帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第14章 異世界との交流が始まった地球文明

14.4 反撃、ジムカク1

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 キミラウ・ジダラムは、ボリスの森の木陰の草の上に座って、手のばね銃を撫でながらその仕組みを確認している。友人のその様子を見ながら、マスマイル・カマズは傍の大きな樹木に背をもたれさせて複雑な思いであった。友人の持っている武器は、ボリスの森の隠し場所から教師が取り出して、上級生で身体強化の能力の高く希望するものに与えたものだ。

 ボリスの森には実のところ、サーダルタ帝国を相手にするための各種の武器が隠されている。それは、サーダルタ帝国に征服されたといっても、何かの理不尽で許せないことをされた場合に無抵抗であってはならないということで、数十年かけて営々と準備されてきたものだ。

 またそれらは、魔法を使える相手に敵対するということで、魔法で容易に発火されるようなもの、火薬を使ったものは含まない。だから、飛び道具は弓やばね銃(ばねを使って小さな矢を飛ばす銃)であり、そのほかには剣とか槍であり、街のいたるところに隠されている。

 ボリスの森にもその隠し場所があり、その隠し場所とその扉の開き方は、ある程度の責任ある立場の者が知っている。幸いにサーダルタ帝国は、そのような原始的な武器で絶望的な戦いを挑むほどの行動をしてこなかったために、今までそれらが使われることはなかった。

 レーダル副校長もその管理者の一人であり、彼も侵略者であるノメラのあまりに悪辣な行動を見ていて、生徒にも抵抗できる武器を与えるべきだと思ったのだ。彼の思いは、相手は刃物を持って使っているが、銃器も持っており、それは多分魔法で破壊できないよう何らかの仕掛けがあるのだろう。

 しかも、ノメラはあの体つきと流れるような行動から見て、相当に訓練され鍛えあげられているだろう。だから、見つけられたら殆どチャンスはないだろうが、追い詰められて恐怖に震えて殺されるよりは、立ち向かっての方がましだ。

 とは言え、ノメラは自分の国では多くの人々を従えているところから見ると、全員は殺すつもりはないはずで、見せしめに殺すことでその恐怖によってわれわれを従えることが目的であろう。しかし、少なからずの数の教師と生徒は、傷つけられるか殺されるだろう。

 副校長はそう思うとともに、少なくとも自分は助からないと確信した。だから彼は、怯えて死にたくはないということで、武器を取り出し教師の希望する者には配布した。しかし、それを見ていた生徒のあるものは自分の武装することを希望したのだ。

 だから、レーダル副校長は武器を持つ者はまず助からないという自分に考えを説明したが、それでも希望してかつ身体強化の能力の強いものについて希望する武器を渡したのだ。マスマイルは最上級生であり、魔力は最も高い方であるが、武器を受け取らなかった。

 それを見て、当たり前のように武器を受け取った友人のキミラウが驚いて言った。
「なんだ、マスマイル、お前は戦わないのか?」
「戦うよ。しかし、そんな武器では絶対に勝てない。相手は鍛え上げた戦士だし、銃も持っているからね。唯一のチャンスは助けを呼ぶことだ。さっき飛ぶものを見た。たぶんあの“しでん”だと思う。少し考えさせてくれ」
 マスマイルはそのように言って、木の幹を背に考え込んでいるのが今なのだ。

 やがて、マスマイルは声を張り上げて皆に呼びかける。
「皆聞いて!先生方も聞いて下さい」
 森の中に散らばっていた教師と生徒たちは、大きな声を出したことを咎めるように、マスマイルを見つめる。しかし、かれはそれを気に止めずに続ける。

「僕らの唯一のチャンスは、“しでん”の助けを呼ぶことです。君らも遠くを飛ぶのを見ただろうと思うが、呼ぶ方法を考えたい」
「私も見たが、極めて速いししかも遠い。それより声を落としなさい。見つかるぞ!」
 レーダル副校長が手を下に振る仕草をして言う。

「大丈夫です。僕は多少探査が使えるので、500mの範囲にはあの兵士たちはいません。私たちの仲間の人は何人もいるようですが」
 それに対して、一人の教師が言う。
「だけど、ここにいれば見つからない可能性も高いのでは。相手もそれほどの数はいないはずだから」

 その声に副校長が反駁する。
「いや、それはどうかな。マスマイル君が探査を使えるように、ノメラも探査ができる者がいる可能性が高い。それももっと広範囲にね……。たしかに、我々が人質になる前に戦闘機を呼べれば、ここに近づかないようにしてくれる可能性が高い」

 副校長は、一瞬考え込みマスマイルに尋ねる。
「マスマイル君、何か“しでん”を呼ぶ考えはあるかな?」

「はい、しかし、これは賭けです。僕のみならず何人かは近距離だったら念話が出来ますが、全力の『叫び』だったら相手次第ですが、相当に離れていても“しでん”のパイロットに届く可能性があります。また、僕がいろいろ調べた限りでは、しでんには魔力レーダーがついているといいます。だから、その叫びに方向も判って個々の駆け付けてくれるのではないかと思います。

 もう一つは、火を焚いて煙を出すことです。この場合も駆けつけてくれる可能性は高いので、近くに来たら念話で連絡ができます。あ、ほら、あそこにその“しでん”が飛んでいます。ただ、どちらもノメラにも知られてしまうということです。だから賭けになるのですが」
 普通の声に戻してマスマイルは答える。

「うーむ、確かに、賭けだな。近くにすぐ駆け付けられる敵がいれば、敵に見つけてくださいという愚かな行為になるな。しかし……」
 副校長が言いかけたとき、叫びがあがる。
「ああ!沢山の“しでん”が!」
「わあ、沢山!」

「ひょっとしたら、地上軍を乗せてきたかも」
 マスルイルは叫びレーダルに呼びかける。
「あれだけいれば、すぐ来てくれます。多分地上兵を乗せてきていると思う。『叫び』を上げます」

“しでん”のパイロット菊川栄三は明らかに若い男女とわかる“念話”の叫びに思わずびくりとなった。思わず魔力レーダーに目を落とすと、大都市の中の森のある方向だ。
「念話というより叫びだ。若者だな。助けを呼んでいる。あの方向の森だ、向かうぞ!」

 菊川は、クッションが敷かれた床に、入り乱れて座り込んでいる5人の兵員の内の陸戦隊の小林少尉に声をかけ、機内スクリーンをその森に焦点を合わせそちらに機首を向ける。
「O.K!わかった」
 小林は翻訳機を通じて4人の仲間のザラムム兵士、先日まで警察官だった者達に、スクリーンを指して翻訳機を通じて説明する。

「いいか、あの森に向かうぞ。たぶん助けを呼んでいる。降りる準備だ」
「うん、念話の連絡だ。200人以上いるらしい。学校の先生と生徒だ。まずい。ノメラが近づいているらしい。銃撃されるとこの機もやばいのであの空き地に降りたらすぐ離陸するので、すぐ下りてくれ。上空からの援護は任せろ!」

 早口に言う菊川の言葉を翻訳する前に、機は森の中の開けた草地に胴体から舞い降り、側面のハッチがスライドして開く。
「GO!」

 着地後、小林は20kgの荷物と銃をひっつかんで肩にかけ素早く立って、地上との50cmの高さを跳んで降りる。それに続き、4人のザラムム兵は、同じく荷物を持って小林に続き、口々に現地語で同じ意味の言葉を叫びハッチを飛び出す。

 パイロットの菊川は兵の姿が消えたのを確認して、ハッチを閉じ5Gで上昇する。上昇に応じてゴオ!という一瞬の暴風が起き、ほこり、落ち葉、さらにちぎれた草が大量に舞い上がる。念話ができ、魔力のあるものを感じることのできる彼には、近づいてくる魔力の強い5名の者達を感じていた。

 明らかに普通のザラムム人ではなく、違和感に満ちた魔力であり、どう考えても近づきたい存在ではない。100mほど上昇して加速を一旦切ると、まだ低い速度における上昇の中で、林の中を走ってくる兵士たちがスクリーンの中に見える。明らかにこちらに来る途中で見た映像のノメラ人の兵士だ。

「視認、敵であることを確認とね。では、狙いをつけてっと」
 彼は操縦AIに命じ、機体の姿勢を制御してレールガンの狙いを、先頭を走る兵の足元につける。
「撃て!」
 彼はつぶやき、AIに命じる。機が前後に振動した瞬間、その兵の足元で黄白色の爆発がおきる。径25mmの特殊鋼の弾が地中に潜り込んでその巨大な運動量を爆発的に熱に変えたのだ。

 ほぼ真下で起きた爆発によって、先頭の兵の下半身は一瞬で蒸発し、上半身はばらばらに飛び散った。続く2人の兵はその衝撃波と熱によって、吹き飛ばされてその衝撃に気を失った上に重度のやけどを負った。しかし、4人目と5人目は衝撃波で倒れはしたが、熱波は前にいた兵士に遮られて、気を失うこともなく、まだ十分戦闘可能であった。

 いきなり起きた爆発に、何が起きたか解らない2人の兵であったが、鍛えられた戦士らしく開けたところは不利と見て、すぐに傍の茂った茂みに飛び込んだ。そのことで、菊川は敵の行方を失ったが、その旨を小林に告げ、対人レーダーを持つ彼にあとを任せた。そして、自分は報告にあった機関砲の的にならないように高度を千mにあげて、不規則な運動を行い始めた。

 小林は、ザラムム人指揮官のサラム少尉に命じて対人レーダーを稼働させる。菊川から指示された方向に向けると、林の中に2人の映像が浮かぶが、樹木の幹が邪魔物として数多くある。小林も、他の者の魔力を感じ取れる程度の魔力はあるので、敵の2人の魔力が相当に強いのを感じる。

『これは、火薬式の銃は使えないな。この電磁銃が頼りだ』
 そう思い、指揮下のザラムム人たちに声をかける。
「敵の距離は400mくらいだな。かなり敵の魔力は強そうだから、その銃は使えないな。とりあえずボウガンを準備して、銃も使えるようにはしておいてくれ。相手が魔法を使う余裕がない時は使えるから。とりあえずこの電磁銃で狙撃する」

「「はい、コバヤシ少尉」」
 返事をする彼らに頷いて、レーダーのスクリーンの後ろに立って電磁銃を構える。見通せないので、命中確率は出ないが、そのレーダーの方向と魔力の探知位置を頼りに撃つつもりだ。特殊鋼の弾である1号弾であると秒速5mで径5mmの弾丸は樹木の幹の2本くらいは軽々と打ち抜いて、さらに敵を打ち抜く程度のことは可能である。

 しかし、その弱点は連射ができず1秒に1発しか撃てない点であるので、突っ込んこられると危ない。また抵抗の少ない部位に当たると、その速度から、単純に打ち抜いてしまって小さい衝撃しか与えられないだろう。相手がノメラであると、骨に当たらないとその弾に打ち抜かれても平気で戦うかも知れない。

 だから、2号弾と呼ばれる弾は対人・対獣用として使われるもので、材質が鉛合金の一種であり人体程度でも当たると破壊されて飛び散る。小林の持つ電磁銃には両方が装填されており任意に選んで撃てる。
 ノメラのマコラ・ムラニタは、多くの人の魔力が集まる方向に木々を縫って慎重に歩いていた。しかし、先ほどの爆発には驚いた。おかげで3人がやられてしまった。一人は死んではいないものの、いずれにせよ倒れて立てないようで話にはならん。

 あの砲を撃った地球から来たという航空機は、高空に舞い上がっているので、隠れている限り問題ないだろう。こうなったら、あちらにいる大勢の連中は皆殺しにしてやらないと気が済まない。しかし、兵士が下りたようだから、まず彼らの銃の無力化が必要だ。

 自分の火魔法は見えていないと効かないので、何とか彼らが見えるところまで近づく使づくがある。
「うお!」
 彼女は思わず声を出した。彼女の左側の太い樹木を突き抜けて何かが彼女のそばを走り抜けて行き、それは、また別の木の幹を通り抜けて行ってしまった。

 なんと、彼らの銃はこの太い樹木を打ち抜ける弾を発射できるのか。しかしそれは終わりではなかった。ブン、という振動音を立ててその弾(?)は脈拍程度の時間間隔でどんどん通りすぎていく。
「ぐわあ!」
 異様な声に振り向くと、後ろに続いていた同僚のザジラムが、胸から血を跳び散らして苦悶の表情で立っていたがすぐに倒れた。そこに駆け寄ろうとしたが、腕に何やら差し込まれた痛みを感じて、腕を見ると制服の腕の部分の前後に穴が明いている。

 これは、弾が腕を抜けていったのだ。腕の痛みは激しいが動かすことはできる。しかし、その間にも弾は規則正しく飛んでくる。思い切って体を地面に投げ出して匍匐前進を行う。腕の痛みは激しいが、ノメラの誇りにかけてあいつらに一矢を報いるまでは負けんぞ。

 小林は、ノメラの一人が死んだのを感じた。運よくろっ骨に当たり、それが心臓を傷つけたのだろうと思う。しかしもう一人はじりじりと近づいてくる。もう200mもないが、まだ姿が見えないか?見えた!地面を這うその姿が木陰に見えた。小林はすぐさま発射する弾を2号弾に切り替えて、視野を得たことから確率98%で撃った。

 それは、丁度振り上げた顔の真ん中に命中し、破壊された頭骨と弾の運動量で脳を破壊して、マコラ・ムラニタは何も感じることなく即死した。かくして、ボリスの森に集まった生徒と教師に加え五月雨式に集まった市民は、送り込まれた兵士とその上空を哨戒する“しでん”に守られて、ノメラの侵攻を無事に過ごした。
 しかし、文明人である彼らにとって、森の中の3昼夜はなかなかつらいものがあり、体調を崩すものが続出した。

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