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1.斎田家の朝の風景

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「稔さん、とんでもない話だけど、これどうなっちゃうんだろう?」
 朝の食卓で、4歳の息子の翔が幼稚園の制服を着て自分でご飯を食べている傍らで、テレビを見ている夫に妻の涼子が困惑した顔で、2歳の娘ゆかりに離乳食を食べさせながら話しかける。

「うーん。東アフリカの開発かあ。10兆円突っ込むとね。この財政難になにを考えているのか、とコメンテーターは言っているよな。ただ、あの青水って言う奴は、あらゆることで政府の悪口を言っているからな。あまり、あいつの言うことは当てにならん」

 テレビでは、細面のコメンテーターが顔を真っ赤にしてまくし立てている。その話は、要するに数年前からぼつぼつと上がっていた話が具体化しているということで、A新聞がそれを政府の陰謀と昨夕の夕刊とインターネットでがなり上げている件だ。

 それに対して、他のマスコミも政府関係からの緊急取材で、もう少しニュートラルな報道が出てきている段階である。それらによると、A新聞が報道している日本政府主導のアフリカ東岸の開発計画は事実であり、相手側政府との合意はすでに成って着手できるところに来ているということである。

 それは、日本政府の肝いりで商社が裏で長く動いていた案件であり、東アフリカのモザンビーク、ジンバブエ、マラウイに跨る地区で日本の大農業プランテーションを作ろうということだ。
 確かに気候変動で、ここ数年においてとりわけ降雨が不安定な状況を見せており、豪雨のみで無く干ばつもまた起き始めており、世界的な干ばつや天候不順による食料の不足が心配されている。その意味で食糧安保の立場から、日本が仕切れる立場での農業開発というのはありうる話である。

 また、過去数年「国土強靭化」の掛け声の下で、災害対策とインフラ再生への建設予算の注入、さらに財政の悪化にも関わらず軍備の拡充に狂奔する中国への備えとして防衛費の増大が行われてきた。その結果として、日本国の年間の予算はすでに110兆円を超えており、日本政府の負債は約1070兆円になっている。

 一方で、このような積極財政の結果としてGDPも確実に伸びて2024年の現在、名目では670兆円になっている。多くの出来事があって、一つの節目の年と言われている2019年以来、平均5%弱、実質2.5%の伸びを示したことになる。このことはまた、平均2.5%のインフレが会ったことも示している。

 近年、政府は財政健全化の指標として対GNP比の政府負債の比率を減らすことであると言っている。その意味では確かに率は減ってはいるが、予算に対しての国債費は依然として30%を超えており、早晩財政破綻するとして、政府への反対論者はこうした財政拡大には声を大にして反対している。

 ただ財務省は、支出の拡大に抵抗するとともに、またもや消費税の引き上げを御用学者やマスコミを使って言い立てているが、国民の支持がほぼ盤石な政府はこれを殆ど無視している。
 一方で、緊急と銘打った国土強靭化は一段落したが、インフラの維持補修にはまだまだ予算を減らすわけにはいかない情勢である。これは、過去の好景気時のインフラ投資は莫大なものであり、その老朽化に伴う補修・更新のピークは2045年後頃になるのだ。

 ちなみに8兆円を超えた防衛費は中国の侵略的な姿勢が変わっていない以上は減らすわけにはいかない。それに加えて、アメリカが日米安保の偏務的な日米の役割りに異議を唱え始めており、その対応のためにも防衛費はむしろ増加する必要がある。

 そこにもってきて、このアフリカ開発に莫大な投資をしようということだから、まあ財政破綻論者のいうことも解らないことはない。
「うーん、技術屋の俺には判断がつかない面があるけど、親父の言っていることを思い出すよね」
 夫の言うのに涼子が応じる。

「ええ、日本政府の借金はGDPを増やさなくてはどうにもならん、といつも言っておられますね」

「ああ、その意味では、政府が金を使うことはGDPを上げることに繋がるが、できれば民間の活力を増やすようなことに使うべきだとも言っていたな。その意味では、農業開発というのはいいのじゃないかな。
 防衛費と、インフラ整備は金を使う公共事業という面はあって、実際にもGDPの増加に明らかに貢献している。しかし、農業開発はその金を使うという効果に加えて農業生産額の上昇に直接繋がる。農産物の輸入額がどの位かは知らないが(実際は6兆円以上)、効果は大きいように思うな。政府の案は結構いい事のように思うけどね」

 稔が言ったところに、テレビにお知らせが入り、涼子がそれを見て言う。
「あら、今晩首相が会見をするようね。いま話題になっている東アフリカの説明をするのだって」

「ああ、俺はもう時間だ、行かなくちゃ。今晩7時からか。その前には帰ってこれるよ。じゃあ行くね」
立ち上がって、カバンを持ち、アパートの玄関に向かう稔を涼子と共に、息子の飛翔とゆかりが追う。

「あなた行ってらっしゃい」
「「パパ、行ってらっしゃい」」家族に見送られて稔は駅に向かう。

 アパートから、5分ほど離れたところに駅があり、電車で20分ほど走ったところに彼の勤めるガス会社の事務所がある。稔は、家族に見送られてほっこりした気持ちで6階からエレベータで地上に降り、駅への道をたどりながら、先ほどのテレビの話を考える。

 稔の父はエンジニアだが、海外の仕事を長くやっていたこともあって、いろんなことに詳しい。たしか、ジンバブエにも行っていたはずだ。政府筋からも話が出ているようだし、首相がその件で記者会見をするというのだから、相当話は煮詰まっているはずだし規模も大きいだろう。彼は、しばしば訪れている実家での父との何度もした話を思い出している。

 2019年から5年、日本経済は確かに上昇傾向できている。消費税を中途半端な8%から10%に上げて、その代わりに10年は上げないと時の首相が明言した。その時の消費税引き上げは、先の5%から8%の上昇の場合と違って、様々な対策が功を奏したこともあって、景気への悪影響はほとんどなかった。

 まあ、1.6倍にするのと、1.25倍にするのではインパクトが違って当然であるが。その後参議院、衆議院選にも勝った与党自民党は先述のように、災害対策、インフレ老朽化対策及び、日米安保体制の不安定化、中国への防衛を謳って公共事業費と防衛費の大幅増加を実施した。

 それらが始まるきっかけになった2019年というのはいろんな意味で、エポックメーキングな年であった。今のところ最後になった消費税引き上げの年であり、アメリカと中国の明らかな冷戦が始まった年でもあったし、韓国が西側同盟からはじき出された年でもあった。

 アメリカ合衆国のエキセントリックな大統領スペード氏は、ビジネスマン上がりの全く普通の政治家と違う感性で、世界をかき回してきた。中国との対立は、だから氏の一連のエキセントリックさの表れと当初は思われていたが、実際は米の政財界の冷徹な分析と議論の結果であったことが後にわかった。

 それは、中国の現状を放置すれば、20年以内に米中の覇権は交代し、世界は最終的に中国の圧政にあえぐことになるとの読みである。大体において、中国が米一国から稼ぐ黒字が単年で40兆円もあって、かつ米国のみならず世界のあらゆる技術が中国に流れ込んでいれば、長期的にはそうなるのは理の当然である。

 一つには、中国が『製造2025』などと、世界の最先端のITを駆使した製造システムを作り上げることを打ち上げたことが、警戒心を呼び起こすきっかけになっている。
 すでに、中国が官民一体になって国の金をじゃぶじゃぶつぎ込んで、先進国から技術を盗みだしているというのはもはや常識であった。さらには、中国の躍進の抑制要因になるであろうと考えられた人民からの反抗も、ITを使った監視システムで押さえ込むのに成功していると見られた。

 このような得体のしれない国に世界の覇権を握らせてはならない。米国のエスタブリッシュメントの意見は一致したのだ。だから、まだ基盤の弱い中国への金の流入を止めるとともに、技術の剽窃を許さないシステム作りにかかったという訳だ。

 最も大きなてこは、アメリカにとってみれば巨額の貿易赤字に対する関税引き上げた。締めて・緩めてを繰り返し、その中で中国に進出している企業へ脱出を促して、徐々に弱らせていく。一方で、大統領スペードについては再選を許さず、後を継いだ民主党のジミー・ジラソンはTPPに加盟して、中国抜きで米国に対する供給網を環太平洋地域において設立にかかった。

 この中で北朝鮮であるが、核付きの体制保証にこだわった。これは当然のことで、リビアを見ていれば如何に体制を保証されようと、自由化して外の風が入ってくれば、人民の権利を大きく制限した独裁政権がその命脈が保てる訳はないことは明らかである。

 つまり北の狙いは、核をもってにらみを効かせながら、ある程度の援助または商売で外貨を得ながら、自分と取り巻きのみが贅沢ができて、外に対しては扉を閉ざした状態でいたいということだ。しかし、外の世界からみれば、独裁者の覇権を脅かすことがあれば核を使いかねない危険な存在を放置はできない。

 無論、独裁者も核を使えば自分の命もないことは判っているが、自分の地位を失うくらいであれば、自分の国の国民がどれほど死のうが構わないし、まして他国の者が何百万死のうが構わない。だから、北の独裁者は本質的に危険であるのだ。

 アメリカは中国を動かした。代償は韓国からの国連軍=米軍の撤退と、韓国の引き渡しだ。韓国はすでに半ば以上中国にコミットしており、軍事情報は筒抜けで、その白大統領は明らかに北のシンパである。白は自分の政治信条に従って、日韓基本条約を破ること、数々の無礼な行動を行うことでまず日本との関係を破壊した。

 その結果、日本は韓国をホワイト国にしていた扱いを止めて、DRAM製造を始め、韓国の誇りであるIC製造業界に必須のいくつかの材料を安全保障上の理由で輸出規制を強化した。これらは確かに軍事用に転用できるものであり、きちんといた管理が必要であることは確かである。

 そこにおいて、韓国はホワイト国としての甘い扱いをいいことに、大規模な横流しを行いつつ、怪しんだ日本からの管理上の問い合わせに応じてこなかったので、その強化は客観的にやむを得ない。しかし、これは何ら実害がないうちから韓国で大騒ぎになったが、日本では冷ややかな目で見られ、その後の規制の強化に日本国民の同意を促す要因になった。

 結局、韓国は規制された材料について、日本の要求する過去の使用の記録を提出しようともせずにひたすら日本の措置の不当性を訴えたが、韓国に対して深く憤っていた日本は無視した。これは、日本の担当部局が韓国に急増しているそれらの材料の行方について問い合わせた時に、答えられなかった韓国の担当者が日本にも責任があると脅したのだ。日本の突然に見えた規制の強化の直接の原因はこのことである。

 その後、日本は韓国をホワイト国から外すのみならず、実質上ブラック国扱いして全ての輸出品・輸入品に厳重な審査・検査体制を引いた。審査の要員を増やしたわけではないので、当然のように許可が出るまでの時間は大幅に伸び、コストは嵩み、生鮮食料品は鮮度が落ちた。

 なかでも、当初規制した材料のいくつかを含めて、韓国のIC産業に必須の材料については韓国が過去の資料を提出できなかったので規制は長引いた。横流しの事実を認めて謝り、再度同じことをしないことを誓約するしかなかったのだが、反日世論に阿ざるを得ない政権にはそれができなかった。

 また日本側の措置には当然ながら、アメリカの後押しがあったのだ。すでに、アメリカは韓国から引くことは既定の路線であり、その場合韓国を現在のようなハイテク製品、部品の生産国として渡すわけにはいかないという決断があった。さらに、自国の企業に有利になるという見込みも無論ある。

 このため、日本は輸出申請において、過去3年の使用実績がない限り許可しないという原則は貫き通した。ここに、韓国の政権は、唯一の解決策である、過去の横流しを認めて謝ることはできなかった。そして、ひたすら日本の不当性を訴えて、国民の反日感情を掻き立てて結果として日本人の対韓感情を悪化させていった。

 このことに伴って、規制の当初で韓国側に実害がない時点から、日本旅行のキャンセルに日本製品の不買が起きていたが、実際にサムソン、SKハイニックス、LGディスプレー等の工場が停止するとともに、下請け会社の従業員の馘首が始まると暴動の様相を帯びてきた。

 これは、日本商品を置くこと自体で店を襲われる事態になり、買おうとする人を非難し暴力を振るう、さらに日本旅行に行こうものなら売国奴扱いされるなど、事の深刻さは増していった。この中でも、勇敢な日本人の韓国好きがソウル旅行時に、集団で襲われる事態が起き遂に外務省から旅行停止勧告が出るに至った。

 その状態では、日本の会社は続々と韓国の会社を畳み引き上げるようになり、その駐在員は早くから国内に引き上げさせている。また、日本の地方空港へ発着していた航空路は殆どが休止または廃止された。しかし、このことで最も大きな被害を受けたのは、結局韓国の航空会社、日本製品を仕入れて売っていた韓国の会社であり、さらに引き上げた日本の会社に雇用されていた韓国人社員であった。

 このような動きは民間からのものであったが、反日の韓国政府はそれらの動きを押さえるどころか、けしかける言動を繰り返すのみであった。その動きに、日本の企業も当然腰が引けてきており、韓国の商売そのものを諦める会社が大部分となった。

 食品や日用品であれば、特段の問題はないであろうが、工業製品の部品については日本からの輸入が止まることは韓国の工業界にとっては大問題になった。無論日本の部品等を売っていた会社も少なからず打撃ではあるが、致命傷になる会社は殆どなかった。

 また、そうしたキーパーツは殆どが軍事用にも使えるわけで、経産省の認可の網に引っかかることになる。従って、日本のこうした部品メーカーは、元々高圧的な韓国の商慣習を嫌っていることもあって、このように手間のかかる注文に応じなくなった。

 2019年の末には、韓国の多くの工場が停止を余儀なくされ、この年のGDPは5%を上回る減になるという予測になっていた。中国による北朝鮮侵攻が起きたのは、2019年の12月14日であった。
『あれは、驚いたなあ』稔は、そのことをニュースで聞いた時のことを思い出していた。
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