62 / 179
第7章 ハヤトの資源探査
7.9 ハヤトのアフリカ資源探査2
しおりを挟む
ハヤトの一行は、午後2時からモザンビークの大統領府で大統領に表敬訪問が予定されている。
インタビューの後、ハヤトの一行はモザンビークの日本大使館の大使以下4人と、協議を兼ねて軽く食事をして、大統領府に向かう。日本大使館のローカルスタッフに案内されて、大統領府の建物に入り、エレベーターで最上階の8階の大統領執務室に入る。
当然、建物内の人々、大統領執務室で待っていた人々は皆黒人であり、肌が黒光りしている。執務室に着くと、ノックに出てきた中年の女性の秘書に導かれて、秘書室を抜けて執務室に入ると、待っていた机に座った一人と、ソファに座っていた5人が立ち上がる。
日本側の隊列は、ハヤトを先頭にしており、次いで錦村モザンビーク大使、さらに外務省の本庁の山口アフリカ課長が続く。まず、ハヤトが、執務机の前に出てきた、大統領フィリップ・シサノに挨拶して、差し出す手を握り挨拶の言葉を述べる。
「今日は、お招きいただきありがとうございます。良い資源が見つかるといいと思っています」
「ようこそ、ハヤトさん。私もあなたの本を読みました。我が国の国民は、あなたを大変期待して待っておりました。よろしくお願いします」
大統領は満面の笑みである。他の人々は首相と副首相、資源開発大臣、内務大臣、外務大臣であったが、ハヤトを始め一行それぞれが、互いに握手して隣の会議室に入る。席についてから、日本大使が挨拶し、次に外務省の山口アフリカ課長が挨拶、さらにJOGMCのエンジニアがスケジュールを説明する。
それに対し、資源開発大臣のサミュエル・マキナが、太って幅広の顔をゆがめながら、横柄に言う。
「今回の資源探査は有難いが、先ほどのテレビ放送で行っていたような、情報を外に説明するようなことは止めて欲しい。それと、調査の結果は我が国の重要な機密情報なので全てこちらに渡すように。コピーを取ってはならん」
それに対して、日本側は顔を見合わせているが、ハヤトが平然と言い返す。
「ほお、面白いことは言いますね。どういう訳でそういうことを要求するか教えて欲しいね」
「なにを無礼な!当然だ。我が国の情報は我が国のものだ。日本には自治区という特典を与えているだろう」
マキナが激しく言うが、ハヤトは動ぜず、大統領の顔を見て言う。
「大統領、この人はこのようなことを言っているが、これはモザンビーク共和国の国としての公式の要求ですか?」
シサノは慌てて言う。
「い、いや。正式ということではなく、しかし、資源開発についてはマキナの権限の……」
ハヤトは冷たい顔をして言い放つ。
「じゃあ、帰りましょう。資源探査は止めです。あなたの国の秘密に触ったら申し訳ないですからね。どうせ、データを手にいれて、どこかの会社に売りつけて自分の懐に入れるつもりでしょう。マキナさん?」
ハヤトは立ち上がり、太った大臣を見下ろしながら言う。
「ぶ、無礼な!若造が!」マキナは醜く顔をゆがめて、立ち上がるが、ハヤトがその目を見つめて静かに言う。
「資源の情報はすぐさま公開します。あなたの国が、国としてしっかりしていれば、何ら不都合なことはないでしょう。公開する理由に一つは、あなたのような人が、裏でおかしな取引をしないようにというのも理由です」
そう言いながら、ハヤトも相手に怒りが湧いて来たため、自然とそれが相手への威圧になり、マキナはそれを受けて顔色が青黒くなって震え始める。
「シサノ大統領。直接の担当がこのマキナ大臣であれば、私は探査を止めて帰ります。言っておきますが、これらの探査については私には拒否権がありますからね。そうですよね。アフリカ課長の山口さん?」
外務省の山口課長は、ハヤトの言葉に応じてきっぱり言う。
「そうです。資源探査ができるのは地球上にハヤト氏一人です。当然彼には拒否権があります」
その言葉に続けて、ハヤトがさらに言う。
「むろん、帰るにあたっては、マスコミに、キナ氏の言ったこと、なぜ私が探査をせずに帰るかをちゃんと説明します。それから、錦村大使、ジンバブエとマラウイのこちらに来ている要人に連絡をとってください。『明後日ハラレで協議する。かれらについては私の乗ってきた“しらとり01号”で運びます』と言ってください」
「待って、待ってください。マキナは罷免します。どうか、どうか、探査はお願いします」
大統領が青くなって、必死に頭を下げてハヤトにすがるが、マキナが頭を振って威圧を跳ねのけながら必死に言い返す。
「な、なに!俺を罷免するだと!」
「き、君は国の利益を著しく損なった。当然罷免だ。我が国の国民は、貧しさから抜け出す大きな手段としてハヤト氏の資源探査を待っていた。ハヤト氏から、担当を拒否されたお前の罷免に、お前の支持母体も文句は言えん!」
大統領は、最初はつっかえていたがだんだん自信を持ってきて最後はきっぱり言った。マキナは、さらに言い返そうとしたが、首相などが口々に大声で現地語で非難するのを聞いて、形勢不利なのを悟り、思い直して怒りながらも外に出て行った。
「いやあ、お見苦しいところをお見せしました。マキナの言ったことは我が国の方針ではありません。彼の罷免は直ちに発表します。ただ、彼の率いているグループは、血の気の多いものが多いものですから、お泊りのホテルまで護衛をつけさせますので、少しお待ちください」
シサノ大統領が、丁重に言い、指示を受けた内務大臣が携帯で慌ただしく連絡をとっている。ハヤトが、日本側一行に小声の日本語で言う。
「ちょっと、面白い幕間劇ですね」
「うーん、面白いねえ。でもあのマキナ大臣はとかくの噂がありましたが、最大の野党勢力のボスだったので、手が付けられなかったのですよ。しかし、かれが失脚してくれれば、日本自治区プロジェクトはやりやすくなります。ただ、大統領の言うようにマキナの派閥は、武装グループを動かせるのでその点は心配です」
ハヤトの言葉に錦村大使が解説する。その後、ハヤト一行は、装甲車2台と武装した兵を乗せた3台のトラックに護送されて、予約していたインぺリアルホテルに到着した。ホテルは、3m以上の塀に囲まれたもので、なかなか厳重な警備体制である。
装甲車は玄関脇に外を向いて止まり、兵の30人ほどはそのまま機関銃を携えて警備につく。兵の表情を見ると真剣であり、実際に起こりうる何かに備えているのがわかる。ホテルのロビーに着いて落ち着いた大使が言う。
「ちょっと、今日は危ないかも知れませんね。しかし、このホテルは、過去たびたび市街戦が行われた時代に作られたもので、守りはそれなりに堅固です。あのように、警備もついていますので、大使館にこもるのと大差はないと思います。私どもも一緒に泊まります」
平気な顔をしているハヤトに比べ、他の者はこのような状況に慣れておらず、緊張しきった顔をしている。
「大丈夫ですよ。こんな状況は、私が異世界で魔族の国に入り込んだのに比べれば、何ということはありません。任せてください」
ハヤトが言うが、外務省の本庁の課長である山口が苦笑しながら言う。
「私たちなど、ハヤトさんの重要性に比べると、ゼロに等しいのですよ。その我々が、ハヤトさんに守ってもらうなどということは、まさに本末転倒です」
それから錦村大使に向き直って言う。
「錦村大使、何か大使館で打つ手はありませんか?」大使はそれに頷いて応じる。
「はい、そう思いまして、ローカルの館員の伝手で、近郊の自警団のものが数人来ることになることになっています」
それから間もなく、大使の言っていたローカルスタッフが、ロビーに座っている皆の所に30台半ばに見える1人の逞しい男を連れてきた。身長は190㎝以上あるだろう、たくましく筋肉がついているが、細身でいかにも俊敏そうだ。
「シンバ・カミャロです。近郊の村の最大の自警団の団長です。荒事には慣れていますので、頼りになります」
シンバというのはライオンという意味で、人々がカマナにつけた称号であるなどと、その黒人のローカルスタッフは説明する。しかし、カマナの視線はハヤトにくぎ付けであり、たどたどしく英語でハヤトに話しかける。
「おれはあんたほど強そうな人に会ったことがない。挨拶をさせてくれ。おれ、カミャロ」
そう言って差し出す手をハヤトも立ち上がって握って、ゆっくり英語で言う。
「ハヤトだ。おれは大丈夫だが、この人たちを守ってくれ。お前の仲間は外か?」
カミャロは、ハヤトの手を強く握って嬉しそうに、たどたどしく答える。
「そうだ、10人連れて来たが、武器を持っては入れないので外で待たしている」
ハヤトが手を放しながら再度尋ねる。
「ふむ、どうだ、マキナ大臣の派閥の連中は集まってきているか?」
今度は英語に自信がないのか、カミャロは大使館のローカルスタッフに現地語で何やら説明し、それが英語に通訳される。
「ええ、動員がかかっています。多分数千人は来るでしょうが、国軍にも動員が命じられているので、暴れるなという指示が出ているようです」
通訳が終わった合図に、ローカルスタッフが頷くと、さらにカミャロが何やら言い再度通訳される。
「しかし、ひょっとすると、ヤフワ・ジェジャートが来るという話があります。彼はめったに出てこないのですが、ハヤトさんには大変興味を持っているようですから」
「なんだ、そのヤフワ・ジェジャートというのは?」
ハヤトが聞くとそのローカルスタッフが自ら答える。
「ヤフワは神という意味で、神のジェジャートという名で呼ばれている戦士です。まだ若いのですが、少なくとも国内では如何なる戦いにも負けたことのないことは確かで、とりわけ、毎年ある国内の闘技大会には3年連続で圧倒的な強さで優勝しています。
2年前に、元ボクシングの世界チャンピオンというものが、この国にも来て、興行をしたのです。そこで、飛び入りを募ったのですが、ヤフワ・ジェジャートが出て、ものの数秒もしない内にパンチ一発で、その元チャンピオンは沈みました。そのように強い割に立派な人柄ということで、大変尊敬されており、マキナ大臣も全く彼には頭が上がらないようです」
「ほう、面白いな。それは戦ってみたいものだ。身体強化を使うと不公平なので、無しでやってみたい」
ハヤトは嬉しそうに言うと、カミャロが食いついて聞く。
「おお、ハヤトはヤフワ・ジェジャートと戦ってみたいか?」
「ああ、戦えたら面白いと思う。おれも、少し歯ごたえがあるものと戦ってみたい。しかし、命のやり取りは無しでな。それほどの男を殺すのは惜しい」
ハヤトが言うと、ちょうどその時、外から何やら大勢の声が聞こえる。
「おい、あれは、『ヤフワ・ジェジャート』と言っているのじゃないか?」
ハヤトが聞くとローカルスタッフが答える。
「ええ、そうです。彼が来たのです」
ハヤトがカミャロを向いて聞く。
「シンバ・カミャロ、話をつけられるか? 武器無し、上半身裸、裸足で戦う。おれは身体強化をしない。気絶するか、参ったをしたら負けだ」
ローカルスタッフが、カミャロに通訳すると彼は胸を叩いて現地語で言う。翻訳した結果はこう言っていたらしい。
「おお、彼も俺を知っている。話はつくぞ。彼もそれが望みで来ているはずだ。彼はハヤトの本を読んでいて、ハヤトと戦ってみたいと言っていたそうだ」
「では、頼む。おれは15分後に出て行く」
ハヤトが言ってカミャロが出て行く。
「ハヤトさん。ちょっとそれは困ります。万が一あなたに何かあったら、私どもの立場がありません」
日本語で山口課長がハヤトに懇願するが、その内容を察したローカルスタッフが言う。
「心配ありません。ヤフワ・ジェジャートは、今まで素手の戦いで相手を殺したことはありません。刀を持っての戦いでは、1人で10人以上を殺したことはありますが。それに、勝っても負けても、ハヤトさんが勇敢に戦えば、悪いようにはなりません」
それを聞いて、ハヤトは日本語で言う。
「山口課長、錦村大使、わがままを言って申し訳ありませんが、正直に言って僕は今わくわくしています。どんな結果になっても、私の責任においてやることですから、止められなかったということでお願いします」
インタビューの後、ハヤトの一行はモザンビークの日本大使館の大使以下4人と、協議を兼ねて軽く食事をして、大統領府に向かう。日本大使館のローカルスタッフに案内されて、大統領府の建物に入り、エレベーターで最上階の8階の大統領執務室に入る。
当然、建物内の人々、大統領執務室で待っていた人々は皆黒人であり、肌が黒光りしている。執務室に着くと、ノックに出てきた中年の女性の秘書に導かれて、秘書室を抜けて執務室に入ると、待っていた机に座った一人と、ソファに座っていた5人が立ち上がる。
日本側の隊列は、ハヤトを先頭にしており、次いで錦村モザンビーク大使、さらに外務省の本庁の山口アフリカ課長が続く。まず、ハヤトが、執務机の前に出てきた、大統領フィリップ・シサノに挨拶して、差し出す手を握り挨拶の言葉を述べる。
「今日は、お招きいただきありがとうございます。良い資源が見つかるといいと思っています」
「ようこそ、ハヤトさん。私もあなたの本を読みました。我が国の国民は、あなたを大変期待して待っておりました。よろしくお願いします」
大統領は満面の笑みである。他の人々は首相と副首相、資源開発大臣、内務大臣、外務大臣であったが、ハヤトを始め一行それぞれが、互いに握手して隣の会議室に入る。席についてから、日本大使が挨拶し、次に外務省の山口アフリカ課長が挨拶、さらにJOGMCのエンジニアがスケジュールを説明する。
それに対し、資源開発大臣のサミュエル・マキナが、太って幅広の顔をゆがめながら、横柄に言う。
「今回の資源探査は有難いが、先ほどのテレビ放送で行っていたような、情報を外に説明するようなことは止めて欲しい。それと、調査の結果は我が国の重要な機密情報なので全てこちらに渡すように。コピーを取ってはならん」
それに対して、日本側は顔を見合わせているが、ハヤトが平然と言い返す。
「ほお、面白いことは言いますね。どういう訳でそういうことを要求するか教えて欲しいね」
「なにを無礼な!当然だ。我が国の情報は我が国のものだ。日本には自治区という特典を与えているだろう」
マキナが激しく言うが、ハヤトは動ぜず、大統領の顔を見て言う。
「大統領、この人はこのようなことを言っているが、これはモザンビーク共和国の国としての公式の要求ですか?」
シサノは慌てて言う。
「い、いや。正式ということではなく、しかし、資源開発についてはマキナの権限の……」
ハヤトは冷たい顔をして言い放つ。
「じゃあ、帰りましょう。資源探査は止めです。あなたの国の秘密に触ったら申し訳ないですからね。どうせ、データを手にいれて、どこかの会社に売りつけて自分の懐に入れるつもりでしょう。マキナさん?」
ハヤトは立ち上がり、太った大臣を見下ろしながら言う。
「ぶ、無礼な!若造が!」マキナは醜く顔をゆがめて、立ち上がるが、ハヤトがその目を見つめて静かに言う。
「資源の情報はすぐさま公開します。あなたの国が、国としてしっかりしていれば、何ら不都合なことはないでしょう。公開する理由に一つは、あなたのような人が、裏でおかしな取引をしないようにというのも理由です」
そう言いながら、ハヤトも相手に怒りが湧いて来たため、自然とそれが相手への威圧になり、マキナはそれを受けて顔色が青黒くなって震え始める。
「シサノ大統領。直接の担当がこのマキナ大臣であれば、私は探査を止めて帰ります。言っておきますが、これらの探査については私には拒否権がありますからね。そうですよね。アフリカ課長の山口さん?」
外務省の山口課長は、ハヤトの言葉に応じてきっぱり言う。
「そうです。資源探査ができるのは地球上にハヤト氏一人です。当然彼には拒否権があります」
その言葉に続けて、ハヤトがさらに言う。
「むろん、帰るにあたっては、マスコミに、キナ氏の言ったこと、なぜ私が探査をせずに帰るかをちゃんと説明します。それから、錦村大使、ジンバブエとマラウイのこちらに来ている要人に連絡をとってください。『明後日ハラレで協議する。かれらについては私の乗ってきた“しらとり01号”で運びます』と言ってください」
「待って、待ってください。マキナは罷免します。どうか、どうか、探査はお願いします」
大統領が青くなって、必死に頭を下げてハヤトにすがるが、マキナが頭を振って威圧を跳ねのけながら必死に言い返す。
「な、なに!俺を罷免するだと!」
「き、君は国の利益を著しく損なった。当然罷免だ。我が国の国民は、貧しさから抜け出す大きな手段としてハヤト氏の資源探査を待っていた。ハヤト氏から、担当を拒否されたお前の罷免に、お前の支持母体も文句は言えん!」
大統領は、最初はつっかえていたがだんだん自信を持ってきて最後はきっぱり言った。マキナは、さらに言い返そうとしたが、首相などが口々に大声で現地語で非難するのを聞いて、形勢不利なのを悟り、思い直して怒りながらも外に出て行った。
「いやあ、お見苦しいところをお見せしました。マキナの言ったことは我が国の方針ではありません。彼の罷免は直ちに発表します。ただ、彼の率いているグループは、血の気の多いものが多いものですから、お泊りのホテルまで護衛をつけさせますので、少しお待ちください」
シサノ大統領が、丁重に言い、指示を受けた内務大臣が携帯で慌ただしく連絡をとっている。ハヤトが、日本側一行に小声の日本語で言う。
「ちょっと、面白い幕間劇ですね」
「うーん、面白いねえ。でもあのマキナ大臣はとかくの噂がありましたが、最大の野党勢力のボスだったので、手が付けられなかったのですよ。しかし、かれが失脚してくれれば、日本自治区プロジェクトはやりやすくなります。ただ、大統領の言うようにマキナの派閥は、武装グループを動かせるのでその点は心配です」
ハヤトの言葉に錦村大使が解説する。その後、ハヤト一行は、装甲車2台と武装した兵を乗せた3台のトラックに護送されて、予約していたインぺリアルホテルに到着した。ホテルは、3m以上の塀に囲まれたもので、なかなか厳重な警備体制である。
装甲車は玄関脇に外を向いて止まり、兵の30人ほどはそのまま機関銃を携えて警備につく。兵の表情を見ると真剣であり、実際に起こりうる何かに備えているのがわかる。ホテルのロビーに着いて落ち着いた大使が言う。
「ちょっと、今日は危ないかも知れませんね。しかし、このホテルは、過去たびたび市街戦が行われた時代に作られたもので、守りはそれなりに堅固です。あのように、警備もついていますので、大使館にこもるのと大差はないと思います。私どもも一緒に泊まります」
平気な顔をしているハヤトに比べ、他の者はこのような状況に慣れておらず、緊張しきった顔をしている。
「大丈夫ですよ。こんな状況は、私が異世界で魔族の国に入り込んだのに比べれば、何ということはありません。任せてください」
ハヤトが言うが、外務省の本庁の課長である山口が苦笑しながら言う。
「私たちなど、ハヤトさんの重要性に比べると、ゼロに等しいのですよ。その我々が、ハヤトさんに守ってもらうなどということは、まさに本末転倒です」
それから錦村大使に向き直って言う。
「錦村大使、何か大使館で打つ手はありませんか?」大使はそれに頷いて応じる。
「はい、そう思いまして、ローカルの館員の伝手で、近郊の自警団のものが数人来ることになることになっています」
それから間もなく、大使の言っていたローカルスタッフが、ロビーに座っている皆の所に30台半ばに見える1人の逞しい男を連れてきた。身長は190㎝以上あるだろう、たくましく筋肉がついているが、細身でいかにも俊敏そうだ。
「シンバ・カミャロです。近郊の村の最大の自警団の団長です。荒事には慣れていますので、頼りになります」
シンバというのはライオンという意味で、人々がカマナにつけた称号であるなどと、その黒人のローカルスタッフは説明する。しかし、カマナの視線はハヤトにくぎ付けであり、たどたどしく英語でハヤトに話しかける。
「おれはあんたほど強そうな人に会ったことがない。挨拶をさせてくれ。おれ、カミャロ」
そう言って差し出す手をハヤトも立ち上がって握って、ゆっくり英語で言う。
「ハヤトだ。おれは大丈夫だが、この人たちを守ってくれ。お前の仲間は外か?」
カミャロは、ハヤトの手を強く握って嬉しそうに、たどたどしく答える。
「そうだ、10人連れて来たが、武器を持っては入れないので外で待たしている」
ハヤトが手を放しながら再度尋ねる。
「ふむ、どうだ、マキナ大臣の派閥の連中は集まってきているか?」
今度は英語に自信がないのか、カミャロは大使館のローカルスタッフに現地語で何やら説明し、それが英語に通訳される。
「ええ、動員がかかっています。多分数千人は来るでしょうが、国軍にも動員が命じられているので、暴れるなという指示が出ているようです」
通訳が終わった合図に、ローカルスタッフが頷くと、さらにカミャロが何やら言い再度通訳される。
「しかし、ひょっとすると、ヤフワ・ジェジャートが来るという話があります。彼はめったに出てこないのですが、ハヤトさんには大変興味を持っているようですから」
「なんだ、そのヤフワ・ジェジャートというのは?」
ハヤトが聞くとそのローカルスタッフが自ら答える。
「ヤフワは神という意味で、神のジェジャートという名で呼ばれている戦士です。まだ若いのですが、少なくとも国内では如何なる戦いにも負けたことのないことは確かで、とりわけ、毎年ある国内の闘技大会には3年連続で圧倒的な強さで優勝しています。
2年前に、元ボクシングの世界チャンピオンというものが、この国にも来て、興行をしたのです。そこで、飛び入りを募ったのですが、ヤフワ・ジェジャートが出て、ものの数秒もしない内にパンチ一発で、その元チャンピオンは沈みました。そのように強い割に立派な人柄ということで、大変尊敬されており、マキナ大臣も全く彼には頭が上がらないようです」
「ほう、面白いな。それは戦ってみたいものだ。身体強化を使うと不公平なので、無しでやってみたい」
ハヤトは嬉しそうに言うと、カミャロが食いついて聞く。
「おお、ハヤトはヤフワ・ジェジャートと戦ってみたいか?」
「ああ、戦えたら面白いと思う。おれも、少し歯ごたえがあるものと戦ってみたい。しかし、命のやり取りは無しでな。それほどの男を殺すのは惜しい」
ハヤトが言うと、ちょうどその時、外から何やら大勢の声が聞こえる。
「おい、あれは、『ヤフワ・ジェジャート』と言っているのじゃないか?」
ハヤトが聞くとローカルスタッフが答える。
「ええ、そうです。彼が来たのです」
ハヤトがカミャロを向いて聞く。
「シンバ・カミャロ、話をつけられるか? 武器無し、上半身裸、裸足で戦う。おれは身体強化をしない。気絶するか、参ったをしたら負けだ」
ローカルスタッフが、カミャロに通訳すると彼は胸を叩いて現地語で言う。翻訳した結果はこう言っていたらしい。
「おお、彼も俺を知っている。話はつくぞ。彼もそれが望みで来ているはずだ。彼はハヤトの本を読んでいて、ハヤトと戦ってみたいと言っていたそうだ」
「では、頼む。おれは15分後に出て行く」
ハヤトが言ってカミャロが出て行く。
「ハヤトさん。ちょっとそれは困ります。万が一あなたに何かあったら、私どもの立場がありません」
日本語で山口課長がハヤトに懇願するが、その内容を察したローカルスタッフが言う。
「心配ありません。ヤフワ・ジェジャートは、今まで素手の戦いで相手を殺したことはありません。刀を持っての戦いでは、1人で10人以上を殺したことはありますが。それに、勝っても負けても、ハヤトさんが勇敢に戦えば、悪いようにはなりません」
それを聞いて、ハヤトは日本語で言う。
「山口課長、錦村大使、わがままを言って申し訳ありませんが、正直に言って僕は今わくわくしています。どんな結果になっても、私の責任においてやることですから、止められなかったということでお願いします」
18
お気に入りに追加
1,163
あなたにおすすめの小説

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!
まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。
そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。
その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する!
底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる!
第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~
於田縫紀
ファンタジー
ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。
しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。
そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。
対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。
えっ、じいちゃん昔勇者だったのっ!?〜祖父の遺品整理をしてたら異世界に飛ばされ、行方不明だった父に魔王の心臓を要求されたので逃げる事にした〜
楠ノ木雫
ファンタジー
まだ16歳の奥村留衣は、ずっと一人で育ててくれていた祖父を亡くした。親戚も両親もいないため、一人で遺品整理をしていた時に偶然見つけた腕輪。ふとそれを嵌めてみたら、いきなり違う世界に飛ばされてしまった。
目の前に浮かんでいた、よくあるシステムウィンドウというものに書かれていたものは『勇者の孫』。そう、亡くなった祖父はこの世界の勇者だったのだ。
そして、行方不明だと言われていた両親に会う事に。だが、祖父が以前討伐した魔王の心臓を渡すよう要求されたのでドラゴンを召喚して逃げた!
追われつつも、故郷らしい異世界での楽しい(?)セカンドライフが今始まる!
※他の投稿サイトにも掲載しています。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~
夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。
しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。
とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。
エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。
スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。
*小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる