65 / 179
第8章 海外へ広がる『処方』
8.1 世界の魔法処方事情
しおりを挟む
2030年7月における魔法の処方の現状について説明しておこう。
人々の持つ魔力については、日本人が突出してその値が大きく、黒人を含んで有色人種は比較的大きいが処方ができるほどではなく、白人は非常に小さいことが解っている。例外は台湾の人々であり、日本人を除いて突出して高く、処方ができる者も日本人が10%足らずに対して、その1/5程度の人数がいる。
処方の効果は、魔力の多寡によって大きく左右されるものであるが、魔力の高い日本人が、身体能力強化はほぼ全員が大幅に高くなり、知力増強が平均1.45倍に達する。それに対して、有色人種の身体能力強化は1.2倍程度と限定的であり、知力増強でも1.2倍程度、白人への身体能力強化は殆ど効力がなく、知力増強は1.1倍程度で大きく劣る。
台湾人は、身体能力強化は日本人の半分程度の効果であり、知力増強は日本人にやや劣る程度である。しかし、より重要と考えられている知力増強については、アメリカの日系人の学者が、日本で研究した成果を生かして、魔力を増幅する効果のあるインプレッサーを開発した。
それを、有色人の比較的魔力の大きい者が用いることで処方が可能になり、その効果は、知力増強については日本人と変わらない結果を得ることができる。この技術は、当然日本でも開発されていて、アメリカと日本の交渉の結果、白人国についてはアメリカが、それ以外の国でアジア・アフリカについては、基本的に日本が処方の普及に責任を持つことになった。
普及に責任を持つというのは一面では負担ではあるが、基本的に有料となる処方を、どういう風にどの順番に行うかは、大きな政治的な利権になる。
こうした経緯から、日本では処方が可能な年齢のものの処方はすでに終わっている。また、処方ができるレベルの魔力の人々を、最初に日本に送り込んで、計画的に国民に処方を進めていった台湾は、すでにこの処方の対象者については、90%以上の処方が済んでいる。
一方で、日本人以外の人々への処方は、1ヶ月ほど前に、アメリカが新技術を用いた魔力増幅処方を開始する前は、実質的に日本における有料のものが唯一の方法であった。しかし、この処方を済ませた者は、管理している厚労省の外国人処方課の記録によると、1800万人であるが、魔力増幅処方ではないため、知力増強の効果が限定的であった。
従って、日本において、インプレッサ―が開発されて、臨床試験も済んで増幅処方が実用化されたときには、過去に処方を受けた人に対しては無料で再処方する旨が通知された。しかし、アメリカの責任において増幅処方を受ける場合は、半金を返す措置を取っている。
ここまでの処方は、35歳から40歳以上の一定の年齢を越えるものは実施できなかった。しかし、3年ほど前に、年をとると処方ができなくなる原因が発見された。この結果、ハヤトや妹のさつきなどの念動力や探査などの魔法が使える、ごく少数の魔法使いは処方ができることになった。
さらには、2年前に、新技術開発プロジェクトによって、重力エンジンの力場を使用した機械的な補助によって、普通の処方士によって処方ができる方法、『補助付き処方』が開発された。新技術開発プロジェクトは、アメリカも共同研究を行っているので、この技術は、アメリカにはすでに渡っている。
この結果、日本では一定の年齢以上の人は、現役で働いている人を優先して、処方を急いでいる所である。ちなみに政治家など、ある一定の条件を満たしたものは、ハヤトやさつきなどの少数の魔法使いによって、すでに処方を受けている。処方による効果は、すでに広く知られている。
とりわけ心身ともに老化が進んでいる中高年にとっては、身体能力強化ができるようになることで、肉体作業において疲れにくくなり、さらに身体の様々な故障を自ら改善することができるようになる。加えて、知力増強によって、知的作業の場合の日常業務に疲れにくくなり、気力も増すために、身体条件の改善も自分の意思で計画的に実施できる。
このため、ほとんどの中高年の人が若返って健康になることが確かめられている。このように、個人にとっては大きなメリットがあるために、誰もが処方を望んでいる。しかし、現役で働いていない年金生活者をどうするかは目下議論の最中である。これは、処方によって元気になることで、年金生活者が長生きすることになると、一定の寿命を前提としている年金の仕組みが破綻することが確実であるためである。
日本人については、このような状況であるが、日本人のみが、処方の効果を享受することについては、すでに世界の国々からの風当たりが暴風レベルに強くなってきている。さらに、ハヤトが実施しつつある資源探査についても、すでに日本のみならず、KT国(朝鮮共和国)と台湾がすでに終わって結果が公表されている。
続いて、アメリカとカナダで実施している途中であるが、途中経過ながら、極めて莫大な発見が続いていることがすでに明らかになっている。このことから、例によって国連において、日本が魔法の処方と資源探査というその成果を独占しているとして非難され、日本からするととんでもない内容の決議案が上程された。
「我々は、日本が魔法能力の人材を不当に独占して、魔法処方の効果を実質的に自国で独占し、さらに資源探査については自国及び自国の恣意的に決めた国へのみ利益をもたらしている。我々はこのことを強く非難する。我々は日本政府に対し、魔法の処方について、可能な人員を含めて国連の管理下に置き、資源探査ができるニノミヤ・ハヤトなる人物もまた国連の管理下に置くこと要求する」
この案の決議の前に、日本政府は海外への魔法処方について計画を取りまとめて発表した。
日本人の場合には、魔法の処方ができる者は1割程度の割合でいる。問題は、魔力の高いこれらの人々は能力が高く、社会的な意味で有能で価値の高い人が多いため44、処方のみに専任させるわけにいかないことである。処方を受けた人数は、12歳から40歳まで1600万人、35歳以上で増幅処方を受けた人が、現状で決議案が上程された2028年の4月で300万人である。従って、処方を行う能力のある人は200万人ほどもいる計算になる。
しかし、他の人に処方を行う気持ちがあって処方士の資格を取得した人の数は、現状でわず40万人である。これらの人々に対して、政府がアンケートを行った結果では、場合によっては、海外に行って処方をしても良いとした人は10万人である。
日本政府の案は、日本から処方士を送り出し、海外の魔力が比較的強いものを先行的に処方して、これらの人々に魔法増幅処方によって自国民の処方をしてもらおうというものである。その処方は、5万人の資格持ちの処方士を、当該国に派遣して、増幅処方によって処方して、処方士として一定数養成する。
現状でわかっている限りでは、日本人/台湾人以外の有色人の高めの魔力量である200マリュー程度であれば、インプレッサ―を用いれば、1日50人程度の処方が可能である。そうすると、1人の処方士は年間200日×50人/日で合計1万人の処方が可能である。
各国の処方対象者を念のため12歳から40歳としてその人数を当面の処方の対象者とすると、対象者の1万分の1の処方を行えば、その後その国で効率よく処方をやっていけば、1年足らずでその国の若者対象の処方は終わることになる。
日本政府は、現状で無償援助対象国に対しては、派遣する処方士の国内旅費・宿泊のみについては、当該国が責任を持つことにして、それ以外は無償援助とすることにした。ODAの貸付対象国は必要費用の半分、それ以外は当該国の全額負担とした。
なお、費用は航空運賃を含む日当と処方士の人件費は請求しない代わりに、1人の処方については日本円で10万円に設定している。中高年者への処方については、現状のところでは、先述のように日本では補助付き処方が開発されて、すでに実用化している。
しかし、日本人以外で知力増強の効果を100%得るには、魔力増幅処方に、補助付き処方を組み合わせる必要がある。しかし、試験の結果、共鳴現象が起きて、魔力の増幅がうまくいかない現象が起きている。このため、現状では中高年対象では、補助付き処方のみで処方が行える、日本人と台湾人のみが可能ということになっている。
しかし、日本とアメリカで精力的に研究が行われているので、この点は、早晩解決されると見込まれている。従って、現状では日本が行う外国への処方の援助は、先述の年齢範囲の若者が対象になり、対象国のその人数に対して1万分の1の人数の処方士を養成する、ということになる。
なお、35歳から40歳の間の年齢のものの半分以上は、補助付き処方が使えない限り処方ができない。日本政府は、国連の先述の上程された議決案の議決の日に、以上の魔法処方の援助案を総会にて提示した。
「日本国は、以上述べたような、魔法処方についての処方に係わる現状を踏まえて、お手元にあるような、援助の方法をまとめました。すなわち、日本の援助を望む国について日本が援助に合意した場合には、当該国の処方対象人数の1万分の1の人数に当たる処方士の養成をします。
そこに書いているように、これらの養成された処方士は、1年に1万人の処方ができるはずですので、1年強で当該国の処方は終わります。なお、資源探査については、二宮ハヤト氏にしかその能力がなく、政府も彼の意向を受け入れるのみです。なお、お断りしておきますが、この議決案が仮に採決されても、日本国は決して受け入れません。
なぜなら、この議決は、明らかに個人の権利を定めた我が国の憲法に違反しておりますし、国連憲章自体にも違反しております。さらに、断言しますが、わが日本国民は、この国連の議決案に対して、怒りを持って見守っており、仮に議決されたとしても国民感情から決して従うことはできません」
日本の蔵石国連大使は決然と言った。
その後、彼に対して処方の順番はどうなっているかとの質問があり、このように答えた。
「我が国で、動員できる処方士と、必要な人数の関係もあり、順番はまだ決めていません。しかし、その決定には当然ながらこの決議への賛否も関係してきます」
これを聞いた各国の委員は、前日のハヤトの言葉を報じたCNNの記事を思い出していた。CNNの記者は、アメリカとカナダのその日の詳細調査を終えて、宿舎に戻ったハヤトに聞いている。
「ハヤトさんは、無論国連の議決案を知っていますよね。あれについてどう思いますか?」
「ハハハ!」
ハヤトはまず笑って答えた。
「何という馬鹿な決議案だ。一片の決議で私、及び魔法の能力を持ったすべての日本人を縛れると思っているのですか。しかも、国連の管理下にね。これは書いておいてください。この決議に賛成した国と地方については、少なくとも私が行う資源探査は決してしません」
資源探査はハヤトにしかできず、日本政府もハヤトに命令は出来ないと言っているのだ。
総会の席が蔵石の言葉を聞いて静まった時、アメリカのホワイト大使が立ち上がり、意見を陳述した。
「いまこの席では、日本に対する要求の決議をしようとしているが、わがアメリカ合衆国も日本と似た立場にある。すなわち、我が国は先ほど日本の大使が説明した、魔力増幅処方と補助付き処方、両方の技術を持っており、増幅処方を用いて、すでに処方士の養成は概ね終わり、若者に関しては処方を始めているところである。
魔力増幅処方と補助付き処方を合成して行う、中高年への処方も近く技術が確立される見込みである。我が国は、日本とは長年の友誼関係があり、協力してこれらの技術を開発したものだ。我が国の見解では、この決議案は個人の権利を侵害している面で、国連憲章に明白に違反している。
なお、現状において、他国に対して魔法能力の処方を行う援助ができる国は、我が国と日本のみである。したがって、ここで打ち明けるが、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアと南北アメリカは、わが合衆国の責任において、その他のアジア・アフリカについては日本が処方の援助の責任を負うという分担にしている。
従って、先ほどの日本の予定はアジア・アフリカ対象ということになります」
ホワイト国連大使は一旦言葉を切って議場を見渡して続ける。
「我が国は、無論決議案に反対だ。賛成した国は、あのハヤト氏の資源探査の対象にならないと聞いているが、これは大変だね。同情するよ。我が国では彼の調査によって有望な鉱脈が続々と見つかって、国中が湧きたっているよ」
彼の話が終わり、2時間を置いて議決がされた。結局、賛成票はなく否決されたが、共同で議決案を出した中国とK国も否決にまわって笑いものになった。これは、本国から勝ちめは全くないところにこの上に嫌われることはないという本国からの指示であった。
その後、日本政府は精力的に処方の援助の準備を進め、2024年7月に最初の処方士の団体を、朝鮮共和国、モンゴル、フィリピン、東南アジア諸国、南アジアと東アフリカ3国に一斉に送り出した。無論、国連にあのようなふざけた決議案を出した、中国とK国は無視である。
人々の持つ魔力については、日本人が突出してその値が大きく、黒人を含んで有色人種は比較的大きいが処方ができるほどではなく、白人は非常に小さいことが解っている。例外は台湾の人々であり、日本人を除いて突出して高く、処方ができる者も日本人が10%足らずに対して、その1/5程度の人数がいる。
処方の効果は、魔力の多寡によって大きく左右されるものであるが、魔力の高い日本人が、身体能力強化はほぼ全員が大幅に高くなり、知力増強が平均1.45倍に達する。それに対して、有色人種の身体能力強化は1.2倍程度と限定的であり、知力増強でも1.2倍程度、白人への身体能力強化は殆ど効力がなく、知力増強は1.1倍程度で大きく劣る。
台湾人は、身体能力強化は日本人の半分程度の効果であり、知力増強は日本人にやや劣る程度である。しかし、より重要と考えられている知力増強については、アメリカの日系人の学者が、日本で研究した成果を生かして、魔力を増幅する効果のあるインプレッサーを開発した。
それを、有色人の比較的魔力の大きい者が用いることで処方が可能になり、その効果は、知力増強については日本人と変わらない結果を得ることができる。この技術は、当然日本でも開発されていて、アメリカと日本の交渉の結果、白人国についてはアメリカが、それ以外の国でアジア・アフリカについては、基本的に日本が処方の普及に責任を持つことになった。
普及に責任を持つというのは一面では負担ではあるが、基本的に有料となる処方を、どういう風にどの順番に行うかは、大きな政治的な利権になる。
こうした経緯から、日本では処方が可能な年齢のものの処方はすでに終わっている。また、処方ができるレベルの魔力の人々を、最初に日本に送り込んで、計画的に国民に処方を進めていった台湾は、すでにこの処方の対象者については、90%以上の処方が済んでいる。
一方で、日本人以外の人々への処方は、1ヶ月ほど前に、アメリカが新技術を用いた魔力増幅処方を開始する前は、実質的に日本における有料のものが唯一の方法であった。しかし、この処方を済ませた者は、管理している厚労省の外国人処方課の記録によると、1800万人であるが、魔力増幅処方ではないため、知力増強の効果が限定的であった。
従って、日本において、インプレッサ―が開発されて、臨床試験も済んで増幅処方が実用化されたときには、過去に処方を受けた人に対しては無料で再処方する旨が通知された。しかし、アメリカの責任において増幅処方を受ける場合は、半金を返す措置を取っている。
ここまでの処方は、35歳から40歳以上の一定の年齢を越えるものは実施できなかった。しかし、3年ほど前に、年をとると処方ができなくなる原因が発見された。この結果、ハヤトや妹のさつきなどの念動力や探査などの魔法が使える、ごく少数の魔法使いは処方ができることになった。
さらには、2年前に、新技術開発プロジェクトによって、重力エンジンの力場を使用した機械的な補助によって、普通の処方士によって処方ができる方法、『補助付き処方』が開発された。新技術開発プロジェクトは、アメリカも共同研究を行っているので、この技術は、アメリカにはすでに渡っている。
この結果、日本では一定の年齢以上の人は、現役で働いている人を優先して、処方を急いでいる所である。ちなみに政治家など、ある一定の条件を満たしたものは、ハヤトやさつきなどの少数の魔法使いによって、すでに処方を受けている。処方による効果は、すでに広く知られている。
とりわけ心身ともに老化が進んでいる中高年にとっては、身体能力強化ができるようになることで、肉体作業において疲れにくくなり、さらに身体の様々な故障を自ら改善することができるようになる。加えて、知力増強によって、知的作業の場合の日常業務に疲れにくくなり、気力も増すために、身体条件の改善も自分の意思で計画的に実施できる。
このため、ほとんどの中高年の人が若返って健康になることが確かめられている。このように、個人にとっては大きなメリットがあるために、誰もが処方を望んでいる。しかし、現役で働いていない年金生活者をどうするかは目下議論の最中である。これは、処方によって元気になることで、年金生活者が長生きすることになると、一定の寿命を前提としている年金の仕組みが破綻することが確実であるためである。
日本人については、このような状況であるが、日本人のみが、処方の効果を享受することについては、すでに世界の国々からの風当たりが暴風レベルに強くなってきている。さらに、ハヤトが実施しつつある資源探査についても、すでに日本のみならず、KT国(朝鮮共和国)と台湾がすでに終わって結果が公表されている。
続いて、アメリカとカナダで実施している途中であるが、途中経過ながら、極めて莫大な発見が続いていることがすでに明らかになっている。このことから、例によって国連において、日本が魔法の処方と資源探査というその成果を独占しているとして非難され、日本からするととんでもない内容の決議案が上程された。
「我々は、日本が魔法能力の人材を不当に独占して、魔法処方の効果を実質的に自国で独占し、さらに資源探査については自国及び自国の恣意的に決めた国へのみ利益をもたらしている。我々はこのことを強く非難する。我々は日本政府に対し、魔法の処方について、可能な人員を含めて国連の管理下に置き、資源探査ができるニノミヤ・ハヤトなる人物もまた国連の管理下に置くこと要求する」
この案の決議の前に、日本政府は海外への魔法処方について計画を取りまとめて発表した。
日本人の場合には、魔法の処方ができる者は1割程度の割合でいる。問題は、魔力の高いこれらの人々は能力が高く、社会的な意味で有能で価値の高い人が多いため44、処方のみに専任させるわけにいかないことである。処方を受けた人数は、12歳から40歳まで1600万人、35歳以上で増幅処方を受けた人が、現状で決議案が上程された2028年の4月で300万人である。従って、処方を行う能力のある人は200万人ほどもいる計算になる。
しかし、他の人に処方を行う気持ちがあって処方士の資格を取得した人の数は、現状でわず40万人である。これらの人々に対して、政府がアンケートを行った結果では、場合によっては、海外に行って処方をしても良いとした人は10万人である。
日本政府の案は、日本から処方士を送り出し、海外の魔力が比較的強いものを先行的に処方して、これらの人々に魔法増幅処方によって自国民の処方をしてもらおうというものである。その処方は、5万人の資格持ちの処方士を、当該国に派遣して、増幅処方によって処方して、処方士として一定数養成する。
現状でわかっている限りでは、日本人/台湾人以外の有色人の高めの魔力量である200マリュー程度であれば、インプレッサ―を用いれば、1日50人程度の処方が可能である。そうすると、1人の処方士は年間200日×50人/日で合計1万人の処方が可能である。
各国の処方対象者を念のため12歳から40歳としてその人数を当面の処方の対象者とすると、対象者の1万分の1の処方を行えば、その後その国で効率よく処方をやっていけば、1年足らずでその国の若者対象の処方は終わることになる。
日本政府は、現状で無償援助対象国に対しては、派遣する処方士の国内旅費・宿泊のみについては、当該国が責任を持つことにして、それ以外は無償援助とすることにした。ODAの貸付対象国は必要費用の半分、それ以外は当該国の全額負担とした。
なお、費用は航空運賃を含む日当と処方士の人件費は請求しない代わりに、1人の処方については日本円で10万円に設定している。中高年者への処方については、現状のところでは、先述のように日本では補助付き処方が開発されて、すでに実用化している。
しかし、日本人以外で知力増強の効果を100%得るには、魔力増幅処方に、補助付き処方を組み合わせる必要がある。しかし、試験の結果、共鳴現象が起きて、魔力の増幅がうまくいかない現象が起きている。このため、現状では中高年対象では、補助付き処方のみで処方が行える、日本人と台湾人のみが可能ということになっている。
しかし、日本とアメリカで精力的に研究が行われているので、この点は、早晩解決されると見込まれている。従って、現状では日本が行う外国への処方の援助は、先述の年齢範囲の若者が対象になり、対象国のその人数に対して1万分の1の人数の処方士を養成する、ということになる。
なお、35歳から40歳の間の年齢のものの半分以上は、補助付き処方が使えない限り処方ができない。日本政府は、国連の先述の上程された議決案の議決の日に、以上の魔法処方の援助案を総会にて提示した。
「日本国は、以上述べたような、魔法処方についての処方に係わる現状を踏まえて、お手元にあるような、援助の方法をまとめました。すなわち、日本の援助を望む国について日本が援助に合意した場合には、当該国の処方対象人数の1万分の1の人数に当たる処方士の養成をします。
そこに書いているように、これらの養成された処方士は、1年に1万人の処方ができるはずですので、1年強で当該国の処方は終わります。なお、資源探査については、二宮ハヤト氏にしかその能力がなく、政府も彼の意向を受け入れるのみです。なお、お断りしておきますが、この議決案が仮に採決されても、日本国は決して受け入れません。
なぜなら、この議決は、明らかに個人の権利を定めた我が国の憲法に違反しておりますし、国連憲章自体にも違反しております。さらに、断言しますが、わが日本国民は、この国連の議決案に対して、怒りを持って見守っており、仮に議決されたとしても国民感情から決して従うことはできません」
日本の蔵石国連大使は決然と言った。
その後、彼に対して処方の順番はどうなっているかとの質問があり、このように答えた。
「我が国で、動員できる処方士と、必要な人数の関係もあり、順番はまだ決めていません。しかし、その決定には当然ながらこの決議への賛否も関係してきます」
これを聞いた各国の委員は、前日のハヤトの言葉を報じたCNNの記事を思い出していた。CNNの記者は、アメリカとカナダのその日の詳細調査を終えて、宿舎に戻ったハヤトに聞いている。
「ハヤトさんは、無論国連の議決案を知っていますよね。あれについてどう思いますか?」
「ハハハ!」
ハヤトはまず笑って答えた。
「何という馬鹿な決議案だ。一片の決議で私、及び魔法の能力を持ったすべての日本人を縛れると思っているのですか。しかも、国連の管理下にね。これは書いておいてください。この決議に賛成した国と地方については、少なくとも私が行う資源探査は決してしません」
資源探査はハヤトにしかできず、日本政府もハヤトに命令は出来ないと言っているのだ。
総会の席が蔵石の言葉を聞いて静まった時、アメリカのホワイト大使が立ち上がり、意見を陳述した。
「いまこの席では、日本に対する要求の決議をしようとしているが、わがアメリカ合衆国も日本と似た立場にある。すなわち、我が国は先ほど日本の大使が説明した、魔力増幅処方と補助付き処方、両方の技術を持っており、増幅処方を用いて、すでに処方士の養成は概ね終わり、若者に関しては処方を始めているところである。
魔力増幅処方と補助付き処方を合成して行う、中高年への処方も近く技術が確立される見込みである。我が国は、日本とは長年の友誼関係があり、協力してこれらの技術を開発したものだ。我が国の見解では、この決議案は個人の権利を侵害している面で、国連憲章に明白に違反している。
なお、現状において、他国に対して魔法能力の処方を行う援助ができる国は、我が国と日本のみである。したがって、ここで打ち明けるが、ヨーロッパ、ロシア、オーストラリアと南北アメリカは、わが合衆国の責任において、その他のアジア・アフリカについては日本が処方の援助の責任を負うという分担にしている。
従って、先ほどの日本の予定はアジア・アフリカ対象ということになります」
ホワイト国連大使は一旦言葉を切って議場を見渡して続ける。
「我が国は、無論決議案に反対だ。賛成した国は、あのハヤト氏の資源探査の対象にならないと聞いているが、これは大変だね。同情するよ。我が国では彼の調査によって有望な鉱脈が続々と見つかって、国中が湧きたっているよ」
彼の話が終わり、2時間を置いて議決がされた。結局、賛成票はなく否決されたが、共同で議決案を出した中国とK国も否決にまわって笑いものになった。これは、本国から勝ちめは全くないところにこの上に嫌われることはないという本国からの指示であった。
その後、日本政府は精力的に処方の援助の準備を進め、2024年7月に最初の処方士の団体を、朝鮮共和国、モンゴル、フィリピン、東南アジア諸国、南アジアと東アフリカ3国に一斉に送り出した。無論、国連にあのようなふざけた決議案を出した、中国とK国は無視である。
21
お気に入りに追加
1,166
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

神様に与えられたのは≪ゴミ≫スキル。家の恥だと勘当されたけど、ゴミなら何でも再生出来て自由に使えて……ゴミ扱いされてた古代兵器に懐かれました
向原 行人
ファンタジー
僕、カーティスは由緒正しき賢者の家系に生まれたんだけど、十六歳のスキル授与の儀で授かったスキルは、まさかのゴミスキルだった。
実の父から家の恥だと言われて勘当され、行く当ても無く、着いた先はゴミだらけの古代遺跡。
そこで打ち捨てられていたゴミが話し掛けてきて、自分は古代兵器で、助けて欲しいと言ってきた。
なるほど。僕が得たのはゴミと意思疎通が出来るスキルなんだ……って、嬉しくないっ!
そんな事を思いながらも、話し込んでしまったし、連れて行ってあげる事に。
だけど、僕はただゴミに協力しているだけなのに、どこかの国の騎士に襲われたり、変な魔法使いに絡まれたり、僕を家から追い出した父や弟が現れたり。
どうして皆、ゴミが欲しいの!? ……って、あれ? いつの間にかゴミスキルが成長して、ゴミの修理が出来る様になっていた。
一先ず、いつも一緒に居るゴミを修理してあげたら、見知らぬ銀髪美少女が居て……って、どういう事!? え、こっちが本当の姿なの!? ……とりあえず服を着てっ!
僕を命の恩人だって言うのはさておき、ご奉仕するっていうのはどういう事……え!? ちょっと待って! それくらい自分で出来るからっ!
それから、銀髪美少女の元仲間だという古代兵器と呼ばれる美少女たちに狙われ、返り討ちにして、可哀想だから修理してあげたら……僕についてくるって!?
待って! 僕に奉仕する順番でケンカするとか、訳が分かんないよっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️
ゲート0 -zero- 自衛隊 銀座にて、斯く戦えり
柳内たくみ
ファンタジー
20XX年、うだるような暑さの8月某日――
東京・銀座四丁目交差点中央に、突如巨大な『門(ゲート)』が現れた。
中からなだれ込んできたのは、見目醜悪な怪異の群れ、そして剣や弓を携えた謎の軍勢。
彼らは何の躊躇いもなく、奇声と雄叫びを上げながら、そこで戸惑う人々を殺戮しはじめる。
無慈悲で凄惨な殺戮劇によって、瞬く間に血の海と化した銀座。
政府も警察もマスコミも、誰もがこの状況になすすべもなく混乱するばかりだった。
「皇居だ! 皇居に逃げるんだ!」
ただ、一人を除いて――
これは、たまたま現場に居合わせたオタク自衛官が、
たまたま人々を救い出し、たまたま英雄になっちゃうまでを描いた、7日間の壮絶な物語。

最底辺の転生者──2匹の捨て子を育む赤ん坊!?の異世界修行の旅
散歩道 猫ノ子
ファンタジー
捨てられてしまった2匹の神獣と育む異世界育成ファンタジー
2匹のねこのこを育む、ほのぼの育成異世界生活です。
人間の汚さを知る主人公が、動物のように純粋で無垢な女の子2人に振り回されつつ、振り回すそんな物語です。
主人公は最強ですが、基本的に最強しませんのでご了承くださいm(*_ _)m

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~
青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。
彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。
ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。
彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。
これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。
※カクヨムにも投稿しています
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる