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14.東アジア情勢1

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 稔とその家族が里帰りをした日本であるが、その日本が世界における現状の位置付けを概説したい。
 2030年の現時点において、アメリカが世界最強の国であることは変わっていない。そのGDPは2位の中国を2倍と大きく引き離して世界一であるが、主として途上国など世界の国々のGDPが伸びてきて、その世界全体のGDPに占める割合は2020年の24%から18%に低下している。

 これは、アメリカ自身のGDPの伸びが鈍化したこともあるが、TPPにからんで環太平洋諸国の経済成長やジェフティア絡みのアフリカ諸国の経済成長が大きかったことが、より原因としては大きい。
 アメリカの経済成長の鈍化は過去10年の保護主義的動きのために、その経済的な活力が失われてきたことが大きな原因である。その結果そのGDPの伸びは、過去10年の平均は0.5%に過ぎずそれ以前に比べると止まっていると言ってもいいレベルである。

 しかし、一方で貧富の差が広がる一方であったものが、市民から起きた様々な経済的な平等を求める運動に答える形で、様々な規制がかけられてきた。この中には、累進課税の強化、投資のリターンへの課税強化、様々な節税への抜け道の閉塞、企業における極端な賃金差の抑制等がある。

 それらは、結局世界的な金融ネットワークを国の監視下において、富めるがゆえに有利に投資して大きなリターンを得、力があるがゆえに大きな報酬を得るというシステムを是正していったのだ。かつてはそのような措置は富裕者の海外脱出を促すことになった。

 しかし、現在では国際的な条約の元に、その場合は脱出した国へのアクセスが不能になるという結果に繋がるので、よほどの決心が必要になる。また、タックスヘブン国と指定された国は完全な監視下に置かれており、そのアクセスは社会的な地位を失うことに通じる。

 この世界的なネットワークの形成には日本におけるIT技術が大きく貢献しているのは事実であるが、それよりもアメリカにおいて、「平等」を掲げて当選した民主党のジェシア・マランド大統領の存在が大きい。彼女が精力的に国内をまとめ上げ、大多数の国民の支持の下に嘗てであれば不可能であった、数々の法整備や規制を成立させたのである。

 その結果として、アメリカのみならず世界の人々の貧富の差は徐々に縮まってきているが、国家間においても同様であり、開発途上国の経済が急速に伸びる一方で、先進国と呼ばれる国々はほぼ停滞している。しかし、このような経済が停滞している国々でも、貧しきものの収入が増えているために、停滞感はなく、不満が大きくなることもない。

 途上国の経済底上げに大きく貢献しつつあるのは、2020年代の初期にアメリカが復帰したTPPによる環太平洋諸国への投資と生産工場を中国と代替させたことの影響が大きい。さらには近年において、ジェフティアの建設があることは世界の経済を語るものの意見の一致をみている。

 もともと、10億の人口があり、資源も豊かであるが圧倒的に貧しい地域であるアフリカが、今後の世界の成長センターになることは当然視されていた。しかし、それは一方で他動的なものにならざるを得ないということも、言われていた。なぜなら、そこには必要な資本、人材、ノウハウも圧倒的に不足していることは常識であった。

 そこに、日本自治区であるがジェフティアの条約が成立して、莫大な資本を投じてその建設が始まった。それに伴って、その土地を提供した2国は、その年間GDPを上回る資金を入手することができた。その2国はその原資を最大限有効に活用するために、日本政府の協力の下に大規模な開発を始めるとともに、様々な経済活性策を実施し始めた。
 その結果として、両国のGDPは当然大きな発展を始めたわけであるが、当然において周辺の国々さらにはアフリカ全土の国々とその人々は、両国の真似をしたということになる。そのため、アフリカ全土からモザンビーク、ジンバブエさらにジェフティアに、多くの人々がその成功を学ぶために訪れることになった。

 この点で、ジェフティアに大量の日本人が住みついてきていることが、大きな効果を呼ぶことになる。日本政府はジェフティアの建設の目的の一つが、アフリカ全土の開発をリードすることである。そのことで日本への経済的な活力を取り込み、日本の影響力を高めるのである。

 そのために、政府はジェフティアには技術、経済、制度などの協力担当者を大量に配置しており、彼らは要望に応じて様々な国の機関に気軽に出かけて行った。それらの動きの結果として、日本の企業がジェフティアを足場にしてアフリカ全土に商売の拠点を作ることになった。

 このことがきっかけで、日本政府の送りだした調査団によって、アフリカ全土で数多くの開発計画が策定された。これらは、殆ど全てが農業、鉱業、工業、商業などの産業につながる基礎インフラであって、その建設そのもので、当該国のGDPの向上に繋がる。さらには当然、産業の勃興、振興によって雇用が生まれ、その生産活動による成果も加わるわけである。

 ところで、アメリカは世界におけるその経済的な地位は地盤沈下しているわけであるが、別段貧しくなったわけではなく他が豊かになった形である。そのため、世界におけるその地位は以前ほど圧倒的ではないが、まだ圧倒的な軍事力もあって、世界における睨みは十分に効かせている。

 軍事的には、いわゆる正面装備兵力の面では、現在では中国がアメリカに次いで2位である。ロシアは核兵力のみで言えば中国を凌いでいるが、ウクライナ侵攻の影響がまだ重い。具体的には経済力は侵攻以前よりさらに落としている。結果として、その核戦力も中身は怪しいとみられており国際的なさらに影響力は小さくなった。

 軍事力という意味では、陸では戦車・装甲車などの戦闘車両、戦闘機や攻撃機、戦闘ヘリなどの軍用機、駆逐艦、潜水艦や空母などの戦闘艦船、さらに長距離攻撃ミサイル、また軍事用衛星などが正面装備としてあるがいずれも極めて高価なものである。

 日本はその点で、防御に徹するとして上述のような正面装備を最小限にして、IT技術を活用してミサイル防御網を形成した。その中には携行対人用もあり、更に仕掛けて使うような対人用、対戦車用、ヘリにも対応できるものもあって、正面装備に比べると相対的に安価に装備できる。

 その意味では、世界の国々が防御のみのためにミサイルを中心とした軍備を施せば、その軍事費は大いに削減できるはずである。現在では高価な戦闘機も、低空飛行をすれば携行ミサイルで十分撃墜が可能であり、戦車もそれらの良い的である。戦闘艦船も攻撃できる範囲で陸に近づけば、陸からのミサイル攻撃で簡単に撃沈される。

 大陸間弾道弾も、陸上イージスの発展型の陸上ミサイル基地から確実に撃墜される。これらの艦船や戦闘機などを遠距離から撃墜できるミサイルは、当然それなりに高価なものになるが、携行型のものは戦闘車両などに比べれば大幅に安価である。

 日本は守りに特化したミサイル技術に焦点を当てて、IT技術を取り入れた経済改革と歩調を合わせて研究し、それを整備してきた。これらのミサイル技術は、それに特化して10年間研究してきた日本が今や最も進んでおり、防御のみのための途上国向けのミサイルシステムを構築した。

 これは、実際のところはアジアにおける中国の軍事的な周辺国への威嚇を睨んでのものであった。その後ジェフティアの計画が浮上するとアフリカ向けもターゲットとして浮上した。またこれは、途上国の軍事費の増大と、そのための武器の拡散による地域紛争を避けるためのものであった。

 その趣旨に欧州さらにアメリカも賛同して、その影響が及ぶ途上国への売り込みを図った。日本としても、憲法は改正したが、武器を大々的に輸出することには制約があったので、いわゆる先進国の協力を得られたことは勿怪の幸いであったのだ。

 この場合は、大量生産によりコストを下げることが重要であったので、生産は基本的に日本で担うことになった。アメリカも欧州も途上国での地域紛争に巻き込まれたくはないので、自力で自国の防衛をしてくれるのであれば、それは歓迎すべきことであったのだ。

 一方の途上国も、日本がアフリカで範を示したように、合理的な計画の下で投資をして経済成長するというモデルを、それぞれに協力する国を見つけて実施していった。その結果として経済成長が生じる訳であるが、その状態の中で軍事的な紛争などを起こしたくはないし、軍事に費やす資金も最小にしたかった。

 このなかで、欧州などのいわゆる先進国も、すでに他国を侵略したいとなどと思う国はない。その場合に、防御に徹するなら、日本が先駆けたミサイルシステムが安上がりであるということを認識した。更に加えて、その兵員も最小限にできるということから、日本を見習っていわゆる正面装備を最小限にして、同様なシステムを備えるようになってきた。

 もちろん、そのシステムで通常兵器に対してはまず防衛可能であるが、核ミサイルについては100%安全とは言えない。しかし、核は現在において使用する兵器として威力が大きすぎ、使った場合には間違いなく国際的に非難を浴びて孤立化することは間違いない。さらには、その責任者は歴史に極悪人として名を遺すであろう。

 だから、現在においては都市を滅ぼすような核兵器は実質的に先制攻撃としては使えないのだ。その意味で相互破壊保証として、『防衛』のために配置しているということが正しい。そうなるとロシア(まだ2千発程度は現役であると考えられている)やアメリカが配備している数千発の核ミサイルは何のためにあるのか?ということになる。

 この点はアメリカでも議論になっており、核軍縮の論はあるが、敵対している中国が200発程度を持っていることから、優位を崩したくないということに落ち着いている。

 さて東アジアであるが、日本の周辺の中国、韓国とは通商は通常ベースで行っているものの、中国は友好国でないことは明らかである。韓国は日本とは通商と人の交流は行っているが、お互いに嫌っていて友好国ではないというのが人々の認識である。

 そして、北朝鮮は人々が流石に国際的な孤立の伴う物資不足や飢えに耐えられず、2026年に軍を巻き込んで指導者層を一掃した。その際の動乱はロシア革命に近く、権力者や富裕層が虐殺されて犠牲者は百万人を超えると言われている。結果として、韓国からアマリカが主導する国連軍が介入して新しい政府が設立した。

 韓国への併合は韓国が断固として拒否し、結局朝鮮人民共和国として名乗り独立国として成立することになった。世界の最貧国からのスタートであるが、人々は基本的な教育は受けており、あの劣悪な体制で生き延びてきた人々であるため、比較的良質な労働者の供給先である。

 日本は好景気もあって隣国として、応分の援助は考えており、労働力の実態が知れると企業も積極的に投資を始めている。当分は苦しいが、人民を豊かにするつもりのない、かの独裁者とその取り巻きに支配され、国際的に締め付けられさらに貧しくなるよりは、より早く普通の生活を送れるようになるであろう。
 韓国は日本を嫌っていても軍事的な攻撃をすることは考えていない。むろん、対馬を占領するなどと言う者はいるが、知性があれば客観的にそれが可能と思う者はいない。

 ちなみに台湾であるが、対中国の存在としてアメリカが露骨に後押しを始めた。それに日本も加わって、先進諸国、環太平洋諸国、さらには日本の影響が強まったアフリカの賛同もあって、続々と国交を結ぶ国が増えて、国連加盟国にもなった。

 この国では中国との関係を重視して、将来は中国と一体化を志向する人々もいたが、香港の騒ぎの結果、そのような人々も態度を変えることになった。台湾は、長く中国の軍事的脅威にさらされてきたのであるが、その態度を明確化した結果、その脅威が顕在化することになった。

 結局日本にとって危険であるのは中国のみである。そして、台湾も同じであり、共にアメリカがコミットしている点は同様である。台湾と互いの国交を回復した日本は、その最友好国であり、お互いの国民も強い親近感をもっている。そのこともあって、軍事的にそのミサイル防衛網をつくることに日本が協力することには特に障害がなかった。

 このように隣国が潜在敵国である場合に、ミサイル網で航空機や艦船を排除できることは間違いないが、発射されたミサイルに対しては100%とは言えない。その意味で、敵の攻撃基地への先制攻撃、さらに攻撃に対して報復できることが重要である。後者は核と同様に相互破壊保証ということになる。

 台湾はどちらも可能であるが、日本は先制攻撃については憲法上の制約でその範囲が限定されている。そこにおいて、米軍の存在が重要であるので、規模を大きく縮小はしているが、在日米軍はまだ駐留している。また、台湾は近年米軍と相互防衛条約を結んでおり、小規模であるがその基地も出来ている。
 その意味で、日本は台湾と共にアメリカの核の傘に入り、その保護下にあると言えよう。

 さて、一時期は世界の覇権を握るとまで言われた中国であるが、2030年の今では世界の先進国からはぶられて、その味方というか陣営の国は、この陣営の帰属で揺れているバキスタン、ラオス、カンボジア程度である。
 ただ、すでに中国の代替の産業が育った環太平洋の諸国以外では、その価格の安さから一定の需要があり、工業製品のそれなりの輸出は行っている。しかし、その技術レベルは移転を世界の先進レベルから固く閉じられているために、年々遅れていっている。

 このため、ハイテク製品は海外企業が全て去って行った結果、今では殆ど輸出はできなくなっているが、国内においては、無論国産品を使っているものの、世界レベルでは一世代は遅れたものになっている。そのためGDPにおいては世界2位を保ってはいるが、近年経済成長を続けている日本にすぐ後に迫られている。

 中国はこのように、経済は停滞し、汚職こそ減ったが共産党幹部等の癒着のような不公平がまかり通って、しかも国内に出回る遅れた商品は人民の不満を掻きたてている。それを、莫大な予算を費やして、国中に巡らせた監視システムで押さえつけているが、そろそろ限界が見え始めているのが中国の現状である。
 そして、西側諸国からは、その眼をそらすためも何らかの行動を起こすのではないかとみられているのだ。
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