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第2章 過去の文明への干渉開始
30. 2023年8月、北海道
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山名小太夫は、天皇陛下一行と同じ船で北海道に来ていた。彼は、石山ベースの守備隊の剣道仲間の山下の紹介で、自衛隊の下士官コースに入ることになり、当面北部方面隊で訓練を受けることになったのだ。実は自衛隊の隊員については、政府の方針で出来るだけ実業界に入ることを促すことになっており、人数が不足する部分は元人から充填するということになったのだ。
ちなみに、本州、四国、九州の3島においての元人の人口は8月始めの集計で約925万人である。これも正確ではないが、各ベースから衛星写真によりマークした集落を巡って、その人口の聞き取り調査をした結果を集計したものである。だから、誤差があるとしても1~2%と推定されている。
そして、日本政府の最も重要なテーマの一つは、この925万の元人の教育である。読み書き・計算もできない人材は21世紀の生産人口になりえない。だから、12歳以下の人々の教育は義務化して、それ以上の年齢の者も、日本政府の管轄での工場や農場、商店で雇う場合は、教育プログラムを組み入れることは必須になっている。さらに、それ以外の者も教育の機会を設けるように学校の建設が計画されている。
その先行分が、全国で10カ所作られたベース、さらに各地の道路や港湾・空港などの施設建設基地における教育である。しかしながら、一朝一夕には教育は成らない。その意味で21世紀において、普通以上の教育を受けている自衛隊の人材は、出来るだけ工業・商業・集約農業などの中堅の管理人材として配置していこうとしているわけだ。
ちなみに、それは日本人で海外に出ている者も同様で、人材の質からすればより高いということで、物作り日本を支える人々として、在外大使館を通じて人材のデータベース化が完成した所である。そして、彼らを必要とされるポジションへの充当を試み始めるところである。
このように、国力の9割以上が失われた現在の日本が、今後21世紀の世界に伍していくためには、在外日本人の活動も大いに必要であることは当然であり、在外公館の役割りはますます重くなっている。しかし、そのような観点で活動していなかったのが在外公館であり、未だ動きは鈍く、外務大臣の沖山も頭が痛いところである。
ともあれ、山名はそのような流れの中で、自衛隊に正式採用となった訳であるが、読み書き計算がすでにできたという背景と、剣道において全国トップレベルと判断された点が大きい。山名については、下士官コースに入ることになったが、剣道の腕で山名に大きく劣る彼の取り巻きである美輪と金谷については、一般自衛官の研修ということで同行している。
また、彼ら3人は自衛隊採用が決まっているが、元人にはできるだけ21世紀の生活と実業を経験させようというプログラムがあり、元人の男女200人ほどが同じ船で一緒に来ている。彼らは、北海道の様々な企業に散って、研修生として1ヵ月間働き学ぶのだ。むろん、少なくとも週に1回の休みはあるので、その間は観光・買い物などが楽しめる。
天皇陛下一行は、車両デッキから出発なので、船員の手すきのものは車両デッキで整列して見送っている。また、山名を含めた乗客はその出発が終わるまで船内で足止めであるが、これも甲板上、2階、屋上などに整列させられて見送っている。政府の方針で、出来るだけの敬意を持って北海道行幸を迎えるという方針からである。
元人にとっては天皇という存在は、征夷大将軍と並んで子供のころから絶対的な存在として叩き込まれている。
しかし成長していくと、それらの存在が絶対的でないことに嫌がおうでも気がつくが、幼いころの刷り込みもあって、その姿を見れば畏まる程度には反応する。
いずれにせよ、身近で尊敬するネタがかけらもない連中に畏まらなければならなかったのに比べれば、はるかに増しである。だから、彼らにとっては整列させられること自体に抵抗はない。
山名と2人の取り巻きは、屋上のデッキで整列させられている。そこから見えるのは、本州の港が無くなったこともあって、小樽の港の中で舫われている多くの貨物船、さらに陸側に土産物屋やホテルの列にその奥に中層のビル街である。
「山名殿、凄いなあ。この小樽というのは田舎町というが、あの建物の列、それに建物より大きな船があんなに沢山この港に溜まっている」
山名に美輪が話しかけると金谷が続いて言う。
「いや、俺はこの船に驚いたなあ。俺は水軍の友達がいるので、その船に乗ったことがあるけど、この船に比べるとちゃちなものだったぞ。それに暗いし、臭かった。この船の凄いのは、なによりその速さじゃ。聞くと時間に40km以上走るというぞ。だから、馬に乗って全速で走るくらいじゃ。
それがエンジンというもので、油を焚いて走るという。いやはやこの時代はとんでもない」
彼らは、もはや距離や時間の感覚、さらに数字は21世紀のものに適応している。2人の話に山名も応じる。
「ああ、この時代はとんでもないよ。とんでもないものばかりだし、トンでもない知識ばかりだ。しかし、俺たちはこの時代に跳んできてしまった。本州、四国、九州のこの時代の人と物の代わりにな。時震と言ったな、その現象によってだ。お前らもあのテレビ番組を見たよな?」
「ああ、見てちゃんと覚えているぞ。この時代の知識と物を満載した日本列島が、530年前の世界に渡って、その世界を作りかえるという話だったよね。確かに、俺達みたいな遅れた者の中に、この目の前のような景色が普通だった連中が来れば、好き勝手できるよなあ。俺達遅れた者達からすれば羨ましいよ」
美和が珍しく沈んだ声で言うのに、金谷が励ますように口を開く。
「ああ、俺たちは覚えなきゃいかん事が多いよ。だけど、こうも考えられるぞ。今は夏で俺たちの時代より暑いよな。前は辛抱するしかなかったぞ。だけど、今はエアコンで簡単に涼しく過ごせる。前は。夜は明かりもなかなか使えなかったし使えても暗かったが、今の明かりは文を読むのも不自由がない。
服だって、前は新しいものなど買えなかったが、今はなんということもない。なにより、食い物よ。今になって思うと俺達はよくあんなものばかり食ってたよな」
そこに美輪が口を出す。
「ああ、この時代の食い物はいいなあ。あれだけでも、この時代に跳んだ値打ちがあるわい」
「な!この時代に溶け込んでいくにはしばらくは大変だけど、暮らすには前の時代よりずっといいだろ?」
金谷が言い今度は山名が応じる。
「ああ、俺もこの時代の方が暮らすにはずっといいと思う。それに日本政府か、あれは帝の府、将軍家、大名、領主なんどに比べるとずっとずっと慈悲深いし鷹揚だ。まあ、銭があるのだな。国富の9割以上を失ったという割に、どうやって工面しているのかは知らんが。
大体、百姓の年貢は精々1割くらいと言うし、俺達にも部屋を宛がって、服をくれて、食わしてくれて、碌な働きも出来ない内から給料もくれる。俺達を元人と呼んでいるらしいが、政府が言うには、俺達をこの時代の普通の教育を出来るだけ早く受けさせたいという。
だから、俺たちはこの時代の者と同じとはいかんが、10歳以下の子供はそれほどこの時代の者に劣らなくなると思うぞ。少なくとも俺たちの子供の時代には同じになるな。
だけど、この時代の何がいいかと言えば、殺し合いをする必要がないことだ。あれは悲惨だ。特に乱取りな。奪いつくし、殺しつくし、という奴。俺はまだやったことがないが、それにやられたところに行ったことがある」
「ああ、俺たちの時代は『戦国時代』のとば口だったらしいじゃないか。戦国時代にはそんな乱取りがしょっちゅう起きたらしいぞ。確かにこの時代に来て、よかったと思うよ」
金谷が言い、山名が続ける。
「まあ、そういうことで、この時代の方が住み心地は良いということだ。そしてそこで心地よく暮らすには頑張って勉強して、頑張って働かなくちゃいかんということだ……。おお、帝の車が出て来た」
船から『君が代』の音楽が鳴り始めて、陛下の乗ったランクルが、桟橋に待っていた自衛隊車no
後ろにつけるようにしずしずと現れる。桟橋には3千人程の人が旗を持って待っているので、まさに黒山の人だかりだ。人々が一斉に歓声をあげるのが港に響くのを、屋上デッキから見ている美輪が言う。
「すごいな。この時代でも帝は敬われているんだなあ」
「ああ、帝は憲法というのに『国民統合の象徴』と書いているらしい。それでも、敬っている者もいればそうでない者もいるというな。まあ、それでもこれだけ集まれば大したものだ。帝も嬉しかろうと思うぞ」
車列がしずしずと出ていくのを見下ろしながら、山名が言う。
天皇陛下一行の車列が見えなくなった後に、引率の職員が来て、各々の座席に行って荷物を取らせる。山名たちの座席といっても、広い台の上で場所を割り当てられ、薄い布団と毛布で寝る場所である。彼らの荷物は大型のバックパックであり、基本的には衣類と洗面道具程度しか入っていない。
ただ、各々剣を持っているが、厳重にワイヤーが巻かれて抜けないようになっている。剣道の防具については、北海道で必要であるが、石山ベースでのものは所詮仁科がアレンジしたまがい物であったために、北海道の自衛隊駐屯地に行けば供与されることになっている。
彼らは、船に別れを告げて、大型バスに乗り込む。
「おお、でかい!これが大型バスか。今まで乗ったことのあるマイクロバスとは、全然違うなあ」
美和がオリーブ色の車体にペタペタ触って叫ぶ。彼らは、フェリーまでは1.5㎞の道を歩いて乗船したのだ。これからバスは、札幌まで高速道で行って、札幌から東千歳駐屯地迄は自衛隊のバスで行くことになっている。
小樽港からインターに入って、札幌まで距離は40kmであり、僅か40分の走行である。石山ベースで働き始めて、車にはかなり慣れている3人であるが、高速道路は無論初めてであり、市内では高架の多いそのような道路は彼らの理解の外にあった。車中、美輪が先日の話を始める。
「金谷、この前車に乗って、お前の家に行ったことを思い出すのう。そこで山賊にあったなあ」
「ああ、山賊なあ。田舎とは言え日中にあんなものが出るのは、領主の加瀬様の手が行き届いておらんな」
それは、金谷が、山名、美輪に加え仁科を自宅に招待した時の話である。それは、常々21世紀人である仁科が、地元の集落のどこかに訪問したいと言っていたので、地元の豪族の3男である金谷が、じゃ自分の家にということになったのだ。
場所は、天王山のあたりの浄土谷というところで、田舎の半農で半分は炭焼きで生計を立てている村である。途中までは京までの新しく作っている幹線道路が使えるが、そこから5㎞ほどは狭い急峻な道ではあるが、軽4輪のジ〇ニーであれば行けるだろうというところだ。
そこへは無論、幹線道路で京への定期バスから降りてから歩きでも行けるし、事実、以前の金谷の帰省の数回はそうして行ったのだ。しかし、その場合には碌な荷物が持てないので、車で行った方が良いが、元人ではなかなか車の借りだしは難しい。その点で、仁科であれば容易という金谷側の都合もあったのだ。
仁科も、車で行くのであれば、自分で飲み食いするものを持っていけば良いし、お土産を持っていけるのでそれほど気兼ねすることはないので都合がよかった。
4人で、ジ〇ニーに乗って出発したが、車には金谷の希望でシイタケ菌パックを積めるだけ積んでいた。これは、山中の家の発展方法を、金谷に相談された仁科がシイタケ栽培を提言したのだ。そこで、仁科の協力もあって北海道から菌コマを取り寄せて金谷の実家に今日運んでいこうとしている。
道路はあるが、精々大八車が通る田舎道であり、ガタガタで狭く、車高が高く幅の狭いジ〇ニーがかろうじて通れるが、出せるスピードは精々30㎞/時である。見通しの悪い山道に差し掛かった時、「キャー」という悲鳴が聞こえた。皆、お互いに顔を見合わせ、運転している金谷は出来るだけスピードアップした。
ちなみに、元人3人を含めて乗っている4人は全員が運転免許を持っており、元人は自動2輪の免許も持っている。これは、ベースでは元人の運転免許コースが設けられており、彼らが自衛隊への入隊を目指していることで、優先的に受験ができて合格したのだ。
ただ、学科については、日本で行われている試験で、合格するというのは酷なので、簡易版の学科になっている。その代わりに彼らは、正規の学科を合格するまで毎年の講習が義務つけられている。山名は1ヶ月の猛勉強で正規の試験を合格しており、彼が自衛隊の下士官コースに入ることが決まった判断基準の一つになっている。
カーブを曲がった時に、前方100mほど離れて、荷車と10人ほどの人が固まっているのが見えた。そして、「キャー、やめて、やめて!」という若い女の声が聞こえ、「黙れ!この」という怒鳴り声も聞こえる。
それは、荷車の周りの男女5人を囲んで、7人の男がおり。2人の男が女を抱きすくめているという図であった。周りの男が皆、白っぽく見える刀や槍を持って脅すようにしているのに対して、荷車の周りの男2人に抵抗する素振りはなく、それでも女の周りをうろうろしている素振りである。
「ほお!山賊だの」
山名が冷静に言うのに、仁科が返す。
「めずらしいのか?」
「いや、京の街でも盗賊がごろごろいるくらいだ。特に珍しくはない」
「だけど、くそ!俺の屋敷への道で、許せん!」
金谷が激高する。
それはそうだろう。主要道から自分の家への道で強盗が出てはたまらない。怒るのは当然である。金谷は怒りに任せて、大揺れに揺れるのを無視して車を飛ばしてその現場に走りよる。
車のエンジン音と走行音に、びっくりして呆けている一団の手前で、金谷は一旦減速したが、荷車から少し離れて固まっている、如何にもという面構えと服装の男4人に突っ込む。グワングワンと車が揺れ、どん、ドン、ドスンと男たちを跳ね飛ばし、最後は大きく前方が持ち上がって止まった。
どうやら、体に乗り上げたらしい。金谷はすぐさまサイドブレーキを引くドアを開けて、運転席の横に突っ込んでいた刀を、鞘ごと持って飛び出す。そして、女を抱きすくめている男に駆け寄り、娘に当たらないように鞘ごと男の頭に切りつける。男は必死に避けようとしたが、ガキンという音で頭の端に当たって、目が焦点を失う。
本人に言わせると万が一女に切りつけたらまずいので、鞘ごと切りつけたという。また、男を切って女を血まみれにしたら気の毒とも言っていたから、大した余裕である。その間に、助手席の山名がドアを開けて降り、ごく自然にもう一人の娘を抱いた男の首を、やはり鞘ごと突く。
それで手を放して後ろに倒れる男に向かって刀を抜きながら踏み込み、スッとその首を撫で切る。赤い口が新たに出来てたちまち血で埋まる。残るは一人だが、茫然と立っている男に、慌てず外に出て自然に歩を寄せた美和が、腰に差していた刀を抜き打ちに肩から切り下ろす。
そして、切断された大動脈から吹きだす血を避けるように後に下がると、その手前の地面の木の葉の上に、血が音を立てて降り注ぐ。それで、山賊どもの全員が片付いたわけであるが、その時に仁科はようやくドアを開けて外に出たところであった。
「あの時、仁科さんはしみじみ実戦慣れは違うと言っていたなあ。自分は何もできなかったって、後で何度も言っていたよね。竹刀では俺なんかは全然敵わんけどね。そんなものかなあ」
あの時のことを思い出しながら、美輪がそう言うのに、山名が応じる。
「まあ、人切りなどは出来たらしない方がいいよ。そういうことをしなくて済んだという、仁科さんが羨ましいよ。金谷、その後はあの道には山賊は出てこないよな?」
「ええ、でもまだあれから一月経ちませんからね。でも、我が家もしいたけで余裕が出来たら、道を良くして、山賊などは近づけないようにしますよ」
金谷が答えるが、彼もあの時のことを思い出している。
結局、山賊は3人が死んだが、残りは自分の家で暫く奴隷労働だ。人手が欲しかったので丁度よい。山賊などやった奴らはどのみち死刑だから、まだ俺たちなどは慈悲深いほうだ。
その後、山名と2人は東千歳駐屯地の第7師団で3ケ月の訓練を受けて、再度石山ベースに配属されている。山名は駐屯地において最高段位の7段の幹部隊員にも勝ち、剣道では一目置かれてようになった。また他の2人も、どんどん頭角を現し、「実戦を経験している者は違う」ということで評判になった。
ちなみに、本州、四国、九州の3島においての元人の人口は8月始めの集計で約925万人である。これも正確ではないが、各ベースから衛星写真によりマークした集落を巡って、その人口の聞き取り調査をした結果を集計したものである。だから、誤差があるとしても1~2%と推定されている。
そして、日本政府の最も重要なテーマの一つは、この925万の元人の教育である。読み書き・計算もできない人材は21世紀の生産人口になりえない。だから、12歳以下の人々の教育は義務化して、それ以上の年齢の者も、日本政府の管轄での工場や農場、商店で雇う場合は、教育プログラムを組み入れることは必須になっている。さらに、それ以外の者も教育の機会を設けるように学校の建設が計画されている。
その先行分が、全国で10カ所作られたベース、さらに各地の道路や港湾・空港などの施設建設基地における教育である。しかしながら、一朝一夕には教育は成らない。その意味で21世紀において、普通以上の教育を受けている自衛隊の人材は、出来るだけ工業・商業・集約農業などの中堅の管理人材として配置していこうとしているわけだ。
ちなみに、それは日本人で海外に出ている者も同様で、人材の質からすればより高いということで、物作り日本を支える人々として、在外大使館を通じて人材のデータベース化が完成した所である。そして、彼らを必要とされるポジションへの充当を試み始めるところである。
このように、国力の9割以上が失われた現在の日本が、今後21世紀の世界に伍していくためには、在外日本人の活動も大いに必要であることは当然であり、在外公館の役割りはますます重くなっている。しかし、そのような観点で活動していなかったのが在外公館であり、未だ動きは鈍く、外務大臣の沖山も頭が痛いところである。
ともあれ、山名はそのような流れの中で、自衛隊に正式採用となった訳であるが、読み書き計算がすでにできたという背景と、剣道において全国トップレベルと判断された点が大きい。山名については、下士官コースに入ることになったが、剣道の腕で山名に大きく劣る彼の取り巻きである美輪と金谷については、一般自衛官の研修ということで同行している。
また、彼ら3人は自衛隊採用が決まっているが、元人にはできるだけ21世紀の生活と実業を経験させようというプログラムがあり、元人の男女200人ほどが同じ船で一緒に来ている。彼らは、北海道の様々な企業に散って、研修生として1ヵ月間働き学ぶのだ。むろん、少なくとも週に1回の休みはあるので、その間は観光・買い物などが楽しめる。
天皇陛下一行は、車両デッキから出発なので、船員の手すきのものは車両デッキで整列して見送っている。また、山名を含めた乗客はその出発が終わるまで船内で足止めであるが、これも甲板上、2階、屋上などに整列させられて見送っている。政府の方針で、出来るだけの敬意を持って北海道行幸を迎えるという方針からである。
元人にとっては天皇という存在は、征夷大将軍と並んで子供のころから絶対的な存在として叩き込まれている。
しかし成長していくと、それらの存在が絶対的でないことに嫌がおうでも気がつくが、幼いころの刷り込みもあって、その姿を見れば畏まる程度には反応する。
いずれにせよ、身近で尊敬するネタがかけらもない連中に畏まらなければならなかったのに比べれば、はるかに増しである。だから、彼らにとっては整列させられること自体に抵抗はない。
山名と2人の取り巻きは、屋上のデッキで整列させられている。そこから見えるのは、本州の港が無くなったこともあって、小樽の港の中で舫われている多くの貨物船、さらに陸側に土産物屋やホテルの列にその奥に中層のビル街である。
「山名殿、凄いなあ。この小樽というのは田舎町というが、あの建物の列、それに建物より大きな船があんなに沢山この港に溜まっている」
山名に美輪が話しかけると金谷が続いて言う。
「いや、俺はこの船に驚いたなあ。俺は水軍の友達がいるので、その船に乗ったことがあるけど、この船に比べるとちゃちなものだったぞ。それに暗いし、臭かった。この船の凄いのは、なによりその速さじゃ。聞くと時間に40km以上走るというぞ。だから、馬に乗って全速で走るくらいじゃ。
それがエンジンというもので、油を焚いて走るという。いやはやこの時代はとんでもない」
彼らは、もはや距離や時間の感覚、さらに数字は21世紀のものに適応している。2人の話に山名も応じる。
「ああ、この時代はとんでもないよ。とんでもないものばかりだし、トンでもない知識ばかりだ。しかし、俺たちはこの時代に跳んできてしまった。本州、四国、九州のこの時代の人と物の代わりにな。時震と言ったな、その現象によってだ。お前らもあのテレビ番組を見たよな?」
「ああ、見てちゃんと覚えているぞ。この時代の知識と物を満載した日本列島が、530年前の世界に渡って、その世界を作りかえるという話だったよね。確かに、俺達みたいな遅れた者の中に、この目の前のような景色が普通だった連中が来れば、好き勝手できるよなあ。俺達遅れた者達からすれば羨ましいよ」
美和が珍しく沈んだ声で言うのに、金谷が励ますように口を開く。
「ああ、俺たちは覚えなきゃいかん事が多いよ。だけど、こうも考えられるぞ。今は夏で俺たちの時代より暑いよな。前は辛抱するしかなかったぞ。だけど、今はエアコンで簡単に涼しく過ごせる。前は。夜は明かりもなかなか使えなかったし使えても暗かったが、今の明かりは文を読むのも不自由がない。
服だって、前は新しいものなど買えなかったが、今はなんということもない。なにより、食い物よ。今になって思うと俺達はよくあんなものばかり食ってたよな」
そこに美輪が口を出す。
「ああ、この時代の食い物はいいなあ。あれだけでも、この時代に跳んだ値打ちがあるわい」
「な!この時代に溶け込んでいくにはしばらくは大変だけど、暮らすには前の時代よりずっといいだろ?」
金谷が言い今度は山名が応じる。
「ああ、俺もこの時代の方が暮らすにはずっといいと思う。それに日本政府か、あれは帝の府、将軍家、大名、領主なんどに比べるとずっとずっと慈悲深いし鷹揚だ。まあ、銭があるのだな。国富の9割以上を失ったという割に、どうやって工面しているのかは知らんが。
大体、百姓の年貢は精々1割くらいと言うし、俺達にも部屋を宛がって、服をくれて、食わしてくれて、碌な働きも出来ない内から給料もくれる。俺達を元人と呼んでいるらしいが、政府が言うには、俺達をこの時代の普通の教育を出来るだけ早く受けさせたいという。
だから、俺たちはこの時代の者と同じとはいかんが、10歳以下の子供はそれほどこの時代の者に劣らなくなると思うぞ。少なくとも俺たちの子供の時代には同じになるな。
だけど、この時代の何がいいかと言えば、殺し合いをする必要がないことだ。あれは悲惨だ。特に乱取りな。奪いつくし、殺しつくし、という奴。俺はまだやったことがないが、それにやられたところに行ったことがある」
「ああ、俺たちの時代は『戦国時代』のとば口だったらしいじゃないか。戦国時代にはそんな乱取りがしょっちゅう起きたらしいぞ。確かにこの時代に来て、よかったと思うよ」
金谷が言い、山名が続ける。
「まあ、そういうことで、この時代の方が住み心地は良いということだ。そしてそこで心地よく暮らすには頑張って勉強して、頑張って働かなくちゃいかんということだ……。おお、帝の車が出て来た」
船から『君が代』の音楽が鳴り始めて、陛下の乗ったランクルが、桟橋に待っていた自衛隊車no
後ろにつけるようにしずしずと現れる。桟橋には3千人程の人が旗を持って待っているので、まさに黒山の人だかりだ。人々が一斉に歓声をあげるのが港に響くのを、屋上デッキから見ている美輪が言う。
「すごいな。この時代でも帝は敬われているんだなあ」
「ああ、帝は憲法というのに『国民統合の象徴』と書いているらしい。それでも、敬っている者もいればそうでない者もいるというな。まあ、それでもこれだけ集まれば大したものだ。帝も嬉しかろうと思うぞ」
車列がしずしずと出ていくのを見下ろしながら、山名が言う。
天皇陛下一行の車列が見えなくなった後に、引率の職員が来て、各々の座席に行って荷物を取らせる。山名たちの座席といっても、広い台の上で場所を割り当てられ、薄い布団と毛布で寝る場所である。彼らの荷物は大型のバックパックであり、基本的には衣類と洗面道具程度しか入っていない。
ただ、各々剣を持っているが、厳重にワイヤーが巻かれて抜けないようになっている。剣道の防具については、北海道で必要であるが、石山ベースでのものは所詮仁科がアレンジしたまがい物であったために、北海道の自衛隊駐屯地に行けば供与されることになっている。
彼らは、船に別れを告げて、大型バスに乗り込む。
「おお、でかい!これが大型バスか。今まで乗ったことのあるマイクロバスとは、全然違うなあ」
美和がオリーブ色の車体にペタペタ触って叫ぶ。彼らは、フェリーまでは1.5㎞の道を歩いて乗船したのだ。これからバスは、札幌まで高速道で行って、札幌から東千歳駐屯地迄は自衛隊のバスで行くことになっている。
小樽港からインターに入って、札幌まで距離は40kmであり、僅か40分の走行である。石山ベースで働き始めて、車にはかなり慣れている3人であるが、高速道路は無論初めてであり、市内では高架の多いそのような道路は彼らの理解の外にあった。車中、美輪が先日の話を始める。
「金谷、この前車に乗って、お前の家に行ったことを思い出すのう。そこで山賊にあったなあ」
「ああ、山賊なあ。田舎とは言え日中にあんなものが出るのは、領主の加瀬様の手が行き届いておらんな」
それは、金谷が、山名、美輪に加え仁科を自宅に招待した時の話である。それは、常々21世紀人である仁科が、地元の集落のどこかに訪問したいと言っていたので、地元の豪族の3男である金谷が、じゃ自分の家にということになったのだ。
場所は、天王山のあたりの浄土谷というところで、田舎の半農で半分は炭焼きで生計を立てている村である。途中までは京までの新しく作っている幹線道路が使えるが、そこから5㎞ほどは狭い急峻な道ではあるが、軽4輪のジ〇ニーであれば行けるだろうというところだ。
そこへは無論、幹線道路で京への定期バスから降りてから歩きでも行けるし、事実、以前の金谷の帰省の数回はそうして行ったのだ。しかし、その場合には碌な荷物が持てないので、車で行った方が良いが、元人ではなかなか車の借りだしは難しい。その点で、仁科であれば容易という金谷側の都合もあったのだ。
仁科も、車で行くのであれば、自分で飲み食いするものを持っていけば良いし、お土産を持っていけるのでそれほど気兼ねすることはないので都合がよかった。
4人で、ジ〇ニーに乗って出発したが、車には金谷の希望でシイタケ菌パックを積めるだけ積んでいた。これは、山中の家の発展方法を、金谷に相談された仁科がシイタケ栽培を提言したのだ。そこで、仁科の協力もあって北海道から菌コマを取り寄せて金谷の実家に今日運んでいこうとしている。
道路はあるが、精々大八車が通る田舎道であり、ガタガタで狭く、車高が高く幅の狭いジ〇ニーがかろうじて通れるが、出せるスピードは精々30㎞/時である。見通しの悪い山道に差し掛かった時、「キャー」という悲鳴が聞こえた。皆、お互いに顔を見合わせ、運転している金谷は出来るだけスピードアップした。
ちなみに、元人3人を含めて乗っている4人は全員が運転免許を持っており、元人は自動2輪の免許も持っている。これは、ベースでは元人の運転免許コースが設けられており、彼らが自衛隊への入隊を目指していることで、優先的に受験ができて合格したのだ。
ただ、学科については、日本で行われている試験で、合格するというのは酷なので、簡易版の学科になっている。その代わりに彼らは、正規の学科を合格するまで毎年の講習が義務つけられている。山名は1ヶ月の猛勉強で正規の試験を合格しており、彼が自衛隊の下士官コースに入ることが決まった判断基準の一つになっている。
カーブを曲がった時に、前方100mほど離れて、荷車と10人ほどの人が固まっているのが見えた。そして、「キャー、やめて、やめて!」という若い女の声が聞こえ、「黙れ!この」という怒鳴り声も聞こえる。
それは、荷車の周りの男女5人を囲んで、7人の男がおり。2人の男が女を抱きすくめているという図であった。周りの男が皆、白っぽく見える刀や槍を持って脅すようにしているのに対して、荷車の周りの男2人に抵抗する素振りはなく、それでも女の周りをうろうろしている素振りである。
「ほお!山賊だの」
山名が冷静に言うのに、仁科が返す。
「めずらしいのか?」
「いや、京の街でも盗賊がごろごろいるくらいだ。特に珍しくはない」
「だけど、くそ!俺の屋敷への道で、許せん!」
金谷が激高する。
それはそうだろう。主要道から自分の家への道で強盗が出てはたまらない。怒るのは当然である。金谷は怒りに任せて、大揺れに揺れるのを無視して車を飛ばしてその現場に走りよる。
車のエンジン音と走行音に、びっくりして呆けている一団の手前で、金谷は一旦減速したが、荷車から少し離れて固まっている、如何にもという面構えと服装の男4人に突っ込む。グワングワンと車が揺れ、どん、ドン、ドスンと男たちを跳ね飛ばし、最後は大きく前方が持ち上がって止まった。
どうやら、体に乗り上げたらしい。金谷はすぐさまサイドブレーキを引くドアを開けて、運転席の横に突っ込んでいた刀を、鞘ごと持って飛び出す。そして、女を抱きすくめている男に駆け寄り、娘に当たらないように鞘ごと男の頭に切りつける。男は必死に避けようとしたが、ガキンという音で頭の端に当たって、目が焦点を失う。
本人に言わせると万が一女に切りつけたらまずいので、鞘ごと切りつけたという。また、男を切って女を血まみれにしたら気の毒とも言っていたから、大した余裕である。その間に、助手席の山名がドアを開けて降り、ごく自然にもう一人の娘を抱いた男の首を、やはり鞘ごと突く。
それで手を放して後ろに倒れる男に向かって刀を抜きながら踏み込み、スッとその首を撫で切る。赤い口が新たに出来てたちまち血で埋まる。残るは一人だが、茫然と立っている男に、慌てず外に出て自然に歩を寄せた美和が、腰に差していた刀を抜き打ちに肩から切り下ろす。
そして、切断された大動脈から吹きだす血を避けるように後に下がると、その手前の地面の木の葉の上に、血が音を立てて降り注ぐ。それで、山賊どもの全員が片付いたわけであるが、その時に仁科はようやくドアを開けて外に出たところであった。
「あの時、仁科さんはしみじみ実戦慣れは違うと言っていたなあ。自分は何もできなかったって、後で何度も言っていたよね。竹刀では俺なんかは全然敵わんけどね。そんなものかなあ」
あの時のことを思い出しながら、美輪がそう言うのに、山名が応じる。
「まあ、人切りなどは出来たらしない方がいいよ。そういうことをしなくて済んだという、仁科さんが羨ましいよ。金谷、その後はあの道には山賊は出てこないよな?」
「ええ、でもまだあれから一月経ちませんからね。でも、我が家もしいたけで余裕が出来たら、道を良くして、山賊などは近づけないようにしますよ」
金谷が答えるが、彼もあの時のことを思い出している。
結局、山賊は3人が死んだが、残りは自分の家で暫く奴隷労働だ。人手が欲しかったので丁度よい。山賊などやった奴らはどのみち死刑だから、まだ俺たちなどは慈悲深いほうだ。
その後、山名と2人は東千歳駐屯地の第7師団で3ケ月の訓練を受けて、再度石山ベースに配属されている。山名は駐屯地において最高段位の7段の幹部隊員にも勝ち、剣道では一目置かれてようになった。また他の2人も、どんどん頭角を現し、「実戦を経験している者は違う」ということで評判になった。
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