帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人

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第11章 サーダルタ帝国の侵攻余波

11.8 サーダルタ帝国強行偵察隊結成

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 サーダルタ帝国の強行偵察隊は、ありあけ型母艦“ありあけ”と“むつ”及びギャラクシー型母艦オリオン及びアンタルスの4艦から構成されている。“ありあけ”が旗艦であり、アメリカ軍出身のチャールス・ジラス大将が司令官として座乗している。

 これは、現状のところ日本で建造された“ありあけ”型がギャラクシーに比べ、とりわけ旗艦機能が充実しているとの判断による。“ありあけ”とギャラクシーの基本設計は、両国の合同チームによってなされたものであり、そのため艦のサイズ速度、兵器のスペック・配置等は同じものである。

 しかし、詳細設計においては、各々の国に持ち帰って行われたために、情報交換はしていても、細かいところで異なっている。さらには、建造時に日本の場合には現場における様々な工夫がなされた結果(魔改造)は、とりわけ情報通信機能において大きな差ができてしまっている。

 これら4隻の母艦は、それぞれ、“しでん”またはスターダスト戦闘機を80機、“らいでん”またはコメット(“らいでん”と同スペックの攻撃機)を4機積んでいる。または乗員は戦闘機等の操縦士を含めて550名となっているが、これは同程度の戦闘機等を搭載している原子力空母に比べて、乗員の数が大幅に少ない。

 この理由は、搭載している戦闘機、攻撃機が重力エンジンであるため、ジェットエンジンに比べてメンテナンス作業が極めて容易なこと、さらに武器体系もミサイルを使っていないことによる点が大きい。他にもロボットによる作業の無人化、AIによる射撃・爆撃コントロール他の随所での運用も人員削減に大きく貢献している。

 武装としては、すで対サーダルタ帝国では通用しないことが明らかになった火薬・炸薬を使った武器を利用しないものになっている。そのため、レールガンが口径150mmを8基及び口径25mmを48基の他に、低出力電磁射出機による1kt爆弾を100発持っている。

 この爆弾は、原理的にAEバッテリーを不安定にしたもので、原子力を利用しているため一種の核爆弾であるが、放射能は出ず、また意図的に威力を弱めている。これらの母艦は、100万kW出力のAE励起発電システムを持っており、AEバッテリーの充電も無論可能であるので、レールガンの弾や爆弾が尽きない限りエネルギーの面では1年程度の連続的な航行は十分可能である。

 また、無論艦載機のAEバッテリーの供給が可能であるので、艦載機のエネリギーも問題ない。しかし、550人の乗員の生命維持及び食料・水の問題があるが、航行していく世界には呼吸可能な空気や水は十分補給できると見込まれており、宇宙空間を航行する場合よりは有利である。

 ちなみに、総司令官については、空母群を実質運用しているのはアメリカ海軍のみということで、アメリカ軍の将官がその席につくことは必然だった。その意味で、太平洋における空母群の司令官を務めた経験のある、ジラス大将が遠征軍の司令官に任命されたのだ。

 艦隊の副司令官は葛西良治中将が勤めており、“むつ”に座乗している。これは、正副司令官を同じ艦に乗せることがないので当然だが、葛西はバトル・オブ・ブリテン時の日本からの助っ人群の司令官であり、ジラス司令官に万が一のことがあっても十分に代わりが務まる人材である。

 ちなみに、4艦の母艦のしでん等のパイロットは、母艦から指揮する将校、予備員を含めて各艦約100名、さらに陸戦隊50名が乗っているが、パイロットは各国の乗員に経験を積ませる意味合いから、日本、アメリカ以外からも100名が選ばれている。陸戦隊、乗員も同様に約1/4が日本、アメリカ以外から選ばれている。

 加えて旗艦に、ハヤト及びその直卒部隊、さらにサーダルタ帝国の元艦長ミールク・ダ・マダンも乗ることになっている。これは、異世界への壁を越えるときの操艦等については、ガリヤーク母艦の艦長であった彼女の経験が必要との判断であった。しかし、そのため彼女をコントロールできる唯一の人物であるハヤトが一緒に乗ることが必要になる。

 彼女も地球圏においては異邦人であるが、異世界の壁を越えた後は自分のテリトリーである訳で、一般的言えば、とても彼女の言葉を信用することはできない。その点で、ハヤトであれば、魔力において彼女にはっきり勝っており、必要とあれば自分の意思を強制できる。

 艦長職にあるサーダルタ帝国人は、他にも捕虜になっているが一切の協力を拒絶しており、とても彼らの言葉を頼りに異世界に入ってはいけない。この点ではミールクは、葛藤はありながらも、サーダルタ帝国の帝国主義的なドクトリンが誤りという考えがあって協力しているわけで、極めて独特と言えよう。
 
 ハヤト直卒部隊は、ハヤトが空間転移で100㎞の距離を余裕を持って運べる6名で構成されている。これは彼としても、全く情報のないところに転移して活動した場合、気が付かず攻撃を受けてしまう可能性がある。そこで、マナを貯蔵して空間収納に持っていくことで、空間転移を使えるようになった今、味方を連れていこうというものだ。

 これについては、彼の安全を願っている各国政府及び防衛機構の上層部からは積極的な賛成があって、最上の人材を出すことになった。そこで、大部分の国民が魔法を使えるサーダルタ帝国のテリトリーに入るということで、魔法を使えるもの主としてを選んだが、この場合は日本人以外であり得ない。

 しかし、ハヤトは魔法は使えないが、強化した場合の身体能力が部分的に自分を上回る、モザンビーク出身のヤフワ・ジェジャートを直卒隊に加えた。彼とはモザンビークの首都マプトで、あの夜闘って以来友人になったその地では英雄と謳われた男で、身長205cm体重は120kgの巨漢である。

 ジェジャートはその体格でも1万mを28分台で走ることが出来る。さらに、パワーではベンチプ レスでは300kgを挙げ、これはハヤトも敵わない。彼はしばしば日本に来て、ハヤトの家に泊まって同等な肉体能力を持つ者として、共にじゃれあったが、とりわけ剣道に興味を示して延べ一年足らずの滞在で4段を取得している。

 彼の持ち味は、そのパワーと敏捷性であり、地元では蛮刀を振るっての闘いでは敵はいなかったようだ。実際に、地元で狂暴なテロ組織の基地に殴り込んで、16人を切り殺したというが、実際は5人で刀が折れたので、残りは奪った棍棒で殴り殺したらしい。

 剣道界にあっても、彼ほどのパワーと敏捷性双方を兼ね備えた者はいないために、蛮刀での経験と相まって、3段レベルでは相手にならなかったようだ。流石に相手が5段以上になると、そのパワーもいなされて敵わなかったが、相手をした高段者もそのパワーをいなすのはなかなかに恐いものであったらしい。

 そうなると、日本刀が欲しくなるが、ハヤトと共に訪れた高名な刀匠の工房に彼の習作が飾ってあった。それは刃渡り120cmもあり、幅広で厚身の同田貫であるが、当然通常ではそんなものを振りまわせるわけもない。しかし、その刀匠宗田昭三は最近では身体強化をしてそれを振り回しているが、それは弟子にも内緒である。

 しかし、弟子の吉田は、師匠のこの振る舞いにとっくに気が付いており、厳しい師匠にも子供っぽいところがあるとほほえましい思いであった。ハヤトは宗田に自分のラーナラから持ち帰った刀、微塵を見てもらっており、時折手入れをしてもらっている。無論研ぎ師は別に頼んでいるが。

 ヤフワが、美しいいくつかの刀に目もくれず、武骨なそれをじっと見ているのをハヤトは目に止めて、「宗田さん、これに触らせて頂いていいですか?」そう聞く。
 刀匠はその同田貫とヤフワと見比べて応じる。

「ふむ、ジェジャート君と言ったか、確かに君だったら、これを使えるかもしれんな。どれ、振るってごらん」
 そう言って、白木の柄で抜身のそれを、よいしょと抱えてヤフワに渡す。

「ありがとうございます」
 達者な日本語で、ヤフワはそれを嬉しそうに受け取り、多分5㎏を越えるそれを軽々と構える。それから上段から斜めに切り下ろしてぴたりと留め、さらに反対から斜めに切り下ろす。流石に刃鳴りまでは聞こえないが、その長身もあって実に自然に振るっている。それを鋭い目で見ていた宗田が言った。

「わかった。ジェジャート君にその“鬼切り”を売ろう。これに似合う人物はいないと思ったが、君だったら鬼切りも本望だろう」
 かくして、ヤフワは自分の愛刀を手にいれ、それを異世界の強行偵察に持っていくのだ。ちなみに、その鬼切りは柄を仕上げて鞘を付けて500万円であったが、ハヤトからのヤフワへのプレンゼントである。

 残り5人は、日本陸上自衛隊の陸上レンジャーから5名、影山2尉(中尉)、仁科3尉(少尉)、石田1曹、木村1曹、松井2曹であり、全員が身体強化はもちろん風、火及び光の魔法を使え、仁科は探知魔法が使える。しかし、地球レベルのマナの濃度ではその威力は知れているものの、マナが濃い室内環境または異世界に行けば、彼らの魔法はそれなりの威力を発揮する。

 その意味ではハヤトは、空間魔法が使えることで常時マナ容器を携行できるため、常時大威力の魔法を使える。
ちなみに、彼らの携行兵器は、サーダルタ帝国では使い物にならないことがはっきりしている火薬を使った武器は使わないようにして、台湾軍も持っている電磁銃である。

 これらは、台湾軍のものより少し軽くできているが3㎏もあり、やや取り回しが悪いが、短刀を装着することで銃剣として使うこともでき、身体強化状態では使用に問題はない。また、石田、木村は剣道の段持ちなのでハヤト、ヤフワに倣って日本刀を背負っている。

 ちなみに、対サーダルタ防衛同盟は、サーダルタ帝国のテリトリーに侵入して偵察しようという現在、その総会において日本案であった、『地球同盟:EARTH UNION』に改称された。事実上、国連に代替する組織になることを宣言したに等しい。

 その席に出席していた国連のオブザーバーは、国連への非難及びその代替の組織の必要性の議論を非難すると共に、地球同盟への改称に最大限の非難をしたが、あっさり無視された。また総会では、地球同盟を真の地球の国々を代表するものとするための、事務手続きを進行させるための事務局を置くことが決議された。

 また、総会の場は、対サーダルタ防衛同盟の本部が置かれているワシントンの郊外である。その事務局には、参加各国・組織の代表は加わるが、当面はアメリカ・日本のスタッフが主体になっている。
 日本の場合は、敗戦であった第2次世界大戦の戦後処理として作られた国連という場では、どうあってもそれなりの立場を持つことはできなかった。一方で、初めての地球規模の危機であった、サーダルタ帝国の侵攻を日本主導で跳ね返したことは、日本人にとって大きな自信になった。

 しかも、現況ではGDP総額でこそアメリカに劣るが、一人当たりGDPについては、数値が高い国々(貿易・国際金融で稼いでいる国が多かった)が軒並みその値を落とした結果、日本が一番である。また、いち早く処方による知力増強を達成した結果、その技術レベルは間違いなくアメリカをも上回って世界一でいる。

 さらには、安全保障については言うまでもないが、日本の弱みと言われたエネルギーではAE励起発電のお陰でまったく問題なく、鉱物資源についても、ハヤトの資源探査のお陰で、世界の各所で資源が発見されたことから、今後少なくとも50年間は全く問題ないと専門家が太鼓判を押している。

 また、別の弱みであった食料はすでにアフリカ東海岸の日本自治区での食料生産が軌道に乗っており、この自治区の算出する食料を加えれば、日本のカロリー・ベースの自給率は100%に近づいている。
 さらに、日本自治区の食料生産の現場は全アフリカの見本になりつつあって、自治区からの技術援助、日本からの官民のファンドによる援助によって、全アフリカで食料生産が上向いて、アフリカからすでに飢えは根絶された状態になっている。

 このような背景のもとで、日本人全体の自信が高まり、個人的なパワーが増したことでかっての消極性は影を潜めており、このことからとりわけ若者は世界中に散っている。このように国民性そのものが変わりつつある日本人にとって、遅れた国連の姿は、憂慮というより嘲笑の的であった。

 だから、『地球同盟』の結成は日本人に大いに受けた。日本がサーダルタ帝国に対抗するために大軍備拡張をすることへは、必要性を認めつつもそれなりに疑問を呈する者も多かった。しかし、その施策が結果的に世界を救った形になって、特に欧州からの大いなる感謝で、その疑問などは忘れ去られてしまい、国連~地球同盟への転換は大部分の日本人が大賛成であった。

 したがって、地球同盟の事務局へ参加する日本人スタッフは短時間ではあったが、徹底した調査と検討のもとに選定された。無論この人件費は、参加国・組織の手弁当である。ちなみに、この総会で、強行偵察隊をサーダルタ帝国の版図に送り込むことが決議された。 

 さらに、以下のように極めて重要な事項が、総会で同時に決議された。
 1) 現状では地球連盟は、サーダルタ帝国に対して戦争状態にある
 2) 地球連盟は武力を持ってサーダルタ帝国の領土を侵略することはなく、その住民を隷属状態に置くことはない
 3) 現在サーダルタ帝国の支配下にある世界は、その原住の住民の代表が望むなら帝国の支配下から解き放つ
 4) 地球連盟は現在のサーダルタ帝国及び、その支配下の世界と戦争終結後において対等の立場で交易することを
   望む
 これらの条項については、それぞれの言葉について厳密な定義がついている。

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