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第13章 サーダルタ帝国との和解
13.8 新地球の開発3
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山切道彦は取水場の現場に来ている。ここは緑川の30㎞遡ったところであり、幅が800mある川岸から200mの位置に取水棟がある。緑川は中央市の中心部から10㎞足らずであるが、河口部は当然海水である塩水の遡上があるので取水は出来ない。
取水棟の位置は、川底の勾配を慎重に調べた結果、流量が減っても塩水の遡上はあり得ない位置に定めたものだ。ちなみに、緑川の水質は当然人為的な汚染は一切ないが、上流の森林から流れてきていることもあって、積み重なった葉などの分解によりフミン質が溶け込んでやや茶色がかかっている。
そのために、両岸の緑の灌木の色を映して緑の水に見えることから、『緑川』という名が決まったのだ。桐島建設が請け負っている中央市の一次計画人口規模は50万人である。一次計画の市域本体は大体5㎞×5㎞の範囲で25k㎡である。
だから、上下水道担当の切山の仕事の範囲は、必要な水量を取水しそれを浄化して、その浄化した水を市域に必要な水量を各消費者に配水するのがまず上水道施設である。その後使って後に消費者から排出される汚水を下水処理場に導いて浄化し排水する施設を建設するのが下水道施設である。
具体的な施設は取水場、取水場から浄水場までの導水管、浄水場、配水池までの送水管、配水池、配水池から消費者への配水管、消費者から下水処理場までに下水管と必要に応じてポンプ場、下水処理場とそこから川または海への放流管の建設である。
50万人の人口に対して、最大一人一日300㍑として15万m3/日の取水量が計画量であるが、目の前にある取水場はその4倍の量を取水するためのポンプを設置できる大きさである。つまり、取水場の構造物は200万人に対応できる大きさであり、ポンプは順次増設していくのだ。
浄水場は、建設中の市街地から1㎞ほど内陸側の小高い丘の上に建設されるので、取水場から浄水場まで29kmは径2.2mの取水管が敷設される。この取水管は30万m3/日、つまり100万人に対応できる径とされており、設計流速は2m/秒である。
電気料金が10円/kW以上と高かったころ、管を細くして管内を流れる流速を大きくすると、その管直径の2乗に比例してポンプの電力量が増すので、流速は1m/秒程度に抑えるのが普通であった。しかし、AE励起発電は汎用化されたことにより電気量は3円/kW程度と劇的に下がったために、高めの流速にすることが普通になったのだ。
山切は川岸から連絡橋を車で走って、川の中で建てられている取水棟の上に乗り込む。この工事に使っている車は、地球でも出回り始めた重力エンジン車であり、5人乗りで後部に荷台がついたものである。これは地上1m以内を浮いて走るので、粗くブルドーザで均した程度の工事用道路でも問題なく走行できる。
取水塔は川の流線方向に長い小判型の塔であり、高さは周辺の洪水跡から余裕を取って決められている。大きさは概ね幅5m長さが20mであり半分は上屋で覆われている。取水棟は厚さ0.8mのコンクリートの壁に囲まれた中空の筒であり、今回は5台のポンプが設置されることになっている。
取水棟の工事は従来であれば、水深5mの川に鋼矢板で仕切って中を空にして基礎などの工事を行うが、今回は上流側に流れを和らげるための矢板を台船上から打ち込んで設置するのみで水中施工となった。掘削は水中作業の出来るロボットによって行う。
そこに、数千トンの一体化した基礎ブロックを反重力いかだによって吊り下ろして、その周辺は速乾コンクリートで埋めて固定した。それから上のコンクリートブロックは高さ5mずつの3段、反重力いかだで吊り下ろして接手で固定するもので、従来であれば2年はかかる仕事が4カ月で終了している。
各ブロックは、中央市の建設地の北にある広大な工事ヤードで作られたものだ。現在、すでに現地で採取された材料による巨大なコンクリートプラントが建設されており、日量1000m3のプラントが3基フル稼働に入っている。セメントは最初の1年は地球から運んだが、すでにセメント会社が現地工場を中央市から30㎞の石灰岩地帯に稼働させており、中央市のみならず新地球の他の9カ所の建設現場に供給している。
なお、鉄骨・鉄筋は今のところ地球から運んでいるが、あと3ヶ月で中央市から20㎞の鉄鉱山の周辺に年産3千万トンの工場が稼働を始めることになっている。そのほかに、樹脂や潤滑剤を作るために石油コンビナート、重力エンジン・乗用車や大型貨物機他の様々な工場も建設に入っている。
これらは、基本的に地球政府から借り上げた土地に民間企業が自らの資本で建設を行っているもので、これに合わせて多くの企業が新地球事務所建設の準備に入っている。これら民間の工場建設については、山切の勤める桐島建設が中央市で建設を行っている強みで大部分を受注しており、中央市北の工事ヤードはそのすべての中央基地になっている。
さて、重力エンジン車から降りた山切は、水処理技術者のミモザ・シャメールと肩を並べてシャッターが開いている上屋に入る。ミモザは、下請けに入っているフランスの水処理会社ベリオールの機械エンジニアであり金髪の白人女性である。背は175cmの彼に比べて20cm低く、白人としては小柄であるが、色白でふっくらした体に似合った穏やかな顔の美人である。
今日は、1ヵ月後に迫った水道の全体試運転に備えて、取水場のポンプの取り付け状況の確認にきたのだ。山切は上下水道建設班の3人いる現場主任に当り、取水場から浄水場までを担当していて、ベリオールはエンジニアリングメーカーとして、その機械・電気部分の製造と取り付けに当たっている。
この国際時代にあって、山切も無論海外に行ったことはあり、フランスにも行った。それは高校の時の空手の高校生相手の国際大会であったが、その時のエキビジョンで試技を見せたのだ。その時点では、日本人が身体強化を使えるという点は知れ渡っており、しかも白人は使えないということで、すでに日本人は国際大会から締め出されていた。
その後、陸上・水泳など単純にタイムや距離等を争う協議には出場できるようになったが、団体協議は日本から出場の辞退を申し出ている。なにしろ、体力は同等としても知力増強の結果、判断が的確かつ早くなり、さらには視野まで広がるとなると、殆どケースで勝ってしまうのだ。
一方で、処方を受けて身体強化ができるものは、大体トレーニング・ジャンキーになることもあって、当然競い合いたい気持ちは強くなるのだ。だから、日本においては、いたるところでしょっちゅう競技会が開かれ、人々がその能力を競い合った。
あらゆる競技の中学・高校・大学・社会人の大会がそれこそ毎週のように開かれている。だから、その頂点は日本選手権であり、山切がやっていた空手においても、身体強化ありの選手権はあった。ちなみに、それらの選手権は世界で殆ど日本人のみが可能な身体強化をかけてのものであるため、当然において世界最高峰のものである。
そのため、これらの選手権には世界から超人たちが競う競技を見ようと人々が押し寄せた。だから、日本政府は、これらの競技を時期的に出来るだけ重ならないようにして、これらの観衆が来日しやすいものにしたのだ。山切が競技には参加できないフランスになぜ行ったかというと、フランスの空手連盟が彼らの高校選手権に合わせて、日本人の超人的な技も見せようということで、日本の高校生を2人招待したのだ。
見世物扱いにされる可能性もあったが、選手権のベスト4の3位であった山切は、1位と4位が断ったので、折角フランスに行けるのだったらと受けたのだ。現地では2位の選手とガチの戦いをして、半分程度の観衆からは引かれ、半分からは熱狂された。
その時に殆ど野郎が集まってくる中に、女の子で彼に近づいて握手を求めたのは強く印象に残った。その子がミモザだったのだ。彼女が、新地球のこの現場に居るのは半分偶然であるが、半分は彼女の意図である。彼女が衛生工学を専攻して、水処理会社に入社したのは単に自分の好みで選んだのだが、見ていたテレビ番組で新地球の開発の特集にはっきり覚えていた山切が出てきたのだ。
それで、会社での新地球の中央市のプロジェクトに手を挙げて1年前にやって来たものだ。しかし、山切が上下水道担当というのはうまく出来すぎているなと思う彼女であったが、それはそれで問題があった。彼女が殆ど10年ぶりに見た彼は、より好ましく変貌していた。引き締まった容貌と体に機敏な動作に加え、業務上では的確な現状把握と合理的な判断と彼女の好みにぴったりだった。
山切も彼女には最初に会った女子高生のころの、ふわっとした優しい美人がそのまま成長した感じであり、これまた好みであった。ちなみに、彼女自身は空手については兄がやっていたので少しかじった程度であり、競技者ではないが見るのは大好きだった。だから、エキビジョンという山切の試技には大いに魅せられたのだ。
不都合な点は、大学で衛生工学講座にいたため、今の上下水道の担当にさせられた山切が実質的に下請けになっているベリオール社の監督の立場であることだ。つまり、彼女に迫ることは、その立場を利用したと言われてもしょうがない状況なのだ。それで、彼としては交際を申し込むのは、引き渡しが終わってからということを自分で決めている。
山切は、努めて冷静になって、タブレットの設計図を見ながら、機器とその取り付け状況を疑問点の質問をしながら確認していく。それと同時に、彼は自社が自ら建設した取水棟とその上屋の構造物、建築物としての確認を行った。
満足した山切とミモザは、今度は共に浄水場に向かう。長さ200mの連絡橋は幅4mの鋼橋であり、50m毎に橋脚に支えられている。下流側には径2200㎜の導水管が添架されているが、この種の水道管は現在では特殊防錆処理された鋼管が使われている。この防錆処理は、鉄の分子構造を電磁的に処理するもので、その防錆機能はステンレススチールに勝るとされ、100年間は何の問題も生じないとされる。
ちなみに、緑川には今のところ護岸を建設する予定はない。中央市は標高20m~100mのなだらかな丘陵地であり海に向かって緩やかに下がっており、緑川の流れる標高から見ると少なくとも20m以上高く、その洪水が起きたとしても影響される地形にはない。
ただ、将来において、現在都市計画の出来ている200万都市を越えて街が広がった場合には護岸の建設も必要になるであろう。中央市においては、このように当面護岸の必要はないが、現在開発が進んでいる都市の中には川岸に建設され、その高さ関係から護岸の建設が必要なものもある。
山切の走る工事用道路は荒っぽく均しているだけで、舗装もしていないが砂っぽい土で水はけは良い。沿線は灌木の茂る草原であり、所々に枝を広げた巨木が目立つ。中央市の都市計画では、こうした巨木は極力切ることなく都市の景観の一部として保護しているが、周辺に散在する巨木は登録されて、簡単には切れないようになっている。
取水場から浄水場までは、途中を小高い尾根を越えるがそれほど起伏はなく、殆どの位置から広大な青く光る南東湾が見える。向かいには未来大陸があるが、1500㎞の彼方であるので当然何も見えず、1㎞沖の中央市の正面の青海島が見えるのみである。
この長辺が3㎞の島までは護岸が伸びており、大陸の岸辺と島の間が漁業基地になることになっている。中央市は海辺の都市であるが、現状のところ貨物船を着けるような港を建設する予定はない。これは当然のことで、地球においてさえ、すでに船による貨物輸送は重力エンジン機による輸送に代わっている状況で、新地球においても基本的に貨物輸送は重力エンジン機によることになる。
従って、中央市では海よりの平坦な地形に、1㎞×1㎞の広大な第一期貨物ターミナルが建設されている。なお、かってはこうした貨物ターミナルに付き物であったクレーンが今はなく、AIによってコントロールされる反重力いかだのための多段収納庫がそれに代わっている。
地球においても、都市間の移動には従来のジェット旅客機に代わって、重力エンジン旅客機が使われている。初期のものは、ジェット旅客機の翼を外したものを使っていたが、オリジナルの重力エンジン旅客機は鋼製で厚い小判のような形になって、大幅にコストダウンされている。
これは、軍用機が鋼鉄製になって大幅にコストを下げたのと同じことである。さらに、従来都市近郊に飛行場が作れなかった原因である騒音がなくなったこともあり、旅客機の発着場が都市内にも普通に造られるようになった。従って利便性を大いに高めた旅客機の利用は更に広がったのだ。
新地球でも惑星内移動には同じものを使うが、滑走が必要ないので、離着陸には1ha程度あれば十分である。従って、旅客ターミナルは貨物ターミナルとは別に1次造成地に接続して建設されている。
取水棟の位置は、川底の勾配を慎重に調べた結果、流量が減っても塩水の遡上はあり得ない位置に定めたものだ。ちなみに、緑川の水質は当然人為的な汚染は一切ないが、上流の森林から流れてきていることもあって、積み重なった葉などの分解によりフミン質が溶け込んでやや茶色がかかっている。
そのために、両岸の緑の灌木の色を映して緑の水に見えることから、『緑川』という名が決まったのだ。桐島建設が請け負っている中央市の一次計画人口規模は50万人である。一次計画の市域本体は大体5㎞×5㎞の範囲で25k㎡である。
だから、上下水道担当の切山の仕事の範囲は、必要な水量を取水しそれを浄化して、その浄化した水を市域に必要な水量を各消費者に配水するのがまず上水道施設である。その後使って後に消費者から排出される汚水を下水処理場に導いて浄化し排水する施設を建設するのが下水道施設である。
具体的な施設は取水場、取水場から浄水場までの導水管、浄水場、配水池までの送水管、配水池、配水池から消費者への配水管、消費者から下水処理場までに下水管と必要に応じてポンプ場、下水処理場とそこから川または海への放流管の建設である。
50万人の人口に対して、最大一人一日300㍑として15万m3/日の取水量が計画量であるが、目の前にある取水場はその4倍の量を取水するためのポンプを設置できる大きさである。つまり、取水場の構造物は200万人に対応できる大きさであり、ポンプは順次増設していくのだ。
浄水場は、建設中の市街地から1㎞ほど内陸側の小高い丘の上に建設されるので、取水場から浄水場まで29kmは径2.2mの取水管が敷設される。この取水管は30万m3/日、つまり100万人に対応できる径とされており、設計流速は2m/秒である。
電気料金が10円/kW以上と高かったころ、管を細くして管内を流れる流速を大きくすると、その管直径の2乗に比例してポンプの電力量が増すので、流速は1m/秒程度に抑えるのが普通であった。しかし、AE励起発電は汎用化されたことにより電気量は3円/kW程度と劇的に下がったために、高めの流速にすることが普通になったのだ。
山切は川岸から連絡橋を車で走って、川の中で建てられている取水棟の上に乗り込む。この工事に使っている車は、地球でも出回り始めた重力エンジン車であり、5人乗りで後部に荷台がついたものである。これは地上1m以内を浮いて走るので、粗くブルドーザで均した程度の工事用道路でも問題なく走行できる。
取水塔は川の流線方向に長い小判型の塔であり、高さは周辺の洪水跡から余裕を取って決められている。大きさは概ね幅5m長さが20mであり半分は上屋で覆われている。取水棟は厚さ0.8mのコンクリートの壁に囲まれた中空の筒であり、今回は5台のポンプが設置されることになっている。
取水棟の工事は従来であれば、水深5mの川に鋼矢板で仕切って中を空にして基礎などの工事を行うが、今回は上流側に流れを和らげるための矢板を台船上から打ち込んで設置するのみで水中施工となった。掘削は水中作業の出来るロボットによって行う。
そこに、数千トンの一体化した基礎ブロックを反重力いかだによって吊り下ろして、その周辺は速乾コンクリートで埋めて固定した。それから上のコンクリートブロックは高さ5mずつの3段、反重力いかだで吊り下ろして接手で固定するもので、従来であれば2年はかかる仕事が4カ月で終了している。
各ブロックは、中央市の建設地の北にある広大な工事ヤードで作られたものだ。現在、すでに現地で採取された材料による巨大なコンクリートプラントが建設されており、日量1000m3のプラントが3基フル稼働に入っている。セメントは最初の1年は地球から運んだが、すでにセメント会社が現地工場を中央市から30㎞の石灰岩地帯に稼働させており、中央市のみならず新地球の他の9カ所の建設現場に供給している。
なお、鉄骨・鉄筋は今のところ地球から運んでいるが、あと3ヶ月で中央市から20㎞の鉄鉱山の周辺に年産3千万トンの工場が稼働を始めることになっている。そのほかに、樹脂や潤滑剤を作るために石油コンビナート、重力エンジン・乗用車や大型貨物機他の様々な工場も建設に入っている。
これらは、基本的に地球政府から借り上げた土地に民間企業が自らの資本で建設を行っているもので、これに合わせて多くの企業が新地球事務所建設の準備に入っている。これら民間の工場建設については、山切の勤める桐島建設が中央市で建設を行っている強みで大部分を受注しており、中央市北の工事ヤードはそのすべての中央基地になっている。
さて、重力エンジン車から降りた山切は、水処理技術者のミモザ・シャメールと肩を並べてシャッターが開いている上屋に入る。ミモザは、下請けに入っているフランスの水処理会社ベリオールの機械エンジニアであり金髪の白人女性である。背は175cmの彼に比べて20cm低く、白人としては小柄であるが、色白でふっくらした体に似合った穏やかな顔の美人である。
今日は、1ヵ月後に迫った水道の全体試運転に備えて、取水場のポンプの取り付け状況の確認にきたのだ。山切は上下水道建設班の3人いる現場主任に当り、取水場から浄水場までを担当していて、ベリオールはエンジニアリングメーカーとして、その機械・電気部分の製造と取り付けに当たっている。
この国際時代にあって、山切も無論海外に行ったことはあり、フランスにも行った。それは高校の時の空手の高校生相手の国際大会であったが、その時のエキビジョンで試技を見せたのだ。その時点では、日本人が身体強化を使えるという点は知れ渡っており、しかも白人は使えないということで、すでに日本人は国際大会から締め出されていた。
その後、陸上・水泳など単純にタイムや距離等を争う協議には出場できるようになったが、団体協議は日本から出場の辞退を申し出ている。なにしろ、体力は同等としても知力増強の結果、判断が的確かつ早くなり、さらには視野まで広がるとなると、殆どケースで勝ってしまうのだ。
一方で、処方を受けて身体強化ができるものは、大体トレーニング・ジャンキーになることもあって、当然競い合いたい気持ちは強くなるのだ。だから、日本においては、いたるところでしょっちゅう競技会が開かれ、人々がその能力を競い合った。
あらゆる競技の中学・高校・大学・社会人の大会がそれこそ毎週のように開かれている。だから、その頂点は日本選手権であり、山切がやっていた空手においても、身体強化ありの選手権はあった。ちなみに、それらの選手権は世界で殆ど日本人のみが可能な身体強化をかけてのものであるため、当然において世界最高峰のものである。
そのため、これらの選手権には世界から超人たちが競う競技を見ようと人々が押し寄せた。だから、日本政府は、これらの競技を時期的に出来るだけ重ならないようにして、これらの観衆が来日しやすいものにしたのだ。山切が競技には参加できないフランスになぜ行ったかというと、フランスの空手連盟が彼らの高校選手権に合わせて、日本人の超人的な技も見せようということで、日本の高校生を2人招待したのだ。
見世物扱いにされる可能性もあったが、選手権のベスト4の3位であった山切は、1位と4位が断ったので、折角フランスに行けるのだったらと受けたのだ。現地では2位の選手とガチの戦いをして、半分程度の観衆からは引かれ、半分からは熱狂された。
その時に殆ど野郎が集まってくる中に、女の子で彼に近づいて握手を求めたのは強く印象に残った。その子がミモザだったのだ。彼女が、新地球のこの現場に居るのは半分偶然であるが、半分は彼女の意図である。彼女が衛生工学を専攻して、水処理会社に入社したのは単に自分の好みで選んだのだが、見ていたテレビ番組で新地球の開発の特集にはっきり覚えていた山切が出てきたのだ。
それで、会社での新地球の中央市のプロジェクトに手を挙げて1年前にやって来たものだ。しかし、山切が上下水道担当というのはうまく出来すぎているなと思う彼女であったが、それはそれで問題があった。彼女が殆ど10年ぶりに見た彼は、より好ましく変貌していた。引き締まった容貌と体に機敏な動作に加え、業務上では的確な現状把握と合理的な判断と彼女の好みにぴったりだった。
山切も彼女には最初に会った女子高生のころの、ふわっとした優しい美人がそのまま成長した感じであり、これまた好みであった。ちなみに、彼女自身は空手については兄がやっていたので少しかじった程度であり、競技者ではないが見るのは大好きだった。だから、エキビジョンという山切の試技には大いに魅せられたのだ。
不都合な点は、大学で衛生工学講座にいたため、今の上下水道の担当にさせられた山切が実質的に下請けになっているベリオール社の監督の立場であることだ。つまり、彼女に迫ることは、その立場を利用したと言われてもしょうがない状況なのだ。それで、彼としては交際を申し込むのは、引き渡しが終わってからということを自分で決めている。
山切は、努めて冷静になって、タブレットの設計図を見ながら、機器とその取り付け状況を疑問点の質問をしながら確認していく。それと同時に、彼は自社が自ら建設した取水棟とその上屋の構造物、建築物としての確認を行った。
満足した山切とミモザは、今度は共に浄水場に向かう。長さ200mの連絡橋は幅4mの鋼橋であり、50m毎に橋脚に支えられている。下流側には径2200㎜の導水管が添架されているが、この種の水道管は現在では特殊防錆処理された鋼管が使われている。この防錆処理は、鉄の分子構造を電磁的に処理するもので、その防錆機能はステンレススチールに勝るとされ、100年間は何の問題も生じないとされる。
ちなみに、緑川には今のところ護岸を建設する予定はない。中央市は標高20m~100mのなだらかな丘陵地であり海に向かって緩やかに下がっており、緑川の流れる標高から見ると少なくとも20m以上高く、その洪水が起きたとしても影響される地形にはない。
ただ、将来において、現在都市計画の出来ている200万都市を越えて街が広がった場合には護岸の建設も必要になるであろう。中央市においては、このように当面護岸の必要はないが、現在開発が進んでいる都市の中には川岸に建設され、その高さ関係から護岸の建設が必要なものもある。
山切の走る工事用道路は荒っぽく均しているだけで、舗装もしていないが砂っぽい土で水はけは良い。沿線は灌木の茂る草原であり、所々に枝を広げた巨木が目立つ。中央市の都市計画では、こうした巨木は極力切ることなく都市の景観の一部として保護しているが、周辺に散在する巨木は登録されて、簡単には切れないようになっている。
取水場から浄水場までは、途中を小高い尾根を越えるがそれほど起伏はなく、殆どの位置から広大な青く光る南東湾が見える。向かいには未来大陸があるが、1500㎞の彼方であるので当然何も見えず、1㎞沖の中央市の正面の青海島が見えるのみである。
この長辺が3㎞の島までは護岸が伸びており、大陸の岸辺と島の間が漁業基地になることになっている。中央市は海辺の都市であるが、現状のところ貨物船を着けるような港を建設する予定はない。これは当然のことで、地球においてさえ、すでに船による貨物輸送は重力エンジン機による輸送に代わっている状況で、新地球においても基本的に貨物輸送は重力エンジン機によることになる。
従って、中央市では海よりの平坦な地形に、1㎞×1㎞の広大な第一期貨物ターミナルが建設されている。なお、かってはこうした貨物ターミナルに付き物であったクレーンが今はなく、AIによってコントロールされる反重力いかだのための多段収納庫がそれに代わっている。
地球においても、都市間の移動には従来のジェット旅客機に代わって、重力エンジン旅客機が使われている。初期のものは、ジェット旅客機の翼を外したものを使っていたが、オリジナルの重力エンジン旅客機は鋼製で厚い小判のような形になって、大幅にコストダウンされている。
これは、軍用機が鋼鉄製になって大幅にコストを下げたのと同じことである。さらに、従来都市近郊に飛行場が作れなかった原因である騒音がなくなったこともあり、旅客機の発着場が都市内にも普通に造られるようになった。従って利便性を大いに高めた旅客機の利用は更に広がったのだ。
新地球でも惑星内移動には同じものを使うが、滑走が必要ないので、離着陸には1ha程度あれば十分である。従って、旅客ターミナルは貨物ターミナルとは別に1次造成地に接続して建設されている。
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勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。
克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。
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