日本列島、時震により転移す!

黄昏人

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第2章 過去の文明への干渉開始

35.1492年9月、北海道と沖縄の開発

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 北海道と沖縄の開発方針についても、当然日本政府内で話し合われてきたが、その際には学識経験者の意見も大いに参考にされた。その議論に並行して、両地方については調査団が送り込まれ、概ねの調査結果は6月末には纏まった。

 北海道については、平安時代にはすでに和人が道南に住み着き農業も実施していたが、これらの和人は狩猟生活をしていたアイヌの人々を“土人”として見下す向きが多かった。そのために、しばしばアイヌと和人の間に争いが起きたが、1447年に渡島半島東部の首領コシャマインの主導での大規模な騒乱が有名である。

 当初、アイヌは占領地域を広げていったが、対人戦闘に長けており、武器に優位性のある和人の優位は揺るがず、この騒乱は和人側の勝利ということで幕を閉じた。とは言え、和人がアイヌを虐げるという構造が変わらない限り、争いの火種はくすぶり続け、17世紀にも大規模な衝突が起きている。

 日本政府は、北海道はその名として正式なものとして、北海道庁を立ち上げた。そして、北海道開発省を設立することにして稲村裕子を指名してその準備室の室長とした。令和3年(1942年)の冬にはそれらの法整備が完了するので、新年から稲村は北海道開発大臣ということになる。

 つまり、すでに確定事項ではあるが、新年には北海道の住民は、全てが日本国民となることが法の上でも確定するのだ。すなわち、同じ日本国民であるアイヌの人々を和人が差別し、暴力をふるい、商取引などの上で不利な扱いをすることは許されないということだ。

 ちなみに、6月末までに現地における調査と、少数残った人工衛星及びドローンも使った航空調査によって北海道の人口が推定されて、全道で2万8千人となり、その内3千人が和人であるとなった。なお、明治初年には人口は5万8千人であったというから、妥当な数値であろう。
 北海道開発省では10年後を目途に、人口を100万人、20年後には最終計画の200万人に持っていこうとしているが、これでも21世紀の500万人に比べ大きく劣る。

 ところで、北方4島である択捉島、国後島、色丹島、歯舞群島も当然領土に含めている。また樺太については現在ではロシアの手は及んでいないので、これも立法化して領土とする予定になっている。むろんこれについてはロシア大使館から抗議があったが、まだ彼等には呼びかけていなかった、世界開発銀行によるロシア帝国の援助ついて話をするとあっさり引き下がった。

 日本の領土に係わる戦略は、日本が開発した地域については基本的には日本領とすることはなく独立させる予定にしている。無論、独立した国には多数の日系人が住んでいるが、彼等はあくまで独立したその国の国民である。その意味で、樺太までは島嶼国家である日本領であるものとするが、大陸本土側である、カムチャッカ半島およびウラジオストックを始めとする大陸側については、領有はしないという考えであった。

 さて、北海道の開発であるが、目指す主要産業は基本的には農業と漁業であるが、農業は21世紀の豪州や北米州に劣らない大規模化を進める予定になっている。そして、北海道のテンサイにジャガイモと大豆は日本の食料供給計画の根幹をなすものであり、来春には全体計画の1/3に植え付けを予定している。

 また、漁業は北の海洋の豊富な漁業資源を存分に生かした大規模かつ効率化を目指している。
 工業は基本的には、北海道産の農漁産品を生かした加工業を起こすことになっている。また、21世紀ではすでに大部分が枯渇しているが、金・銀・水銀・石炭などの資源開発と精錬も計画されている。21世紀にはあった製鉄所の建設も検討されたが、むしろ当面は鉄の需要自体は減るだろうという読みがある。

 なにしろ、この時代の世界人口は日本の1億2千万人を入れても6億人程度とみられており、70億人の21世紀に比べると大きく世界的な需要はあっても限定的とみられている。この点で日本の製鉄業は主として内需向けで、海外向けには高度な技術が必要な少量の鋼材・鋼製品であったことが幸いしている。

 ただ、今後産業革命に向かう海外からの、様々な製品の旺盛な需要が高まることは確かである。それに備えて国内での設備の建設が始まるので、国内の製鉄所の稼働率は徐々に上がってはいくが、当分は北海道に新たな製鉄所を作るほどではないということだ。

 なお、北海道の土地については地権を主張する者はいるが、アイヌには自分の住んでいるところ以外ではその主張は少なく、過大に主張する者は和人に多かった。しかし、これらはアイヌを追い出して奪ったものが多く、当然事実関係を示した文書もない。

 そういうことで、北海道の開発については、先に着手して後で土地については清算するという方式をとった。そして工事の邪魔になる位置にある家は、後述する建設基地内で作る21世紀レベルの家を与えた。21世紀の日本ではありえないやり方であったが、彼等はぼろ屋から暖房付きの近代家屋を与えられ狂喜し苦情を言うものはなかった。

 開発は豪州などと基本的には同じやり方で、農地開発・漁業基地開発・工業団地に合わせてその管理・耕作・操業の人々のために住宅街を作るもので、これらは、ある程度まとまったところに小規模な街を建設するものであった。現地に住んでいる人々は、新たに起こす農業・漁業さらにこれらの加工業に雇用する予定である。

 また、彼等の住居は21世紀に水準においては使い物にならない。だから、開発に合わせて建設されるこれらの住宅地は、内地から来た人々と同様に新たに造られるものに入居することになる。その場合に内地から来る人々は、その家を購入する必要があるが、すでに北海道に居た人々は非常に好条件で与えられる。

 その点では、政府にとっては、住んでいた人々の数が“非常に”少なかったことは幸いであった。
6月末の調査結果が出る前から、緊急に急ぐ事項である農地開発の方向は決まっていたので、すでにその準備として、船舶の手配と港の整備、人員の手配、重機など機材、鋼材・セメントと作業員の仮設宿舎などの資材の準備は始まっていた。

 特に、資機材の荷揚げを行える港が無いと何ともならないので、函館、小樽、室蘭、釧路、苫小牧などで得意の鋼管を打ち込んでの鋼製の桟橋を建設し始めている。21世紀の北海道の耕地面積は11,500㎢であり、今年はその1/3の耕地化を目指している。なお、北海道に最も期待されているのは、テンサイによる砂糖生産であるが、3100㎢の作付けで時震前の消費量が生産できる。

 ところで、北海道においては、冬季には殆ど農地開発も含む土工事ができない。これは凍った土壌を掘って埋め戻した場合には翌春にぐじゃぐじゃになるからである。だから、来春の作付けを目指すならこれらの工事は11月までに終える必要がある。

 従って、農地開発は重機の自動運転による24時間操業を考えている。これは幸い日本上空の静止衛星は残っているので、その位置情報に従ってプログラミングされた運転を行えるのだ。ただむろん、樹木の伐採や除根、凹凸の除去などの定型以外の作業は、人が監視しつつ行う必要がある。

 7月には桟橋と開発地に向かう仮設道路は完成し、続々と重機や機材が荷揚げ運搬されて現地入りして、整地して作業基地を建設してその中に仮設住居が作られる。基地の中には、マーケットが作られ様々なものが売られており、現地の住民も利用できる。

 そして、現地の人がその品物を見るとどうしても欲しいものばかりである。農機具、鍋カマ、食器、甘みものなどお菓子、酒、用途は判らなかったが、説明を聞くと欲しくてたまらなくなる品物の数々。そして、基地内の食堂に行ったら食べたこともないものばかりで、こらえきれない美味しそうな匂いだ。
 しかし、彼等がそこで購買できる通貨を持っている訳はない。ただ、そこには『労働者募集』の張り紙があり、わざわざ来たものに説明してくれる。一日働けば、1万円くれるという。そして1万円で買えるものは……。

 要は、彼等がそれらの品物を買うまたは食堂で食べるのは、雇われて労働することで日本円を手にいれることによるのである。そして、今作っているものが完成すれば、また労働者募集をするという。そして、その場合は建設作業の一環で作っている家に住んでいいと言い、10年働けば家は自分のものになるという。

 農家の家族は言う。
「お父さん、食えるだけで何も残らんこんな生活はいやじゃ。今耕している畑と家は捨てて、あそこに働きに行こう」
 または猟師の家族は言う。
「お父さん、しょっちゅう獲物が無くて飢えるこんな生活はいやじゃ。家は捨ててあそこに働きに行こう」

 ほとんどが、そのようなことになったが、これは2021年の日本が転移してきた元人達に使った方法とそっくりだった。中には砂金を持っている者もいて、彼等はそれを売って日本円を手に入れた。しかし、それは自らの欲望を刺激するのみであり、結局は基地に働きにいくことになる。

      ―*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-

 沖縄は事情が少し異なる。それは、沖縄は1469年に尚円王により王権を簒奪した第二尚氏王統の時代であり、1492年では第3代尚真王の治政の時期であり、地方の首長を首里に移住・集住させ、中央集権化に成功しており、この後石垣島、与那国島を統一している。 つまり、沖縄は統一王朝を形成していることになる。

 沖縄についても、北海道と同様な調査の結果、人口は63千人であったが、こちらは北海道と比べて面積も狭く、原生林もないので相当に確度は高い。なお、琉球を征服した薩摩藩の調査によると1632年に109千人、1729年に174千人であり、調査の結果は妥当なところであろう。また、21世紀には人口は1450千人だから増加率は非常に高いと言えよう。

 琉球王朝は、明に朝貢することで中国本土との交易を行って利益を得ていたが、沖縄には輸出すべき品目は小型の馬や硫黄程度で少なく、日本からの産物との中継貿易が必要であった。しかし、日本は応仁の乱以来、国内が不安定で、輸出入も大きく落ち込んでいたため沖縄の中継貿易も規模が縮小されることになった。

 一方で、沖縄はこの時代に農業は原始的で、収穫量も限定的であり、100年程後にサツマイモが導入されるまでは飢えが蔓延するのはいつものことであった。つまりは交易で得た利益で食料も買い込んでいたが、その交易が落ち込んでいる今はそれも厳しいというのが沖縄の置かれた現状である。

 日本国外務省の土方真帆審議官は、27歳の青年王である第3代尚真王に謁見している。謁見に当たっては他と同様に、那覇港でランクルを陸揚げしてそれに乗って王宮に乗りつけ、タブレット、写真などを見せつけて時代を超越した存在であることを見せつけている。

 尚真王は後においては、明の皇帝の謁見のやり方を真似て大いに威勢を見せようとしたらしいが、この時代は座った王の横に2人の家臣が仕えているという形であった。
 そして、土方は最初は案内の者の指示に従って、ひざまずいて拝謁の形はとったが、「いや、まことに申しわけありませんが、私膝が悪いもので、失礼させて頂きます」そう言って、小さな折り畳みの椅子を広げて王のまで腰かけてしまった。

 彼女のその行動を、王も含めて皆唖然として見ていたが、案内していた官吏が怒鳴る。
「こ、この無礼者め!王の御前をなんと心得る」

「いや、足が痛いもので。ええと、私どもの同僚が、先日明の孝宗弘治帝陛下にお目にかかっています。これがその時の写真です」
 土方は怒鳴られても平気な顔で、タブレットを出して掲げて言う。

「それは、孝宗弘治帝と徐宰相それに私どもの山田という者です。半月位前です」
 王の指示で、官吏がタブレットを土方の手から恐々取って王に渡すと、王はそれを凝視して唸る。まず、材質が何かは判らないが、軽くつやつやした版に極めて鮮明な像が現れている。それは、確かに絵で見た明の皇帝の服を着た髭の濃い壮年の男と、宰相というそれらしい服装の男が座っている机の正面に、変わった服の男が座っている。

 尚真王は、無論明の皇帝を見たことも会ったこともないが、大『明』皇帝がそのように机を挟んで人に会うということが衝撃で あった。琉球の使者など、明の宮殿でははるか遠い場所で土下座するのみであり、とても皇帝と話などはできない。
 映っている者達が真実土方の言っている人物であるとすれば、土方を遣わした『日本』というのはよほど巨大な存在だ。そして、王には土方の言っていることが真実であると思えた。それからは土方女史の独壇場であった。

「王様、すでにお知らせしたように、わが日本国は530年未来から突然この世界に跳んできました。だから、私達はこの後530年の歴史を知っていますし、その間の様々な進歩の結果を活用しています。その一例がお手元にあるタブレットというものです」

 その言葉に、王は手元のタブレットを見る。
「その歴史で言えば、王様はまだこの先35年の間政務をとられ、その間に周辺の島々を従えます。それでも、現在の人口約6万人はさほど増えず、交易の利益も限定的であり、人々がしばしば飢える点は解消されません。
 ところで、貴国が朝貢されている明国の人口は大体7千万人で、貴国の千倍以上ですが、わが日本は1億2千万人です。そして、単純には言えませんが、我が日本国は明国より多分30倍以上豊かです。ちなみに、この琉球は120年後に薩摩に侵攻されその支配下に置かれます。また、私達の時代ではわが日本国の領土で沖縄県と呼ばれていましたが、私達がこの時代に跳んで来た時その人口は140万人以上でした。

 日本の中では、沖縄県は貧しい方でしたが、暮らしやすいところで、人口の増加率は日本でも一番でした。主要な産業は観光業ということで、人々が遊びにきて、その費用をはらってくれる土地柄ですね。なぜ人々が来るかと言えば、温暖な気候と美しい海を中心とした自然に、沖縄の人々の温かい心です」

 土方は一旦言葉を切って、王とその両側の人たちを見つめる。
「うむ、お前の乗ってきた自動車というものを見ても日本の豊かさはわかる。それで、日本は明国と今後どのような交流をするつもりかな?わが国が行っているような朝貢ではないだろうが」

 少し考えた王がこのように聞く。
「はい、基本的には対等な関係です。しかし、国相互の付き合いで完全に対等という関係はありえません。今後、明国は私どもに生きて来た時代の姿に近づけるように、急激に投資を行って、農業を含めた産業を変革し、その生活を変えていきます。その為に、日本は技術・人の援助とお金を貸す仕組みをつくります。だから、そうですね。明は、今後少なくとも50年から100年間は我が国に対しては従属的な立場になります」

「ふむ、日本はわが琉球、というより我が王朝に対して何を望むかな?」
「はい、いずれにせよ、人々が飢えるような状態は改善しなければなりません。そして、間違いなくこの時代の皆さんの暮らしより、私達の暮らしの方が快適です。ですから、そうするための援助はいたします。
しかし、正直に言えば、王の支配する王朝が主権を日本国に渡して頂ける方が、その変革はスムーズにいきます。その場合には、私達はこの沖縄に対して一人当たりで言えば、明などに比べれば莫大な援助することになります」

 その後、尚真王は日本を訪れ、1ヶ月の間様々なところを見て回って、21世紀の社会と生活を理解し帰国して、主権を日本国に譲ることを決意した。それに反発する貴族に対して王はこう言った。

「今の食べ物にすらこと欠く、わが琉球の民の生活を見れば、日本国の援助を断るという選択肢はない。そこで、我が王朝が残ったままだと、この地を豊かにする仕事の効率は様々な手続きでどうしても劣る。余は、日本国の一部になる場合の日本国の計画を聞いたが、極めて大規模なものであった。
 しかし、我が王朝が残ったままだと、それだけの急速な発展を促す計画は実施できないということだ。

 さらに、そうやって、国を開けばこの琉球から日本本土に渡っていった数十万の人々が、人々によかれということで様々な形で訪れるだろう。そして、わが王朝が発展の妨げになった場合には、それらの琉球出身の者達から民にそれが伝わって民の不満となる。
 日本は少なくともこの琉球の民を虐げようとは思っていない。それどころか、出来るだけ早く自分たちと同等な快適な生活をさせようとしている。お前たちもそうやって豊かになる者の一人だ」

 その言葉で賛同が集まり、不満なものがいなくなったわけではないが、沖縄県の設立が決まった。

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