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2.稔の回想は続く
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カードをかざして改札を抜けて、電車に乗った稔はカバンを網棚において、思い出に再度浸り始める。無論彼が知っているのは表にでた報道と、様々なアングラのインターネット情報である
中国の北朝鮮侵攻は十分に準備されたものであったようだ。そもそも、北朝鮮の労働党委員長キム・ボウクン自身は肥え太っているが、長引く制裁ですでに軍にすら十分に食料を供給できていなかった。
そのような軍隊の士気が高かろうはずはなく、国境付近の北朝鮮軍はすでに、中国の商人を通じた獲付けに完全に骨抜きにされていた。そして、北の核は中国にとっても危険であるという中国上層部のコンセンサス、さらにハノイにおける米・北朝鮮の会談の失敗から、すでに米から中国の手による北の制圧の打診があった。
中国にとっては、今や彼らに対する敵視政策をとっている米の言うことを聞くのは業腹ではあったが、米が韓国から手を引くという話は魅力的であった。
また、北の危険性を考えると北に侵攻というオプションはありうるということで、すでに2019年の初頭から北への工作を加速していた。そして、多分中国では次のようなやり取りがあっただろう。
「どうだ、楊軍長、北への仕掛けは?」
周ヨンサム主席が、急きょ呼び出した東北軍区・軍長の楊に尋ねると、急な呼び出しがその件であることは予想していた楊は答える。
「はい、主だったところには、十分鼻薬を効かせてあります。今だったらいつでも行けます」
「ふむ、個人崇拝に精を出しているようだがもろいものだな。それにしても、あのブタが直卒の情報部はどうなのか、見張りは行き届いていないのか?」
主席の言葉に楊は大きく頷く。
「いえ、結局自分の部下に十分に餌をやれない飼い主は背かれるのです。情報部の実戦部隊を握っているパクを押さえてありますので、すでに彼らの情報部は骨抜きです」
気持ち良さように言う楊の言葉に、周は自分のことを言われているようでいささか鼻白んだが、気を取り直して話を続ける。
「よろしい、では予定日は12月の10日過ぎで調整してくれ。北を手に入れることは、はっきり言って我が国には殆どメリットはないが、馬鹿な政策を改めて少し手を入れれば自分達が食える位のことは簡単だ。あのブタのような、身の程を知らない面倒な連中を除けるのは大きなメリットだ。それに、韓国が支配下に入るのは悪くはない」
「しかし、主席閣下、韓国も日本の規制強化で産業がズタズタになっていますが、このままだともっと悪くなります。この場合、支配下に置いてもそれほどメリットはないのではないでしょうか?」
「いや、すでに日本は正規の書類を提出している部材は輸出を始めている。日本と韓国は一つの工業チェーンを形成していて、日本も韓国の工業システムが崩壊するのは好ましいことではないのだ。もっともそのチェーンは日本の部品、部材は韓国にとっては必須で彼らが国産するのはまったく引き合わないから、最初から韓国は日本に首根っこを掴まれている立場だ」
「だのに、韓国人は国産しろ、日本からの輸入品を禁輸などと騒いているのですか?」
「ああ、あれは韓国のマスコミが悪いな。それと今の韓国政府のスタッフはお粗末すぎる。まあ、反体制であった学生上がりを集めた政府だからやむを得んがな。しかし、隣人の必ずしも自分の陣営でない存在が無能であるのは、我が国にとっては都合が良いとは言える。
まあ、結局韓国は日本という虎の尾を踏んでしまったのだ。今後は、韓国の工業は日本にその部品・部材をコントロールされてサムヨン電子のような世界的な企業は育たんだろう。あいつらは我が国の一部になって、そのGDPも我が国の沿岸部程度に落ち着くことになる」
「それにしても、韓国の連中の日本に対する憎しみですか。あれは常軌を逸していますね。おかげで日本の緊急措置で韓国人相手にビザを復活しましたからね」
楊の言うように、ホワイト国を外されて、結果として多くの戦略物資の韓国への輸出を制限される形になると、まさに韓国は狂乱した。
日本の会社の出先は襲われ、日本製品は店から勝手に取り捨てられた。そして、一般人が実質的に韓国人の日本への旅行ができなくなる中で、日本に渡った者達は、神社への放火、盗み、暴行とこれ幸いと犯罪を起こして回り、逮捕されたそれらの人々が『愛国者』と称賛された。
無論、心あるものはそれらの愚行に眉を顰めていた。しかし、それらの犯罪者の中の一人が盗みを咎めた女性を棒で殴って結果的に死亡させた事件が起きて、政治決断で緊急措置として1ヶ月での間に韓国からのビザなし渡航は停止になった。どのみち、韓国のからの観光客は、自国民に襲われるために日本には来ることはできなくなっていたので、今更経済的なデメリットはなかったし、それでも来る者は犯罪目的ということだ。
無論、日本からの韓国への旅行者はビジネス目的であっても根絶され、居住者もごく少数を除いていなくなった。例によって、韓国はビザ復活を差別と騒ぎ立てたが、その韓国の狂乱の実態は国際的も知られており、WTOでも門前払いであった。
そして、運命の12月14日、(関係ないが赤穂浪士討ち入りの日と書いた日本のマスコミもあった)北朝鮮の6ヶ所に潜んでいた、中国人民解放軍の特殊部隊が動き始めた。その6ヶ所は、ミサイルの弾頭に装備された核爆弾があるのだ。すでに、彼らは寝返ったものから十分な情報を入手して、位置関係は十分に把握していた。
午前2時の決行の信号と共に、彼らは高性能爆薬を担いで動き始めた。4ヶ所についてはミサイルサイロそのものに爆薬を仕掛け、サイロに近づきにくかった2ヶ所はコントロールルームに爆薬を仕掛けた。それらは、順不動で爆発し、午前3時には全ての破壊に成功した。
北朝鮮の対外的な発言力の源泉である核ミサイルが破壊されたのだ。もちろん、まだ核爆弾はあり、未精製のプルトニウム、濃縮途中のウラニウムや原子炉もあるが、当面外に向かっての害はない。午前8時、中国丹東市の中朝国境の中朝友誼橋を人民解放軍99式戦車120両が堂々と渡り、そのあとを兵員輸送車が延々と続く。
さらにその上空を100機以上のヘリコプターのゴウゴウと飛んでおり、そのまた上空には数十機の戦闘機が舞っている。地上部隊は、当面それほど意味はなかったが、110機のヘリコプター部隊は、各々完全武装の兵士10名を乗せて平壌を目指した。
彼らの目標は、指導者の拘束または射殺と人民大会堂近傍の政府機関の制圧であったが、午前9時前には平壌に着いたヘリ部隊は地上に降下して作戦活動に移った。その間、ヘリ部隊を目指して北朝鮮の戦闘機が散発的に近づいてきたが、100機以上が警戒に当たっている中国J11に抗すべきもなくたちまちにして撃墜された。
降下したヘリから跳びだした解放軍は、銃器を持つ者は容赦なく撃ち倒し、建物のドアを蹴破って侵入した。独裁者の館は戦車で守られていたが、ヘリからの空対地ミサイルに呆気なく擱座して無力化された。
しかし、独裁者はそう簡単には捕まらず、兵が屋内に突入した時には、すでに地下道を通って逃亡した後であった。流石に解放軍情報部も、独裁者の館から秘密通路の先までは情報を掴んでおらず、通路を追おうとしたが、爆発音とともにトンネルがつぶれ追えなくなった。
独裁者は、どこかの通信設備のある部屋にたどり着いたらしく、あらゆる国外を向いた兵器の発射命令を出したようだ。しかし、すでに独裁者の命令に従わない将校もいて、実際に発射された短中距離ミサイルは多くはなかった。それでも、中国方面には、丹東市付近に向けて8発の中距離ミサイル、韓国に向けては28発の短・中距離ミサイルが発射された。
中国に向かったミサイルは、それなりに準備をしていた解放軍によって6発は迎撃されたが、1発は満浦市近郊の農場に落ち、一発は丹東市の市街地の住宅に落ちて、アパートが1棟全壊、12人が死亡、15人が重軽傷を負った。
韓国側では、米軍は引き上げの最中であったが、事前に中国側からの警報があったので、迎撃ミサイルの準備と共に戦闘機を上げていた。核は人民解放軍がすでに処理したということなのでその点は気が楽だ。
もちろん、韓国には伝えていない。彼らに伝えたら北に漏れるのは既定の事実だ。アメリカは、在韓の米軍を含めた指揮権を韓国に渡すということで韓国政府と同意したが、韓国軍はそれで韓国軍の司令官が米軍も含めて指揮をとれると思っていたらしい。
しかし、米軍が他国の軍に一定規模の軍の指揮権を渡す訳はないのだ。ましてや朝鮮戦争時に、殆どの将兵が逃げ惑った韓国軍に。だから、米軍司令官のドナルド・カバーズ中将はそれを聞いた時には、怒り狂って太平洋方面軍の総司令官のジミー・コナーズ大将に食ってかかったものだ。
「韓国人の総司令官!総司令部は、何を考えているのですか!」
「まあ、ドナルド、そう言うな。わしも同じことを会議で言ったのだ。コリアンに軍の指揮は無理だ。小器用にあれこれやるのはできても、腹がくくれん。危機になったら、上のものから逃げ出す危惧がぬぐえん。しかし、それは中央も解っておる。朝鮮戦争時の記録があるからな。それにベトナム戦争の彼らの振る舞いもな。
だから、これは直近にわが軍が半島から引き上げる前触れということだ」
コナー大将の言葉を思い出して、カバーズ中将は苦笑し、呟いた。
「やれやれ、あと1週間後だったら、もはや機材は運びだした後で迎撃などする必要はなかったのにな。18発の短距離ミサイルは、韓国軍は全く迎撃できずにソウルとその周辺に落ちたか。10発の中距離ミサイルを我々がどの程度迎撃できるかだな」
米軍はすでに国境に近いソウル近郊からは引き上げており、短距離ミサイルの標的であるソウルの防衛は完全に韓国軍の役割りになっているのだ。
アメリカ軍の迎撃ミサイルは流石に優秀で、9発を迎撃したが1発は太田市の市街地に落下爆発した。これで、3棟の家屋が破壊され8人の死者が出たが、短距離ミサイルの被害はそんなものではなかった。前から危ないと言われていた、ソウル郊外の高層アパート群にミサイルは降り注ぎ、10棟のアパートが倒壊し、死者4200人、重軽傷は5800人の惨事になった。
このような事態を引き起こした金・ボウクンは、人民解放軍の徹底した北の指導部の者達への追及によって、翌日にその隠れ家を突き止められて、逃げられないのを悟って自決した。とは言え、長く世界の迷惑であった北朝鮮の政権はこのようにして倒れたのだった。
『あれから、韓国政府は米軍が中距離ミサイルから守り切れなかったと言って、責めたんだよな。だけど、流石に韓国世論の袋叩きにあったなあ。それから、またロウソクデモか』稔は思いだすが、確かにその後、韓国政府は、アメリカがミサイルから守り切れなかったと言って責めた。
さらに中国が北に侵攻したこと、またその結果そのような惨事が起きたことも責めた。当然アメリカは自分たちがベストを尽くし、しっかり成果を上げたことを事実として述べた。軍事的な常識で言えば中距離ミサイルの9割を迎撃できたのは上出来であり、それを責めるのは間違っている。
中国からは、再度ミサイル発射実験を始めた北を制御するのは、世界全体の願いであり、それを自分たちは果たした。不幸にして、韓国において犠牲がでたが、すでに、逆転不能な状態で単に破壊のためのみのためにミサイル発射を命じた金ボウクンの責任だ。それに、自分たちも米軍もそれらのミサイルの大部分を迎撃している。
さらに中国はこうも言っている。我々は、まず核を無力化して、今回の犠牲を何十倍もの犠牲が生じるのを防いだのだ。そもそも犠牲の多くは自分たちの備えの不足と、訓練の不足から来ているのではないか、と。
このような不毛のやり取りの間に、韓国軍の将校達からリークがあった。それは、政府機関のみならず、軍においても自分たちと思想を同じくする者達を指導的立場に置いた結果、無能な者が指揮権を握ってしまった。また、政権とその無能者どもが北に忖度した結果が、ソウル防衛の無力化であり、その結果があの惨事である。
この事態は、迎撃ができなかったという事実が証明している以上繕いようがなく、米軍を責めるどころか政権の無能が事態を引き起こしたことは明らかである。そこで、またもや起きたロウソクデモ。数十万が政府を攻撃するデモに参加し、白大統領の支持率は10%を切った。
白は、すでに警察組織が自分から離れたのを見て、自分が握ったと思っている軍にデモを押さえるように命じた。白に任命された司令官とその取り巻きは、その命令を実行しようとしたが実行部隊が動かなかった。その時点では、米軍はさっさと引きあげているので、万策尽きた白が中国を頼るという説があった。
しかし、彼は彼なりに韓国のためということは考えてはいた。だから、自分の延命のみのために、中国という外国軍を呼び込むことはできなかった。かれは、弁護士になるほどであるから頭は悪くないし、自分の私利私欲を追求する悪人でもないし、周りに人が集まるのであるから人に好かれる部分もあるのだろう。
しかし、現実と自分の信念とのバランスの認識がいささか狂っているのだろうが、実際に大統領になって打つ手は全て頓珍漢でマイナスの効果しか上げなかった。不幸にして、韓国には世論としてその頓珍漢さを指摘できる勢力がなかった。まあ、無能の極みの指導者とそれを認識できないマスコミと国民ということだ。
結局、白はデモに屈し、大統領職から退くことを宣言した。これはこれで、また韓国は大騒動になった。
少なくとも北の核はなくなったが、そこは中国の占領下にある。韓国を守るべき米軍は撤退したし、核の脅威に対して防衛するかどうかはあいまいなままだ。隣の日本は、自分たちの行いのせいですでに敵国同然である。
加えて主として日本との争いのために経済は最悪である。
『確かに、あれは困っただろうな。でも結局、中国軍の侵入を許してしまうのよね』稔は思うのだった。
中国の北朝鮮侵攻は十分に準備されたものであったようだ。そもそも、北朝鮮の労働党委員長キム・ボウクン自身は肥え太っているが、長引く制裁ですでに軍にすら十分に食料を供給できていなかった。
そのような軍隊の士気が高かろうはずはなく、国境付近の北朝鮮軍はすでに、中国の商人を通じた獲付けに完全に骨抜きにされていた。そして、北の核は中国にとっても危険であるという中国上層部のコンセンサス、さらにハノイにおける米・北朝鮮の会談の失敗から、すでに米から中国の手による北の制圧の打診があった。
中国にとっては、今や彼らに対する敵視政策をとっている米の言うことを聞くのは業腹ではあったが、米が韓国から手を引くという話は魅力的であった。
また、北の危険性を考えると北に侵攻というオプションはありうるということで、すでに2019年の初頭から北への工作を加速していた。そして、多分中国では次のようなやり取りがあっただろう。
「どうだ、楊軍長、北への仕掛けは?」
周ヨンサム主席が、急きょ呼び出した東北軍区・軍長の楊に尋ねると、急な呼び出しがその件であることは予想していた楊は答える。
「はい、主だったところには、十分鼻薬を効かせてあります。今だったらいつでも行けます」
「ふむ、個人崇拝に精を出しているようだがもろいものだな。それにしても、あのブタが直卒の情報部はどうなのか、見張りは行き届いていないのか?」
主席の言葉に楊は大きく頷く。
「いえ、結局自分の部下に十分に餌をやれない飼い主は背かれるのです。情報部の実戦部隊を握っているパクを押さえてありますので、すでに彼らの情報部は骨抜きです」
気持ち良さように言う楊の言葉に、周は自分のことを言われているようでいささか鼻白んだが、気を取り直して話を続ける。
「よろしい、では予定日は12月の10日過ぎで調整してくれ。北を手に入れることは、はっきり言って我が国には殆どメリットはないが、馬鹿な政策を改めて少し手を入れれば自分達が食える位のことは簡単だ。あのブタのような、身の程を知らない面倒な連中を除けるのは大きなメリットだ。それに、韓国が支配下に入るのは悪くはない」
「しかし、主席閣下、韓国も日本の規制強化で産業がズタズタになっていますが、このままだともっと悪くなります。この場合、支配下に置いてもそれほどメリットはないのではないでしょうか?」
「いや、すでに日本は正規の書類を提出している部材は輸出を始めている。日本と韓国は一つの工業チェーンを形成していて、日本も韓国の工業システムが崩壊するのは好ましいことではないのだ。もっともそのチェーンは日本の部品、部材は韓国にとっては必須で彼らが国産するのはまったく引き合わないから、最初から韓国は日本に首根っこを掴まれている立場だ」
「だのに、韓国人は国産しろ、日本からの輸入品を禁輸などと騒いているのですか?」
「ああ、あれは韓国のマスコミが悪いな。それと今の韓国政府のスタッフはお粗末すぎる。まあ、反体制であった学生上がりを集めた政府だからやむを得んがな。しかし、隣人の必ずしも自分の陣営でない存在が無能であるのは、我が国にとっては都合が良いとは言える。
まあ、結局韓国は日本という虎の尾を踏んでしまったのだ。今後は、韓国の工業は日本にその部品・部材をコントロールされてサムヨン電子のような世界的な企業は育たんだろう。あいつらは我が国の一部になって、そのGDPも我が国の沿岸部程度に落ち着くことになる」
「それにしても、韓国の連中の日本に対する憎しみですか。あれは常軌を逸していますね。おかげで日本の緊急措置で韓国人相手にビザを復活しましたからね」
楊の言うように、ホワイト国を外されて、結果として多くの戦略物資の韓国への輸出を制限される形になると、まさに韓国は狂乱した。
日本の会社の出先は襲われ、日本製品は店から勝手に取り捨てられた。そして、一般人が実質的に韓国人の日本への旅行ができなくなる中で、日本に渡った者達は、神社への放火、盗み、暴行とこれ幸いと犯罪を起こして回り、逮捕されたそれらの人々が『愛国者』と称賛された。
無論、心あるものはそれらの愚行に眉を顰めていた。しかし、それらの犯罪者の中の一人が盗みを咎めた女性を棒で殴って結果的に死亡させた事件が起きて、政治決断で緊急措置として1ヶ月での間に韓国からのビザなし渡航は停止になった。どのみち、韓国のからの観光客は、自国民に襲われるために日本には来ることはできなくなっていたので、今更経済的なデメリットはなかったし、それでも来る者は犯罪目的ということだ。
無論、日本からの韓国への旅行者はビジネス目的であっても根絶され、居住者もごく少数を除いていなくなった。例によって、韓国はビザ復活を差別と騒ぎ立てたが、その韓国の狂乱の実態は国際的も知られており、WTOでも門前払いであった。
そして、運命の12月14日、(関係ないが赤穂浪士討ち入りの日と書いた日本のマスコミもあった)北朝鮮の6ヶ所に潜んでいた、中国人民解放軍の特殊部隊が動き始めた。その6ヶ所は、ミサイルの弾頭に装備された核爆弾があるのだ。すでに、彼らは寝返ったものから十分な情報を入手して、位置関係は十分に把握していた。
午前2時の決行の信号と共に、彼らは高性能爆薬を担いで動き始めた。4ヶ所についてはミサイルサイロそのものに爆薬を仕掛け、サイロに近づきにくかった2ヶ所はコントロールルームに爆薬を仕掛けた。それらは、順不動で爆発し、午前3時には全ての破壊に成功した。
北朝鮮の対外的な発言力の源泉である核ミサイルが破壊されたのだ。もちろん、まだ核爆弾はあり、未精製のプルトニウム、濃縮途中のウラニウムや原子炉もあるが、当面外に向かっての害はない。午前8時、中国丹東市の中朝国境の中朝友誼橋を人民解放軍99式戦車120両が堂々と渡り、そのあとを兵員輸送車が延々と続く。
さらにその上空を100機以上のヘリコプターのゴウゴウと飛んでおり、そのまた上空には数十機の戦闘機が舞っている。地上部隊は、当面それほど意味はなかったが、110機のヘリコプター部隊は、各々完全武装の兵士10名を乗せて平壌を目指した。
彼らの目標は、指導者の拘束または射殺と人民大会堂近傍の政府機関の制圧であったが、午前9時前には平壌に着いたヘリ部隊は地上に降下して作戦活動に移った。その間、ヘリ部隊を目指して北朝鮮の戦闘機が散発的に近づいてきたが、100機以上が警戒に当たっている中国J11に抗すべきもなくたちまちにして撃墜された。
降下したヘリから跳びだした解放軍は、銃器を持つ者は容赦なく撃ち倒し、建物のドアを蹴破って侵入した。独裁者の館は戦車で守られていたが、ヘリからの空対地ミサイルに呆気なく擱座して無力化された。
しかし、独裁者はそう簡単には捕まらず、兵が屋内に突入した時には、すでに地下道を通って逃亡した後であった。流石に解放軍情報部も、独裁者の館から秘密通路の先までは情報を掴んでおらず、通路を追おうとしたが、爆発音とともにトンネルがつぶれ追えなくなった。
独裁者は、どこかの通信設備のある部屋にたどり着いたらしく、あらゆる国外を向いた兵器の発射命令を出したようだ。しかし、すでに独裁者の命令に従わない将校もいて、実際に発射された短中距離ミサイルは多くはなかった。それでも、中国方面には、丹東市付近に向けて8発の中距離ミサイル、韓国に向けては28発の短・中距離ミサイルが発射された。
中国に向かったミサイルは、それなりに準備をしていた解放軍によって6発は迎撃されたが、1発は満浦市近郊の農場に落ち、一発は丹東市の市街地の住宅に落ちて、アパートが1棟全壊、12人が死亡、15人が重軽傷を負った。
韓国側では、米軍は引き上げの最中であったが、事前に中国側からの警報があったので、迎撃ミサイルの準備と共に戦闘機を上げていた。核は人民解放軍がすでに処理したということなのでその点は気が楽だ。
もちろん、韓国には伝えていない。彼らに伝えたら北に漏れるのは既定の事実だ。アメリカは、在韓の米軍を含めた指揮権を韓国に渡すということで韓国政府と同意したが、韓国軍はそれで韓国軍の司令官が米軍も含めて指揮をとれると思っていたらしい。
しかし、米軍が他国の軍に一定規模の軍の指揮権を渡す訳はないのだ。ましてや朝鮮戦争時に、殆どの将兵が逃げ惑った韓国軍に。だから、米軍司令官のドナルド・カバーズ中将はそれを聞いた時には、怒り狂って太平洋方面軍の総司令官のジミー・コナーズ大将に食ってかかったものだ。
「韓国人の総司令官!総司令部は、何を考えているのですか!」
「まあ、ドナルド、そう言うな。わしも同じことを会議で言ったのだ。コリアンに軍の指揮は無理だ。小器用にあれこれやるのはできても、腹がくくれん。危機になったら、上のものから逃げ出す危惧がぬぐえん。しかし、それは中央も解っておる。朝鮮戦争時の記録があるからな。それにベトナム戦争の彼らの振る舞いもな。
だから、これは直近にわが軍が半島から引き上げる前触れということだ」
コナー大将の言葉を思い出して、カバーズ中将は苦笑し、呟いた。
「やれやれ、あと1週間後だったら、もはや機材は運びだした後で迎撃などする必要はなかったのにな。18発の短距離ミサイルは、韓国軍は全く迎撃できずにソウルとその周辺に落ちたか。10発の中距離ミサイルを我々がどの程度迎撃できるかだな」
米軍はすでに国境に近いソウル近郊からは引き上げており、短距離ミサイルの標的であるソウルの防衛は完全に韓国軍の役割りになっているのだ。
アメリカ軍の迎撃ミサイルは流石に優秀で、9発を迎撃したが1発は太田市の市街地に落下爆発した。これで、3棟の家屋が破壊され8人の死者が出たが、短距離ミサイルの被害はそんなものではなかった。前から危ないと言われていた、ソウル郊外の高層アパート群にミサイルは降り注ぎ、10棟のアパートが倒壊し、死者4200人、重軽傷は5800人の惨事になった。
このような事態を引き起こした金・ボウクンは、人民解放軍の徹底した北の指導部の者達への追及によって、翌日にその隠れ家を突き止められて、逃げられないのを悟って自決した。とは言え、長く世界の迷惑であった北朝鮮の政権はこのようにして倒れたのだった。
『あれから、韓国政府は米軍が中距離ミサイルから守り切れなかったと言って、責めたんだよな。だけど、流石に韓国世論の袋叩きにあったなあ。それから、またロウソクデモか』稔は思いだすが、確かにその後、韓国政府は、アメリカがミサイルから守り切れなかったと言って責めた。
さらに中国が北に侵攻したこと、またその結果そのような惨事が起きたことも責めた。当然アメリカは自分たちがベストを尽くし、しっかり成果を上げたことを事実として述べた。軍事的な常識で言えば中距離ミサイルの9割を迎撃できたのは上出来であり、それを責めるのは間違っている。
中国からは、再度ミサイル発射実験を始めた北を制御するのは、世界全体の願いであり、それを自分たちは果たした。不幸にして、韓国において犠牲がでたが、すでに、逆転不能な状態で単に破壊のためのみのためにミサイル発射を命じた金ボウクンの責任だ。それに、自分たちも米軍もそれらのミサイルの大部分を迎撃している。
さらに中国はこうも言っている。我々は、まず核を無力化して、今回の犠牲を何十倍もの犠牲が生じるのを防いだのだ。そもそも犠牲の多くは自分たちの備えの不足と、訓練の不足から来ているのではないか、と。
このような不毛のやり取りの間に、韓国軍の将校達からリークがあった。それは、政府機関のみならず、軍においても自分たちと思想を同じくする者達を指導的立場に置いた結果、無能な者が指揮権を握ってしまった。また、政権とその無能者どもが北に忖度した結果が、ソウル防衛の無力化であり、その結果があの惨事である。
この事態は、迎撃ができなかったという事実が証明している以上繕いようがなく、米軍を責めるどころか政権の無能が事態を引き起こしたことは明らかである。そこで、またもや起きたロウソクデモ。数十万が政府を攻撃するデモに参加し、白大統領の支持率は10%を切った。
白は、すでに警察組織が自分から離れたのを見て、自分が握ったと思っている軍にデモを押さえるように命じた。白に任命された司令官とその取り巻きは、その命令を実行しようとしたが実行部隊が動かなかった。その時点では、米軍はさっさと引きあげているので、万策尽きた白が中国を頼るという説があった。
しかし、彼は彼なりに韓国のためということは考えてはいた。だから、自分の延命のみのために、中国という外国軍を呼び込むことはできなかった。かれは、弁護士になるほどであるから頭は悪くないし、自分の私利私欲を追求する悪人でもないし、周りに人が集まるのであるから人に好かれる部分もあるのだろう。
しかし、現実と自分の信念とのバランスの認識がいささか狂っているのだろうが、実際に大統領になって打つ手は全て頓珍漢でマイナスの効果しか上げなかった。不幸にして、韓国には世論としてその頓珍漢さを指摘できる勢力がなかった。まあ、無能の極みの指導者とそれを認識できないマスコミと国民ということだ。
結局、白はデモに屈し、大統領職から退くことを宣言した。これはこれで、また韓国は大騒動になった。
少なくとも北の核はなくなったが、そこは中国の占領下にある。韓国を守るべき米軍は撤退したし、核の脅威に対して防衛するかどうかはあいまいなままだ。隣の日本は、自分たちの行いのせいですでに敵国同然である。
加えて主として日本との争いのために経済は最悪である。
『確かに、あれは困っただろうな。でも結局、中国軍の侵入を許してしまうのよね』稔は思うのだった。
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