帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第12章 異世界へ潜入

12.8 マダン政府との接触

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 ハヤトとその直卒隊の救出すべきパイロットはあと4人である。ハヤトに面識があって7番の番号を付けられた瀬川少尉の他に8、11、14番がすでにサーダルタ側に捕らえられている。瀬川少尉は、どうやら現地の者と共に行動しているようだと考えられている。

 ハヤトは、現地人と一緒に行動している瀬川ついて、本人の感情を捉えてみても当面危険はないと考えた。だから、捕らえられている3人の状態を慎重に探った。その結果、日本人の西谷少尉が独房の中に閉じ込められている状態、イギリス人のマッカトニー中尉が車に乗せられて移送されている状態であり、アメリカ人のキース大尉が尋問というか、拷問を受けている状態である。

 もちろんキース大尉の状態が、最も緊急を要することは間違いないが、彼の状態はサーダルタの官憲が大勢いる大きなビル内の1室で、その尋問官がねちねち体を痛めつけながら心を読もうというところだ。結局、精神を折って容易に読心の魔法で情報を搾り取ろうという訳だ。しかも、尋問されているその部屋は狭く、とても大人数はジャンプしては行けない。

 いずれにせよ、この状態を知った以上はキース大尉が一番だ。幸い部屋にいる3人の尋問官はもっている銃器としては拳銃程度だ。ハヤトは、この場合は接近戦になるので剣を使う彼が適任だろうとして、今回も連れていく隊員はヤフワ・ジェジャートにした。

「ヤフワ、行くぞ!」」 
 ハヤトは、指示通り剣に手を掛けている彼を見て声をかけ、「おお!」返すのを聞いてその尋問室のテーブルの上に出現した。

 出現したそこには、茶髪の白人が椅子に手錠で固定され、上半身裸のあちこちに取り付けられた多数の電極様のものに繋がる電線とそれに繋がるボックスが目に付く。そのボックスのダイヤルらしき円形の突起に手を掛けているサーダルタ人が、呆けた目で突然目の前に現れた2人を見ている。

 まさに、電流を流して拷問をしているところだ。ヤフワは驚いて目を見開く男の尋問官の正面で机の上で膝をつき、その勢いで長大な日本刀を抜刀して、その男の首とその横の女の首をまとめて切り裂く。一方のハヤトは、空間移動のジャンプを行った直後はとっさには魔法は使えないので、腰にさした刃渡り75cmの日本刀で、正面で目を見開いている男の頭を唐竹割りにする。

 椅子に縛られた、金髪青い目のキース大尉は、いきなり2つの首が血と共に飛び、続いてかつんという音と共に顔が2つ割にされる惨劇にもぼんやりと目を半ば開くだけだった。しかし、流石に彼も少しは意識がはっきりしたようで、頭を振って何かしゃべろうとした。しかし、ハヤトが口に1本指をあて黙るようにとの仕草を理解して黙る。

 どうやら、騒がしい建物の中で、外では尋問室の惨劇は判らなかったようだ。ハヤトは膝をついた姿勢のまま、その間にも血の滴る刀を拭き鞘に収めながら“ありあけ”の艦内に照準を合わせ、やがてキースに向かって言う。
「帰るぞ!」
 その声にキースが目を輝かせるのを見て、ヤフワにも目をやって頷き、次の瞬間にはいつもの医療前室だ。キースは手錠で繋がれた椅子毎ジャンプをしている。

 ハヤトは次には独房の西谷少尉が現状では誰にも監視されていないのを確認して、その部屋にヤフワを連れてジャンプし、何事もなく連れて帰る。車で移動中のマッカトニーはいささか面倒だった。走行中の狭い車内にジャンプは無理であり、どう考えても止まるのを待つしかないと、ハヤトはくつろぎながら待つ。

 やがて、トイレ休憩だろう、運転手一人護衛2人と共にマッカトニーが乗ったその車は小さなビルの前に止まる。護衛2人は小銃に拳銃、運転手は拳銃を持っている。現地では深夜のその時間、ビルには人影はない。ハヤトは、影山中尉と石田1曹にもう一人の隊員に、銃をすぐに撃てるように準備を命令してジャンプする。

 そこでは、マッカトニーがトイレに入って護衛の一人がそのドアの前、もう一人が車のそば、運転手が運転席の状態であった。ハヤトとヤフワは彼らの背後にジャンプする。ビル付属の街灯で辺りを照らして比較的明るい中で出現の一瞬後、3人の日本人兵士は、それぞれ目配せで相手を特定して電磁銃を撃つ。

 ズバ!という独特な3つの音が殆ど同時に聞こえ、普通のライフルの3倍の弾速のその弾は、大部分の運動量を持ったまま的になった体を突き抜ける。しかし、それでも大きな運動量を体に与えることになり、3つの体はばったり倒れる。

「マッカトニー中尉、助けに来た。帰るぞ!」
 ハヤトが英語で声をかけると、バタンとドアが開いて、茶色の髪の中背の士官の顔が覗く。ハヤトの姿を確認した彼は破顔して駆け出して、駆け寄り握手を求める。
「いやあ、来てもらえるとは信じていたんだけどね。捕まって護送されていたので心配だった」
 
笑顔を見せ握手に応じて手を握りながら、「良かったよ。では帰るぞ!」そう言って銃を持った3人を見渡して声をかける。皆が周りに集まったのを確認して、ハヤトが“ありあけ”の艦内に意識を定めてジャンプ!また、いつもの医療前室だ。

「ふう。いささか疲れた。少し休もう」
 そう言って肩を落とすハヤトに、声をかける士官がいる。偵察隊参謀長のジョン・ブレイン少将で、横に法務・渉外担当のナザレ・イスマール中佐が付き添っている。

「疲れているところを申しわけないが、少しいいかな」
「ええ、最後の瀬川少尉は今のところ危険性はないようですから。私も少し休んでいきます。それで、話は?」
 ハヤトがそう言うと、ブレインは「カフェテリアで」と言って先導する。

「多分、2~3時間後にまた最後のミッションだ。それまで休んでくれ」
 ハヤトは部屋にいる直卒隊に声をかけて、カフェテリアに向かう2人についていく。カファテリアの座り心地の良い椅子に落ち着いた3人は、コーヒーを頼みブレインがそれをすすりながら口を開く。

「ハヤト君、パイロットの救出ミッションは本当にありがとう。君がいなければ救出を諦めなけらばならないところだった。とりわけキース大尉が拷問をされていただけに、放っておけば皆同じように扱われただろう」
「いや、いや。私がそれをできる能力を持っている以上は、実行するのは当然のことですよ。ところで、先の会議で話題になっていた戦闘機の収容の話はどうなりましたか?」

「ああ、あれはこの“ありあけ”と“むつ”については収容を開始している。あの2隻は、あらかじめそういうことを想定した設備と一応のマニュアルもできていたからね。残りの2隻も設備そのものはあるから、“ありあけ”から手続きのマニュアルを送っているので、収納の訓練をしているところだ。多分あと2~3時間もすれば収容を開始できるだろう」

 ブレインはそう答え、再度口を開く。
「それで、このマダン現地のことだが、いま瀬川少尉が現地人と一緒に行動しているらしいね。それを幸いに現地と何とか接触を取りたいのだ。サーダルタ人については君が捕虜を取ってくれたので、君の手が空けば彼の尋問はできるだろう。
 このマダンを経由するサーダルタ帝国の侵攻を防ぐには、何と言っても彼らの政府に接触して、彼らに自衛してもらいたいのだ。その意味では、瀬川少尉の現地の人との接触は意義深いものがある。その相手が有力者などという可能性はないだろうがね。それでも、何とか現地政府への伝手を探せないかと思っているのだ」

「そうでしょうね。私もそれを考えていたので、瀬川君の救出は却って急がない方がいいのではと思っています。数時間前には車に乗っていたのですが、今は部屋の中で数人と話をしているようですね。だから、コミュニケーションは取れているようです。パイロットは、サーダルタ語の自動翻訳翻訳音声ソフトを持っていますから、サーダルタ語でのやり取りでしょうね」

 ハヤトはそのように言うが、彼も瀬川がガリヤーク機などに追われたいた時点では自分が忙しく、瀬川の様子を追っていない。今度はイスマール中佐が話をする。

「実は、こちらが一旦膠着状況になったので、アンタレスを地球に戻らせて、地球同盟本部との連絡を取ったのです。それで、今の我が隊の置かれている現状を説明したのですが、同盟本部の臨時総裁をはじめとする幹部から、この偵察隊の現状の方針は暫定的に承認されました。
 その方針は、ハヤト君がいない時の会議で話し合われたのですが、サーダルタ帝国のガリヤーク母艦を破壊することで、彼らの異世界を渡る能力を奪おうとすることです。しかし、条件がありまして、地元の住民及びその財産にできるだけ被害のないようにということです。

 また、地球側でもガリヤーク機が大量に配備されている世界を、限られた数のしでん等の戦闘機で制空権を取るのは難しいということは認識されております。そこで、こちらの地上に基地を設けられれば、母艦で異世界への門を開いた状態でその脇を戦闘機にすり抜けさせるという方法で、大量にそれを持ってくることができます。
 いずれにせよ、このマダンの地元の政府なり、何らかの指導的立場の組織と接触したいのです。また、そのように交渉する件は、地元民への被害を最大限避けるという条件で、本部の了解をとっています。

 それで、話を伺うと一応瀬川少尉の置かれている状態に危険はないようですから、私も一緒に転移させて頂きたいのです。瀬川君が会っている相手がどのような立場の人か判りませんが、少なくとも影響力のある人に紹介を頼むことはできるでしょう」

 ハヤトはイスマール中佐の言葉に頷く。
「いいでしょう。たぶん大きな危険はないと思いますので、ヤフワと中佐を連れて行きます。ところで、中佐のサーダルタ語は?」

「ええ、いずれ必要になると思って、促成学習で身に着けています。私に翻訳機は要りません」
 イスマールはそう言うが、特に語学について促成学習で直接脳に流し込むという方法で、ものの1週間足らずで一つの言語体系を見に着けることができる。

 しかし、この方法は魔力を使ったものでサーダルタ帝国の技術であり、通常は魔力の強いものにしか使えない。しかし、魔力の比較的弱いものでも魔力増幅器を使うことで使用が可能である。イスマールはその点で濃い肌色と名前からアラブ系のようなので、白人より有利で問題なく使えたのだろう。

「なるほど、それは頼もしい。私とヤフワは翻訳機をもっていきます。ところで、偵察隊の今後の行動予定の大枠を聞いておきたい。よろしいですか?」

 ハヤトの言葉に、ブレイン参謀長が答える。
 それは、基本はガリヤーク母艦を無力化することを優先して、続いて1万機以上あるガリヤーク機は上空からレールガンの精密射撃で破壊していく。ガリヤーク機を半分程度に減らした段階で、“ありあけ”型とギャラクシー型母艦によってゲートを形成して、地球から侵入させる概ね5千機の“しでん”とスターダスト戦闘機で一気に残ったガリヤーク機を殲滅する。

 そういう、力づくの作戦であるが、5千機の戦闘機を再度地球の基地に戻すことは難しいので、これらの戦闘機のための地上基地がどうしても必要である。この作戦を実行しようとすると、地元の被害を最小化するため、さらに基地の確保のために、地元の政府との接触が必要である。

 地球でサーダルタ人の尋問から得た情報によると、このマダンのサーダルタ人の配備は最小限のとどめているために、マダン人の政府もある程度の機能は備えているということである。それが実際はどの程度かは接触して見ないとわからない。

 語らいながらテーブルを囲んで、朝食後にお茶のような飲み物を飲んでいるミスラム・イマリルーナル夫妻、ミーナリア、それに瀬川と執事の5人は突然風圧を感じてその源に目をやり、3人の男が現れたのそれぞれ違った反応を示した。

 イマリルーナル夫妻とミーナリアは驚き目を丸くしたが、執事はさっと椅子から立ち上がり、最も物騒に見える黒い巨人に向けて構えて懐に手をやる。瀬川はそれを横目に見て破顔し、「ハヤトさん。来ていただけましたか。ありがとうございます」大きな声でそのように言って立ち上がる。

 さらに瀬川は殺気を放っている執事にも言い聞かせるように、イマリルーナル夫妻とミーナリアに声をかける。
「この人たちは、僕と同じ地球同盟の人たちです。僕を救助に来てくれたのです」
「いやあ、私の名前はハヤトです。私は瀬川君、彼を救出に来ました」

 ニッコリ笑って手を広げ敵意のないことを示すハヤトに、ミスラム・イマリルーナルがニッコリ笑いを返して、立ち上がりハヤトに歩み寄る。
 彼は、大陸第2の都市を含むこの地方の知事であり、アルージル帝国の50人の国会議員の一人である。また、彼はミーナリアの叔母であり王女であった、妻レジューラの配偶者でもあって、この国に3家しかない公爵家の当主でもある。
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