帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第12章 異世界へ潜入

12.11 異世界マダンの解放3

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 サーダルタ帝国のガリヤーク機の地上基地マリナクは、現地アリージル帝国の首都アリージの近郊にある。首都アリージは人口400万人に達するマダン最大の大都市であり、アリージル帝国のマダン総督府は、その中心部にある旧アリージル帝国の政庁を接収して入っている。

 基地マリナクの司令官、サイルンタは階級で言えば大佐であるが、ガリヤーク母艦の艦長よりその立場は低い。彼は、総督閣下キルマールンからの緊迫した通話に困惑している。

「いいか、サイルンタ大佐。今言ったように、全てのガリヤーク母艦とは連絡が取れなくなっている。まだ混乱しているが、母艦を防衛しようとしていたガリヤーク機からの連絡では、母艦に突然破孔が明き直後に大きな爆発を観測して、破孔から爆圧が逃げるのが観測されている。だからこれらの母艦は全滅したと考えられる。
 この際に高空からの火の矢を観測しており、またレーダーで超光速の物体の降下も観測しているので、どうやら高空にいるチキュウの連中が例の超高速弾を撃ち込んだものと考えられる。

 レーダー基地の観測では、連中の高度は100㎞以上のようだから、彼らはそのような超高空からその超高速弾を正確に撃ちこむ技術があるようだ。ガリヤーク機の連絡を分析する限り生き残っている母艦はない模様だ。
 また、多くのガリヤーク機がその攻撃を受けた際に母艦の艦内におり、それに巻き込まれた。一応こちらの監視センターで集計した限りでは、残ったガリヤーク機の数は、君の基地の機数を含めて7500機程度のようだ。

 そこで問題は、この監視センターでは、ガリヤーク機と連絡は取れるが管制する能力はなく各々の機への補給能力もない。君も知っての通り、ガリヤーク機は基本的には母艦がコントロールしかつ、必要な補給と乗員の宿舎を与えている。
 それが、失われたわけであり、折角の7500機もの戦力が機能しない状態だ。君の基地の運用能力は200機のガリヤーク機であることは承知している。しかし、こちらにはガリヤーク機の運用に関して命令を下せる将校も居ないし、なにより補給が全くできない。
 能力が低くてもその能力を備えているのは唯一君の基地であり、指揮を執れるのも君しかいない状態だ。幸い通信能力は君のマリナク基地は。こちらの監視センターと同等でこの惑星全体をカバーできるし、電磁レーダー及び魔力レーダーの監視網の出力はそちらでもできる。

 母艦が攻撃を受けたのは、まず間違いなくチキュウ軍の攻撃の前触れだというのが、総督府軍の一致した意見だ。今のところ、成層圏にいるチキュウ軍は我が方のガリヤーク機の量に敵しえないと考えられる。
 ただ、それも敵に戦力の補給がないとしての話だ。何としても、大量の敵の侵入を防ぐ必要がある。そのための防衛体制を構築するために君に全権を与える。ただちに出来るだけの体制を整えてくれ」

 サイルンタ大佐はすでに老年にかかろうとする将校で、ガリヤーク機のパイロット上がりであるが、家柄と魔力の少なさから母艦艦長にもなれず、このマダンという重要性が低い世界の地上基地の司令についてすでに5年(地球時間)になる。

 キルマールン総督の要求は極めて無茶な話で、200機の能力しかない基地に7500機の面倒を見ろということで、不可能を要求されていることになる。しかし、総督府が置かれている現状を考えると、マダンからサーダルタ帝国が地球と同様にたたき出されないためには、それしか手がないことも明らかである。

 大佐は総督府軍司令官でもある総督に応えた。
「総督閣下、御命令は承知しました。直ちに御命令の体制構築にかかります。そして、この世界に侵入してくるチキュウの艦を全力で排除します。
 ただ、私が気になっているのは、彼らが母艦に乗せた戦闘機のみならず、直接戦闘機を異世界の門を通してくるのではないかということです。なぜなら、彼らが現れた際の記録を分析すると、彼らは母艦と同時に戦闘機に直接門をくぐらせています。

 母艦については、地球での戦闘及びその前の記録を見ると、チキュウは多くは持っていないようですし、そのサイズから1艦当たりの収容能力は低いようですから、母艦のみで持ち込む戦闘機は大きな脅威ではないと思います。
 ただ、戦闘機が直接門をくぐってくるとなると話が変わってきます。短時間でわが方の戦闘機に匹敵する機数を持ち込む可能性があります。はっきり言って、同等の機数ではわがガリヤーク機は敵の戦闘機には勝てないでしょう」

 大佐の言葉に総督はしばし沈黙したが、やがて答える。
「うむ、君の懸念は私も考えていた。確かに、我々のガリヤーク機は敵の2倍以上の数の優位がないと勝てないだろう。残念ながら速度、鋭敏性、さらに武器の射程で劣っている。だから、彼らの戦闘機をこの世界に同等の数を持ち込まれたらまず勝てない。
 それこそ、この惑星の住民を盾にして抵抗するしかないが、そうした恥ずかしいことは我が誇りあるサーダルタ帝国の採るべき道ではない。
 しかし、彼等の戦闘機が門を直接くぐれるとしても、彼らの速度・鋭敏性を生かせない脆弱なポイントは門をくぐるところだ。従って、君は出来るだけ早く門の出現をキャッチしてそこに我がガリヤーク機を集結するのだ」

 大佐は、最初の言葉と今の言葉を聞いて、流石に総督は頭脳鋭く誇りある人物であると安心した。この総督の指揮の下であれば、自分は全力を尽くせると思いながら答えた。

「総督閣下、了解しました。では、直ちにガリヤーク機による防衛は私が指揮を執る旨を、各母艦戦闘隊の指揮官に伝えてください」
「よろしい、総督及び総督府軍司令官の権限をもってそのように伝えよう」

 白髪交じりのサイルンタ大佐は、遅い昇進とそのさえない外見に似合わず鋭い頭脳と、実際的な行動力を持っていた。だから、彼は中央監視センターが受けていた各母艦防衛のガリヤーク機からの連絡は当然傍受していた。
 その結論として、彼の基地が残ったガリヤーク機の母港としての機能を果たす必要があるということは判っていた。他にそのような施設がない以上それは必然である。

 ガリヤーク機の補給物資の最大のものは、マナのタンクであるが、これは通常10日に1回程度の交換頻度である。また、戦闘になりそうな時期には満タンにするのが原則になっているので、それほど緊急を要するものはいないはずだ。また、ガリヤーク機のパイロットの基本的な住居は母艦であり、それぞれに専用のベッドが割り当てられている。

 しかし、地上に着地すれば機内でも十分寝起きするスペースはあり、トイレもついているが、水を使っての洗顔やシャワーのようなものは外でしかできない。また、食事や水も3日分程度は用意されて、機内で加温・冷蔵は可能であるが、材料が切れる都度補給は必要である。

 だから、原則として3日ごとにガリヤーク機は、地上に降ろして補給を行う必要があるということになる。サイルンタ大佐は通信将校に命じて傍受の際に記録していた、各母艦の艦載機隊の隊長に連絡を取って直ちにマリナク基地に向かうように伝えさせた。

 幸いに、マリナク基地はアリージル帝国が建設した一大航空基地であり、垂直離着陸可能な7500機程度のガリヤーク機の着陸に十分な広さはあった。さらに、その時代に作られた数多くの宿舎が残っており、多くは倉庫として活用されているため、最低限のメンテナンス行われてきた。

 大佐は、基地のマナタンク、機関砲弾、空中爆弾及びガリヤーク機に積む補給物資の在庫のチェック、さらに地上のシャワー設備、パイロットの休憩設備などのチェックはすでに命じてリスト化していた。その結果に基づいて、大佐は総督との話の後に、基地の22名しかいない全将校と下士官、及びパイロット220名を呼び集めて、それぞれに役割りを決めて、直ちに行動させた。

 パイロットについては、本来の役割りではないが基地の様子が判っているので、彼らの知識を生かさない手はなかったのだ。彼が命じたのは以下のようなことであった。

・あらゆる手を使って、食料パックや水・飲み物、果物のような補給物資を集めて、基地に運び込む。
・基地に800あったマナタンクの充填を急がせ、惑星中のマナタンクを探し集める
・幸い首都近郊の補給基地にある程度あった機関砲弾と空中爆弾の基地への移送
・広大な基地に着陸したガリヤーク機に補給物資を運ぶための小型トラック・レッカー車の徴発
・倉庫を整備して建物内にシャワーの設置、さらに休憩室の整備

 そして、大佐はさらに続々と到着したガリヤーク機については、できるだけ密集しないようにかつ周辺の市街地に近い位置に着陸するように命じている。
 これは、当然この基地の様子は高空から監視されていることは当然考えており、この場合母艦がやられたような的を作るわけにいかないのだ。さらに、マリナク基地は首都に近い航空基地だけのことはあって、広大な基地の周辺は市街地に囲まれている。

 大佐は、母艦の攻撃時に周辺に市街地のある場合に、住民を疎開させたのをガリヤーク機の観察から掴んでいたのだ。着陸したガリヤーク機には必要な補給物資を補給するとともに、1千機については常時空中で待機するようにローテーションを組んでいる。これは、基地の防衛というより、敵の出現をキャッチしたらすぐに向かえるようにという配置である。

 無論、基地では各地の電磁レーダーと魔力レーダーの出力は油断なく見張っている。しかし、それは突然だった。ズゴン!ズゴン!という轟音が鳴り響き、広大なマリナク基地の全面に渡って赤熱の火柱が立ち始めた。その高さは20mに達し、直径10mほどになる火と土煙が見渡すと100ヶ所くらいある。

 これは、母艦である“ありあけ”、“むつ”が、マリナク基地の上空100kmに占位して下方に向けられる10基の25mmのレールガンを連射しているのだ。150mmのガンは威力が大きすぎて、市街地に囲まれているこの基地の場合は使えないが、おおむね150mmの通常弾に相当する秒速7㎞の弾速の25mmレールガンであれば、ほとんどの建物を破壊できるし、無論ガリヤーク機にも有効だ。

 “しでん”等の戦闘機で撃たせることも検討されたが、市街地を避けて正確に撃てるとなると、戦闘機・攻撃機では無理ということになったのだ。さらに、地上の一点に占位するということは、常時重力エンジンの駆動が必要なので、100万kwの発電能力を持ってほとんど無限の動力をもつ母艦が適当である。

 この攻撃は、市街地に被害を及ぼさないようにということで、基地の境界線から40m以上基地の内側に打ち込んでいるので、相当数のガリヤーク機がその範囲外に駐機されていたため、ガリヤーク機への被害は多くはなかった。
 しかし、基地内の主要な建物はそのように境界線に近い位置になかったために、アッという間に廃墟になった。

 この母艦の動きは、基地のレーダーに掴まれており、4隻の母艦が基地上空に集まった時点で、司令官サイルンタ大佐の命令で避難を命令していたために、建物にいた人々への人的被害はなかった。
 このように、ガリヤーク機の大部分は生き残ったが、それらに対する管制能力は失われたわけである。

 地球側のマダンへの侵攻が始まったのは、この攻撃の始まった10分後である。ギャラクシ―型母艦オリオン、アンタレスがその位置に急行して異世界転移装置を稼働させ門を開き、地球側からは同じくベガ、デネブが門を開く。
機体と門の15mほどの隙間を、4機ずつの“しでん”4千機、スターダスト1千機が秒速100mで次々に抜けていく。5千機が門を抜けるために4つの列を組むのに10分間、抜けるのには僅か3分間であった。

 出口のマダン側には、偵察隊の“しでん”とスターダスト戦闘機各100機が高度10㎞から監視していた。しかし、マリナク基地の小口径レールガンの攻撃に気を取られていたガリヤーク機は、次々に現れる地球側の戦闘機の迎撃に現れることはなかった。
 しかし、この侵攻は魔力レーダー及び電磁レーダーにはっきり捉えられていたが、肝心の迎撃機にその情報を伝える術が失われていた。
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