良いとテレビで言っていましたよ。それに、私達は冷蔵庫、電気釜、ガスコンロ、洗濯機、掃除機は使えるし、3人もの女手があれば、この家と家族の面倒を見るくらいは何ということはありません。
それにテレビがあり、本も読み放題、インターネットも使えるなど、気を紛らわすものが山ほどありますし、なにより食材の豊富なこと、1年以前に比べると本当にありがたい暮らしです。旦那様の『顧問』というお役も5年という縛りがあって、不安はありました。でも、旦那様がちゃんと働いてくれたお陰で、その不安も無くなったので本当にありがたいことです」
「ええ、アヤ様の言われる通りです。はっきり言って、前は毎日やることが無く退屈でしたが、今は掃除、洗濯、炊事とちゃんとやることがありますし、それらも機械のお陰でそれほど重い仕事でもなく楽に終わらせることができます。また、テレビがいいですね。本当に毎日楽しくやっています」
35歳の幸奈が言うと、29歳の若い萌が続ける。
「本当に、私も殿のお世話になれば、もう少しいい事があるかと思えば………。確かに最初は実質何もしなくてもいいのに感激しましたが、子供の乳母に取り上げられるし、毎日が退屈で、退屈で。でも、今は瑞枝を自分で育てていますし、ちゃんとやることがあって。
でも、以前のような洗濯やら掃除だったら嫌だったでしょうね。その点は、冷蔵庫、電気釜、ガスコンロ、洗濯機、掃除機が使えるお陰で楽です。ところで、私は“学校”で結構成績がいいのですよ。だから、パソコンも貸してもらっていますし、それに大分慣れましたから、仕事に行こうと思っています」
「「「ええ!仕事に?」」」
アヤと幸奈そして大きい子供たちが驚き、作之進がにが笑いして言う。
「うむ、萌が熱心でな。役場の事務仕事の試験にも合格したからな。儂も主婦へ働くことを薦める立場だからの。まあ、毎日だが半日の仕事だし、家にはアヤと幸奈もいるので、瑞枝の面倒も見てもらえるからな」
「ええ、瑞枝については申し訳ありませんがよろしくお願いいたします」
萌が正妻と先輩の側妾に頭を下げる。
「ええ、それは任せてもらえば良いけど、そう、萌はそんなことを考えていたの?」
「ええ、テレビをみていて、働く女にあこがれたものですから……」
「そうですよ。萌母さんは立派だわ。私も大学を卒業して働きますからね。前だったら、私はどこかの領主の息子に嫁がされたでしょう。相手が脳筋の戦狂いだったら最悪だったわ」
アヤの娘である紗香が言うが、それに対して幸奈の子供である次男の洋祐が反抗的に言う。
「俺は、戦もないこんな国は嫌だ!前の方が良かったぞ」
「ほお、お前は戦が良いか?」
作之進が感情を押し殺して無表情に問う。
「ああ、折角必死で鍛えてきたのに、こんな世の中ではそれを生かす術がない。戦を嫌う父上は卑怯者だ」
顔を赤くして立ち上がって叫ぶ洋祐の頬を、進次郎が立ち上がって張り飛ばす。
「馬鹿もん!お前は自分の事しか考えていない。お前位の武勇の者はいくらでもいる。俺は歴史を調べたぞ。俺達の今は、今人の歴史で過ぎた過去というのは知っているだろう?」
洋祐は、普段冷静な兄の突然の暴力に驚いて、殴られた頬を押さえて兄を見て頷く。
「わが山名家は12年後に滅ぶ。そして、お前は、それまでも生きておらず、来年には死ぬ。はっきり記録には残っておらんが多分戦死だ。そして、父上ももちろん母上も私も妹たちも皆みじめに死ぬのだ。お前は、そうした世の中がいいと言うのか?」
兄の剣幕に弟は目を見張って頭を振る。
「それを父上の決断が変えてくれたのだ。父上はその歴史を知りませんよね?」
「ああ、知らんかった。本当か?」
作之進が驚いた顔で言う。
「そうです。インターネットで調べていて見つけました。父上の選択は正しかったのですよ。洋祐!」
洋祐はびく!として兄の顔をみる。
「近いうちに日本の国は戦国という世の中になるはずだった。そこでは、武勇より賢いものが勝つ世界だ。洋祐。剣と槍、弓を鍛錬するのも良いが、学問を磨け。今の日本は、戦こそないが、賢くない者は世に出ることは適わず、貧しいままに終わるのだ。解ったか!」
しかし、反抗期の弟が3歳しか違わぬ兄の言葉を素直には聞けない。黙ってふくれっ面する息子を、母の幸奈が抱いて言い聞かす。
「洋祐、私達女は、戦のない世の中になったことを本当に喜んでいます。進次郎さんの言う通りよ、母はお前に戦のための鍛錬より勉強をして立派に身を立てて欲しいと思っているわ」
洋祐は、歴史を確かめて流石に自分が若いうちに死んだことを知って考えを変えて勉学に励むようになった。結果的に兄程の成績を収められなかったが、それなりに頑張って地元にできた東北大学に進んだ。
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【速報】日本列島、異世界へ!資源・食糧・法律etc……何もかもが足りない非常事態に、現代文明崩壊のタイムリミットは約1年!?そんな詰んじゃった状態の列島に差した一筋の光明―――新大陸の発見。だが……異世界の大陸には厄介な生物。有り難くない〝宗教〟に〝覇権主義国〟と、問題の火種がハーレム状態。手足を縛られた(憲法の話)日本は、この覇権主義の世界に平和と安寧をもたらすことができるのか!?今ここに……日本国民及び在留外国人―――総勢1億3000万人―――を乗せた列島の奮闘が始まる…… 始まってしまった!!
■【毎日投稿】2019.2.27~3.1
毎日投稿ができず申し訳ありません。今日から三日間、大量投稿を致します。
今後の予定(3日間で計14話投稿予定)
2.27 20時、21時、22時、23時
2.28 7時、8時、12時、16時、21時、23時
3.1 7時、12時、16時、21時
■なろう版とサブタイトルが異なる話もありますが、その内容は同じです。なお、一部修正をしております。また、改稿が前後しており、修正ができていない話も含まれております。ご了承ください。
日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊
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太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。
異世界もふもふ召喚士〜俺はポンコツらしいので白虎と幼狐、イケおじ達と共にスローライフがしたいです〜
大福金
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タトゥーアーティストの仕事をしている乱道(らんどう)二十五歳はある日、仕事終わりに突如異世界に召喚されてしまう。
乱道が召喚されし国【エスメラルダ帝国】は聖印に支配された国だった。
「はぁ? 俺が救世主? この模様が聖印だって? イヤイヤイヤイヤ!? これ全てタトゥーですけど!?」
「「「「「えーーーーっ!?」」」」」
タトゥー(偽物)だと分かると、手のひらを返した様に乱道を「役立たず」「ポンコツ」と馬鹿にする帝国の者達。
乱道と一緒に召喚された男は、三体もの召喚獣を召喚した。
皆がその男に夢中で、乱道のことなど偽物だとほったらかし、終いには帝国で最下級とされる下民の紋を入れられる。
最悪の状況の中、乱道を救ったのは右ふくらはぎに描かれた白虎の琥珀。
その容姿はまるで可愛いぬいぐるみ。
『らんどーちゃま、ワレに任せるでち』
二足歩行でテチテチ肉球を鳴らせて歩き、キュルンと瞳を輝かせあざとく乱道を見つめる琥珀。
その姿を見た乱道は……
「オレの琥珀はこんな姿じゃねえ!」
っと絶叫するのだった。
そんな乱道が可愛いもふもふの琥珀や可愛い幼狐と共に伝説の大召喚師と言われるまでのお話。
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